- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制報告書とは?義務付けられている会社や提出先をわかりやすく解説
内部統制報告書とは、企業の内部統制システムの有効性と信頼性について評価し、株主や投資家に情報を提供するものです。組織の内部統制体制やリスク管理プロセスを正確に記述するもので、対象となる企業は提出する必要があります。
本記事では内部統制報告書を初めて提出する方に向けて、内部報告書の概要や提出先について解説します。内部統制報告書の作成から提出までの流れを理解できるようになるため、ぜひ参考にしてください。
目次
内部統制報告書とは
内部統制報告書とは、企業の内部の管理が正しく機能しているかを経営者が客観的に評価し、その結果を書類として公開するものです。
企業の透明性と責任を高めるために重要な役割を果たしています。この報告書を提出しないといけないため、経営者は財務情報を正確に公開するために内部統制の体制を整えなければなりません。
内部統制報告書が作られたきっかけは、2000年代に米国で発生した会計不祥事です。大規模な会計不正を行ったある企業が経営破綻し、世界経済が混乱した結果、その影響はアメリカ経済の信用も損なわれるほどでした。
この事件は内部告発によって発覚し、企業内での財務関連の不正が横行していたことが原因です。これらの会計不祥事を二度と繰り返さないために、企業改革法(通称SOX法)が制定され、内部統制に注目が集まるようになりました。
内部統制報告書の提出が義務とされている会社
内部統制報告書は、すべての企業で提出するとは限らず、提出が義務付けられている企業が存在します。
内部統制報告書の提出が義務付けられているのは、上場しているすべての企業です。新しく上場した企業は、証券取引所が厳しい監査を行うため、上場から3年間は監査法人の監査を免除されます。
ただし、この期間でも内部統制報告書は必ず提出しなければなりません。また、有価証券報告書と内部統制報告書はセットで提出しましょう。
有価証券報告書は「金融商品取引法に基づき、適正かを確認したことを記載した書面」であり、その財務情報が適正かを内部統制報告書でチェックするためです。
内部統制報告書の記載事項
内部統制報告書の記載事項は、以下の5つの項目に分かれています。
- 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
- 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
- 評価結果に関する事項
- 付記事項
- 特記事項
あらかじめ記載事項について理解しておけば、実際に内部統制報告書を作成する場面で役立つでしょう。
それでは、順番に解説します。
財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
内部統制の基本的枠組みに関する事項として、以下の3つ全てを記載する必要があります。
- 会社の代表者およびCFOが財務報告の内部管理に責任を持っていること
- 財務報告の内部管理を行う際に従う特定の基準の名称
- 財務報告の内部管理によって完全に虚偽の情報を予防または発見することはできない場合があること
評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
評価の範囲、基準日及び評価手続きについては、以下の事項を記載します
- 財務報告に係る内部統制の評価が行われた基準日
- 財務報告に係る内部統制の評価にあたり、一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準に準拠したこと
- 財務報告に係る内部統制の評価手続の概要
- 財務報告に係る内部統制の評価の範囲
評価結果に関する事項
評価結果に応じて、記載事項は異なります。
評価結果には、以下の4つのいずれかを記載してください。
- 財務報告にかかる内部統制が有効である
有効である場合は、その旨を記載します。 - 一部の評価手続きが実施できていないが、財務報告にかかる内部統制が有効である
有効である場合はその旨を記載します。実施できていない評価手続きやその理由を記載します。 - 重要な欠陥があるため、財務報告にかかる内部統制が有効でない
有効でない場合はその旨を記載します。重要な欠陥の内容やその是正されない理由を記載しましょう。 - 重要な評価手続きが実施できていないため、財務報告にかかる内部統制の評価結果が表明できない表明できない場合はその旨を記載します。実施できていない評価手続きやその理由を記載します。
付記事項
付記事項は、以下の条件に該当する場合に記載します。
- 事業年度が終わってから内部統制報告書を提出する日までに、財務報告に関する内部統制の評価に大きな影響を及ぼす出来事が起こった
内部統制の評価に影響を及ぼす出来事が起こった場合には、その内容を書きます。 - 事業年度の終わりの時点で重要な不備があり、財務報告に関する内部統制が効果的でないと判断された
内部統制が効果的でないと判断された場合、事業年度の終わりから内部統制報告書を提出する日までにその不備を修正するために取られた対策の内容を書きます。
特記事項
特別に記載すべき事項がある場合には、それを記載します。記載すべき事項がない場合は、「該当事項なし」と記載しましょう。
内部統制報告書のひな形
内部統制報告書では、以下のようなひな形があります。
内部統制報告書は、金融庁に貼られているひな形を元に作成する必要があるため、頭に入れておきましょう。
内部統制報告書の提出期限
内部統制報告書は義務化されており、提出期限が厳しく設定されています。また、提出が遅れた場合には罰則があるため注意しましょう。
提出期限は、最初の決算日から3ヶ月以内です。ただし、社会・経済的影響が大きいとされる企業は、新規上場後の監査免除の適用を受けない場合もあります。もし書類の提出を怠ったり、重要な事項に虚偽の情報を書いたりした場合、罰則として5年以下の懲役または5億円以下の罰金が科せられる可能性があるので、注意してください。
内部統制報告書の提出先
内部統制報告書の提出先は、事業年度ごとに内部統制報告書を財務局もしくはEDINETというシステムで提出します。
EDINETは、原則として24時間365日稼働し有価証券報告書や四半期報告書、大量保有報告書などを電子的に提出・閲覧できるシステムです。金融庁が公開した「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」で、アメリカの証券取引委員会(SEC)が運営するEDGARシステムをモデルにして構築されました。
企業の財務情報や事業内容、株の大量取得や保有状況などを適切に開示することで、インターネット上で公平な情報提供を行い、投資家の保護を目的としています。
以前は開示書類が紙媒体で提出されていましたが、2001年にEDINETが稼働したことで、電子データでの提出・閲覧が可能になりました。
内部統制報告書を作成する流れ
内部統制報告書の提出先をお伝えしましたが、提出するまでの流れについてもお伝えします。
作成する手順は、以下の通りです。
- 内部統制の整備状況や運用状況を評価
内部統制を評価した後、評価通りにしっかりと機能しているか監査法人から監査を受け、報告書を作成します。 - 業務記述書やフローチャートなどの可視化ツールを用いて文書化
文書化する上で大切なポイントは以下の3点です。- 財務報告に関連する内部統制の評価範囲を定める
- 内部統制の整備状況や運用状況から明らかになった不備を対処し、また整備状況を評価する
※把握した不備のうち、「開示すべき重要な不備」に該当するかを判断し、財務報告の信頼性に影響を及ぼす不備や投資判断に影響を与える不備のみを内部統制報告書に記載します。 - 評価結果を部統制報告書に記載するかどうかに関わらず、記録や保存をする
- 外部の専門家である監査法人や公認会計士が内部統制報告書をチェック
- 内部統制報告書を金融庁もしくはEDINETにて提出
決算日から3ヶ月以内に提出してください。
ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
内部報告書は、経営者が企業の内部管理の正確な機能を評価し、その結果を文書化したものです。上場企業は、最初の決算日から3ヶ月以内に内部報告書を提出する必要があります。内部報告書作成の際には、記載項目を事前に把握し余裕を持って提出することが重要です。
項目を再度おさらいすると、以下の通りです。
- 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
- 評価の範囲
- 基準日及び評価手続に関する事項
- 評価結果に関する事項
- 付記事項
- 特記事項
初めて内部報告書作成に取り組む場合は、本記事で紹介した内容をぜひ参考にしてみてください。
よくある質問
内部統制報告書は誰が作成するもの?
結論、上場企業の経営者により作成されます。経営者が企業の内部統制が適切に機能しているかを評価し、その結果を開示する文書だからです。すべての上場企業は、内部統制報告書の提出が義務付けられています。新規上場企業は上場から3年間、監査を免除されますが、それでも内部統制報告書は必ず提出しなければなりません。
内部統制報告書の提出先は?
内部報告書は、提出先が金融庁もしくはEDINETに提出します。最初の決算日から3ヶ月以内に必ず提出してください。 もし提出が遅れた場合、書類の提出を怠ったり、重要な事項に虚偽の情報を記載したりした場合、以下2つの罰則が科せられる恐れがあります。
- 5年以下の懲役
- 5億円以下の罰金
提出した内部統制報告書はどこで見ることができる?
提出した内部統制報告書はEDINETで確認できます。EDINETとは、金融商品取引法に基づく電子開示システムのことです。このシステムは、会社が有価証券報告書や届出書、大量保有報告書などの提出や公開されるまでの手続きを行ってくれます。基本的には24時間365日稼働しており、誰でも開示文書をウェブサイトで視聴可能です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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