- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制にIFRSが与える影響は|適用の必要性や整備のポイントを徹底解説
上場企業の多くが適用、または適用を検討している会計基準に、IFRS(国際財務報告基準)と呼ばれる会計基準があります。どのような会計基準なのか、日本会計基準とはどのように違うのか、把握していないという方もいるのではないでしょうか。実は、IFRSを適用することで得られるメリットは多くあります。
この記事では、IFRSとはどのような会計基準なのか、日本会計基準との違いと導入するメリット、適用により内部統制にどのような影響を与えるのかを解説します。
目次
IFRSとは
IFRSとは、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)の略語です。国際会計基準審議会が策定する会計基準のことで、それ以前はIAS(国際会計基準:International Accounting Standards)と呼ばれる会計基準が採用されていました。
1973年にIASC(国際会計基準委員会:International Accounting Standards Committee)が発足。それまで各国でバラバラだった基準を統一した、国際会計基準の作成を目指しました。この時作られたのがIASです。
IFRSが世界的に標準指標として認められたのは、EUが上場企業に対し、IFRSに基づく連結財務諸表の作成を義務付けたことがきっかけでした。EU域内の上場企業は、現在もIFRSの適用が義務付けられています。
日本会計基準との違い
日本では、2007年にASBJ(企業会計基準委員会:Accounting Standards Board of Japan)と国際会計基準審議会が共同でコンバースプロジェクトを開始。IFRSへ収斂させる方針を打ち出していましたが、2011年に金融担当大臣が「当面はIFRSの強制適用はない」と話しています。そのため、現在もIFRSは任意適用となっています。
IFRSと日本会計基準の相違点は、以下のとおりです。
IFRS 日本会計基準 原則主義 細則主義 資産・負債アプローチ 主に収益・費用アプローチ* 公正価値評価 取得原価評価
IFRSの原則主義とは、財務報告での原理原則を明確にし、例外規定は原則認めず、解釈や実際の運用は各企業の判断に任せる考え方です。一方、日本会計基準の細則主義では、具体的なルールをあらかじめ決めておきます。原則主義ではケースバイケースで判断されることが、細則主義では厳密にルールが決まっているため、各企業の判断にばらつきが出にくいのが特徴です。
また、IFRSと日本会計基準はアプローチの方法も異なります。IFRSの採用する資産・負債アプローチとは、財務状態計算書に計上されている財産価値を重視する考え方です。会計期間中に増加または減少した部分を利益・損失として認識します。
しかし日本会計基準の収益・費用アプローチでは、収益から経費を差し引いた利益を重視します。純利益の増加または減少により、純資産の動きを認識する考え方です。
さらに、IFRSでは公正価格評価が多く用いられます。公正価格評価とは、測定日時点で市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格、または負債を移転するために支払うであろう価格を言います。日本会計基準が重視する取得原価評価とは、資産を取得した価格を原価として評価する手法です。
*日本の会計基準においても、資産負債アプローチに基づいたものもあります。
IFRS適用の必要性
現在、日本ではIFRS適用の義務はありません。ただし、任意適用の対象となる企業は増加しています。企業会計審議会の報告によると、IFRSの任意適用の対象企業は以下のとおりです。
- 有価証券報告書等において、連結財務諸表の適正性を確保するための特段の取組みに関わる記載を行っていること
- IFRSに関する十分な知識を有する役員又は使用人を置いており、当該基準に基づいて連結財務諸表を作成することができる体制を整えていること
2022年6月末時点で、IFRS適用済みの日本企業は東証上場会社全体の44.4%です。IFRSの適用を検討している企業を加えると、半数を超えます。
出典:株式会社東京証券取引所「「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析」
IFRSを適用すると、以下のようなメリットが得られます。
- 経営管理への寄与
- 比較可能性の向上
- 国際的な資金調達が可能
国内だけでなく海外にも事業拠点がある場合、異なる会計基準だと経営状況を比較しにくくなってしまいます。しかしIFRSを適用すれば、全体の経営管理がしやすくなります。また、IFRSを採用することで、海外の投資家が情報収集しやすくなるため、資金調達にも役立つのがメリットです。
IFRS適用による内部統制への影響
IFRSを適用するにあたって、内部統制の見直しは必要不可欠です。そもそも内部統制とは、企業が行う事業活動を健全、かつ効率的に運用するための仕組みを指します。
内部統制は、以下の4つの目的を達成するために実行されます。
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
では、IFRSを適用すると内部統制にどのような影響があるのでしょうか。実は、日本会計基準に準拠した財務諸表の作成から、IFRSに準拠した財務諸表の作成が求められるようになります。どのように整備すればよいかは、次項で詳しく解説します。
なお、内部統制については以下の記事でも詳しく解説しているため、参考にしてみてください。
関連記事:「内部統制とは?4つの目的や6つの基本的要素を分かりやすく解説」
IFRS適用による内部統制の整備のポイント
前述のとおりIFRSの適用によりIFRSに準拠した財務諸表の作成が求められるため、再度内部統制の整備が必要になります。内部統制の4つの目的には以下の6つの基本的要素があり、IFRSを適用する際はそれぞれの見直しが必要です。
- 内部統制の実施要素
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- モニタリング
- ITへの対応
ここでは、6つの要素についてIFRSを適用する際の見直しポイントを解説します。
「統制環境」の整備
内部統制における統制環境とは、企業理念や経営方針、戦略、経営者の姿勢と言った環境づくりを指します。ほかの5つの実施要素の基盤とも言える要素です。
IFRSでは経営者が戦略と目標を明確に提示し、かつ戦略実現に向け、自ら行動規範を示す必要があります。そのため、適切な評価方法で定期的に価値の変動を見直すことがグループ会社全体に求められます。
「リスクの評価と対応」の整備
内部統制の実施要素としてのリスクの評価と対応とは、企業におけるリスクを識別し、そのリスクへの対応策を講じることです。
IFRSを導入する際は、実際に導入する前に予行演習としてIFRSの財務諸表を作成し、実際に内部統制を運用しておくことが重要です。IFRSで作成した財務諸表で起こりやすいトラブルを抽出し、リスクへの対応を明記する必要があります。
「統制活動」の整備
内部統制における統制活動とは、各部門の担当者が経営者の指示に従って業務を遂行するための仕組みです。IFRSを導入する場合は、適用するIFRSチェックリストを作成し、作成した財務諸表がIFRSに基づいて記載されているかを確認するプロセスを追加します。
「モニタリング」の整備
内部統制の実施要素としてのモニタリングとは、内部統制が機能しているかどうかを評価するプロセスで、継続的に行われます。IFRS導入後、作成した財務諸表の作成や、再整備した内部統制の運用が有効的に行われているかをモニタリングします。
「ITへの対応」の整備
内部統制におけるITへの対応には、業務でのIT活用だけでなく、内部統制をIT活用して実行することも含まれます。
IFRSを導入する際、見直した内部統制のほかの実施要素でITが活用できないか、検討が必要です。
まとめ
IFRSは国際財務報告基準の略語で、国際会計基準審議会が策定する会計基準のことです。日本会計基準とは異なり、原則主義で資産・負債アプローチ、公正価値評価を取ります。IFRSの任意適用が進められている背景には多くのメリットがある点が関係しています。しかし、IFRSを適用するには整備した内部統制も見直す必要があります。その点を忘れてはいけません。
よくある質問
IFRSの適用が必要と言われる理由は?
IFRSを適用すべき理由として、「経営管理への寄与」「比較可能性の向上」「国際的な資金調達が可能」といったメリットが挙げられます。 とくに海外拠点がある場合、日本との会計基準の違いで経営状況の比較がしにくかったり、投資家が判断しにくかったりすることがマイナス面です。IFRSを適用すれば、上記のメリットが得られる可能性があります。
IFRSを適用すると内部統制にどんな影響がある?
IFRSの適用により、それまで運用していた内部統制だけでは制御できなくなる部分が出てきます。そのため、整備した内部統制を見直す必要があります。
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