- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制に成功した企業の事例6つ|問題点や成功のコツも紹介
内部統制が義務化されている、いわゆる大会社や一部上場企業以外でも内部統制の構築と運用は可能です。会社に対しての信頼性が向上する仕組みですが、事例をもとにして実施するかどうかを決めたいという人もいるでしょう。
本記事では内部統制の事例を、成功した企業とうまく機能しなった企業の2つに分けて紹介します。成功事例はそのまま活用を、うまく機能しなかった事例はなぜ機能しなかったのかを考えながら参考にしてください。
目次
内部統制とは
内部統制とは、企業の事業活動が健全かつ効率的に運営されるための仕組みです。内部統制は会社法および金融商品取引法で定められた企業を除いて整備・運用の義務はありません。会社法と金融商品取引法における内部統制を整備・運用する義務を負う企業は次の通りです。
【会社法第2条6項】
- 資本金5億円以上または負債額200億円以上の株式会社
- 有価証券報告書の提出義務がある上場会社
上記いずれかの条件が該当する場合、内部統制を整備・運用しなければなりません。しかし、上記の条件に該当しない企業でも内部統制の整備・運用は可能です。ただし、内部統制を実施する場合は義務を負う企業同様、社内体制を整える必要があります。
内部統制に成功した企業の事例
内部統制は体制を整えるだけではうまく機能しません。整備・運用を行う中でどのような効果を狙うかを明確にして、それに対する動きや改善をする必要があります。本章では内部統制に成功した企業の事例を紹介します。
全社的な内部統制の成功事例
全社的な内部統制とは、文字通り社内全体で内部統制の取り組むことです。特定のフローだけに特化した内部統制ではなく、全社的な内部統制を行うことを指します。
成功事例としては、気になる事象や問題が発覚した際に、即座に監査役と内部監査人が打合せを実施した例があります。月次・定期の打合せ以外にも相談していたため、効果的・効率的にリスクを抽出できました。具体的には細かく打合せの場を設けていたため、リスクの高い取引を行っている事業や業務の評価をすぐにできた点が成功事例とされています。
事業規模が小さな企業であるためスピーディーに動けたという点もありますが、監査役や内部監査人と定期的あるいは適宜打合せをできる環境を整えるとリスク抽出が効率的にできるという事例です。
決算・財務報告プロセスに係る内部統制の成功事例
決算・財務報告プロセスに係る内部統制とは、特に決算や財務報告のプロセスが正常に機能しているかを確認するものです。
決算・財務報告プロセスには「業務記述書」「フローチャート」「リスクコントロールマトリックス」の3点セットを使用するのが一般的です。成功事例として扱う企業は、これとは別に独自のチェックシートを用意し、決算・財務報告マニュアルに活用しました。監査人との相談は必要ですが、3点セット以外の方法で決算・財務報告プロセスの内部統制を実現しています。
引用:金融庁「内部統制報告制度に関する事例集」
業務処理統制に係る内部統制の成功事例
業務処理統制に係る内部統制とは各種業務に関係する内部統制のことです。領域は非常に広く、また業種・業態によっても内容が異なります。
多角経営をしていた事例となる企業は新規取引先と既存取引先の評価対象となるプロセス数を削減しました。具体的には新規取引先は既存の業務フローに沿った処理を実施することで業務プロセスの増加防止につながっています。既存顧客に対しては証憑やITツールの統合や見直し、各業務プロセスの簡素化を、プロジェクトチームを結成して簡素化しました。
ITを利用した内部統制の成功事例
IT統制とは、ITが業務に活用できているか、内部統制のほかの基本要素を機能させることができているかの2点をポイントとする要素です。 トラブルが起きてしまっては意味がないため、 それらを未然に防ぐ意味で内部統制の対象となっています。
紹介する事例は、 支社が採用している独自システムの権限のうち、 重要度が高いものを本社へ権限を集中させました。 具体的にはシステム開発・保守・外部委託に関する内容です。 これにより、ITに関わる全般統制や業務処理統制の整備・運用が本社のみで可能となりました。 本社のみで評価・監査を行えば良くなったため、 効率的な内部統制評価が可能となりました。
評価範囲の制約の成功事例
内部統制報告書に評価手続きの一部が実施できなかった場合の 評価手続きと、その理由の記載方法についての事例があります。 大規模な買収を行ったとある企業が、 企業規模や財務諸表作成に係る期間内に、内部統制の基準及び実施基準に準拠した評価手続きを完了することが難しかったために行われた 措置です。
行えなかった評価手続きは一部ではあったものの、 内部統制報告書に記載する義務が発生していました。 監査人はこれらをやむを得ない事情として判断し、経営者による評価がやむを得ない事情で実施できなかったこと、充分な評価続きを実施できない状態であったことを認めました。 最終的には監査人による無限定適正意見が表明され、その理由を追記情報に記載することで評価範囲の制約を成功させています。
内部統制の記録及び保存の成功事例
内部統制の記録及び保存の成功事例として、次のような事例も存在します。
決算・財務報告プロセスについて、 内部監査人と管理部門で事前に提出予定使用リストを作成。 これらの資料に基づいてミーティングを実施し、決算財務報告プロセスに必要であるか、内部統制報告制度に有効な資料かどうかを検討しました。 結果、決算・財務報告プロセスの評価と監査に必要な資料の削減に成功しています。
内部統制が問題となった事例
内部統制が十分に機能しなかった結果、大きな問題に発展したケースも存在しています。ここでは実際に過去に起こった事例を挙げていきます。
それぞれ、何が問題だったのか詳しく見てみましょう。
投資による損失を隠蔽した事例
ある銀行で、トレーダーのAが無断かつ簿外での取引限度枠以上の投資業務を行って生じた損失約11億ドルを隠ぺいするために、保管残高明細書を偽装した事件です。リスク管理体制がずさんであったことが大きな要因で、証券売買部門と資金決済・事務管理部門が分離していたために発生したとされています。
この事件では、リスクを適切に管理する仕組みが社内で定められていなかった点が問題視され、取締役と監査役に対して賠償命令が出されました。
資金運用で損失が起きた事例
管理本部長兼取締役副社長が会社の資金運用を目的としてデリバティブ取引を行ない、533億円の損失を発生させた事件です。 該当の取締役はデリバティブ取引の担当ではなく、企業のリスク管理の甘さ、チェック機能の形骸化が原因と結論づけられました。
幸い回復不可能な程の損失を発生させる前に阻止できたうえ、事件発生当時のデリバティブ取引についての知見を前提にした場合、相応のリスク管理体制が構築されていたことも分っています。
架空売上を計上した事例
従業員が営業成績を上げる目的で架空売上を計上し、有価証券報告書に架空の売上が記載されて株主が損害をこうむった事件です。この不正行為は事業部の部長が部下数名と共謀していたこと、見かけ上、売掛金額と買掛金額が一致するように偽装をしたことで悪質性が高いと判断されています。
財務部のリスク管理体制が機能していなかったとは言えないものの、 想定される不正行為を防止する管理体制を整えてなかったことが問題となりました。
内部統制を成功させるポイント
内部統制を成功させるには、いくつかのポイントがありますが、代表的なものは以下の2つです。
- 構成員の役割を明確にする
内部統制システムを構築するうえで重要となる人物のことで、特に金融商品取引法では、各構成員が果たす役割が具体的に決まっています。役割を明確にすることで、内部統制を効果的に動かすことができます。 - 全社に浸透させる
社内研修やOJTなどの形で内部統制の重要性を浸透させることで、全社で内部統制を実施する重要性を理解してもらえます。内部統制を行うと得られるメリットについて触れるのも成功させるポイントです。
まとめ
内部統制は企業の内外の評価を高め、 健全な経営活動を行うために重要な施策の一つです。多くの成功事例・失敗事例が存在しており、今後内部統制を実施しようと検討している企業にとっては非常に参考になる事例ばかりです。成功事例からうまくいった要因を、失敗事例からは同じ轍を踏まないようにするための教訓を学ぶようにしましょう。
よくある質問
内部統制とはどのようなもの?
内部統制とは、企業の事業活動が健全かつ効率的に運営されるための仕組みです。内部統制は会社法および金融商品取引法で定められた企業を除いて整備・運用の義務はありません。条件に該当しない企業でも内部統制の整備・運用は可能でが、実施する場合は義務を負う企業同様、社内体制を整える必要があります。
内部統制を成功させるには?
内部統制を成功させるには「構成員の役割を明確にする」「全社に浸透させる」の2点が特に重要です。
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