- 作成日 : 2024年7月16日
スクイーズアウトとは?手法や手続きの流れ・株の買取価格の算出方法を解説
スクイーズアウトとは、企業が少数株主を締め出し、株式を売却させる手法です。
少数株主から株式を買い取ることで、大株主の意見を通しやすくでき、事業承継やM&Aなどもスムーズに行えるようになります。
そこで本記事では、スクイーズアウトの概要やメリット、デメリットをご紹介し、やり方を詳しく解説します。
目次
スクイーズアウトとは
スクイーズアウトとは、少数株主の持つ株式を強制的に売却させ、特定の株主が企業を完全に支配するための手法です。
主に公開企業が対象で、株式を大量に保有する主要株主や親会社が、全ての株式を取得することを目指します。
株主総会では、出席株主の過半数または3分の2以上の賛成が必要ですが、少数株主の反対により迅速な意思決定や経営方針が阻まれることがあります。
この場合、少数株主の株式を取得することで反対意見を排除できるのです。
スクイーズアウトのメリット・目的
スクイーズアウトには下記のメリットは、主に以下の通りです。
- 意思決定を迅速化する
- 長期的な視点での経営を可能にする
- 株主分散を防いで経営リスクを減らす
- 株主総会の事務処理や手続きを簡略化する
- 株主代表訴訟のリスクを減らす
- 完全子会社化による税制制度の活用を可能にする
意思決定を迅速化する
スクイーズアウトのメリットは、取締役会や株主総会での意思決定が迅速化されることです。
スクイーズアウトを実施することで、少数株主の意見や利害に左右されず、企業の戦略的決定を迅速かつ効率的に行うことができます。
例えば、新規事業の展開や大規模な投資プロジェクトの実施、組織再編など、重要な経営判断を迅速に進められます。
これにより、市場の変化や競争環境に対する迅速な対応が可能となり、企業の競争力が強化されるのです。
長期的な視点での経営を可能にする
長期的な視点での経営を可能にできるのも、大きなメリットです。
スクイーズアウトにより、経営陣は短期的な株価の変動や少数株主の意見に左右されることなく、持続的なビジョンに基づいた意思決定を行うことができます。
例えば、研究開発や設備投資など、長期的な利益を見据えた戦略的な投資が可能です。
短期的なリターンを求めるプレッシャーが減少するため、企業は必要な時間とリソースを投入し、持続的な成長を目指すことができるでしょう。
株主分散を防いで経営リスクを減らす
スクイーズアウトのメリットの1つに、株主分散を防ぎ、経営リスクを減らすことがあります。
多くの株主が存在する場合、意見の対立や異なる利害関係が生じやすく、重要な経営判断を下す際に時間と労力がかかることも考えられます。
スクイーズアウトによって主要株主が全ての株式を保有すれば、意思決定は一貫性を持って迅速に行われ、企業の経営がスムーズに進行できるでしょう。
株主総会の事務処理や手続きを簡略化する
スクイーズアウトは、株主総会の事務処理や手続きを簡略化できます。
通常、株主総会を開催する際には、多数の株主に通知を送り、出席を促し、議決権を行使するための手続きが必要です。
少数株主が多い場合、これらの手続きは非常に煩雑で時間がかかります。しかし、スクイーズアウトにより主要株主のみが株式を保有する状態になれば、通知や議決権行使の手続きが簡略化され、迅速に総会を開催することが可能です。
株主代表訴訟のリスクを減らす
株主代表訴訟とは、株主が企業の取締役や経営陣の不正行為や義務違反を理由に、企業に代わって訴訟を起こすことです。
少数株主が多数存在する場合、これらの株主は経営に対して批判的な視点を持ちやすく、経営陣の行動に対して不満を抱いた場合に株主代表訴訟を提起するリスクが高まります。
スクイーズアウトによって少数株主を排除し、主要株主が全株式を保有する状態にすることでず株主代表訴訟の提起自体が難しくなります。
主な理由は、主要株主が経営陣と一致団結し、企業の戦略や方針に対して支持的であることが多いためです。訴訟を提起する動機が著しく低減されます。
完全子会社化による税制制度の活用を可能にする
完全子会社化とは、親会社が子会社の全株式を保有する状態です。
完全子会社化により、親会社と子会社間での取引に伴う税務手続きや書類作成が簡略化され、経理業務の負担が軽減されます。
また、資産の移転や組織再編に伴う税務コストを抑えることができ、企業の財務戦略を柔軟に実行することが可能です。
スクイーズアウトのデメリット
一方、スクイーズアウトには下記のデメリットがあります。
- 少数株主から訴訟を起こされる可能性がある
- 高額な対価の支払いが必要になる可能性がある
- ある程度の時間がかかる
少数株主から訴訟を起こされる可能性がある
スクイーズアウトのデメリットの1つとして、少数株主から訴訟を起こされる可能性があります。
スクイーズアウトは、多数株主が少数株主の株式を強制的に買い取る手続きであり、少数株主に対して公平な対価を支払うことが法律で求められています。
しかし、少数株主が提示された対価が公正でないと感じた場合、対価の適正性を巡って訴訟を起こすことがあるのです。
少数株主は、裁判所に対して対価の増額を求める請求を行うことができ、その結果、多数株主は予期せぬコストを負担する可能性が出てくるでしょう。
そのような状況に陥らないためにも、少数株主にスクイーズアウトの必要性を丁寧に説明し、法律に則った手続きを踏んだ上で、専門家によって算定された適正な株価で株式を買い取ることが重要です。
高額な対価の支払いが必要になる可能性がある
スクイーズアウトを実施する際、多数株主は少数株主に対して公正な対価を提示しなければなりません。
この対価は、通常、専門家による評価を基に算定されます。評価には、企業の財務状況や市場価格、将来の収益予測などが考慮されるため、少数株主に対して提示される対価は一般的に市場価格以上の額になることが多いです。
スクイーズアウトを実施する前に、予算を十分に検討し、必要な資金を確保することが重要です。
ある程度の時間がかかる
スクイーズアウトを実施するためには、最初に多数株主が発行済株式の90%以上を取得する必要があります。
少数株主からの株式取得交渉や市場での買い集めなど、工数がかかりますし、90%に達ない場合は要件をクリアするまで準備をし続けなければなりません。
また、スクイーズアウトの手続きには法的な手続きや書類の作成、専門家の意見を求める必要があり、これらも時間がかかる要因となります。
法的手続きは細かい規定に従う必要があり、これを確実に行うためには慎重な準備と確認作業が求められます。余裕を持ったスケジュールを組んでおきましょう。
スクイーズアウトの手法・手続きの流れ
スクイーズアウトを行うには以下の手法があります。
- 特別支配株主の株主等売渡請求制度の利用
- 株式併合
- 株式交換
- 全部取得条項付種類株式の利用
特別支配株主の株主等売渡請求制度の利用
スクイーズアウトの手法として、「特別支配株主の株主等売渡請求制度」があります。
特別支配株主の株主等売渡請求制度は、日本の会社法に基づく制度であり、特別支配株主とは、発行済株式の90%以上を保有する株主を指します。
この制度を利用することで、特別支配株主は残りの少数株主の株式を強制的に取得することが可能です。
手続きの流れ・スケジュール
- 会社に対して株式の売渡請求に関する通知を行う
- 会社が売渡請求を承認し、特別支配株主へ通知を行う
- 会社から少数株主に対し、売渡請求の旨の通知を行う
なお、少数株主に対し、売渡請求の旨を通知する場合、株式取得日の20日前までに通知する必要がありますので、注意してください。
株式併合
株式併合とは、複数の株式を一つにまとめる手続きを指します。具体的には、企業が発行済株式の数を減らし、少数株主の保有する株式を整理する方法です。
例えば、10株を1株に併合する場合、10株未満を保有する少数株主は、その保有株式が併合後に1株未満となり、企業がこれを強制的に買い取ることになります。
手続きの流れ・スケジュール
- 取締役会で株主総会の開催の決議を行う
- 書面等の事前備え置きを行う
- 株主総会を実施し、株式併合の決議を行う
- 株主に対する通知も行う
- 対価を支払う
なお、株式の買取価格は裁判所の審査を受けるため、価格は公正で妥当である必要があります。
株式交換
株式交換は、親会社が子会社の全株式を取得するために用いられる手法で、少数株主の株式を強制的に取得し、完全子会社化を実現する方法です。
子会社の少数株主は親会社の株主となり、子会社は親会社の完全子会社となります。
手続きの流れ・スケジュール
- 親会社と子会社が株式交換契約を締結
- 株主総会で決議を経る
- 効力の発生と変更登記
なお、株式交換の効力が発生すると、完全子会社の少数株主に対して現金で対価を支払い、効力発生日から2週間以内に株式交換に関する変更登記を行う必要があるため、注意してください。
全部取得条項付種類株式の利用
全部取得条項付種類株式とは、企業が特定の種類株式を発行し、その種類株式を企業がすべて取得できる権利を付与した株式のことです。
会社が発行している株式を「全部取得条項付種類株式」に変更し、全株式を一度買い取った後、新たに発行した普通株式を対価として交付します。
手続きの流れ・スケジュール
- 書面等の事前備え置き
- 株主総会で決議を行う
- 株主に対して通知する
- 株式の取得と対価の交付を行う
なお、株主に対して通知をする際は、全部取得条項付種類株式の取得日の20日前までに行いましょう。
スクイーズアウトでの買取価格(株価)の算定方法
スクイーズアウトを行う際は、少数株主が納得する買取価格を決定する必要があります。
スクイーズアウトを行う際の買取価格の算定方法は、主に以下の通りです。
算定方法 | 概要 |
---|---|
インカムアプローチ | 企業の将来キャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引くことで株式の価値を算定する手法 |
マーケットアプローチ | 株式市場での取引価格や同業他社の評価を基に株式の価値を評価する手法 |
コストアプローチ | 企業の純資産価値を基に株式の価値を評価する手法 |
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、企業の将来キャッシュフローを予測し、それを現在価値に割り引くことで株式の価値を算定する手法です。
まず、インカムアプローチの初めのステップは、企業の将来キャッシュフローを予測することです。
これには、売上高、営業利益、税金、運転資本の変動、資本的支出など、企業の財務諸表に基づく詳細な予測が含まれます。
次に、予測した将来キャッシュフローを現在価値に割り引くための割引率を設定します。将来キャッシュフローを割引率で割り引いて現在価値に変換することで、企業の全体価値が算出されるのです。
メリット | デメリット |
---|---|
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株式市場での取引価格や同業他社の評価を基に株式の価値を評価する手法です。
マーケットアプローチの1つの方法として、市場価格に基づく評価があります。対象企業の株式が市場で取引されている場合、その取引価格を基に株式の価値を評価するものです。
具体的には、一定期間(通常は直近の数ヶ月から1年)の平均株価や、直近の取引価格を参考にします。
メリット | デメリット |
---|---|
コストアプローチ
コストアプローチとは、企業の純資産価値を基に株式の価値を評価する手法です。
体的には、企業が保有する全ての資産の評価額から負債を差し引いた純資産を算定し、その価値を発行済株式数で割ることで、一株あたりの価値を求めます。
この方法は、企業の財務状況を直接反映するため、資産価値に基づいた客観的な評価が可能です。
メリット | デメリット |
---|---|
少数株主によるスクイーズアウトへの対抗手段
スクイーズアウトは原則として少数株主の同意なしで行えますが、不当な方法であった場合は会社法によって少数株主に対抗手段が認められています。
少数株主に認められているスクイーズアウトへの対抗手段の種類は、主に以下の通りです。
- 買取価格決定への不服申立て
- 株式併合の差止請求
- 株式買取請求
- 株主総会特別決議の無効申立
- 株式併合の無効申立
少数株主にスクイーズアウトを拒否されると、企業はトラブルによる企業イメージの下落といったデメリットがあります。
そのような状況に陥らないためにも、企業側は丁寧な話し合いを心がけて適切な手続きを取ることが大切です。
実際のスクイーズアウトの事例
最後に、実際のスクイーズアウトの事例を紹介します。
ZホールディングスによるLINE株式会社の完全子会社化
Zホールディングス株式会社とLINE株式会社の親会社であるネイバーは当初、TOB(株式公開買付)を通じてLINE社の完全子会社化を計画していました。
LINE株式会社は、東京都新宿区に本社を構え、コミュニケーションアプリ「LINE」の事業を運営している会社です。
株式併合によるスクイーズアウトを行っており、約2,900万株を1株に併合し、少数株主の株式を端株化し、その効力を失わせて買い取りを実現させました。
結果、少数株主は排除され、Zホールディングスは2021年3月にLINE社を完全子会社化となったのです。
参考:Zホールディングス株式会社|ZホールディングスとLINEの経営統合が完了
日本製鉄株式会社による日鉄物産株式会社の連結子会社化
日本製鉄株式会社は、製鉄やエンジニアリング業などを中心に展開している会社で、日鉄物産株式会社は鋼鉄の卸売を行っている会社です。
もともと鉄鋼取引では、一部の需要家との直接取引に加え、複数の商社を仲介役として活用しておりました。
情報収集や取引実務、与信管理、流通・加工事業への投資や運営などの機能を利用し、営業力を維持・強化していたのですが、環境の変化に伴い、見直すことになったのです。
中長期的な施策が一部株主との利益相反を引き起こす可能性があると懸念し、日鉄物産を子会社化し、非公開化を目指しました。
結果的に、日鉄物産は「TOBとスクイーズアウト」によって日本製鉄の連結子会社になったのです。
参考:日本製鉄株式会社|日鉄物産㈱に対する公開買い付けによる子会社化・非公開化
株式会社紳士服中西による株式会社オンリーの完全子会社化
株式会社オンリーは、紳士服・婦人服などを展開している会社です。
継続的に企業価値を向上させるために、中長期的な視点での経営戦略の実行と柔軟な意思決定体制を社内で整備することが目的としてM&Aを試みました。
株式公開買付を行い、結果的にスクイーズアウトによる完全子会社化に成功しています。
まとめ
スクイーズアウトとは、少数株主の持つ株式強制的に売却させ、企業を完全支配する手法です。主に公開企業を対象に、多数株主や親会社が全株式を取得することを目指します。
特に株主総会では、多数の賛成が必要ですが、少数株主の反対で迅速な意思決定が阻まれる場合があります。
意思決定の迅速化や長期的な経営視点が確保できなど、メリットも複数ありますが、時間がかかるといったデメリットも存在します。
企業価値の算定や手続きの進行には、専門家との連携が重要であり、丁寧に進めるようにしましょう。
よくある質問
スクイーズアウトで株価はどうなる?
スクイーズアウトが発表されると、対象企業の株価は通常、提示される買取価格に向けて急速に収束します。 市場がスクイーズアウトによる買取価格を新たな基準として認識し、株価がその価格に合わせて調整されるためです。 たとえば、買取価格が市場価格よりも高い場合、株価は上昇する傾向があります。逆に、買取価格が市場価格と同等かそれ以下の場合、株価の上昇は限定的となるのです。
スクイーズアウトは拒否できる?
スクイーズアウトは拒否できますが、少数株主の同意がなくてもできます。不当な方法であった場合は会社法によって少数株主に対抗手段が認められているからです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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