- 更新日 : 2024年7月16日
裁量権とは?定義やメリット・デメリット、裁量労働制について解説!
働き方改革が叫ばれる中、企業には従業員一人ひとりに合った柔軟な勤務体制の整備が求められています。その一つの選択肢として「裁量権の付与」と「裁量労働制の導入」があります。この記事では、裁量権の意味と効果的な運用の仕方、裁量労働制の概要とメリット・デメリットを解説します。
目次
裁量権とは?
裁量権とは、個人が自らの判断で行動や決定を行うことができる権限のことを指します。特に職場における文脈で使用される場合、従業員が与えられた業務に対して、どのように、いつ、どの程度の努力や資源を用いて取り組むかを自分自身で決定できる範囲という意味合いが強くなります。
裁量権の範囲は職種や役職、業務の性質によって大きく異なり、高い裁量権を持つ職務では、従業員は自己の専門知識や経験を基に独立して意思決定を行い、業務を遂行します。この概念は、従業員が自主性や創造性を発揮するための重要な要素であり、モチベーションの向上や職場での満足度を高めることが期待されます。
権限との違いは?
裁量権と権限は密接に関連する概念であるものの、その意味合いには重要な違いがあります。権限とは、ある人が特定の行動を行うことを許されている範囲や、他人に対して命令を下すことができる力を意味します。一方、裁量権はその権限内での、個々の判断や選択を行う自由度を指します。
言い換えると、権限は「何をすることが許されているか」に焦点を当てているのに対し、裁量権は「与えられた権限の範囲内で、どのように行動するか」に関するものです。従って、権限はあくまで行動を取るための基本的な許可や能力を提供し、裁量権はその許可された範囲内で個人がどのようにその能力を用いるかに関しての自由を与える概念と言えます。
裁量権が大きい企業で働くメリットは?
では、裁量権が大きい企業で働く具体的なメリットとして、どのようなことが挙げられるのでしょうか。
意思決定や成長の機会が増える
裁量権が大きい企業で働く一番のメリットは、意思決定の機会が増え、それに伴い成長の機会も豊富になることです。従業員は、日々の業務を通じて、自分自身の判断で課題を解決し、プロジェクトを推進する責任を担います。この過程で、従業員自身の判断力を養い、問題解決能力やリーダーシップスキルを高めることができます。
また、自らの意思決定が直接的に結果に反映されるため、成功体験を積むことで自信を育むことが可能です。さらに、様々な決定を行うことで、ビジネスセンスや市場理解を深めることもでき、これらはキャリアの成長に直結する重要なスキルとなります。結果として、従業員自身のキャリアパスを積極的に形成することができるようになります。
やりがいを持って働ける
裁量権が大きい企業では、従業員が自分の仕事に対して強いやりがいを感じることが一般的です。このやりがいは、自分の意思で業務に取り組み、その成果が直接企業の成長やチームの目標達成に寄与していると実感できることから生まれます。
また、自らのアイデアや戦略を実現する過程で、創造性やイノベーションを追求する機会が増えることも、大きなメリットです。従業員は、ただ指示に従うのではなく、自分の強みを活かし、積極的に業務改善や新しい取り組みを提案することが奨励されます。このような環境は、従業員が自分の能力を最大限に発揮し、職業上の達成感を感じることを可能にします。
さらに、仕事の進め方やスケジュールの管理においても一定の自由度が与えられるため、ワークライフバランスを保ちやすくなり、職場の満足度が高まります。
裁量権が大きい企業で働くデメリットは?
メリットがある一方、デメリットもあることを知っておく必要があります。ここでは2つのデメリットを考えてみます。
心理的負担を感じやすくなる
特に、目標達成への圧力や失敗への恐れは、ストレスや燃え尽き症候群(バーンアウト)の原因となり得ます。また、自己管理能力や時間管理能力が求められるため、これらのスキルが不足していると仕事と私生活のバランスを保つことが難しくなり、精神的な疲労が蓄積しやすくなります。
給与などの待遇に見合わない場合がある
裁量権が大きい職場では、従業員には多大な責任と自由度が与えられますが、その責任と努力が給与やその他の待遇に必ずしも反映されない場合があります。従業員は、高い自立性を発揮し、企業の成長やプロジェクトの成功に貢献するために多くの時間と労力を費やすことが求められます。
しかし、このような貢献度に対して、十分な評価や報酬が提供されない場合、従業員のモチベーションの低下や不満が生じる可能性があります。また、業績に直結する形での報酬体系の場合、市場の変動や外部要因によって成果が左右され、努力に対する適切な報酬を受け取れないリスクもあります。
裁量権が大きい企業で活躍できる人の特徴は?
自己管理力が高い
裁量権が大きい企業では、自らの判断で業務を進める必要があるため、自己管理力が非常に重要になります。自己管理職の具体的な内容としては、次のようなことが考えられます。
(1)自発的に行動できる
上司の指示を待つのではなく、自ら課題を見つけ、解決に向けて行動できる。
(2)時間管理ができる
優先順位を付けて効率的に仕事を遂行し、期限を守ることができる。
(2)モチベーションを維持できる
目標達成に向けて、モチベーションを常に高く保ち続けられる。
自己管理力さえあれば、裁量権の範囲が広がっても、生産性を落とすことなく働き続けることができます。
責任感が強い
裁量権が拡大すれば、それだけ自らの判断に対する責任も重くなります。そのため、次のような責任感が強い人が活躍しやすくなります。
(1)結果にコミットできる
自らの判断で進めた仕事なので、良くも悪くも結果に対する責任を持てる。
(2)リスクを恐れない
挑戦を恐れず、失敗を重ねながらも前に進む姿勢があるか。
(3)謙虚さがある
間違いを認め、素直に反省できる姿勢が大切。
責任感が希薄だと、裁量権を適切に行使できない可能性があります。責任を常に自覚できる人が、信頼され活躍できるのです。
柔軟性がある
決められた手順にとらわれず、柔軟に対応できる力が裁量権の大きな企業では求められます。具体的には次のような要素が挙げられます。
(1)発想力に富む
型にはまった考え方をせず、新しいアイデアを生み出すことができる。
(2)課題解決力がある
与えられた情報から本質を捉え、独自の解決策を生み出せる力がある。
(3)変化に強い
環境の変化に柔軟に対応し、思考を転換することができる。
このように、既存の概念にとらわれない自由な発想ができる創造性が、裁量権の大きな企業で活躍するために重要となります。
裁量労働制とは?
裁量労働制とは、労働基準法第38条に規定されている「みなし労働時間制」の一種です。この制度では、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ労使で定めた一定の時間を労働したものとみなして賃金を支払います。
つまり、「○時間働かなければならない」という縛りはなく、定められた時間に満たない実労働時間があっても、あらかじめ定めた時間働いたものとして扱われます。
ただし、裁量労働制の適用には一定の条件があります。専門的な業務に従事する労働者に適用できる「専門業務型裁量労働制」と、企画・立案業務に従事する労働者に適用できる「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、それぞれ運用ルールが定められています。対象となる職種や業務内容を確認する必要があります。
なお、「専門業務型裁量労働制」については、2024年4月から従来の19業務に新たに1業務が追加され、20業務が対象となります。
裁量労働制を導入するメリットは?
裁量労働制を導入することで、企業と従業員の双方にメリットがあります。それぞれについて挙げてみましょう。
企業側のメリット
次のようなメリットが考えられます。
(1)労働時間管理が不要に
実労働時間ではなく、協定で定めた時間を労働したものとみなすため、労働時間の厳密な管理が不要になります。
(2)人件費の予算化が容易
労働時間の変動に関わらず、一定の人件費を計上できるので、人件費の予算管理が容易になります。
(3)柔軟な人材活用が可能
有能な人材を確保しやすくなり、プロジェクトベースの人材活用が柔軟にできます。
(4)業務効率の向上が期待できる
時間にとらわれない働き方ができるため、創造性を発揮しやすく業務の質や生産性が向上する可能性があります。
従業員側のメリット
従業員側のメリットとしては次のようなことが挙げられるでしょう。
(1)柔軟な働き方ができる
自らの裁量で労働時間を調整でき、プライベートとの両立がしやすくなります。
(2)ストレス軽減につながる
時間外労働の心理的プレッシャーが軽減されるため、メンタルヘルス面でもメリットがあります。
(3)業務へのやりがいが高まる
裁量の幅が広がり、自由度の高い環境で創造性を発揮できるため、仕事へのモチベーションが上がります。
裁量労働制を導入するデメリットは?
一方、裁量労働制の導入には以下のようなデメリットもあり、注意が必要です。
企業側のデメリット
企業としては、次のようなデメリットがあります。
(1)長時間労働に陥るリスク
労働時間が見えづらくなるため、従業員の過重労働を見逃しがちになります。メンタルヘルス不調のリスクも高まります。
(2)制度の濫用につながる恐れ
協定時間より長時間働かせる事態が発生しがちです。制度の本来の目的から外れる恐れがあります。
(3)賃金不払いのトラブル発生リスク
時間外割増賃金の支払い義務がなくなるため、適正賃金の評価が難しくなる可能性があります。
従業員側のデメリット
従業員側にもデメリットもあります。
(1)労働時間管理が困難に
自己管理が不得手な人は、長時間労働に陥ってしまう恐れがあります。
(2)プライベートとの両立が難しくなる場合も
裁量の幅が過度に大きすぎると、仕事に埋没してしまう危険性もあります。
このように、メリット・デメリットを十分に検討したうえで、適切な運用体制を整備することが重要となります。
企業が裁量労働制を導入する方法は?
裁量労働制を導入する際の手続きについて、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制、それぞれについて概要を見ていきましょう。
専門業務型裁量労働制の場合
「専門業務型裁量労働制」は、対象業務について事業場の過半数労働組合または過半数代表者との労使協定を締結することによって導入することができます。
その際、原則として労使協定で次の事項を定めたうえで所定様式(第13号)により、所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
- 制度の対象とする業務
- 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
- 労働時間としてみなす時間
- 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
- 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
- 協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
- (4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
また、2024年4月以降は、労働者本人の同意も必要となり、以下の3点が労使協定において規定しなければなりません。
- 制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること
- 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
- 制度の適用に関する同意の撤回の手続き
企画業務型裁量労働制の場合
企画業務型裁量労働制の導入では、労使委員会を設置する必要があります。対象事業場の使用者及び労働者の過半数を代表する者または労働組合は、労使委員会の設置に係る日程、手順等について双方で話し合って定めます。
次に労使それぞれを代表する委員を選任します。委員については、①労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成されており、労働者を代表する委員が半数以上を占めていること、②労働者を代表する委員は、1過半数組合または過半数代表者に任期を定めて指名を受けていること、という2つの要件があります。
そして、①委員会の招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項を規定する運営規程を労使委員会の同意のうえ、策定すること、②開催の都度議事録を作成・保存(3年間)し、作業場への掲示等により労働者に周知すること、という労使委員会の運営ルールを定めることになります。
そのうえで、労使委員会において、企画業務型裁量労働制の実施のための決議をし、所定様式により所轄労働基準監督署長に届出をします。
なお、企画業務型裁量労働制についても、2024年4月からは、対象者に適用される賃金や評価制度について事前説明が義務づけられるなど、一部改正があります。
制度活用のポイントを押さえ、従業員の裁量を最大限に活かそう!
裁量権とは業務の進め方等を労働者自身に委ねる権限のことです。活用すれば従業員のモチベーションと生産性の向上が期待できますが、過度の心理的負担がかかるデメリットもあります。労働基準法で定められている裁量労働制は、所定の手続きに従って導入する必要があります。柔軟な働き方が可能になる半面、長時間労働に陥るリスクがあることを踏まえたうえで、効果的に活用しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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