- 更新日 : 2024年7月12日
企業があえて上場しない理由4つ|非上場のデメリットやユニコーン企業について紹介
世界では非上場であるのにもかかわらず創業10年未満の評価額が10億ドル以上の巨大なベンチャー企業、いわゆるユニコーン企業が注目されています。また日本にも海外にも非上場の巨大企業があります。
ここでは、非上場企業のメリットおよびデメリットについて解説します。これから上場しようか検討している企業経営者は、ぜひ参考にしてください。
目次
注目が集まっているユニコーン企業とは
世界で注目を集めているユニコーン企業。一体ユニコーン企業とはどういった企業なのでしょうか。ユニコーン企業とは、次の要件を満たす企業をいいます。
- 創業10年以内
- 評価額が10億ドル以上
- 非上場のベンチャー企業
設立して間もないにもかかわらず企業価値の高い企業を指すことから、ギリシア神話に登場する一角獣である伝説の生き物「ユニコーン」になぞらえてこの名前が付けられました。現在は上場していますが、フェイスブック社やツイッター社などもかつてはユニコーン企業でした。
日本においても、株式会社メルカリ(フリマアプリ「メルカリ」の企画・開発・運用)はユニコーン企業の1社でした。しかし2018年6月に東証マザーズに上場したため、ユニコーン企業から外れました。
企業があえて上場しない理由
さまざまな企業があえて上場しない理由としてどのような点があるのでしょうか。主に次の4点があります。
- 経営の自由度が高いから
- 買収リスクがない
- 書類の作成コストを抑えられる
- 上場コストを抑えられる
ここではこれら4点について解説します。
経営の自由度が高いから
上場しない理由のひとつとして、経営の自由度が高いことがあげられます。上場すれば、利益が減少した場合、企業は株主から決算内容について厳しく追及され、経営者は説明責任を負うことになります。場合によっては、社長の交代など経営陣の刷新を要求する株主が現れるかもしれません。
中には、企業の経営方針にまで口出しする株主もいる場合もあります。経営者は株主の意向を踏まえた経営方針を立てることが求められ、経営者が思い描く経営方針からかけ離れたものとなるかもしれません。
非上場企業であれば、経営者は決算内容の中身にかかわらず上場企業のように株主から責任追及を受けることはあまりありません。また、経営方針に口出しされることも同樣に少ないです。つまり、非上場企業の経営者にとっては自由度が高い経営を行うことが可能となります。
買収リスクが少ない
上場しないメリットのふたつめとして、買収リスクが少ない点があります。上場企業であれば、市場で企業の株式が不特定多数の第三者に自由に売買されています。不特定多数の第三者の中には、特定企業の株式を買い占め、経営権を奪取することも考えている投資家がいるかもしれません。つまり、上場企業は常に買収されるリスクが潜んでいることを意味します。
「敵対的買収(TOB)」といった言葉も新聞などで見聞きすることもあるかもしれません。企業はTOBを仕掛けてきた投資家から会社を守るために、より高い価格で自社株式を買い取ることを発表したりなど、さまざまな手段を講じて防衛にかかります。しかし、場合によっては買収されるかもしれません。
一方で非上場企業では、株式の売買をする際、取締役会等の承認が必要なため第三者による株式買い占めにより経営権を奪われることが少なく、買収リスクが小さいです。そのため、経営者は事業に集中して取り組むことが可能です。
書類の作成コストを抑えられる
非上場企業であることで、書類の作成コストが抑えられる点も特長としてあるのです。上場企業は、金融商品取引法に基づき、財務計算に関する書類、内部統制報告書、および有価証券報告書を決算後に提出する義務があります。また、決算後45日以内に決算短信を公表することが求められます。
提出書類を作成するにあたって、企業には書類の作成を行うためのコストが発生します。上場企業は多くの参加者が見込まれる株主総会を開催するので、株主総会の招集通知を作成し発送するため、ここでも多額の費用がかかってしまうのです。経営者は株主総会開催において入念な準備が必要で、コスト以外にもストレスもかかります。
非上場企業においては、上場企業のように金融商品取引法で定められた有価証券報告書などの書類の提出はほとんどの場合不要です。また、株主総会も上場企業よりも規模が小さく済むので、ストレスにさらされることもありません。非上場企業は、上場企業で発生する書類作成コストを抑えられるメリットがあるのです。
上場コストを抑えられる
最後に、上場企業が必要とされる上場コストが非上場企業には不要である点があげられます。企業が上場するに際して上場前、上場時、上場後とそれぞれ費用が必要となりますが、上場しない場合はこれらの費用がかからないため、上場コストを抑えることが可能です。
では、企業が上場するときにはどのようなコストがかかるのでしょうか。以下に必要な項目と目安の費用をまとめました。
【上場前】(約2000万円以上)
- 監査法人への支払い
- 証券会社への支払い
- 株式事務代行機関への支払い
- 証券印刷会社への支払い
- コンサルティング会社への支払い(必要に応じて)
- その他管理体制を拡充するための人件費 など
【上場時】(およそ500万円)
- 上場審査料
- 登録免許税
- 証券会社へ成功報酬の支払い
【上場後(年間)】(2000万円~)
- 年間上場料
- 監査法人への支払い
- 株式事務代行機関への支払い
- 証券印刷会社への支払い
- 株主総会の運営費用 など
上場するまでに2500万円あまり、上場後も毎年2000万円以上の費用が必要となります。これらとは別に、決算後に有価証券報告書など金融商品取引法で定められた書類の提出が必要です。
メリットだけではない!上場しないデメリット
企業が上場しないメリットについて説明しましたが、デメリットとしてはどのような点があるのでしょうか。デメリットについては主に次の2点です。
- 資金調達力が低い
- 社会的信用度が低い
それぞれについて説明します。
資金調達力が低い
非上場企業であるデメリットとして資金調達力が上場企業と比べ低い点があります。上場すると企業は発行した株式を市場で不特定多数の投資家に購入してもらえるため、企業自ら株式の購入先を見つける必要がありません。同時に企業は多額の資金調達が可能となるため、市場で調達した資金で企業は設備投資や先行投資を行うことができ、将来の経営方針が立てやすくなります。
非上場の企業が株式発行による資金調達をする際、不特定多数の投資家が購入可能な上場企業とは異なり、企業自体で株式購入してくれる投資家を探さねばなりません。また、上場企業のように株価が存在しないため、非上場企業の株式の価格は購入者の企業評価に基づいての価格となるため、企業が考えている資金調達ができない恐れもあります。
そのため、設備投資や先行投資が必要であっても上場企業のように多額の資金の調達が厳しいかもしれません。
社会的信用度が低い
非上場企業であるために、社会的信用度が上場企業より低い点もデメリットとして考えられます。企業が上場するには証券取引所の審査に通ることが必要です。
審査は多岐に渡って行われますが、特に株式上場を考えている企業は管理体制が強化・充実されていることを審査で示さなければなりません。社内の管理体制が構築されていないと審査をクリアできないため、上場企業は管理体制が整備されているとみなされ、社会的信用度が高く評価されます。
また、厳しい審査を経て上場している企業には優秀な人材が集まってきます。非上場企業も管理体制の強化や充実を図る必要がありますが、上場企業と違い厳格に求められていないため、上場企業と比べると不利であることは事実です。売上や営業利益が順調に推移していても優秀な人材が上場企業に流れていく傾向があることは否めません。
上場していない有名企業
国内、国外で有名な企業は全て上場しているのかといえば、そうではありません。ここでは、上場していない国内外の有名企業を紹介します。
上場していない国内の有名企業
上場していない国内の有名企業としては、主に次の会社があります。
- サントリーホールディングス株式会社(食品業)
長年にわたって創業家の経営を継承しており、「上場すると経営理念が崩れてしまうかもしれない」との思いが上場に至らせない理由といわれている。
- 株式会社ジャパネットホールディングス(通販業)
「ジャパネットたかた」は有名なフレーズを耳にしたことのある方が多いかもしれないが、実は上場していない企業。現社長の高田旭人(たかたあきと)氏は、その背景として「知名度があり、通販業なので、大きな初期投資費用もいりません。株主の最大利益のために仕事をしようという動機付けを社員に対してできるイメージは持っていない」と日経ビジネスで語っている。
また、そのほかの企業で非上場なのは以下が代表的です。
- 株式会社竹中工務店(建設業)
- YKK株式会社(住宅用商品、ビル用商品設計、施工、販売業) ※株主コミュニティでは取り扱いあり
- 株式会社ロッテホールディングス(食品業)
- 株式会社小学館(出版業)
上場していない国外の有名企業
国外にも上場していない有名企業は存在します。理由は非公開の場合もありますが、代表的なのは次の会社です。
- ボッシュ(自動車機器、産業機器、製造業)
ボッシュ社の株式は「公益財団のロバート・ボッシュ財団」が議決権のない9割近く保有し、経営の監視・監督をする「ロバート・ボッシュ工業信託合資会社」が1%の株式保有比率であるが93%の議決権を保有している。企業の「所有」と「経営」を分離することで体制を敷きことで、非上場企業にありがちな経営に対する監視・監督の目が行き届かないリスクをカバーしているため上場していない。
ほかにも、以下の企業は株式を上場していません。
- イケア(家具の設計・製造及び販売業)
- デビアス(ダイヤモンド採掘業)
- ロレックス(腕時計製造、販売業)
- レゴ(玩具の製造・販売業)
まとめ
企業が上場しないメリットとして、株主より業績に関して追及されることや第三者による株式の大量取得による買収リスクを回避できる点があります。また、有価証券報告書など金融商品取引法に定められた書類を提出する義務はなく、上場にかかるコストを抑えられます。
一方で、上場すれば社会的信用も高くなり、多くの資金が調達可能となり、先行投資や設備投資を積極的に行え、優秀な人材が集まりやすい土壌となります。企業は資金調達や人材の確保、社会的信用度などについて長期的なビジョンを策定する際にこの記事が参考にされることを期待しております。
よくある質問
企業があえて上場しないのはなぜ?
企業があえて上場しない理由として、経営の自由度が高くなり、買収リスクがないことがあります。コスト面においても、上場に際して企業は多額のコストがかかりますが、非上場企業はかかりません。決算時に際し、上場企業は多くの提出書類が必要ですが、非上場企業は提出書類がないか少ないため、作成コストが抑えられます。
上場しないデメリットはある?
上場企業は発行した株式を市場で不特定多数の投資家に購入してもらえるため資金調達力が高いです。非上場企業は自力で株式購入先を見つけてこなければならないため、上場企業と比べ資金調達力が低いといえます。社会的信用度においても、上場企業は厳しい審査をクリアして上場しているため社会的信用度が高いと考えられます。たとえ企業の管理体制が整っているとしても、上場企業と比較すると非上場企業は社会的信用度では低く見られる傾向があります。
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