- 作成日 : 2024年10月15日
フェア・ディスクロージャー・ルールとは?概要や適用範囲、実務対応を解説
2017年5月の金融商品取引法改正によってフェア・ディスクロージャー・ルールが導入されました。企業は、重要な情報を開示する際、すべての投資者に対して公平かつ同時に開示しなければいけません。情報開示は、投資家との信頼関係構築、法令遵守の観点から重要です。
本記事では、フェア・ディスクロージャー・ルールの基本概念や背景、適用範囲、実務対応について解説します。
目次
フェア・ディスクロージャー・ルールとは
はじめに、フェア・ディスクロージャー・ルールの概要や導入の背景、企業から見た情報開示を行うメリットを解説します。
ルール導入の経緯
フェア・ディスクロージャー・ルールとは、企業が「重要な情報」を第三者に提供する場合にすべての投資家に同時に平等に開示することを義務付けるルールです。
これまで、特定の投資家が重要な非公開情報を優先的に受け取ることで他の投資家よりも有利な立場に立つことで、他の一般投資家が不利益を被ることがありました。このような状況は、市場の信頼性を損ない、一般投資家に不利な取引環境を生みます。
アメリカやEU、アジア主要国ではすでにフェア・ディスクロージャー・ルールが整備されており、日本でも同様のルール制定の必要性が指摘されていました。
そんな中、2015年に有名証券会社が所属アナリストを通じて入手した未公開情報を利用し、顧客に株式の売買の勧誘を行ったことで行政処分を受ける事件が発生し、ルール制定の気運を一層高めました。
参考:金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース報告(案)」
ルール導入の目的
特定の投資家が情報の優位性を利用して利益を得ることが難しくなり、すべての市場参加者が公平な条件で取引に参加できる環境を整えることが目的です。
最終的には、投資家の信頼を高め、公正な市場取引を促進することで、資本市場全体の健全性の維持を目指しています。
ルール導入による企業側のメリット
ルール導入による企業にとってのメリットは主に以下の4点が挙げられます。
投資家からの信頼獲得
企業がルールを順守することで、投資家に対して透明性の高い運営を行っていることを示すことができるため、投資家からの信頼を獲得しやすくなり、結果的に資金調達や株価の安定に寄与します。
市場での評価向上
適切な情報開示は、企業の健全性や成長性が正しく評価されることにつながります。
法的リスクの軽減
罰金や訴訟リスクを軽減し、企業の信用を損なうリスクを低減します。
インサイダー取引の防止
内部統制が強化され、企業全体のコンプライアンスレベルが向上し、長期的な経営の安定に寄与します。
フェア・ディスクロージャー・ルールの適用範囲
ここでは、ルールが規定する重要な情報、情報受領者、情報提供者の範囲を解説します。
重要な情報の範囲
金融商品取引法第27条36項によれば、ルールの対象となる「重要な情報」は、「上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」とされていますが、具体的な基準は分かりません。
金融庁は、「未公表の確定的な情報であって、公表されれば有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性のある情報」が重要な情報であるという見解を示しています。
重要な情報として想定されるものに以下が挙げられます。
- 業績(業績結果、予測値)
- 戦略的な取引や決定(買収、新規事業への参入)
- 資金調達や財政政策(株式等の発行、配当政策)
- 経営陣の変更(役員異動、役員報酬)
- 法的規制(訴訟や制裁に関する情報)
- その他重要イベント(契約獲得、自然災害等による影響)
※参考:金融庁「金融商品取引法第 27 条の 36 の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」
情報受領者の範囲
金融商品取引法第27条36項がルールの情報受領者としているのは、有価証券の売買に関与する蓋然性が高いと想定される者です。
- 金融商品取引業者、登録金融機関、信用格付業者若しくは投資法人その他の内閣府令で定める者又はこれらの役員等
- 当該上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受け、当該重要情報に基づく投資判断に基づいて当該上場会社等の上場有価証券等に係る売買等を行う蓋然性の高い者として内閣府令で定める者
上記2つの情報受領者として想定されるものには以下が挙げられます。
- アナリスト(株式、債券アナリストなど)
- 機関投資家(ヘッジファンド、年金基金などの大規模投資家)
- 証券会社(ブローカーやディーラーとしての証券会社)
- 投資銀行(投資銀行のアナリストやアドバイザー)
- 大口株主(主要株主、影響力が強い役員など)
- 信用格付機関(ムーディーズ、スタンダード&プアーズ(S&P)などの信用格付機関)
- その他の市場参加者(特定の調査会社やジャーナリスト)
情報提供者の範囲
金融商品取引法第27条36項がルールの情報提供者としているのは「その業務に関して」伝達を行う者です。これには、企業内部で重要な非公開情報を知る者で経営陣や役員以外を含む広範な範囲の内部関係者が想定されます。
- 経営陣(CEO、CFOなど)
- 財務担当者や会計士
- 法務関係者(法務責任者、社内弁護士、コンプライアンス責任者など)
- 監査関係者(内部監査人、外部監査人、内部統制責任者など)
- 事業部門の責任者(主要な事業部門の責任者、重要な契約に関与する担当者)
フェア・ディスクロージャー・ルールの実務対応
ここでは、ルールが求める実務上の対応を解説します。
情報の公開方法
金融商品取引法第27条36項4号によれば、内閣府令に従い、情報受領者に情報伝達が伝達された後は速やかにインターネットの利用、またはその他の方法によって公表することが義務付けられています。
内閣府令が規定する公表の定義は以下のとおりです。
- 重要情報が記載された書類(有価証券報告書など)が公衆の縦覧に供された
- 役員等が、重要情報を内閣府令が規定する報道機関2以上に対して公開後に12時間が経過した
- TDNetによる開示がなされた
- 自社ウェブサイトへ当該情報を掲載した
違反行為への罰則
金融商品取引法第205条によれば、公開されるべき重要情報が公開されていない場合は金融庁が公表を命令します。
それでも正当な理由なく命令に従わない場合に6ヶ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金もしくはその併科という刑事罰が設けられています。
適切な情報管理体制の構築
ルールに対応するために、会社の情報開示体制を整備する方法は以下のとおりです。
1. 情報開示ポリシーの策定
どの情報が「重要な非公開情報」に該当するかを明確にし、それらの情報の取り扱い方法を決める。
2. 情報開示プロセスの決定
定期的な開示(四半期報告、年次報告など)の日程を決め、重要情報が即時に開示されるよう体制を整える。
3. 情報開示チームの編成
投資家関係(IR)、広報、財務、法務部門からなる専任チームを設置し、情報開示に関する調整を行う。
4. 内部検証
情報開示が適切に行われているかについて定期的に内部監査を実施する。
5. 外部コミュニケーション
プレスリリースや記者会見を通じて、重要な情報をすべてのステークホルダーに公平に伝達する。
まとめ
フェア・ディスクロージャー・ルールによって、企業には重要な情報をすべての投資家に開示する責任があります。企業はルールを遵守することで、投資家や市場からの信頼を獲得するとともに法的リスクを回避できます。
ルールに対応するためには、法律によって規定された重要情報、情報受領者、情報提供者の範囲を正しく理解しておくことが大切です。
内閣府令に従って情報開示を徹底し、社内の情報開示体制を整備することで、透明性のある情報開示が可能となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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