• 更新日 : 2024年7月12日

IPO(上場)審査概要とポイント、近年の傾向について

IPOの重要なポイントのひとつに「IPO(上場)審査」があります。上場審査には、引受審査・公開審査といったいくつかの種類があり、それぞれのポイントを押さえておく必要があります。この記事では、このIPO審査について、近年の傾向とあわせて解説します。

2段階のIPO(上場)審査

IPO(上場)審査概要とポイント、近年の傾向について
上場審査とは、証券取引所に株式を上場するために、証券取引所や証券会社が行う審査のことをいいます。

上場審査には、以下の2段階があります。

  • 主幹事証券会社の引受審査部門による引受審査
  • 各証券取引所による公開審査

引受審査

引受審査では、主幹事証券会社の引受審査部門が、企業の財務状況や事業内容、経営陣の資質などの項目を調査します。企業の将来性についても評価の対象です。

引受審査は、主幹事証券会社が独自に行う審査のため、証券取引所の承認は不要です。ただし、引受審査を通過しなければ、証券取引所へ正式に上場申請できません。

上場の直後に企業に問題が発覚すると、証券取引所の引受審査上の問題を問われるリスクがあるため、証券会社としても、厳格にチェックを行います。

上場審査

公開審査では、証券取引所の上場審査部が、企業が上場要件を満たしているかどうかを審査します。

基本的には引受審査と同じで、上場審査基準に従い、形式的にも実質的にも基準をクリアしているかチェックが行われます。主な上場要件は、財務健全性、情報開示の適格性、コーポレート・ガバナンスの整備などです。

公開審査をクリアすると上場承認が下り、無事に上場となります。

上場審査のスケジュール

IPO(上場)審査概要とポイント、近年の傾向について
主幹事証券の引受審査は、一般的に5~6カ月です。

引受審査を通過し、株主総会にて直前期の決算を承認した後に、上場申請を行います。

公開審査は、取引所によるものの新規上場の場合は約2カ月の審査期間が前提となっており、上場承認後、約1カ月のファイナンス期間を経て上場となります。

上場審査における審査基準の概要

IPO(上場)審査概要とポイント、近年の傾向について
各証券取引所は、株式を公開申請する会社に対して、公開審査基準と呼ばれる一定の資格要件を定めています。証券取引所に株式を公開する場合は、この審査基準を満たさなければなりません。

公開審査基準には、「形式基準」と「実質基準」があります。

形式基準

形式基準とは、上場申請を行う企業が定量的な側面において最低限クリアしなければならない基準です。

具体的には、以下の項目が形式基準に該当します。

  • 株主数
  • 流通株式数
  • 流通株式比率
  • 時価総額
  • 純資産額
  • 利益額
  • 事業継続年数
  • 監査意見
  • 株式事務
  • 合併等の見込み

形式基準は、対象となる市場によって異なります。近年、東京証券取引所において市場の区分見直しが行われ、「グロース市場」と呼ばれる高い成長が見込まれる企業向けのマーケットにおいては、形式基準の要件が緩和されました。

参考:日本取引所グループ「上場審査基準」

実質基準

一方で実質基準とは、上場を認めるかどうかを判断するための基準となる、具体的な項目のことです。形式基準が定量的な指標に基づいて判断されるのに対し、実質基準は定性的な側面も考慮されるため、判断基準が曖昧になる場合もあります。

東京証券取引所では、有価証券上場規程で市場ごとに5つの適格要件が定められ、「上場審査等に関するガイドライン」に基づき判断されることになります。

具体的には、以下の5つが適格要件です。

  • 企業の継続性および収益性
  • 企業経営の健全性
  • 企業のコーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の有効性
  • 企業内容等の開示の適正性
  • その他公益および投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項

企業として継続的に収益を上げる体制にあり健全な経営がなされているか、株主の利益が毀損されるような不祥事や不正が行われない管理体制が整っているか、などが審査のなかでチェックされます。

上場審査の具体的な流れ

IPO(上場)審査概要とポイント、近年の傾向について
ここまで、上場審査の基準を具体的に見ていきました。次に、実際の証券取引所による上場審査は、どのような流れで行われるのかを見ていきましょう。

具体的には、以下の流れに沿って審査が行われます。

  1. 書面による質問・ヒアリング
  2. 実地調査
  3. 監査法人/代表者/監査役/独立役員へのインタビュー
  4. 証券取引所への会社説明会
  5. 上場承認公表

1.書面による質問・ヒアリング

書面による質問、および書面の回答に対するヒアリングが実施されます。

通常3回ほど行われ、質問数は数百にものぼります。数週間程度の回答期限内に全ての質問に対応しなければならないため、上場担当者は十分なリソースを確保したうえで準備が必要です。

このヒアリングを通じて上場審査の実質基準に準拠していくのか確認をとるため、回答が不十分だったり、正確でなかったりすると、証券取引所からの追加確認が発生してしまい上場全体のスケジュールに影響を及ぼす可能性があります。

2.実地調査

実地調査とは、証券取引所の審査担当者が上場申請企業の事業所や工場などを訪問し、書類審査では確認できない情報や資料を収集することを目的とした調査です。

実地調査の内容は、企業の事業内容や規模によって異なりますが、一般的には以下の項目が調査されます。

  • 事業所や工場の設備
  • 生産工程
  • 在庫管理
  • 財務状況
  • 内部統制体制
  • 経営陣や従業員のインタビュー

調査の日程は証券取引所と企業との間で調整され、調査時間は数時間から数日程度です。

3.監査法人/代表者/監査役/独立役員へのインタビュー

コーポレート・ガバナンス上、重要性の高い組織(経営者・役員・監査役・会計監査人・監査法人)に対してインタビューが実施されます。インタビューは、監査法人からスタートするのが一般的です。

インタビューの内容は、企業の事業内容や規模、経営状況、コーポレート・ガバナンスなどによって異なりますが、一般的には以下の項目について質問されます。

  • 事業内容
  • 経営状況
  • コーポレート・ガバナンス
  • 上場に対する意気込み
  • 株主へのメッセージ など

特に代表者に対しては、事業のビジョンや会社としてのIRの方針などについてもインタビューされます。

通常、インタビューは証券取引所のオフィスで行われますが、場合によっては企業のオフィスで行われる場合もあります。インタビュー時間は、1人あたり30分から1時間程度です。

4.社長説明会(各種ヒアリング終了後7〜8営業日前後)

上場申請企業の社長は、証券取引所の役員などに対して、会社の経営方針や事業計画などを説明する場を設けます。この社長説明会は、審査担当者が社長から直接話を聞いて、企業の実態をより深く理解することが目的です。

一般的には、以下の項目について説明されます。

  • 会社の概要
  • 経営方針
  • 事業計画
  • 財務状況
  • コーポレート・ガバナンス
  • 上場後のIR活動

5.上場承認の公表

上記のプロセスを経て、晴れて証券取引所ホームページにて、株式の上場承認がなされた旨が公表されます。上場審査への合格を公表することで、投資家が企業を評価するための情報提供に繋がります。

公表される主な内容は、以下の通りです。

  • 企業名
  • 上場市場
  • 上場予定日
  • 公募・売出価格
  • 発行株式数
  • 売出株式数
  • 決算短信
  • 上場承認日

近年の上場審査の傾向

IPO(上場)審査概要とポイント、近年の傾向について
近年、上場直後の業績下方修正や不正発覚事案が相次いだことから、証券取引所は上場審査基準を厳格化しています。

具体的に強化されている点は、以下の通りです。

  • コーポレート・ガバナンスの強化
  • 内部統制体制の強化
  • 情報開示の適正化

日本取引所グループでは、2015年3月に「最近の新規公開を巡る問題と対応について」を公表しており、近年の上場に関する問題点の整理をしています。

参考:日本取引所グループ「最近の新規公開を巡る問題と対応について」

IPO審査を通過するためのポイント

IPO審査を通過するためには、形式基準と実質基準を満たしておくのはもちろん、情報開示を適正に行い、しっかりと上場準備を進めておくことが大切です。

また企業側は、特に以下の2点を強化しておく必要があります。

  1. 新規公開会社の経営者による不適切な取引への対応
  2. 上場直後の業績予想の大幅な修正への対応

まず①については、上場の経営体制として実質的に内部管理体制、およびコーポレート・ガバナンス(経営を正しく運営されていくにあたって必要な体制が定められたもの)が機能していれば、防げるものがほとんどです。

②に関しては、上場時に公表される業績予想について、前提条件やその根拠の適切な開示が要請されています。業績予想情報の正確性についても、以前より高い水準が求められています。

「実態は違うが、見かけ上は守れている」という体制ではなく、実質的にも機能する管理体制を上場準備期間中に構築していきましょう。

まとめ

以上がIPOの審査に関する全体的なまとめとなります。さまざまな各論が多くありますが、まずは全体的なスケジュールを抑えたうえで、外部関係者(監査法人/証券会社/IPOコンサルタント等)に協力を仰ぎながらIPOプロジェクトを進めていきましょう。

よくある質問

証券会社とは、いつ契約を結べばいいですか?

上場から2年前程度のタイミングで結ぶとよいでしょう。

証券会社の選び方は?

自社をどこまで評価してくれるのか、また引受審査体制の成熟度、担当者との相性など、さまざまな角度から評価をして選ぶようにしましょう。特に、自社をどこまで理解しているのかは重要な観点となります。

審査で特にみられるポイントは?

「特に」というのはありません。会社によっても抱える問題点が違うため、担当の証券営業部と相談しながら問題をクリアにしていきましょう。


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