- 更新日 : 2024年7月17日
経営革新計画とは?承認申請するメリットや要件・作成方法を詳しく解説
経営革新計画は、企業が競争力を高め、持続可能な成長を達成するための重要な戦略です。この計画では、技術革新、市場開拓、業務効率化など、多岐にわたる分野での改革を推進します。
本記事では、経営革新計画の概要や対象となる事業者、承認申請の流れなどについて詳しく解説します。
経営革新計画とは
経営革新計画とは、企業が新たなビジネスモデルやサービスを導入し、市場での競争力を高めるための戦略的なアプローチです。
この計画は、従来のビジネスフレームワークを見直し、技術の進展や市場環境の変化に応じて企業の運営を最適化することを目指しています。
経営革新計画を策定する過程では、企業が直面している問題点を明確に特定し、それに対する具体的な解決策を設定します。
これには、新技術の採用や、未利用市場への進出、さらには業務プロセスの再構築などが含まれることが一般的です。
経営革新計画の要件
経営革新計画の要件は、主に以下の通りです。
- 新事業活動に取り組む計画であること
- 経営の相当程度の向上に取り組む計画であること
詳しく解説します。
「新事業活動」とは
経営革新計画における「新事業活動」とは、以下の5つのいずれかに該当する取り組みを指すものです。
新事業活動の類型
- 新商品の開発又は生産
- 新役務の開発又は提供
- 商品の新たな生産又は販売の方式の導入
- 役務の新たな提供の方式の導入
- 技術に関する研究開発及びその成果の利用その他の新たな事業活動
出典:中小企業庁|2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
各企業において「新たな取り組み」であれば他企業で既に行われている取り組みであっても承認の対象になります。
ただし同業におけるその取り組み、技術の導入状況から判断して相当程度普及している場合は対象外になるため、注意が必要です。
「経営の相当程度の向上」とは
経営革新計画における「経営の相当程度の向上」とは、以下の2つの指標が事業期間の3~5年で相当程度向上することを指すものです。
経営革新の指標
「付加価値額」又は「一人当たりの付加価値額」の伸び率
「給与支給総額」の伸び率
出典:中小企業庁|2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
計算式:給与支給額の伸び率 = ( (今年の給与支給額 – 昨年の給与支給額) / 昨年の給与支給額 ) × 100
「付加価値額」又は「一人当たりの付加価値額」の伸び率とは、企業が創出した価値を包括的に評価するために、営業利益に加えて、企業活動の基盤となる雇用(人件費)と投資(減価償却費)を合算した指標です。
給与支給額の伸び率とは、ある期間における給与支給額の増加率を百分率で表したものです。一般的には、前年同月比または前年度比で算出されます。
事業期間終了時における目標伸び率
事業期間 | 「付加価値額」又は「一人当たりの付加価値額」の目標伸び率 | 「給与支給総額」の目標伸び率 |
---|---|---|
3年 | 9%以上 | 4.5%以上 |
4年 | 12%以上 | 6%以上 |
5年 | 15%以上 | 7.5%以上 |
出典:中小企業庁|2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
経営革新計画の対象となる事業者
経営革新計画の対象となるのは、以下の基準・要件を満たした特定事業者です。
事業者の分類 | 基準・要件 |
---|---|
製造業等を主に営んでいる会社及び個人 | 従業員数:500人以下 (常時使用する従業員の数) ※事業主、法人の役員、臨時の従業員を除く |
卸売業を主に営んでいる会社及び個人 | 従業員数:400人以下 (常時使用する従業員の数) ※事業主、法人の役員、臨時の従業員を除く |
サービス業を主に営んでいる会社及び個人 | 従業員数:300人以下 (常時使用する従業員の数) ※事業主、法人の役員、臨時の従業員を除く |
小売業を主に営んでいる会社及び個人 | 従業員数:300人以下 (常時使用する従業員の数) ※事業主、法人の役員、臨時の従業員を除く |
事業協同組合、事業協同小組合、協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、商工組合、商工組合連合会、商店街振興組合、商店街振興組合連合会 | 特になし |
生活衛生同業組合、生活衛生同業小組合、生活衛生同業組合連合会、酒造組合、酒造組合連合会、酒造組合中央会、酒販組合、酒販組合連合会、酒販組合中央会、内航海運組合、内航海運組合連合会、技術研究組合 | 直接又は間接の構成員の2/3以上が中小企業者であること |
出典:中小企業庁|2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
経営革新計画の承認を受けるメリット
中小企業が経営革新計画の承認を受ける主なメリットは、以下の通りです。
- 資金調達で優遇される
- 補助金の申請時に加点の対象になる
- 販路開拓の支援を受けられる
- 海外展開のための資金調達がしやすくなる
- 特許料の減免措置の適用になる
詳しく解説します。
資金調達で優遇される
経営革新計画を策定しておくと、融資を受ける際に優遇措置を受けることが可能です。
新しい事業を進めるためには計画に従って必要な資金が求められますが、経営状況が困難で中小企業の信用力だけでは民間金融機関から十分な融資を得られないこともあるでしょう。
理想的な事業計画を立てても資金不足で実施できず、計画を見直す必要が生じる場合も珍しくありません。
金融機関や投資家からの資金調達時において経営革新計画の承認は、その企業が「リスク管理能力を持ち、革新的な取り組みを進める意欲的な組織である」と評価されるため、融資条件の改善や低利の資金提供が期待できるでしょう。
補助金の申請時に加点の対象になる
経営革新計画の承認を受けることが持つメリットの一つとして、補助金の申請プロセスにおいて加点が得られることがあります。
補助金の申請審査では、企業が市場内での競争力を向上させるための戦略や、社会的、経済的影響をどのように考慮しているかが重要視されます。
経営革新計画の承認は、これらの要素がしっかりと組み込まれ、効果的に展開される可能性が高いと評価されるため、補助金を獲得する際に有利なポジションを確保することが可能です。
販路開拓の支援を受けられる
販路開拓に関する支援を受けられる点も、特に大きなメリットです。
中小企業基盤整備機構の「販路開拓コーディネーター」より、主に以下のような支援を受けられます。
- マーケティング支援
- 営業体制の内製化
- テスト的に行ったマーケティングのフィードバック
このような支援によって、企業は新たな顧客層にアプローチしやすくなり、製品やサービスの認知度を高めることが可能です。
また、経営革新計画が承認されると、その企業が提供する製品やサービスの品質や革新性が公的に認められるため、消費者やビジネスパートナーに対する信頼性が向上します。
海外展開のための資金調達がしやすくなる
経営革新計画の承認を受けることで、海外展開するための資金調達をしやすくなります。
金融機関はリスク管理を重視するため、承認された経営革新計画を持つ企業は、計画的かつ戦略的に事業を運営していると評価され、融資条件が改善されることが一般的です。
その結果、低利の融資やより長期の返済スケジュールを利用可能になり、これが海外市場での事業展開や設備投資の初期コストをカバーするのに役立ちます。
特許料・審査請求料の減免措置の適用になる
特許料や審査請求料の減免措置が適用されることも、経営革新計画の承認を受けるメリットです。
この減免措置によって企業が特許を取得しやすくなると、競争力のある市場において独自の技術や製品を保護し、収益化する機会が増えます。
特許料などの減免を利用することで、特に中小企業やスタートアップなど資源が限られる企業は研究開発への再投資が容易になり、持続的なイノベーションが推進されます。
企業が新しい市場や技術分野への進出を計画する際のリスクを軽減し、長期的な成長戦略を支えるための安定した基盤を提供してもらえるでしょう。
経営革新計画の承認申請における注意点
経営革新計画の承認申請における主な注意点は、以下の通りです。
- 作成に時間やコストがかかる
- 必ず承認されるわけではない
経営革新計画を策定する際には、企業の現状分析から将来のビジョン設定、具体的な戦略やアクションプランの開発に至るまで、詳細かつ綿密な作業が必要とされます。
この作業工程には時間がかかりますし、外部に依頼すればコストがかかってしまうため、注意が必要です。
また、申請を出しても必ず承認されるわけではなく、承認を得るためには、提出される計画が具体的で実行可能であり、明確な目標と戦略が定められている必要があります。
経営革新計画の承認申請の流れ
経営革新計画の承認申請は以下の流れで行います。
- 都道府県担当部局等への問い合わせ
- 必要書類の作成・準備
- 各都道府県担当部局・国の地方機関等への申請書の提出
- 都道府県知事・国の地方機関等の長の承認
出典:中小企業庁|2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
問い合わせから申請後、承認を受けるまでは概ね2年かかかると言われています。
➀都道府県担当部局等への問い合わせ
経営革新計画の承認申請の過程においては、事前の準備として都道府県担当部局への問い合わせが必須となります。
都道府県担当部局が承っている主な問い合わせ内容は、以下の通りです。
- 対象者の要件
- 経営革新計画の内容
- 申請手続き
- 申請窓口
- 支援措置の内容
ぜひ参考にしてください。
➁必要書類の作成・準備
経営革新計画の承認申請には、以下の書類が必要です。
経営革新計画の申請書類
※4が無い場合は直近1年間の事業内容の概要を記載した書類
出典:中小企業庁|2022年版 経営革新計画 進め方ガイドブック
都道府県によっては他にも必要書類がある場合があるため、詳しくは管轄の自治体に問い合わせてみてください。
③各都道府県担当部局・国の地方機関等への申請書の提出
申請書の提出は通常、指定された形式に従い、必要なすべての添付資料と共に行われます。このプロセスにおいては、申請書の各セクションが要求する情報を正確に反映しているか、また規定の期限内に提出が完了しているかを確認することが不可欠です。
提出された申請書と添付資料は、担当部局や地方機関によって詳細に審査され、計画の承認に向けての重要な判断基準となります。
④都道府県知事・国の地方機関等の長の承認
経営革新計画は、都道府県などの審査を受けて承認された後、支援策を行う機関による追加の審査が行われ、その結果として支援措置が実施されます。
計画が始動してからは、その進行状況を確認し、効果的なフォローアップを行うために定期的な進捗調査が実施されます。
経営革新計画の作成方法
経営革新計画を作成するうえで特に重要な内容は、以下の通りです。
経営革新計画の主な記入内容
- 経営革新の目標
- 経営革新による経営の向上の程度を示す指標
- 経営革新の計画期間
- 経営革新の内容及び実施時期
- 経営革新を実施するために必要な資金の額及びその調達方法
- 設備投資計画・運転資金計画
- 組合等が経営革新に係る試験研究のための費用に充てるためその構成員に対し負担金を賦課しようとする場合にあっての賦課の基準
参照元:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
詳しく解説します。
経営革新の目標
経営革新計画の作成過程において、経営革新の目標を設定するステップは、その計画全体の方向性と成功の基盤を定める重要な項目です。
別表1から抜粋
出典:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
経営革新の目標では、単に数値的な成果だけでなく、企業の持続可能性や社会的責任、顧客満足度の向上といった質的な側面も包含すべきです。これにより、計画はより全面的でバランスの取れたものになります。
経営革新による経営の向上の程度を示す指標
経営革新による経営の向上の程度を示す指標は、別表1の以下の欄に記載します。
別表1から抜粋
出典:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
経営革新による経営の向上の程度を示す指標は、経営革新による向上の程度を示す指標を書く際には、まず計画の目的に沿ったキーパフォーマンスインジケーター(KPI)を選定することが重要です。
これらの指標は、財務面での改善を示すものから、顧客満足度、市場シェアの増加、運用効率の向上、新製品の市場投入速度など、様々な側面をカバーすることが可能です。
経営革新の計画期間
経営革新の計画期間は、別表1の以下の欄に記載します。
別表1から抜粋
出典:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
計画期間の設定は、短期、中期、長期の目標に対して適切なタイムフレームを割り当てることから始まります。
経営革新の計画期間を書く際には、その期間が計画の規模、予想される障害、目標の性質、および必要な資源の利用可能性に基づいて現実的であることを確認することが不可欠です。
経営革新の内容及び実施時期
経営革新の内容及び実施時期は、別表1の以下の欄と別表2に記載します。
別表1から抜粋
別表2から抜粋
出典:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
経営革新計画を作成する際には、具体的な革新の内容とその実施時期を明確に記述することが重要です。
経営革新を実施するために必要な資金の額及びその調達方法
経営革新を実施するために必要な資金の額及びその調達方法は、別表3の以下の欄に記載します。
別表3
出典:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
経営革新を実施するために必要な資金の額を算出するには、プロジェクトのすべての側面にわたる詳細なコスト分析が必要です。
これには、新技術の導入コスト、人材研修費用、マーケティング活動に必要な資金、新設備の購入や既存設備のアップグレードに関連する費用などが含まれます。これらのコストを正確に見積もることで、計画の全体的な財務要件を確立し、資金調達の必要性を明らかにすることができます。
設備投資計画・運転資金計画
設備投資計画・運転資金計画は、別表4の以下の欄に記載します。
別表4から抜粋
出典:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
経営革新計画の作成において、設備投資計画と運転資金計画を書くことは、企業が新たな成長段階へ進むための資源と財務要件を詳細に展開するための重要な部分です。
設備投資と運転資金の両方を綿密に計画しましょう。
構成員に対する負担金の賦課の基準
「組合等が経営革新に係る試験研究のための費用に充てるためその構成員に対し負担金を賦課しようとする場合にあっての賦課の基準」は、別表5の以下の欄に記載します。
別表5から抜粋
出典:中小企業庁|様式第13 経営革新計画に係る承認申請書
負担金の賦課基準を設定する際には、まず構成員のカテゴリー(例えば、規模、業種、経済的能力等)に基づいて負担能力を考慮します。
まとめ
本記事では、経営革新計画の概要や対象となる事業者、承認申請の流れなどについて詳しく解説しました。
経営革新計画を立てることは、企業が新たなサービスや製品を展開する際、競合他社に勝つために必要な項目です。
資金調達で優遇されたり、販路拡大の支援を受けられたりなど、多くのメリットが期待できるため、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
よくある質問
経営革新計画とは?
経営革新計画とは、企業が新たなビジネスモデルやサービスを導入し、市場での競争力を高めるための戦略的なアプローチです。 経営革新計画は中小企業が成長するために有効で、策定には一定の手間がかかりますが、メリットも大きい制度です。
経営革新計画を承認されるとできることとは?
中小企業が経営革新計画の承認を受けると、以下のメリットを享受できるようになります。
- 資金調達で優遇される
- 補助金の申請時に加点の対象になる
- 販路開拓の支援を受けられる
- 海外展開のための資金調達がしやすくなる
- 特許料の減免措置の適用になる
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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