- 更新日 : 2024年7月12日
IPOにおける目論見書とは?交付義務や種類、記載内容を解説
目論見書とは、投資家に対して発行されるもので、投資判断に用いる重要情報が記載された資料です。金融商品取引法に基づき、IPOや増資などの際には目論見書の交付が原則として義務づけられています。本記事では、目論見書の意味や種類、記載内容、投資家がチェックするポイントを解説します。
目次
目論見書とは
はじめに、目論見書の意味や交付義務、交付目的について解説します。
目論見書の意味
目論見書とは、株式や投資信託などの有価証券に関して、投資判断に要する重要情報を記載した書類です。
目論見書の交付義務
「金融商品取引法」の第15条2項により、有価証券の募集や売出しを実施する際には、原則としてあらかじめまたは同時に目論見書を交付することが義務付けられています。具体例を挙げると、IPO(新規株式の公開)や増資などの場面で交付が必要です。
目論見書の交付目的・用途
目論見書は、IPOや増資などに際して、投資の判断基準を提供することを目的に交付します。投資家は、目論見書に記載された財務状況や事業内容などを確認した上で、投資するかどうか、どのくらい投資するかなどを判断します。
目論見書の種類
目論見書には、交付目論見書と請求目論見書の2種類があります。それぞれの概要や記載内容、交付義務、対象は以下のとおりです。
交付目論見書 | 請求目論見書 | |
---|---|---|
概要 | 簡易版 | 詳細版 |
記載内容 | 有価証券への投資判断に必要な重要情報が簡潔かつコンパクトに記載 | ファンドの情報や目的、投資リスク、運用実績などが詳細に記載 |
交付義務 | 必須 | 投資家からの請求があった場合のみ |
対象となる有価証券の種類 | 投資信託証券、それ以外の有価証券(株式や社債等) | 投資信託証券 |
各目論見書の詳細をくわしく解説します。
交付目論見書
交付目論見書とは、第15条2項の規定によって交付が義務付けられている書類です。投資信託に加えて、株式や社債等の有価証券をIPOなどに伴って売り出す場合に交付が求められます。
交付目論見書の記載内容は、「金融商品取引法」の第5条1項・第15条2項・第13条2項1号、「特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令」の第15条・第15条の2などに細かく規定されています。
法令の記載は難解であるため、IPOの際に交付される一般的な目論見書の記載内容を紹介します。
一般的には、発行者(企業)情報や有価証券の情報、株式公開に関する情報などの重要情報が簡潔かつわかりやすく記載されています。また、ロックアップや海外募集などに関する内容が特記事項として含まれることもあります。
請求目論見書
請求目論見書とは、投資家からの請求があった場合に、直ちに交付する必要がある書類です(金商法第15条3項)。こちらに関しては、投資信託証券のみが対象となるため、株式や社債等の募集・売出しでは不要です。
請求目論見書には、交付目論見書よりもさらに詳細な情報が記載されます。具体的には、ファンドの投資方針や運用状況等に関して、詳細な情報が盛り込まれます。
IPOの際に交付される目論見書の記載内容
IPO(新規株式公開)の際に交付される目論見書(交付目論見書)には、一般的に以下3つの情報が記載されます。
- 発行者(企業)
- 有価証券
- 株式公開
基本的には、有価証券届出書の内容を抜粋したものとなります。以下では、それぞれの具体的な記載項目を紹介します。
発行者(企業)の情報
企業情報として、主に以下の項目が目論見書に記載されます。
- 会社の基本情報(社名、沿革など)
- 資本構成
- 経営に関する情報(方針、戦略、外部環境、課題など)
- 事業に関する情報(ビジネスモデル、リスクなど)
- 主要な経営指標および推移(売上高や経常利益、自己資本比率など)
- 従業員に関する情報(従業員数や平均年齢、給与額など)
- その他(業績予想、設備の状況、KPIに関する内容等)
有価証券に関する情報
有価証券(株式)に関する情報として、主に以下の項目が目論見書に記載されます。
- 募集要項(新規発行株式の種類や数・総額等、募集方法・条件、申込期間など)
- 株式の引受に関する情報(引受人の氏名や住所、引受株式数など)
- 新規発行による手取金の用途
- 売出に関する情報(売出株式の種類や数、売出価額の総額、条件、申込期間、株式の所有者名など)
- その他(ロックアップや海外での売出に関する情報など)
株式公開に関する情報
株式公開に関する情報として、主に以下の項目が目論見書に記載されます。
- 株式等の移動状況
- 第三者割当や新株予約権等の概況(発行年月日や発行数、発行価格など)
- 株主の状況(株主名、住所、所有株式数、持株割合など)
なお、上記の項目とは別に、内容をわかりやすく解説するための図表やイラスト等が用いられるケースもあります。
投資家は目論見書の何をチェックする?
IPOに際して目論見書をめぐるトラブルを避けるには、投資家が目論見書のどこをチェックしているかを理解しておくことが大切です。一般的には、以下3つの要素を重点的にチェックします。
事業内容
一般的に投資家は、投資後に事業が成長し、株式の値上がり益を期待できる銘柄かどうかを重視します。その判断基準となるのが事業内容です。
将来性の高いビジネスモデルであると判断されれば、上場後の初値が高くなりやすいです。
財務情報
事業内容と同程度かそれ以上に重視されるのが財務情報です。財務情報とは、損益計算書や貸借対照表に記載されている経営指標を指します。
投資家が特に重視するのは、直近の売上や利益ではなく「成長性」です。過去3〜5期において、売上や利益(利益率)が順調に伸びているかが重視されます。順調に伸びていれば成長性が高いとされ、IPO銘柄として有望であると判断される可能性が高いです。
また、投資家によっては設備投資の状況や従業員数の推移、資本政策なども重視します。
自社の魅力を最大限アピールする手段として、成長性の高さは棒グラフや折れ線グラフを使ってわかりやすく表現するのも良いでしょう。
資金の用途
IPOによって調達した資金を何に使うかも、投資家が注目する記載項目の1つです。
主な使い道として、「製品開発」や「人材採用」、「新規事業立ち上げ」、「研究開発」などが挙げられます。
こうした使い道について、具体的かつロジックが明確であれば、投資家から成長の可能性や透明性を高く評価してもらえます。反対に不明瞭な内容であると、投資するに値しない銘柄だと判断されたり、不誠実な企業であると判断されたりする恐れがあります。
株式・株主に関する情報
以下に挙げている株式・株主に関する情報も、目論見書における重点確認項目です。
- 発行株式数
- 想定発行価格
- 発行・売出株式数
- 株主の情報(誰が、どのくらいの割合の株式を保有しているか)
- ロックアップの内容や対象者
1に関しては、主に当選確率を予測する目的でチェックされます。2と3に関しては、主にIPO銘柄への投資に必要な金額の計算や、公募割れのリスクを分析する目的でチェックされます。
4と5に関しては、主にIPO後における株価の変動を予測する目的でチェックされます。
まとめ
金融商品取引法の定めにより、IPOの準備において目論見書の作成は原則不可欠です。目論見書は、投資家に投資判断の基準を提供する目的で交付されるものであり、その内容によってIPOの結果が左右されるといっても過言ではありません。記載内容は多岐にわたるため、法律やIPOの専門家からの協力を得た上で作成することがおすすめです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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