• 更新日 : 2024年7月12日

東証グロース市場とは?上場基準やメリット・デメリットをわかりやすく解説

株式上場を考えているものの、2022年4月から東京証券取引所の市場区分が変わったことで、取引所の仕組みがいまいちわからなくなったという人もいるでしょう。

今回の市場区分の再編によって、上場した企業と投資家双方が市場の本来の機能やメリットを享受しやすくなっています。市場区分を理解すると、自社がどの市場で上場すれば良いのか判断ができるようになります。本記事では、これから上場を検討している方に向けて役立つ内容を解説していきます。

グロース市場とは?

グロース市場とは?他の区分との違いや上場基準をわかりやすく紹介
これまでの東京証券取引所(以降、東証)は、東証一部、東証二部、東証マザーズ、JASDAQ(スタンダード、グロース)の5つの市場区分から構成され、JASDAQは老舗企業が中心のJASDAQスタンダードと、新興企業が中心のJASDAQグロースに分類されていました。
2022年4月4日以降は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場区分に見直されました。グロース市場とは、今回新たに見直された市場区分の1つです。
グロース市場は、従来の市場区分の東証マザーズと、JASDAQグロースを集約したものという位置づけになります。つまり、グロース市場は新興企業が多く、投資家にとってはハイリスク・ハイリターンな投資です。
新たにグロース市場に上場する企業に対して、事業計画と進捗の開示など求めることで投資判断に利用できる情報が増加するため、よりリスク許容度の高い個人投資家や機関投資家が新興市場に参画しやすくなります。

グロース市場のコンセプト

グロース市場とは?他の区分との違いや上場基準をわかりやすく紹介
グロース市場のコンセプトについて、東証の公式サイトは、次のように表記しています。

【グロース市場のコンセプト】
高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場
引用:日本取引所グループ 新市場区分のコンセプト・上場基準 グロース

グロース市場のコンセプトは、将来成長が見込まれる企業向けの市場です。成長が見込まれる企業には、スタートアップといった新興企業があります。スタートアップ企業に、資金調達の機会を提供することで、成長を促す目的があります。

グロース市場の上場企業数

日本取引所グループが発表しているプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の企業数を紹介します。

プライム市場スタンダード市場グロース市場
上場企業数1,651社1,607社581社

※2024年4月22日時点
参照:日本取引所グループ|上場会社数・上場株式数

グロース市場は、他の市場区分と比較して企業数が少ないです。

グロース市場は、新興企業や成長が見込まれる企業が多く上場しており、ハイリスク・ハイリターンな投資が特徴です。上場基準も他の市場に比べて緩和されており、特に成長可能性を重視しています。そのため、経営成績や財政状態がまだ確立していない新興企業が上場しやすい環境が整っています。

また、グロース市場は事業計画の適時・適切な開示が求められ、一定の市場評価を得ることができますが、事業実績の観点から見るとリスクが高い企業向けの市場とされています。つまり、投資家からするとリスク許容度のより高い投資を行うことになるのです。

このような市場の特性から、企業数が他の市場に比べて少なくなっていると言えます。

グロース市場の上場基準

グロース市場とは?他の区分との違いや上場基準をわかりやすく紹介
グロース市場に上場するためには満たすべき基準があり、維持するための基準もあります。上場するための基準を上場審査基準、維持するための基準が上場維持基準です。
本章では、上場審査基準と上場維持基準について解説します。

グロース市場への上場を検討する企業にとって、「高い成長可能性」があるか否かは重要なポイントです。この判断は、主幹事証券会社によって行われます。主幹事証券会社は、企業が高い成長可能性を有していると判断した場合、その根拠を「上場適格性調査に関する報告書」に記載し、東京証券取引所(東証)に提出します。

本章では、上場審査基準と上場維持基準について解説します。

上場審査基準

グロース市場に上場するためには、上場審査基準を満たす必要があります。
上場審査基準には以下の2種類があります。

  • 形式要件
  • 実質審査基準

形式要件とは、企業が上場をするときに必要な条件のことです。条件には、株主の数や売られている株の量、会社の総価値や利益などが含まれます。形式要件は、受付基準と不受理事項の2つに分かれています。
実質審査基準は形式要件を満たした会社が、上場の審査に進む際の評価に使われる基準です。どの市場でも同じで、公平に評価される点が特徴です。
それぞれ詳しく解説します。

形式要件

形式要件は、会社が上場を申請する際に必要な内容が数値などによって明確になっている条件です。形式要件には、株主数や流通株式数など、満たすべき条件があります。
満たすべき条件は、市場によって異なります。
グロース市場は、東証の市場再編前のJASDAQグロース、または東証マザーズなどの新興企業からの移行を想定しているため、株主数や流通株式数などの要件が、プライム市場やスタンダード市場と比べて最も緩和されています

プライム市場は売上高や資産額が審査対象になりますが、グロース市場はこれらが設定されていません。

項目

グロース市場プライム市場スタンダード市場
流動性株主数150人以上800人以上400人以上
流通株式数1千単位以上2万単位以上2千単位以上
流通株式時価総額5億円以上100億円以上10億円以上
売買代金時価総額250億円以上
ガバナンス流通株式比率25%以上35%以上25%以上
経営成績
財政状態
収益基盤・最近2年間の利益合計が25億円以上
または、
・売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
最近1年間の利益が1億円以上
財政状態

純資産50億円以上純資産額が正(プラス)であること

出典:日本取引所グループ 上場審査基準

実質審査基準

グロース市場の上場審査では、株主数などの形式要件とは別に「実質審査基準」が設けられています。リスク情報などの開示が求められている点が、グロース市場の審査内容の特徴です。
実質審査基準と各項目のポイントをまとめてみました。

項目

内容
企業内容、リスク情報等の開示の適切性・経営に重大な影響を与える事実などの会社情報を管理し、適時・適切に開示できる状況にあること。また、未然防止体制が適切に整備・運用されていること
・企業内容の開示に係る書類が、法令に準じて作成されていること。かつ、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項や、リスク要因として考慮されるべき事項、事業計画、成長可能性に関する事項について、投資者の投資判断上有用な事項、主な事業活動の前提となる事項などは、わかりやすく記載されていること
関連当事者やその他、特定の者と取引や株式所有割合の調整などで企業グループの実態の開示を歪めていないこと
・親会社がある場合、申請会社の経営に重要な影響を与える親会社に関する事実や、情報を申請会社が適切に把握できて、投資者に適時・適切に開示できる状況にあること
企業経営の健全性・特定の者との間での取引行為などにおいて、不当な利益の供与や享受をしていないこと
・親族関係や、他の会社などの役員などとの兼職の状況が、役員としての公正・忠実な業務の執行や、有効な監査の実施を損なうような状況でないこと
・親会社からの独立性を有する状態であること
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性・役員の適切な職務の執行を確保する体制が、適切に整備・運用されていること
・内部管理体制が適切に整備・運用されている状況であること
・経営活動の安定、適切な内部管理体制維持のために必要な人員が確保されていること
・実態に即した会計処理基準が採用されており、会計組織が適切に整備・運用されていること
・法令順守の体制が適切に整備・運営されていること
事業計画の合理性・事業計画がビジネスモデル、事業規模、リスク要因などを踏まえ適切に策定されていること
・事業計画を遂行するための事業基盤が整備されていること、または、整備される合理的な見込みがあること
その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項

・株主の権利内容やその行使の状況が公益または、投資者保護の観点で適当と認められること
・経営活動や業績に重大な影響を与える紛争などを抱えていないこと
・反社会的勢力による経済活動への関与を防止するための社内体制を整備していること

出典:日本取引所グループ 2022 新規上場ガイドブック(グロース市場編) 3.上場審査の内容

上場維持基準

新市場には、「上場維持基準」が設けられており、上場維持基準を下回って、改善しない場合は、上場廃止となります。

項目

上場基準上場維持基準
流動性株主数150人以上150人以上
流通株式数1千単位以上1千単位以上
流通株式時価総額5億円以上5億円以上
売買高月平均10単位以上
ガバナンス流通株式比率25%以上25%以上
事業計画時価総額

出典:日本取引所グループ 上場維持基準の概要

市場区分再編前は、新規上場よりも上場廃止基準が大幅に低かったという問題がありましたが、再編後は、上場当初の基準を最低限維持することが求められている点がポイントです。
また、JASDAQでは流通株式比率が求められていなかったので、上場にむけて努力を求められる企業が増えることが予想されます。JASDAQと比べると、流動性の面で上場廃止基準はやや厳格化されている点もポイントです。

上場維持に関するコストなど、より詳しく知りたい方はこちらの記事も併せてご参照ください。

グロース市場のメリット

グロース市場とは?他の区分との違いや上場基準をわかりやすく紹介
グロース市場に上場すると、以下のようなメリットがあると考えられます。

  • 新興企業として認識される
  • コーポレード・ガバナンスや内部管理体制が整っている企業として認識される

市場区分の再編後は、各市場区分のコンセプトが明確になっているので、グロース市場に上場しているというだけで新興企業と認識され、リスク許容度の高い投資家から資金が集まりやすいです。

また、上場維持基準も新規上場時と同等の水準なので、新興企業であってもグロース市場にいるだけで一定の企業価値を維持している企業であると投資家から評価されるようになります。

グロース市場のデメリット

グロース市場とは?他の区分との違いや上場基準をわかりやすく紹介
一方、グロース市場に上場するデメリットもあります。

  • リスクを避ける投資家から嫌気される
  • 上場基準維持に奔走する可能性がある

メリットの裏返しになりますが、グロース市場は新興企業中心の市場なので、リスクを嫌気する投資家から避けられてしまう可能性があります。
また、新規上場時と同等の維持基準が求められるため、会社が急成長して忙しい最中、上場基準維持をするための業務に奔走しなければならない事態も考えられます。

グロース市場に新規上場する方法

グロース市場とは?他の区分との違いや上場基準をわかりやすく紹介
上場申請エントリー後、グロース市場の上場に必要な手続きや書類の上、審査を受けて問題なければ上場承認という流れになります。

上場申請の流れ

グロース市場の上場申請から上場承認までの主な流れは次のようになります。申請から上場までかかる期間はおおよそ申請から2ヶ月です。

  1. 上場申請エントリー
  2. 事前確認・スケジュール調整…担当者、日本証券取引所自主規制法人の審査担当者、主幹事証券会社の間で行われる
  3. 上場申請、申請書類受理、ヒアリング…申請書類を提出し、上場申請の手続きをした後、審査担当者から上場申請理由や、会社の沿革、事業内容などのヒアリングを受けます
  4. 質問事項送付~回答、ヒアリング(やり取りは3回程度)…不明な点があれば、審査担当者から、質問事項を提示。質問に対する回答書をもとに再度ヒアリングを受けます
  5. 各種面談…審査担当者が審査項目に適合しているか確認をしていきます
  6. 社長説明会…代表が事業内容や事業計画などを東証に対して実施します
  7. 上場承認

上場準備のスケジュールについては以下の記事で詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。

上場申請の必要書類

上場申請には、以下の書類が必要となります。

  • 有価証券新規上場申請書
  • 新規上場申請有価証券訂正通知書
  • 反社会勢力との関係がないことを示す確認書
  • 反社会勢力との関係がないことを示す確認書(別添 個人法人リスト)s
  • 新規上場申請に係る宣誓書
  • 主要な事業活動の前提となる事項について
  • 株券等の分布状況表
  • 独立役員届出書(ドラフト)
  • コーポレート・ガバナンスに関する報告書
  • 提出書類一覧
  • eラーニング受講対象者一覧

上場にかかる費用

グロース市場の場合は、上場審査料が200万円、新規上場料100万円です。その他、年間上場料として、上場時価総額に応じて以下の年間上場料がかかります。

上場時価総額グロース市場
50億円以下48万円
50億円超250億円以下120万円
250億円超500億円以下192万円
500億円超2,500億円以下264万円
2,500億円超5,000億円以下336万円
5,000億円超408万円

まとめ

グロース市場とは、2022年4月に行われた東証の市場再編にともない、新たに生まれた市場区分の1つです。グロース市場は、新興企業市場中心の株式市場で、従来の市場区分の東証マザーズやJASDAQグロースにあたります。また、グロース市場は、新興企業のような将来性のある企業の成長を促していくという側面があるため、スタンダード市場やプライム市場に比べると上場基準が緩和されています。
今回の市場再編によって、分類される市場区分は今回解説したグロース市場とプライム市場、スタンダード市場を加えた3種類となりました。これから自社の上場を考えている人は、申請前にそれぞれの市場区分の特徴を理解することが大切です。

よくある質問

グロース市場とは?

2022年4月4日以降に新たに見直された市場区分の1つで、従来の市場区分である東証マザーズとJASDAQグロースを集約したような位置づけです。

グロース市場の上場基準は?

株主数150人以上、流通株式数1千単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上であることが条件です。上場を維持するには、さらに売買高を月平均10単位以上という基準を満たし続ける必要があります。

グロース市場の上場費用は?

上場審査料が200万円、新規上場料が100万円、その他に年間上場料として上場時価総額に応じた年間上場料がかかります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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