- 作成日 : 2025年1月14日
M&Aの意向表明書(LOI)とは?基本合意書との違いや書き方、作成時の注意点を解説
M&Aを進める際に登場する「意向表明書」は、取引の方向性を示す重要なものです。M&Aの初期段階で必要となる書類であり、目的やスキームなどの記載をしなければなりません。
本記事では、M&Aの意向表明の概要や記載内容、作成ポイントなどを解説します。
目次
M&Aの意向表明書(LOI)とは
M&Aの意向表明書(LOI)は、買収または売却のプロセスを正式に進める前に、取引の基本条件や双方の意向を文書化したものです。
具体的には、買い手が対象となる企業や事業に対してどのような条件で取引を進めたいと考えているのかを明確に示し、売り手との合意形成をスムーズに進めるための基盤となります。
ここからは、以下3つについて深掘りしていきます。
- 意向表明書の基本的な定義
- 意向表明書の目的とメリット
- 基本合意書(MOU)との違い
意向表明書の基本的な定義
M&Aの意向表明書(LOI)は、買い手企業が売り手企業に対して提出する文書であり、取引における基本的な条件や双方の意図を正式に表明する役割を担っています。
買い手企業が意向表明書を通じて示すのは、取引の具体的な条件や対象とする資産、事業の範囲、さらには評価額や支払い方法などの基本的な要素です。
意向表明書には、取引を進めるためのプロセスやスケジュールに関する提案も含まれることが多く、双方が今後の交渉を円滑に進めるための指針となります。
また、売り手側にとっては、買い手が具体的な条件を提示することで、その誠意や交渉への積極性を確認することが可能です。
意向表明書の目的とメリット
買い手企業にとっての意向表明書作成の目的は、取引に対する具体的な意思を明確に示し、売り手企業との間で基本条件を共有することにあります。
これにより、交渉が始まる前の段階で期待値をすり合わせ、無駄な時間やリソースの浪費を防ぐことが可能です。
一方、売り手企業にとっての意向表明書の目的は、買い手の意図や条件を確認し、自社の期待に合致するかどうかを判断材料とすることです。
意向表明書が提出されることで、売り手は買い手の具体的な提案内容を比較検討し、より良い条件を提示する相手を選定できます。
基本合意書(MOU)との違い
意向表明書と基本合意書の違いは、主に以下の通りです。
比較項目 | 意向表明書(LOI) | 基本合意書(MOU) |
性質 | 買い手が売り手に対して取引への関心を表明する文書 | 取引の枠組みや主要な条件について、買い手と売り手の双方がある程度の合意に至った後に作成される文書 |
提出時期 | 取引の初期段階 | 双方が取引条件について一定の合意に至った段階 |
拘束力 | 法的拘束力を持たない | 法的拘束力を持たせることがある |
記載内容 | 取引に対する買い手の興味や意図を売り手に伝えるためのもの | 取引の対象範囲、正確な価格または評価方法、支払い条件、取引の実行スケジュールが詳細に記載 |
法的拘束力の有無
意向表明書と基本合意書の大きな違いの1つとして、法的拘束力の有無が挙げられます。意向表明書は、取引の初期段階で作成されるものであり、取引条件や双方の意図を確認する目的を持っています。
この文書は、交渉を進めるための指針を示す役割を果たしますが、多くの場合、法的拘束力を持たないのが特徴です。
具体的には、取引条件や価格などの提示内容が双方の合意に基づくものではなく、あくまで交渉を進める上での前提として位置付けられるため、途中で条件が変更される可能性があります。
一方で、基本合意書は意向表明書に比べ、交渉が進展した段階で締結される文書であり、双方が取引条件の主要部分においてある程度の合意に至ったことを示します。
この文書は、意向表明書に比べて具体性が高く、一部の内容に法的拘束力を持つことがあります。特に、取引の大枠や手続き、双方の責任範囲などが明記されることが多く、これに基づいて最終契約書の作成が進められるため、取引における重要なステップとなります。
取り交わす時期と段階
意向表明書と基本合意書は、M&Aのプロセスにおいて取り交わされる時期と段階に明確な違いがあります。
意向表明書は取引の初期段階で作成される文書であり、主に買い手が売り手に対して取引を進める意思を伝えるために提出されます。
この時点では、詳細な条件や具体的な合意には至っておらず、取引を進める上での方向性や基本的な条件を整理し、売り手との交渉を開始するための基盤を整える役割です。
一方、基本合意書は、意向表明書の段階を経た後、双方が取引条件について一定の合意に至った段階で締結される文書です。
この文書は、デューデリジェンスが進行中または完了し、具体的な条件や大枠が明確になった時点で作成されることが多く、取引の中盤から終盤にかけて取り交わされます。
締結後の流れ
意向表明書が締結された後の流れは、主にデューデリジェンスの実施と交渉の深化が中心となります。
意向表明書は買い手が売り手に対して取引に興味があることを示し、基本的な取引条件を共有するための文書であるため、この段階ではまだ取引の成立が確定していません。そのため、締結後には、売り手企業の財務状況や事業内容、法務リスクなどを詳しく調査するデューデリジェンスが行われます。
一方で、基本合意書が締結された後の流れは、最終契約書の作成に向けた準備が中心です。基本合意書は、取引条件や手続きに関して双方が一定の合意に至ったことを示す文書であり、この段階では取引の具体的な枠組みがほぼ固まっています。
基本合意書の締結後には、デューデリジェンスの最終確認が行われ、発見されたリスクや問題点を考慮して最終的な契約条件が調整されます。
M&A意向表明書(LOI)の記載内容
M&A意向表明書(LOI)には、取引の基本方針や条件を明確にし、売り手と買い手双方の認識を一致させるための内容が記載されます。
ここからは、具体的な記載内容について詳しく解説します。
必須項目
意向表明書に記載すべき必須項目は、主に以下の通りです。
- 企業概要(買収側・売却側)
- M&Aの目的と戦略的意義
- 具体的なM&Aスキーム
- 買収価格(譲渡価格)の算定根拠
- 買収資金の調達方法と資金計画
- M&A後の経営方針と事業計画
- 従業員・経営陣の処遇
- M&Aスケジュールと要望
- デューデリジェンスの実施範囲と方法
- 独占交渉権の付与
- 有効期限の設定
企業概要(買収側・売却側)
買収側・売却側の双方にとって交渉をスムーズに進めるためにも、企業概要を記載する必要があります。
主な記載内容は、以下の通りです。
記載項目 | 具体的な内容 |
基本情報 | 商号、代表者、所在地など |
事業内容 | 主要事業、実績など |
財務情報 | 資本金、業績など |
グループ構成 | 関連会社情報など |
M&Aの目的と戦略的意義
M&Aの目的を記載する際には、買収側が取引を検討する背景を具体的に説明することが重要です。
例えば、新たな市場への参入、既存事業の強化、事業ポートフォリオの多角化、あるいは特定の資産や技術、人的リソースの取得などが考えられます。
このように具体的な目的を明示することで、売却側に対し取引の意図を正確に伝え、信頼を築くことが可能です。
さらに、戦略的意義についても触れる必要があります。ここでは、M&Aを通じてどのような価値を創出し、双方にとってどのようなメリットが見込まれるのかを説明します。例えば、買収側がターゲット企業の持つ独自の技術を活用して自社製品の競争力を高める、あるいは新規市場でのシェア拡大を図るといった具体的な展望を示すといった感じです。
これにより、売却側は取引後に自社がどのような役割を果たすのかを理解しやすくなり、交渉が進めやすくなるでしょう。
具体的なM&Aスキーム
M&Aスキームとは、買収がどのように行われるか、具体的な手続きや方法を示すものです。
具体的なM&Aスキームには、主に買収方法(株式譲渡、事業譲渡、合併など)を明記する必要があります。例えば、買収側が売却企業の株式を取得する場合、株式譲渡に関する詳細な手続きや譲渡条件を記載します。
これには、買収価格の支払い方法や時期、譲渡対象となる株式数などの具体的な条件も含むことが必要です。
また、事業譲渡の場合には、譲渡する事業の範囲、契約の引き継ぎ方法、さらには譲渡後の運営体制に関する方針なども記載すべき重要なポイントです。
買収価格(譲渡価格)の算定根拠
買収価格の設定は、取引の成立に大きく影響を与える要素であり、双方が納得できる価格で取引を進めるための基本です。
そのため、価格算定の根拠を明示することによって、交渉過程における摩擦を減少させ、後の価格交渉やデューデリジェンスにおける予期せぬ問題を防げます。
金額を記載する際には、「○○円~○○円」といったように価格帯で提示する必要があります。
買収資金の調達方法と資金計画
買収資金がどのように調達されるのか、そしてその資金がどのタイミングで、どのように使用されるのかを示すことにより、売り手側は取引の実行能力に信頼を持つことができます。
また、買い手側にとっても資金調達の計画が現実的であることを証明し、取引に向けた確実な準備ができていることを伝える役割を果たします。
自己資金、借入金(融資)、株式発行、あるいは他の企業との共同出資など資金調達の手段を具体的かつ明確に記載しましょう。
なお、自己資金を使用する場合、その額や準備状況、ならびに資金の出所について明記することが必要です。
M&A後の経営方針と事業計画
M&A後の経営方針と事業計画を記載することは、買い手企業がどのように事業を継続し、成長させていくかを明確にするために必要です。
経営方針に関しては、買い手企業がM&A後にどのような方向性で企業を運営していくのかを示すことが求められます。これには、組織再編、経営陣の変更、企業文化の統合方法などが含まれます。
事業計画に関しては、M&A後に実施予定の具体的な戦略や施策を示すことが重要です。これには、新たな投資計画、事業拡大のための戦略、あるいは既存事業の強化に向けた取り組みなどが含まれます。
従業員・経営陣の処遇
売り手企業が1番不安に思うのが、残された従業員・経営陣の処遇です。
買い手企業は、従業員や経営陣がどのように扱われるかを明確にすることで、取引の円滑な進行と企業文化の統合を支援し、同時に売り手企業側の関係者に安心感を与えられます。
M&Aスケジュールと要望
M&Aスケジュールの記載方法は、取引の各ステップがどのように進行するか、具体的なタイムラインを示すことで、双方の期待を調整し、取引を円滑に進めるために欠かせません。
一般的には、まず初期的なステップとして、デューデリジェンスの開始日や完了予定日を明記し、その後の主要なマイルストーンを記載します。例えば、契約書の締結日や、法的手続き、必要な承認の取得にかかる期間など、具体的な期日を示すことが重要です。
デューデリジェンスの実施範囲と方法
デューデリジェンスは、買収対象企業の実態を詳細に確認するための調査であり、その範囲と方法を明確に定めることが、取引がスムーズに進行するための基盤となります。
実施を予定する調査範囲について記載する際には、まず調査の対象となる領域を具体的に列挙することが必要です。
調査範囲には、財務面、法務面、税務面、運営状況、人事関連、契約状況、知的財産、環境問題など、多岐にわたる分野が含まれます。
それぞれの領域について、どのような情報を取得するのか、どの部門や資料を対象にするのかを明確に記載しましょう。
例えば、財務面では、過去の財務諸表や監査報告書の確認、税務面では、未払い税金や税務調査の有無の調査など、具体的な調査項目を挙げるといった感じです。
独占交渉権の付与
独占交渉権は、買い手が一定期間、売り手と独占的に交渉を行う権利です。独占交渉権の要請内容について記載する際には、買い手が独占的に交渉する権利を有することを明示します。
この権利が与えられる理由として、買い手が売り手に対して一定の信頼関係や前提条件を提示しており、取引が成立する可能性が高い場合であることが示されます。
具体的には、買い手が自社の評価や買収条件を売り手に示し、これに対して売り手が合意することで、独占交渉が行われます。
有効期限の設定
有効期限の設定は、双方の合意を明確にするために欠かせません。
有効期限を設定する際には、交渉がスムーズに進むことを前提に合理的な期間を選定することが重要です。一般的に、LOIの有効期限は数週間から数ヶ月程度に設定されますが、具体的な期間は取引の複雑さや双方の意向に応じて調整されます。
任意記載項目
必須項目だけでなく、取引の具体的な状況に応じて任意記載項目を追加することも大切です。
例えば、特定の業界規制に関する事項や、特定の許認可が必要な場合、それが取得されることが取引の成否に影響を与えることを明示しておくと、後々のトラブルを避けることができます。
こうした条項には、取引の進行に不可欠な許可や承認の取得義務について明確に記載しておくべきです。
M&A意向表明書(LOI)作成のタイミングと提出フロー
M&A意向表明書(LOI)の作成と提出は、M&A取引において重要なステップであり、取引の進行具合や交渉の段階によってそのタイミングとフローは異なります。
ここからは、M&A意向表明書(LOI)作成のタイミングと提出フローについて詳しく解説します。
交渉開始から意向表明書提出までの流れ
交渉開始から意向表明書提出までの流れは、以下の通りです。
段階 | 実施内容 | 重要ポイント |
初期検討 | M&Aが自社にとって最適稼働かを社内で検討 | M&Aの目的や自社の希望条件を洗い出す |
秘密保持契約 | 秘密保持契約の締結 | 厳密に情報管理を行ない、契約書に反映させる |
トップ面談 | 両者が取引に対する理解を深め、互いのニーズや期待に関する直接的な確認を行う | 双方の経営陣がどれだけ率直に意見を交換できるか |
意向表明書作成 | 双方が今後進めるべき具体的な手続きを示す書類を作成 | 取引価格の大まかな範囲や支払い方法、対象企業の事業内容や範囲、デューデリジェンスの実施計画など具体的に記載 |
提出・交渉 | 意向表明書の提出と交渉 | 意向表明書に記載された条件に基づいて具体的に交渉する |
基本合意書締結 | 基本合意書の締結 | 双方の責任と義務が明確に記載 |
適正なタイミングを見極めるポイント
M&A意向表明書を提出するタイミングは、両者が初期的な交渉を経て、取引の可能性を確認した後です。
具体的には、取引の基本的な枠組みや目的が共有され、双方が取引に対して前向きであることが確認できた段階が理想的です。
この段階で提出すれば、取引に対する意図を正式に表明し、今後の交渉の方向性を定めることができます。
複数の買い手候補がいる場合、競争環境が激しいのであれば、売却者としては早期に意向表明を得るために、比較的早い段階でM&A意向表明書を提出すると良いでしょう。
M&A意向表明書(LOI)作成における注意点
M&A意向表明書を作成する際、買い手企業側と売り手側企業で異なります。
ここからは、買い手企業側と売り手側企業それぞれの注意点を解説します。
買い手企業側の注意点
買い手企業側の注意点は、主に以下の通りです。
- M&Aの目的とシナジー効果の明確化
- 現実的な価格設定と根拠提示
- 熱意と誠意のあるコミュニケーション
- 競合他社との差別化戦略
- 売却側のニーズと懸念への配慮
- 専門家(M&Aアドバイザー)の活用
M&Aの目的とシナジー効果の明確化
買収後の統合や事業展開の方向性を明確にし、投資の正当性を確保するために、M&Aの目的とシナジー効果を明確にすることが大切です。
記載方法としては、買い手企業がM&Aを通じて達成したい具体的な目標を明確に記述します。例えば、競争力の強化、新規市場への進出、製品ラインの拡充、もしくはコスト削減のためのスケールメリットの実現など、買収後に得られる価値を具体的に示すといった感じです。
これらの目的は、買収対象企業がどのように自社の戦略にフィットし、どのように相乗効果を発揮するかに直結します。
そのため、単に「事業規模の拡大」や「競争力の強化」など抽象的な記載に留まらず、具体的な数値目標やターゲットを挙げることが効果的です。
現実的な価格設定と根拠提示
適切な価格レンジの設定方法としては、対象企業のバリュエーションを複数の手法で確認し、現実的かつ合理的な範囲を見極めることが大切です。
例えば、DCF法では将来のキャッシュフローを割引くことで企業価値を評価し、市場比較法では同業他社の評価指標を基にした相対的な評価を行います。
これらの方法を用いることで、ターゲット企業の正当な評価額を導き出し、そのレンジを設定することが可能です。
熱意と誠意のあるコミュニケーション
特に、買収への意欲を相手に効果的に伝えることは、交渉の過程を円滑に進めるためには必要です。
単に価格や条件だけを強調するのではなく、なぜその企業を買収したいのかという理由を明確に伝えることが重要です。
これには、ターゲット企業の文化や価値観に対する共感や、相手企業が持つ独自の強みをどのように活かすつもりかを具体的に述べることが求められます。
例えば相手企業の技術力や市場でのポジションを評価し、それを買い手企業の成長戦略にどう組み合わせるかを説明することで、単なる資金的な提案に留まらない、深い関心を示すことが可能です。
競合他社との差別化戦略
複数の買収候補が存在する場合、売り手企業はどの買い手と取引するかを慎重に選定します。
そのため、買い手企業としての強みを際立たせ、他の候補との差別化ポイントを明確に示すことが、取引成功の鍵を握ります。例えば、買い手企業が持つ資本力や業界内での強いネットワークは、ターゲット企業にとって魅力的な要素です。
さらに、ターゲット企業に対してどのように追加的な価値を提供できるかを示すことも差別化の要素になるでしょう。
買い手企業が提供するシナジー効果や統合後の成長戦略が、他の候補にはない独自性を持っていることをアピールすることが重要です。
売却側のニーズと懸念への配慮
売り手企業がM&Aを決断する背景には、経営の効率化や事業の成長、あるいは経済的な事情などさまざまな要因があります。したがって、買い手企業は、売り手企業の期待や不安を正確に理解し、その要望に適切に対応する姿勢を見せることが大切です。
特に売り手企業は、事業の継続性や従業員の雇用、ブランドの維持といった点に関心が寄せられがちで、M&Aがどれほど自分たちにとって有益であるかを判断する重要な材料となります。
買い手企業は、売り手企業が持つブランドや事業の継続性を尊重し、M&A後の統合計画において、これらをどのように保護するかを具体的に説明する必要があるでしょう。
専門家(M&Aアドバイザー)の活用
M&Aアドバイザーは、交渉、評価、デューデリジェンス、法的なアドバイスなど、多岐にわたる領域でサポートを提供します。
業界内でのネットワークを駆使して、売却意思のある企業や、買い手企業が求めるシナジー効果を実現できる企業をリストアップし、ターゲットを見つけやすくしてくれます。
ターゲット企業の財務状況や市場環境を徹底的に分析し、適正な価格を評価してくれるため、効率よく進められるでしょう。
売り手企業側の注意点
一方、売り手企業が意向表明書を受領・検討する際の注意点は、主に以下の通りです。
- 提示価格の妥当性検証
- 譲渡条件の明確化と優先順位付け
- 従業員の処遇と企業文化の維持
- M&A後の事業継続性
- 機密保持契約(NDA)の締結
提示価格の妥当性検証
提示された価格が自社の真の価値を反映しているかどうかを評価することによって、売り手企業は無理のない取引を進めることができます。
提示された価格の評価方法として一般的なのは企業価値を算出するための複数のアプローチを併用することです。
代表的な評価手法には、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法、類似企業比較法、市場アプローチ法などがあります。
これらを組み合わせて、提示された価格が実際に妥当であるかどうかを多角的に検討することが求められます。
譲渡条件の明確化と優先順位付け
譲渡条件は、売り手企業の期待や要求を反映するものであり、これらを適切に整理し、交渉の際に確実に伝えることが、望ましい取引結果を生むための鍵です。
渡条件には、金銭的な要素だけでなく、契約条件や将来の事業展開に関する重要な決定事項が含まれ、これらをどう整理し、優先順位をつけるかは、売り手企業の最終的な利益に大きな影響を与えます。
自社の状況や目標を再評価し、それに沿った条件を設定することが重要です。
従業員の処遇と企業文化の維持
従業員は企業の重要な資産であり、M&Aによって彼らの雇用条件や職場環境が変わることが予想されます。
そのため、従業員の保護を確実に行うとともに、企業文化の維持にも留意する必要があるでしょう。
まず、M&Aを進める際に最も重要なのは、従業員の雇用条件の保証です。買い手企業がM&A後に従業員をどのように処遇するのかについて、事前に明確に確認しておくことが大切です。
特に従業員が解雇されることなく引き続き雇用されるのか、もしくは異なる条件で再雇用されるのかについて、売り手企業としてはしっかりと確認し、保証を求めるべきでしょう。
企業文化は、企業の独自性や組織の成長を支える重要な要素であり、買収後の統合プロセスで失われることのないように配慮することが必要です。
売り手企業の文化が買い手企業の文化とどのように調和するか、また、どのように従業員に対して企業文化を守り続ける姿勢を示すかは、M&Aの成功に大きな影響を与えます。
M&A後の事業継続性
売り手企業としては、買い手企業が取引後に事業の運営を安定的に継続するために必要な条件を満たすことを確認する必要があります。
この段階で適切に配慮しないと、従業員の不安や取引後の業績不振など、さまざまなリスクを招く可能性があるからです。
特に売り手企業としては、買い手が十分な資本を持っていることを確認し、必要な財務支援が行われることを確保する必要があります。
機密保持契約(NDA)の締結
売り手企業は、M&Aの相手方に対して提供する情報の範囲を明確に定めることが重要です。
相手方に過剰な情報を与えることは、競争上の不利を招く可能性があるため、必要最低限の情報提供にとどめるべきです。
NDAには、どの情報が機密であるかを具体的に明記し、開示する情報の範囲を限定する条項を盛り込むことが求められます。
まとめ
M&Aにおける「意向表明書(LOI)」は、取引初期段階で双方の基本条件を共有し、交渉を円滑に進めるための重要な文書です。意向表明書の役割や作成時のポイントを押さえることで、M&Aプロセスを効率的に進めるための実践的な知識を得られるでしょう。
M&Aにおける意向表明書の内容を理解し、どのターゲット企業と交渉を進めるか決める際は、M&Aアドバイザーなどの専門家に相談するのもおすすめです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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