- 更新日 : 2024年7月22日
統合報告書とは?有価証券報告書との違いや作成目的・発行企業の事例も紹介
統合報告書とは、企業が財務情報と非財務情報を一体化して報告するための文書です。
近年、企業の持続可能な成長を実現するためには、単なる財務指標だけでなく、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みも重要視されています。
そこで本記事では、統合報告書の概要や作成する目的、記載する内容などを詳しく解説します。
目次
統合報告書とは
統合報告書とは、企業が財務情報と非財務情報を統合して報告する文書のことです。
従来の財務報告書に加えて、環境、社会、ガバナンス(ESG)に関する情報を含むことで、企業の全体像を包括的に示すことを目的としています。
統合報告書は、ステークホルダーに対して企業の長期的な価値創造の仕組みを理解してもらうための重要なツールです。
有価証券報告書との違い
有価証券報告書とは、企業が一定期間ごとに作成し、金融庁に提出する詳細な報告書のことです。
有価証券報告書と統合報告書の大きな違いは、報告対象の範囲です。
統合報告書は、企業の持続可能な価値創造を中心に据え、財務情報とともにESG情報を包括的に取り扱います。これにより、企業の社会的責任や環境への影響、ガバナンスの状況など、非財務的な要素にも重きを置きます。
逆に、有価証券報告書は財務情報を中心に構成されており、企業の経済的パフォーマンスやリスク要因、経営戦略に関する詳細な分析が求められるのです。
これは法的な要件に基づいて厳密に管理されており、企業の財務的な透明性を確保することが重視されます。
アニュアルレポートとの違い
アニュアルレポートとは、企業が毎年作成し、公表する年次報告書のことです。
アニュアルレポートと統合報告書の違いは、報告の目的となります。
財務情報と非財務情報を統合して提供企業の価値創造プロセスを中心に据え、持続可能な成長を目指すための情報を包括的に提供することを目的としているのが統合報告書です。
対して、マニュアルレポートは主に投資家に対して企業の過去一年間の活動や業績を報告し、将来の展望を提供することを目的としています。
統合報告書の作成目的・必要性
統合報告書の作成目的や必要性は、主に以下の通りです。
- 人的資本情報開示の義務化への対応
- ステークホルダーへの知的資産の周知
- ESG投資の獲得によるダイベストメントの回避
人的資本情報開示の義務化への対応
人的資本情報開示の義務化への対応は、統合報告書の作成において重要です。人的資本とは、従業員のスキル、知識、経験、創造力、そしてモチベーションなど、企業にとって価値のある人的要素を指します。
非財務情報可視化研究会によると、上場企業は、2023年3月期決算から人的資本情報の開示を義務付けられています。
開示する場合、既に義務化されている有価証券報告書での対応が考えられ、対して統合報告書は有価証券報告書を含む多くの情報を統合しているため、人的資本情報の開示・発信も統合報告書を通じて行うことが効果的です。
ステークホルダーへの知的資産の周知
統合報告書の作成目的として、ステークホルダーへの知的資産の周知があります。
まず、企業の競争優位性を明確にする必要があります。知的資産は、企業が市場で差別化を図り、競争力を維持するための基盤です。
統合報告書では、企業が保有する知的資産の概要やその活用方法を示すことで、投資家やその他のステークホルダーに対して企業の強みを明確に伝えられます。
次に、知的資産の管理と活用に関する戦略を説明することも目的の1つです。統合報告書では、企業がどのように知的資産を管理し、価値を最大化しているかについて詳細に記述します。
これにより、ステークホルダーは企業の戦略的ビジョンとそれを支える具体的な施策を理解しやすくなります。
ESG投資の獲得によるダイベストメントの回避
ESG投資の獲得によるダイベストメントの回避も、統合報告書の作成目的です。
統合報告書を通じてESG情報を詳細に開示することにより、企業はESG投資家の関心を引きつけることができます。
近年、ESG要素を考慮した投資が増加しており、投資家は財務情報だけでなく、企業の環境保護活動や社会貢献、ガバナンスの健全性にも注目しています。
統合報告書では、これらの情報を統合的に提供することで、企業が持続可能な経営を行っていることを示し、ESG投資家の支持を得ることが可能です。
統合報告書の作成は義務ではない
2024年6月現在、日本では.統合報告書の作成は義務化されていません。
統合報告書の作成は義務ではありませんが、宝印刷D&IR研究所が行った「統合報告書発行状況調査2023」によると、統合報告書の発行企業数は増加傾向で、上場企業の3割弱が統合報告書を発行している状況です。
企業の財務情報と非財務情報を一体化して報告することで、企業の全体像をステークホルダーに伝えられるため、企業の信頼性を担保すると言う意味で自発的に取り組んでいる企業も増えています。
参考:宝印刷D&IR研究所|「統合報告書発行状況調査2023」最終報告
統合報告書に記載する項目
統合報告書に記載する主な項目は、以下の通りです。
分類 | 主な記載項目 |
---|---|
価値観 | |
ビジネスモデル | |
持続可能性・成長性 | |
戦略 | |
成果と重要な成果指標(KPI) | |
ガバナンス |
参考:経済産業省|価値協創のための統合的開⽰・対話ガイダンス
価値観
統合報告書に記載する項目には、企業の価値観が含まれます。これは企業がどのような信念や原則に基づいて運営されているかを明示するものです。
企業の価値観を記載することによって、その企業がどのような行動指針を持っているかを明確に伝えることができます。
価値観は、企業のミッションやビジョンと密接に関連しており、企業が追求する長期的な目標やその達成に向けた基本的な考え方を示します。
ビジネスモデル
ビジネスモデルは、企業がどのようにして価値を創造し、提供し、そして収益を上げ、企業価値の向上を図るという全体像を示すものです。
ビジネスモデルを記載することで、企業がどのように価値を創造しているかを明確に伝えることができます。
ビジネスモデルは、企業の主要な活動、資源、パートナーシップ、顧客セグメント、価値提供プロセスなどを具体的に示します。
これにより、ステークホルダーは企業がどのような戦略やリソースを活用して市場で競争力を維持しているかを理解することが可能です。
持続可能性・成長性
明確なビジネスモデルを踏まえた上で、長期的な視点で持続的な価値創造と成長を支える要素です。
企業が環境保護活動や社会貢献活動をどのように実施しているか、またその成果について詳細に記載されます。
これにより、ステークホルダーは企業がどの程度持続可能な経営を実践しているかを評価することが可能です。
戦略
戦略の記載は、企業の長期的なビジョンを明確に伝えるためのものです。
統合報告書には、企業が目指す将来像やそれを実現するための道筋が詳細に説明されます。
これにより、ステークホルダーは企業がどのような方向に進んでいるのか、長期的な目標は何であるのかを理解できます。
なお、戦略目標の達成に向けた経営資源の確保や強化を説明する際には、それらがビジネスモデルや成果、重要な成果指標などの他の要素とどのように関連しているかも考慮しなければなりません。
成果と重要な成果指標(KPI)
成果と重要な成果指標は、企業の活動や戦略がどのような結果をもたらし、その結果をどのように評価するかを示すものです。
ステークホルダーに対して企業のパフォーマンスを明確に伝えるために必要な項目となります。
企業が一年間でどのような成果を上げたのかを具体的に示し、その成果が企業の全体的な戦略やビジョンにどのように貢献しているかを説明します。
企業が設定したKPIを示し、その達成状況を詳細に報告することも必要です。
ガバナンス
ガバナンスは、企業がどのように運営され、管理されているかを示すものであり、特に透明性、公正性、説明責任を重視しています。
統合報告書では、取締役会や監査委員会、その他の重要な委員会の構成や役割を詳細に記載します。
これにより、ステークホルダーは企業の経営体制がどのように構築されているのか、重要な意思決定がどのように行われているのかを理解できます。
統合報告書を作成する際の流れ
統合報告書を作成する際、主に以下の流れで行います。
- 報告書の目的や対象読者を明確にする
- 情報の収集
- 発行時期の明確化
- 報告書の作成と編集
- 内部レビューと承認
- 公開
特に報告書を作成するときは、情報を分かりやすく、読みやすい形で提供することが大切です。
経営陣や現場責任者などの意見を取り入れ、骨組みに反映しつつ、グラフや図表などをうまく用いて分かりやすく執筆しましょう。
統合報告書の作成におけるポイント
統合報告書を作成する際のポイントは、主に以下の通りです。
- 独自の価値創造ストーリーを示す
- 投資家が評価しやすい指標を使う
- DXの取り組みを内容に盛り込む
独自の価値創造ストーリーを示す
統合報告書の作成におけるポイントとして、独自の価値創造ストーリーを示すことが重要です。
価値創造ストーリーとは、企業が独自のビジネスモデルや戦略を通じてどのように価値を生み出しているかを示すものであり、企業のアイデンティティを表現するものです。
これにより、ステークホルダーは企業の存在意義や競争優位性を深く理解できるようになります。統合報告書では、企業のビジョンやミッションに沿って価値創造のプロセスを具体的に説明することが求められるでしょう。
投資家が評価しやすい指標を使う
統合報告書の作成におけるポイントの1つとして、投資家が評価しやすい指標を使うことが挙げられます。
財務的指標としては、売上高、利益率、ROE(株主資本利益率)、ROA(総資産利益率)などがあります。
これらの指標は企業の経済的健全性や収益性を評価するための基準となり、投資家が企業の現状と将来の成長性を判断する際に重要な情報です。
DXの取り組みを内容に盛り込む
DXは、企業のビジネスモデルや運営プロセスをデジタル技術を活用して革新する取り組みです。
企業の競争力強化や持続可能な成長に欠かせない要素であり、企業の現代的な経営姿勢と未来志向のビジョンを明確に示すことができます。
デジタル技術の活用は、業務効率の向上、新しいビジネスチャンスの創出、顧客体験の向上など、多岐にわたる効果をもたらします。
統合報告書の発行企業の事例
最後に、統合報告書を発行する上場企業の事例を紹介します。
ぜひ参考にしてください。
トヨタ
トヨタでは、会社で思い描く理想像を実現させる耐えに、方針や戦略をしっかりと明記し、ステークホルダーの皆様にお伝えすることを目的として報告書を発行しています。
統合報告書の記載項目は、主に以下の通りです。
- 価値創造の源流
- 価値創造のストーリー
- 価値創造の経営基盤
- コーポレートデータ
これらの情報から、トヨタの統合報告書は、企業の全体像を包括的に示し、ステークホルダーに対して透明性の高い情報を提供しています。
みずほフィナンシャルグループ
みずほフィナンシャルグループの当方報告書の内容としては、「社員の意識変化」を示す独自指標を新たに開示しています。
近年、企業の持続可能な成長を支えるためには、社員の意識改革やエンゲージメントが不可欠であるとされています。
みずほフィナンシャルグループも例外ではなく、組織全体の意識変化を促進し、社員が自発的に企業価値の向上に貢献する環境を整えることが求められていました。
これを受けて、同グループは社員の意識変化を具体的に把握し、評価するための独自指標を導入しました。
参考:みずほフィナンシャルグループ|統合報告書(ディスクロージャー誌)2023
三菱地所
三菱地所は「人々とともに、次の豊かさを築く。」という企業理念のもと、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進しています。
このビジョンにもとづき、報告書では三菱地所の長期的な目標や方向性が説明されています。
具体的な施策や計画としては、東京をはじめとする主要都市での大規模再開発プロジェクト、オフィスビルや商業施設の開発・運営、住宅事業、海外事業の拡大などが挙げられます。
これらの戦略がどのように実行され、企業価値の向上に寄与しているかが説明されています。
まとめ
統合報告書の目的は、ステークホルダーに対して企業の長期的な価値創造の仕組みを理解してもらうことです。
有価証券報告書やアニュアルレポートとは異なり、統合報告書は企業の持続可能な成長や社会的責任についても深く掘り下げ、企業の透明性と信頼性を高める役割を果たします。
ステークホルダーと良好な関係を築き上げられるよう、統合報告書の作成を検討しましょう。
よくある質問
統合報告書とは簡単に言うとどんなもの?
統合報告書とは、企業が財務情報と非財務情報を統合して報告する文書のことです。 ステークホルダーに対して企業の長期的な価値創造の仕組みを理解してもらうために必要な報告書となります。 ステークホルダーと良好な関係を築き上げるためにも、統合報告書の作成を検討してみましょう。
統合報告書を作成するメリットは?
統合報告書を作成するメリットは、主に以下の通りです。 企業の価値創造の全体像を把握できる ステークホルダーとコミュニケションが円滑にできる
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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