- 更新日 : 2024年7月12日
関連当事者取引とは?開示基準や開示項目、取引した場合の対処法について解説
「関連当事者取引」とは、企業がその経営陣、主要株主、親会社、子会社、関連会社などの関連当事者と行う取引を指します。これらの取引は、通常の市場条件と異なる条件で行われることがあり、そのため特に注目され、適切なディスクロージャー(情報開示)が要求されます。
本記事では、上記の悩みを抱えている人のために、関連当事者取引とはどのようなものか、わかりやすく解説していきます。
目次
関連当事者取引とは
関連当事者取引とは、その名の通り、企業と関連当事者との取引のことです。
日本公認会計士協会によると、「会計基準で定められた特定の会社またはその役員およびそれらの人々と一定の関係を持つ人」のことを指します。
一般的な取引とは異なり、特殊な条件下で行われる必要があることを理解しておかなければなりません。また、資源の移転や債務を移転させたり役務を提供したりすることも指します。
このほかにも、第三者との取引に影響を及ぼしている場合も含まれることを覚えておきましょう。
なお、関連当事者取引は「会社と関連当事者との取引や関連当事者の存在が財務諸表に与えている影響を財務諸表利用者が把握できるように、適切な情報を提供するものでなければならない」と「関連当事者の開示に関する会計基準」で定められています。
関連当事者取引を開示しなければならない理由
関連当事者取引を開示しなければならない主な理由は「一般株主が不当な不利益を被らないようにするため」です。
関連当事者は企業の意思や方針を決定するのに、大きな影響を与えられます。開示しなければ、実際に行った取引で得た企業の利益を自身で得ることもできてしまうでしょう。
特に上場企業においてですが、これらの取引が認められてしまうと、新規・既存の株主が本来得られるはずの利益を得られなくなってしまいます。
公正な取引を行うためにも、関連当事者取引は必ず開示するようにしましょう。
関連当事者取引の開示基準
関連当事者取引の開示基準は、相手が法人か個人かで大きく変わってきます。
ここからはそれぞれの開示基準について、詳しく見ていきましょう。
- 関連当事者が法人の場合
- 関連当事者が個人の場合
関連当事者が法人の場合
関連当事者が法人の場合、単体では以下の基準に沿って取引を開示する必要があります。
ただし、②や③の各項目に関係する取引については、取引総額が税引前当期純利益もしくは直近5年の平均の税引前当期純利益の10%以下になる場合は開示する必要がありません。
関連当事者が個人の場合
関連当事者が個人の場合は、以下の基準に沿って取引の開示が必要になります。
関連当事者が個人の場合は、1,000万円を超える場合は例外なく開示しなければなりません。
ただし、会社の役員もしくはその近親者が、他の法人の代表者を兼務している場合は例外です。
当該役員が法人の代表者として会社と取引を行う場合には、法人同士の商取引と考えられるため、個人グループではなく法人グループとしての取引に属するものとして扱います。
関連当事者取引の開示項目
関連当事者取引がある場合は、以下の項目を開示する必要があります。
- 関連当事者の概要
- 会社と関連当事者との関係
- 取引の内容
- 取引の種類ごとの取引金額
- 取引条件および取引条件の決定方針
- 取引により発生した債権債務に係る主な科目別期末残高
- 取引条件の変更があった場合、変更内容および当該変更が財務諸表に与えている影響の内容
- 関連当事者に対する貸倒懸念債権および破産更生債権などに係る情報
開示項目には目安となる重要性の基準が定められているため、確認漏れのないようにしましょう。
開示の対象となる関連当事者取引
開示の対象となる関連当事者取引はさまざまなパターンがあります。
ここでは、その中でも注意すべき取引について、詳しく見ていきましょう。
- 連結子会社と関連当事者との取引
- 資本取引
- 無償取引および低廉な価格での取引
- 形式的・名目的には第三者との取引である取引
連結子会社と関連当事者との取引
連結財務諸表上、連結子会社と関連当事者の取引は開示対象です。
その結果、組織再編で純粋持株会社を設立した場合は、財務諸表作成会社が持株会社の子会社になります。
この場合、開示されていた関連当事者との取引が開示されなくなるといった問題は解消されるでしょう。
資本取引
資本取引については、開示対象の取引に含められています。なお、開示対象となる取引は「会社と関連当事者間の増資・自己株式の取得など」です。
公募増資については一般の取引条件と同等であり、明白な取引に該当するため開示対象外と考えられています。
なお資本取引の場合、開示当事者取引に関する開示項目の期末残高については、債権債務関係とは異なるため求められていません。
無償取引および低廉な価格での取引
無償取引および低廉な価格での取引についても、関連当事者取引に該当するケースの一つです。
関連当事者との無料取引や融資取引時の低利貸し付けなど、取引金額が時価に対して著しく低い場合は、本来あるべき金額で取引した場合、関連当事者取引に該当する場合があります。結果として、重要な投資判断情報に該当する場合もあるでしょう。
なお、無償取引および低廉な価格での取引は、実際の取引金額では判断されません。第三者間取引で発生した金額を見積もった上で、重要性の判断が必要とされています。
形式的・名目的には第三者との取引である取引
形式的・名目的な第三者との取引も、関連当事者取引に該当する場合があります。
具体的には現行の証券取引法関係規則上の取扱いと同様です。
第三者との取引において実質的な相手が明確に関連当事者となる場合、関連当事者取引が必要になります。
開示の対象とならない関連当事者取引
関連当事者取引には、開示の対象とならないケースも存在します。
ここでは具体的な事例として、4つの内容を見ていきましょう。
- 連結財務諸表の作成にあたり相殺消去した取引
- 取引条件が一般取引と同様であることが明白な取引
- 役員報酬
- 連結会社が直接関わらない関連当事者同士の取引
連結財務諸表の作成にあたり相殺消去した取引
連結財務諸表の作成にあたり相殺消去した取引については、関連当事者取引の中でも開示の対象となりません。
取引条件が一般取引と同様であることが明白な取引
一般取引と同様の条件であることが明らかな場合は、開示対象から除外されます。
取引相手によって開示対象とするかも決める必要があるとされ、金融機関や政府関係機関などがこのケースに該当することが多いです。
ただし、関連当事者にあたる金融機関との取引を除いた場合は、多額取引でも本来開示すべきものであっても開示対象外となります。結果として、経営に大きな影響を与える可能性がある取引が開示されない可能性もあるでしょう。
このほかにも、政府関係機関や公共事業体との取引を開示対象外にすると、補助金や利子補給といった取引の開示が行われないおそれもあります。
上記のことから、取引相手ではなく、取引内容に焦点を当てて開示対象外とするかが定められています。
役員報酬
役員報酬の開示は、国内外で必要性が認識されています。しかし、財務情報として位置付けるべきかどうかの考え方が分かれているのも事実です。
国際的には、主な経営陣が得ているすべての報酬および内訳の開示を求められている事例も存在します。日本国内でも現行の「企業内容などの開示に関する内閣府令」においては、非財務情報であるコーポレート・ガバナンスに関する情報の中で役員報酬の内容の開示が規定されています。
上記をもとに検討した結果、日本や米国における役員報酬の開示方法を考慮して、開示対象外となっている項目の一つです。
連結会社が直接関わらない関連当事者同士の取引
連結会社が直接かかわらない関連当事者同士の取引は、開示対象外となる取引の一つです。
例として、関連会社が連結会社ではないものの、関連会社と当該関連会社以外の取引が企業の経営に影響を及ぼす可能性は十分にありえます。
そのため、開示する必要があるのではないかといった意見は存在しました。しかし、連結会社が直接関係しない場合は、正しい情報を網羅的に入手できません。
さらに、連結財務諸表に与える影響が大きくないと考えられるため、開示対象外となっています。
関連当事者取引がある場合の対処法
関連当事者取引がある場合は、対処法についても知っておくと安心です。
ここでは具体的な対処法として、3つの方法を紹介します。
- 取引の合理性を検討する
- 取引条件の妥当性を検討する
- 取引を解消する
取引の合理性を検討する
関連当事者取引がある場合、取引の合理性について検討しましょう。
取引の合理性とは、事業上の必要性が認められるかどうかを指します。合理性の検討は当該取引を継続することが必要・合理的かを判断するのに必要です。
万が一、関連当事者以外に取引先が見つからない場合も、当該取引が事業を行うために必要であれば、取引の合理性を認められます。
取引の合理性がないと判断されるケースについては、以下を参考にしてください。
- 申請会社の事業計画・営業戦略等に合致しない不動産(例えば、小売業における継続的赤字店舗)を関連当事者等から賃借しているケース
- 関連当事者等から営業(仕入)取引を行っているものの、当該関連当事者等を取引に介在させる合理性(事業上の必要性)が認められないケース
- 関連当事者等と会社との間で多額の金銭貸借を行っているケース
取引条件の妥当性を検討する
取引条件の妥当性とは、一般的な取引条件と同等のものかどうかを判断する際に用いられます。
例として、申請会社が所有している不動産の一室を関連当事者が借りる際に適切な賃料を支払っていれば、妥当性の面では問題ないと考えられるでしょう。
もし妥当性がなければ、当該取引を解消する必要が生まれてきます。
取引条件の妥当性がないと判断されるケースについては、以下の通りです。
- 申請会社のビル等の空きスペースを関連当事者等の個人事業に無償貸与していたケース
- 会社資産を関連当事者等に売却をする際、時価と簿価に相当の差異が生じていた(時価が簿価を大幅に上回っていた)にもかかわらず、明らかに割安な簿価で売却したケース
- 取引の開始や更新時等において、相見積りの実施(営業取引の場合)や類似不動産の賃借条件の調査(不動産賃借取引の場合)等、取引条件の妥当性についての確認を十分に行っていないケース
取引を解消する
自社の取引において相手方が関連当事者にあてはまる場合は、関連当事者取引に該当します。該当する場合は、当該取引の解消を検討しなければなりません。
ただし、不当な利益の供与・享受にあたらない場合、関連当事者との取引継続が認められます。不当な利益の供与・享受にあたるかは、取引の合理性と取引条件の妥当性をもとにした判断が必要です。
上記をしっかりと検討したうえで、要件を満たさない場合は取引の解消を進めましょう。なお、取引の解消をする際は、契約解除の手法をとるのが一般的です。
IPOを目指すなら関連当事者取引を牽制する仕組みが必要
IPOを目指すのであれば、関連当事者取引を牽制する仕組みが必要になります。なお、牽制の仕組みについては、取引の有無にかかわらず整えなければなりません。
東京証券取引所の「2020~2021 新規上場ガイドブック(市場第一部編)」によると、上場審査に関する内容として以下が記載されています。
「また、上場審査において関連当事者等を顧問に招聘する合理性(事業上の必要性)、対価の妥当性が合理的に説明できる場合であっても、顧問契約の必要性や顧問に求める役割等は、申請会社の状況や顧問契約を締結する関連当事者等の状況等によって変わっていくものと考えられます。
そのため、そのような変化に応じた見直しを適宜行っていく仕組みを整備していただくことも必要となります。 」
仕組みを整える際は、以下の3つを構築する必要があります。
- 関連当事者取引を把握する方法
- 当該取引を検討する方法
- フォローアップの方法
上記の仕組みを整える際は、規定を定めたりマニュアル化したりして、継続的に運用できる状態にすることも忘れないようにしましょう。
まとめ
関連当事者取引は、一般的な取引とは異なる取引方法です。
関連当事者取引を開示しなければ、株主が不当な不利益を被ってしまうかもしれません。開示する際は、個人と法人で基準が異なるため、適切な情報を提供できるように注意しましょう。
また、開示の対象になるものとならないものがあるため、それぞれを理解しておくことも大切です。あわせて、対処法や仕組みづくりについても理解しておくようにしてください。
よくある質問
関連当事者とは?
関連当事者の範囲とされているのは、以下に該当する人です。
- 親会社
- 子会社
- 同一の親会社をもつ会社など
- 会社が他の会社の関連会社である場合における「他の会社」ならびにその親会社および子会社
- 関連会社および関連会社の子会社
- 主要株主(10%以上の議決権を保有している株主)およびその近親者(二親等内の親族)
- 役員およびその近親者
- 主要株主およびその近親者、役員およびその近親者が議決権の過半数を所有している会社などおよびその子会社
- 重要な子会社の役員およびその近親者
- 6から9に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社およびその子会社
- 従業員のための企業年金
関連当事者取引を開示しなければいけない理由は?
関連当事者取引を開示しなければいけない理由は、財務諸表の内容を正しく把握するためです。関連当事者取引は第三者との取引となった条件で行われます。 関連当事者の存在が会社の財務状況や業績を含めた経営全体に影響を及ぼす可能性があることから、開示する必要があるといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
実質基準とは?形式基準との違いや具体的な要件を解説
実質基準とは、証券取引所が行う上場審査の基準の1つです。形式基準と異なり、数値による具体的な尺度などが設けられていない点が特徴です。本記事では、実質基準の意味や市場別の具体的な要件、準備にあたってのポイントを解説します。 実質基準とは はじ…
詳しくみるJASDAQ上場とは?東証一部・二部・マザーズとの違いや審査基準を解説
将来的に、株式市場への上場を考えているけれど、何から始めてよいかわからないと考えている事業主もいるのではないでしょうか。2022年4月から、東京証券取引所の市場区分が再編されたので、これを機会にぜひ知識として身につけ、上場に向けた検討をして…
詳しくみる東証グロース市場とは?上場基準やメリット・デメリットをわかりやすく解説
株式上場を考えているものの、2022年4月から東京証券取引所の市場区分が変わったことで、取引所の仕組みがいまいちわからなくなったという人もいるでしょう。 今回の市場区分の再編によって、上場した企業と投資家双方が市場の本来の機能やメリットを享…
詳しくみるテクニカル上場とは?事例も含めてわかりやすく解説
「テクニカル上場」とは、上場会社が非上場会社と合併して解散する際、もしくは株式の交換などで非上場会社の完全子会社になる場合に、非上場会社の株式をスムーズに上場させる制度のことです。 テクニカル上場には、どのようなメリットがあるのでしょうか。…
詳しくみるIPOにおけるロックアップとは?目的や種類、解除条件について詳しく解説
IPOの発行に際し、公開直後の株価の下落を危惧している企業の方も多いのではないでしょうか。上場直後の株式は売り傾向となり、需給のバランスが崩れやすくなります。そこで安定化の手段となるのが、IPOのロックアップです。ロックアップをうまく使いこ…
詳しくみる購買サイクルのRCMとは?リスクマネジメントの重要性・RCMの作成手順【テンプレート付き】
購買サイクルの最適化は、企業の成長に欠かせない戦略の一つです。特に、信頼性中心のメンテナンス(RCM)を取り入れることで、製品やサービスの品質を向上させ、顧客満足度を高めることができます。 本記事では、RCMが購買サイクルに与える影響と、そ…
詳しくみる