• 作成日 : 2024年10月21日

IPOを目指す企業が行うべきセキュリティ対策とは?必要な理由や課題を解説

中小企業の中には、IPO実現を目指している企業もいるでしょう。企業が上場を目指す過程では、多くの機密情報が外部に公開されるリスクが高まります。

不正アクセスや情報漏洩を防ぐため、適切なセキュリティ対策を講じることは、投資家の信頼を得るための必須条件です。

本記事では、IPOにおけるセキュリティの重要性や対策内容などを詳しく解説します。

IPOにおけるセキュリティの重要性

IPOを目指す企業が行うべきセキュリティ対策とは?必要な理由や課題を解説
IPO時にセキュリティ対策を行うことで、情報漏洩のリスクを低減し、投資家へ信頼性と透明性を担保できます。

特に内部不正やサイバー攻撃などで情報が漏れるなどすると、企業価値が下がってしまい、IPO実現に悪影響を及ぼしてしまいます。

本項では、IPOにおけるセキュリティの重要性を深掘りしますので、ぜひ参考にしてください。

なぜIPO時にセキュリティ対策が重要なのか

IPO時にセキュリティ対策が重要な理由として、主に以下3つがあります。

  • 企業価値への影響:情報漏洩による企業価値の毀損リスクなど
  • 投資家保護の観点:信頼性の確保など
  • 法規制への対応:金融商品取引法、個人情報保護法など

IPOを控える企業は、上場に伴い多くの情報を公開する義務を負いますが、同時に機密性の高いデータや戦略情報も保有しています。

これらが外部に漏洩したり、不正アクセスを受けたりすると、企業の評判や信頼性に重大なダメージを与えるリスクが生じてしまうのです。

投資家は大きな損失を被る可能性があり、企業の法的責任や信頼失墜につながってしまうため、IPO時にセキュリティ対策は大切です。

IPOにおいて想定されるセキュリティリスク

IPOにおいて想定されるセキュリティリスクは、主に以下3つです。

  • 内部不正による情報漏洩
  • サイバー攻撃によるシステムダウン、情報窃取
  • 不十分な情報管理体制によるコンプライアンス違反 など

特にIPOプロセスでは、財務データや事業計画、投資戦略などの機密情報が社内で共有される機会が増えます。

このような重要な情報が、内部の関係者によって悪意を持って外部に流出した場合、競争相手や不正な第三者に利用され、企業の競争優位性を損なう可能性があるでしょう。

さらに、情報漏洩が公に明らかになれば、投資家や市場の信頼を失い、IPOそのものに悪影響を及ぼすだけでなく、企業価値の低下や法的な責任を追及されることもあります。

従業員や関係者による意図的な不正行為を未然に防ぐためには、アクセス権限の適切な管理や、データの監視体制を強化することが重要です。

IPOに向けたセキュリティ対策の具体的な内容

IPOを目指す企業が行うべきセキュリティ対策とは?必要な理由や課題を解説
IPOに向けたセキュリティ対策の内容として、主に以下の内容が挙げられます。

対策のカテゴリー具体的な内容
情報セキュリティ体制の構築セキュリティポリシーの策定と周知
組織体制の整備と責任者の設置
従業員へのセキュリティ教育の実施
システムセキュリティ対策ファイアウォールやIDS/IPSによる外部からの攻撃防御
アクセス制御による情報の制限
データの暗号化による情報漏洩対策
内部統制の強化業務プロセスにおけるリスクの洗い出しとコントロールの導入
内部監査の実施による内部統制の有効性評価
不正アクセス検知システムの導入による不正行為の抑止

情報セキュリティ体制の構築

まず、情報セキュリティ体制の構築において、社内のデータ管理ルールを厳格に定めることが求められます。

これは、情報へのアクセス権限を明確に区分し、機密データや重要情報が必要以上に多くの従業員に開示されないようにするためです。

役職や業務内容に応じてアクセス権限を分けることで、内部不正や情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。

主なセキュリティ対策は、以下の通りです。

  • セキュリティポリシーの策定と周知
  • 組織体制の整備と責任者の設置
  • 従業員へのセキュリティ教育の実施

セキュリティポリシーの策定と周知

セキュリティポリシーの策定において、企業は自社が保有する情報資産の種類と、その重要度を正確に把握する必要があります。財務データ、顧客情報、知的財産など、それぞれのデータに応じた保護レベルを設定し、どの情報が最も厳重に守られるべきかを決定します。

また、情報へのアクセス権限やデータの取り扱いに関する具体的な手順もポリシー内で明示し、誰がどの範囲までアクセスできるかを詳細に規定することが重要です。

適切に策定できれば、組織全体で情報を安全に管理するための基本方針を確立し、内部不正やデータ漏洩のリスクを減少させます。

組織体制の整備と責任者の設置

組織体制の整備においては、セキュリティを専門に扱う部門やチームを設けることが必要不可欠です。小規模な企業であれば、既存のIT部門内にセキュリティ担当を設置することも考えられますが、規模が拡大するにつれて、より専門的な知識と経験を持つチームの必要性が高まります。

特にセキュリティに関する意思決定を一元化し、戦略的な対策を推進するためには、専門のセキュリティ責任者や担当役員を任命することが一般的です。

この責任者は、全社的なセキュリティポリシーの策定やリスク評価を行い、他の経営陣と連携して適切なセキュリティ戦略を構築します。

セキュリティ上の問題が発生した際の対応責任を明確にすることで、迅速な判断と行動が可能となり、被害を最小限に抑えることができるでしょう。

従業員へのセキュリティ教育の実施

企業が上場を目指す過程では、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクが高まるため、従業員一人ひとりがセキュリティリスクに対する意識を持ち、適切な行動を取ることが求められます。たとえば、フィッシング詐欺のメールをどう見分けるか、また、強固なパスワードの作成方法や機密情報の取り扱いに関する具体的なガイドラインを周知徹底することが必要です。

IPOを控えた企業では、こうした基本的なセキュリティスキルの欠如が重大なリスクにつながる可能性が高く、教育を通じて全従業員のリテラシーを高めることが不可欠です。

システムセキュリティ対策

システムセキュリティ対策とは、企業の情報システムを保護し、データの安全性と業務の継続性を確保するために講じる一連の対策を指します。

IPOに向けた準備では、これらの対策が特に重要であり、企業が上場に際して求められるセキュリティ基準を満たすために、さまざまな施策を講じる必要があります。

ファイアウォールやIDS/IPSによる外部からの攻撃防御

ファイアウォールは、企業の内部ネットワークと外部インターネットの間に立ちはだかり、不正なアクセスを遮断する役割を果たします。

具体的には、トラフィックを監視し、許可された通信のみを通過させ、疑わしいデータパケットやアクセスをブロックします。

IDS/IPSは、より高度な攻撃防御のための技術です。IDSは、ネットワーク内の不正な活動や異常なトラフィックパターンをリアルタイムで監視し、疑わしい行動が検出されると警告を発します。管理者は早期にリスクを察知し、迅速に対応できるようになります。

一方、IPSは、IDSの機能をさらに進化させたもので、検出された脅威を自動的にブロックする機能を持っています。特にサイバー攻撃の多様化と高度化が進む現代において、迅速な対応が求められる環境下で有効です。

アクセス制御による情報の制限

アクセス制御とは、情報へのアクセス権限を厳密に管理し、特定のユーザーや部門のみが必要な情報にアクセスできるようにする仕組みです。

具体的には、従業員ごとに業務内容や役職に応じた権限を設定し、アクセスできる範囲を限定します。例えば、経理部門の従業員は会計や財務データにアクセスできる一方で、技術部門の従業員は開発情報にのみアクセスできるようにします。

これにより、不要な情報へのアクセスが制限され、万が一不正アクセスが発生しても影響範囲を最小限に留めることが可能です。

データの暗号化による情報漏洩対策

暗号化は、データを特定のアルゴリズムで変換し、許可された者のみがそのデータを復号して閲覧できるようにする技術です。

万が一データが外部に流出したとしても、暗号化されているデータは解読不能な状態であるため、情報の機密性が守られます。また、企業内で利用されるファイル共有システムやクラウドストレージでも暗号化が重要です。

これらのサービスを利用している場合、保存されたファイルやデータの暗号化により、外部からの不正アクセスや内部の不正行為による情報漏洩を未然に防ぐことが可能です。

内部統制の強化

内部統制の強化とは、企業が内部での業務プロセスやリスク管理の仕組みを改善し、組織全体の効率性と信頼性を高めるための一連の取り組みを指します。

IPO準備においては、内部統制の強化が特に重要であり、上場審査における企業の信頼性を確保し、投資家に対する透明性を提供できます。

業務プロセスにおけるリスクの洗い出しとコントロールの導入

業務プロセスにおけるリスクの洗い出しとは、企業の全ての業務プロセスを詳細に分析し、どの段階でどのようなセキュリティリスクが存在するのかを明らかにする作業です。

例えば、財務報告プロセスや顧客データの管理、サプライチェーンの管理など、各プロセスにおけるリスク要因を特定することから始まります。

データの取扱い方法やシステムへのアクセス権限、外部とのやり取りの安全性など、リスクが潜む可能性のある全ての面を検討します。リスクの洗い出しに基づき、リスクコントロールも大切です。

たとえば、重要な財務データの取り扱いにおいては、アクセス権限を厳格に管理し、データの送信には暗号化を施すことで、情報漏洩のリスクを低減します。

また、顧客データの管理においては、データの保管と処理に関する規定を設け、従業員に対する定期的なセキュリティ教育を実施することで、人的ミスによるリスクを抑制します。

内部監査の実施による内部統制の有効性評価

内部監査は、企業内部の各部門やプロセスが、設定された内部統制のルールや手続きに従って運用されているかを確認するための活動です。

上場審査の過程で、企業は財務報告の信頼性や業務の効率性、そして内部統制の適切さを証明する必要があるため、IPOを準備する企業にとって、この内部監査は特に重要です。

内部監査チームを設け、企業の業務プロセスやリスク管理体制、情報セキュリティ対策などを徹底的に検査します。具体的には、業務プロセスがどのように設計され、実行されているか、また、これらのプロセスがリスクを適切に管理できているかを評価することが大切です。

不正アクセス検知システムの導入による不正行為の抑止

不正アクセス検知システムは、企業のネットワークやシステムに対する不正なアクセスやサイバー攻撃の兆候をリアルタイムで監視し、迅速に対応するための技術的な手段です。

このシステムは、ネットワークトラフィックの監視やログの解析を行い、異常な活動を検知します。具体的には、通常の業務とは異なるアクセスパターンや未承認のシステム変更、不審なログイン試行などをリアルタイムで捉えることが可能です。

IPO企業のセキュリティ対策の成功例と失敗例

IPOを目指す企業が行うべきセキュリティ対策とは?必要な理由や課題を解説
IPO(新規株式公開)は企業にとって大きな転換期であり、同時にセキュリティリスクも高まる時期です。情報漏洩やサイバー攻撃は、企業の信用失墜だけでなく、法的責任や経済的な損失につながる可能性があります。

ここでは、IPO企業におけるセキュリティ対策の成功例と失敗例をそれぞれ紹介します。

セキュリティ対策の成功例

A社は、IPOを目指すにあたってIT統制を実施するためにISMS認証を取得する必要性を感じ、ISMSの構築に向けて動くことになりました。顧客データを扱ううえで、セキュリティ面の信頼獲得が不可欠と判断したためです。そこでIPO実現のために掲げた「BtoB領域の脳と心臓になる」というビジョンに基づき、ISMS認証取得を目指します。

しかしISMS認証取得には膨大な書類作成が必要で、社内で多大な工数を要することが懸念点でした。また、過去の経験から運用面の大変さも認識しており、新規構築は非常に困難だと予想していたのです。そこでセキュリティ対策の整備に適したクラウドサービスを導入したところ、複雑な作業に煩わされることなくISMS認証を取得することができました。

セキュリティ対策の失敗例

IPOを検討している企業の多くは、業務効率化などのためにクラウドサービスをすでに利用していたり、新規導入を検討していたりするでしょう。パブリッククラウドサービスは「責任共有モデル」を採用しており、基礎的なセキュリティは提供者が担当しますが、顧客データやアプリケーションの設定などは利用企業の責任です。

特に高度なカスタマイズが可能なサービスでは、誤った設定がセキュリティリスクを高める可能性があります。実際に、クラウドがサイバー攻撃を受けたことでシステム障害が広がったり、特定のデータにアクセスできなくなったりという事象も起きています。クラウドのセキュリティ事故の9割は人為的な設定ミスが原因で、これを防ぐには常に確認と迅速な修正が必要です。

まとめ

IPOの実現を目指す場合、企業の信頼性担保は重要な要素です。

そのためには、セキュリティ対策を万全に行わなければなりません。セキュリティ対策情をしっかりと行うことで、報漏洩のリスクを低減し、投資家へ信頼性と透明性を担保できるようになります。セキュリティ対策が不十分な場合は、できるだけ早急に対策を講じる必要があります。

まずは、社内にセキュリティ責任者を任命し、セキュリティ担当者間でスムーズなコミュニケーションができる環境を整え、従業員に対してセキュリティ意識を高めるための教育を実施することから始めるべきです。

よくある質問

上場審査におけるセキュリティの重要性は?

上場審査におけるセキュリティの重要性は、主に以下の通りです。

  • 企業価値の担保
  • 投資家へ透明性と信頼性の担保
  • 法規制への対応
上場企業を目指す上で、企業のイメージは欠かせない要素となるため、セキュリティ対策は企業にとって重要な課題です。

IPO審査に向けた業務システムの選定ポイントは?

業務システムの選定において最も重視すべきは、システムが企業の成長戦略や業務プロセスに適合しているかどうかです。 IPO準備中の企業は、規模の拡大や複雑化に対応できる柔軟性を持つシステムが求められます。 従って、業務システムは単に現在の業務に対応するだけでなく、将来的な拡張性や変化に対しても対応できるものでなければなりません。


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