- 更新日 : 2024年7月16日
HRM(人的資源管理)とは?5つの機能をもとに具体的な事例を紹介
HRM(Human Resource Management)とは「人的資源管理」を意味します。具体的には、従業員を人的資源と捉えて有効活用するための採用、教育、人事評価、人材配置などの仕組みを指します。
この記事ではHRMとは何かについて述べ、5つのモデルと機能、注目される背景、役割や導入企業例などを紹介します。
目次
HRMとは?
HRMとは「Human Resource Management」の略で、日本語では「人的資源管理」という意味です。従業員を人的資源としてとらえ、戦略的に活用する制度を設計・運用し、経営目標の達成を目指します。
人的資源管理は、人材を有効活用するための仕組み、すなわち採用、教育、人事評価、人材配置などのすべてを指します。単に仕組みを整え、運用するだけでなく、従業員の動機づけを通じてモチベーションを向上させ、企業に貢献できるように促すことも含まれます。日本では1990年代以降に注目されるようになりました。
PM(Personal Management)との違い
HRMが提唱される前の人材マネジメントの考え方が「PM(Personal Management)」です。日本語では「人事労務管理」という意味です。
PMは企業が業績を上げるにあたって、人材をコストとして捉え、労働力として管理、統制するという考え方です。人事制度や労働環境を整え、それに基づき人材を管理統制するということです。
一方、人材は各個人に合った教育により成長するもので、人材の成長を促すことで企業にとっての資源になりうると考えるのがHRMです。つまり、PMは人材の管理統制に、HRMは人材の成長に焦点を当てていると言えるでしょう。
HRMの目的
HRMの目的は、企業の経営目標を達成するために人材を有効活用することです。少子高齢化社会の進展で人材不足が進んでおり、経営目標の達成のためには、より少ない人員で最大のパフォーマンスを発揮する必要があります。
経営資源を活用して業績を上げるのは人材であり、その有効活用が欠かせません。人材の有効活用のためには、採用、教育、人事評価、人材配置などを通じて人材の成長を促すHRMが重要な役割を果たします。
HRMにおける5つのモデル・機能
HRMには様々なモデルがありますが、その中でも広く利用されている5つのモデルについて紹介します。
ハーバード・グループのモデル
1980年代にアメリカのハーバード大学で行われた研究をベースとするモデルです。HRMの領域を「従業員への影響」「人的資源のフロー」「報酬システム」「職務システム」の4領域で構成するとしています。
このモデルにおいて、HRMは状況的要因(社員の特性、労働市場、経営戦略)と、ステークホルダー(株主、経営者、従業員)の利害から大きな影響を受けます。
ミシガン・グループのモデル
1980年代にアメリカのミシガン大学などで行われた研究をベースとするモデルです。企業の経営戦略に沿ったHRMとなります。「採用と選抜」「人材評価」「人材開発」「報酬」の4つの機能をうまく回す仕組みや体制を構築し、パフォーマンスを高めます。
高業績HRM(PIRK理論)
高業績企業が採用するHRMを総称して高業績HRMと呼びます。そのうちPIRK理論は、「権限(power)の委譲」「情報(information)の共有化」「公平な報酬(reward)」「従業員に帰属する知識(knowledge)」の4つの要素からなるモデルです。
公平感やコミットメントにより、従業員の企業への帰属意識を高めるため、離職率の低下につながります。
高業績HRM(AMO理論)
高業績HRMのうち、AMO理論は「社員の能力(ability)」「モチベーション(motivation)」「機会(opportunity)」の3つの要素を向上させることで、組織の競争優位性を高めるとするモデルです。従業員の教育、動機づけ、貢献への機会の提供を通じ、モチベーションを高めることが企業の業績の向上につながります。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは従業員のタレント(才能、素質)を重要な経営資源と考え、経営目標達成のために最大限に活用するマネジメント手法です。従業員の才能、素質を管理・分析した上で、採用、育成、配置、評価に活用するため、パフォーマンスを高め、企業の経営目標達成に大いに貢献します。
HRMが注目されている背景
HRMが日本で注目されるようになったのは、1990年代と言われています。1990年代にはバブル崩壊とともに低成長の時代に移行し、人事制度も年功序列型から成果主義型への移行が始まった時期です。
また、1990年代をピークに生産年齢人口は減少に転じており、人材を企業にとって貴重な資源として捉えるHRMが注目されるようになりました。以下でその背景について解説します。
生産年齢人口の減少
少子高齢化の進展により、生産活動を中心になって支える生産年齢人口(15〜64歳の人口)が減少しており、今後ますます人材確保が困難になることが想定されます。企業は限られた人材を有効活用して業績を上げることが求められており、人材を貴重な資源とするHRMの考え方が重視されるようになりました。
従業員の中長期的なキャリア形成の重要性
昨今の転職市場の活性化の影響で、自社で採用した従業員のモチベーションを高め、離職率を下げることにも注力する必要があります。
また、従業員も自身のキャリアについて深く考えるようになっています。企業にとって従業員のキャリアプランに沿った人材開発を行い、中長期的なキャリア形成を行うことが重要です。まさに企業にとってHRMが必要とされているわけです。
マネジメントでのHRMの役割
以下では組織マネジメント、ミクロマネジメント、セルフマネジメントのそれぞれとHRMの違いに触れた上で、HRMの役割を確認します。
組織マネジメントとHRMの違い
組織マネジメントとは、4つの経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)を活用し、組織を効率的に運営する手法のことです。
これに対してHRMは4つの経営資源のうち、3つの経営資源(モノ、カネ、情報)を動かすヒトという経営資源に着目するマネジメント手法です。人的資源を重点的に管理し、結果的に4つの経営資源の有効活用につなげることができるとの考えによります。
ミクロマネジメントとHRMの違い
ミクロマネジメントとは、上司が部下の行動を細かくチェックし、業務指示を出すマネジメントスタイルです。一言で言えば「上司から部下への過干渉」のことを言います。従業員がこれを圧力に感じる場合、業務への意欲低下につながりかねません。
一方、HRMは各従業員のモチベーションを高める形で成長を促す仕組みであるため、企業にとってよい人材確保につながるでしょう。
セルフマネジメントとHRMの違い
セルフマネジメントとは、従業員が自分自身の仕事観に向き合って仕事への主体的な取り組みを促す考え方です。従業員の一定のスキルや意識に依存するものであり、自ずと限界があります。
HRMはセルフマネジメントを支援する仕組みを準備することであり、セルフマネジメントの弱点を補いうるものです。
HRMの具体的な実践例・役割
HRMは具体的にどのように実践されているのでしょうか。ここでは「心理的契約の形成」「多様性を尊重した施策」「従業員個人への配慮」の3つを解説します。
心理的契約の形成
心理的契約とは、企業と従業員の間に契約書などで明文化される内容を超えた相互の信頼感のことです。雇用契約は、将来企業が置かれる状況の変化を踏まえて契約条件を具体的に提示できないため、相互の信頼感に基づく心理的契約の側面が強いと言われています。契約上、明文化されていない日本の終身雇用制度はその代表例です。
HRMを通じて従業員との相互コミュニケーションによりニーズをとらえ、それに可能な限り応える形で信頼関係を深めて心理的契約を形成します。転職が一般的な現代において、従業員のエンゲージメントを高める心理的契約が重要と言えるでしょう。
多様性を尊重した施策
生産年齢人口の減少に伴い、高齢者、障がい者、外国人などを含めた多様な人材の活躍が企業の発展に欠かせない時代になっています。
そして多様な人材を集めるだけではなく、従業員の多様性を尊重した人事施策が重要です。多様性を尊重するとは従業員のスキル、性格、仕事観といった個性を理解し、認めるということです。また、企業内の他の従業員にも、多様性がもたらすメリットなどを理解させることを通じて納得感を高めるようにします。これにより多様な人材の能力を最大限に活かすことができます。
従業員個人への配慮
先に述べた心理的契約に関連して、キーとなる考え方に「I‐deals(個別配慮)」があります。個々の従業員の事情に配慮し、個別の取扱いを認めようというものです。例えば、優秀な従業員が家庭の事情で短時間勤務を余儀なくされるような場合に、それを認めることで戦力ダウンを招くことなく、企業にとっても周囲の従業員にとっても良い影響をもたらすことでしょう。
HRMによる従業員個人への配慮を通じて、配慮された従業員のエンゲージメントが高まることはもちろん、企業全体の利益にもつながります。
HRMの考えを実践している企業事例
HRMの考えを実践している企業の事例を以下に2社紹介します。
日産自動車
日産自動車では、グローバルな組織・人事・文化をベースに、グループ全体の「人財」を最適に配置・活用し、パフォーマンスを最大化するため「日産のグローバルタレントマネジメント」に取り組んでいます。
2002年以降は人財活用のグローバル化の進展に伴い、優秀な日本人後継者の不足に直面し、日本人ビジネスリーダーの育成強化に着手しました。採用後、早期にビジネスリーダー候補者を人選、育成し、40代でビジネスリーダーに着任できるための人選、アセスメント、育成計画、フォロースルーを通した育成の仕組みを作っています。
人財に対して様々な角度からのアセスメントを行うことを通じて、正しくポテンシャルを見出し、強みや課題を分析して育成計画に反映するなど、HRMの考えを実践しています。
参考:日産自動車 日本タレントマネジメントの取組|日産自動車株式会社
セブン&アイグループ(ヨークベニマル)
セブン&アイグループでは、企業価値向上の源を「人財」と考え、グループ各社の事業に適した人財の育成を行っています。
グループの食品スーパーであるヨークベニマルでは、従業員のスキルや技術、今後習得すべき課題と目標を、上司との間で明確にするため「目標管理カルテ」を運用しています。業務遂行に必要な項目ごとに6段階で技術、能力を評価し、各従業員とその上司でレベルを確認します。進捗状況確認と目標設定を年2回行い、従業員ごとに成長を実感させ、モチベーションを高める形でHRMの考えを実践しています。
参考:従業員の能力向上支援 | サステナビリティ|セブン&アイ・ホールディングス
HRMにより「人財」を有効活用して自社の成長につなげよう
生産年齢人口の減少に直面している昨今、社内の人材を「人財」と捉えて有効活用するHRMの考え方がますます重要になっています。
この記事を通してHRMの目的、役割や導入事例などを確認し、自社の人事をHRMの考え方に則ったものにすることで、さらなる成長につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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