• 作成日 : 2023年8月7日

内部統制を評価するプロセスをわかりやすく解説|目的やメリット

内部統制は上場企業における報告が義務付けられており、公正・公平な企業体制の構築に欠かせない作業です。内部統制は実施基準に則り計画的に進めなければなりませんが、専門的な知識が求められる工程もあるため、難しく感じる方もいるかもしれません。

本記事では、内部統制のプロセスについて具体例を踏まえてわかりやすく解説します。内部統制を整備するメリットについても言及していますので、内部統制の目的や必要性の理解を深めるためにぜひお役立てください。

内部統制とは

内部統制を評価するプロセスをわかりやすく解説|目的やメリットも
内部統制とは、公正かつ効率的な企業運営のための仕組みです。

基本的な要素は、以下6つのプロセスで構成されています。

  • 統制環境
  • リスクの評価と対応
  • 統制活動
  • 情報と伝達
  • モニタリング(監査活動)
  • IT(情報技術)への対応

(出典:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準|金融庁

金融商品取引法のJ-SOX(内部統制報告制度)により、上場企業およびそのグループ・子会社には内部統制が義務付けられています。上記の各プロセスは、業務フローに組み込まれて企業全体で実施されるのが一般的です。加えて、内部統制の整備及び運用状況の記録は適切に保存しなければなりません。

内部統制に関しては、こちらの記事でも詳しく説明していますのでぜひご一読ください。

内部統制の目的

内部統制は、下記を目的として実施します。

  • 業務の有効性および効率性
    効率的な事業目的の達成を目指し、企業のリソースを有効活用することです。具体的には、情報共有の仕組みの整備やITツールの効果的な利用などが該当します。
  • 財務報告の信頼性
    企業が公表する情報の信頼性を高めます。財務諸表の信憑性を担保できれば、外部からの高評価を得ることが可能です。
  • 事業活動に関わる法令などの遵守
    法令違反を取り締まるための仕組みです。不正会計を防止し社会的な信用を高めるには、コンプライアンスを遵守しなければなりません。
  • 資産の保全
    資産の取得・管理の方法を整備することです。企業が事業を展開するには、資産に関する適切な承認・運用が求められます。

上記の目的を達成するために重要なポイントこそ、前項で説明した内部統制の6つの基本的要素です。内部統制のプロセスは、業務のすべての工程において遂行する必要があります。

コンプライアンスとの違い

コンプライアンスは、内部統制を構成するプロセスのひとつです。端的に言うとコンプライアンスとは「法令遵守」のことであり、明確な範囲が定められているわけではありません。広義では、社会のルールと倫理・公序良俗や公正かつ公平な業務遂行など幅広い規則を含みます。

業務上の不正やミス、ハラスメントなどを防止して社会的な信用度を向上させるためにはコンプライアンスの遵守が欠かせません。現代においては、企業運営の透明性の担保や経営破綻の防止などを目的にコンプライアンスの徹底が重視されています。

内部統制を評価・報告するプロセス

内部統制を評価するプロセスをわかりやすく解説|目的やメリットも
内部統制の評価は、以下のステップで実施されます。

  1. 全社的な内部統制の評価
  2. 決算・財務報告に係る内部統制の評価
  3. その他の業務プロセスに係る内部統制の評価
  4. 不備への対応の検討
  5. 内部統制の報告

それぞれのプロセスを詳しく見ていきましょう。

1.全社的な内部統制の評価

冒頭で説明したとおり、まずは全体的な内部統制の評価から始めます。全体の内部統制の有効性が以降の評価プロセスに関わるため、最も基幹的かつ重要なステップです。

全体的な内部統制における不正・不備は各業務プロセスに甚大な影響を与えるおそれがあるため、可能な限り広範囲で評価します。原則として、すべての事業拠点における内部統制の評価を行いましょう。なお、評価に与える影響が極めて微細と推定される拠点については評価範囲から除外しても構いません。

評価を実施する内容の範囲についても、企業全体に影響を与えうるすべての項目を含めてください。具体的には、実施基準に記載してある6つの基本的要素からなるチェック項目を参考に内部統制の有効性を評価していきます。(参考:P58〜財務報告に係る全社的な内部統制に関する評価項目の例|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準|金融庁

2.決算・財務報告に係る内部統制の評価

次に、決算や財務報告に係る内部統制の評価を行います。決算における諸帳票の信憑性を高めるためには、財務報告の数値の正確性を示さなければなりません。全体の評価と同じく非常に重要なプロセスであり、正確に評価するには専門的な知識が求められます。

決算・財務報告に係る内部統制の評価は、以下2つの観点からチェックしましょう。

  • 企業全体からの観点
  • 業務プロセス単位における観点

企業全体からの観点における評価には、一般的に監査法人が作成するチェックリストが用いられます。具体的な項目としては、連結会計における方針の決定や財務諸表の作成・記載手順などです。

一方、業務プロセス単位における観点での評価は業務の履歴やアクセス権限などから自社独自で評価を行います。各勘定科目からミスや不正が起こりやすいプロセスや重要性の高い業務を絞り込み、個別にチェックします。チェックを実施するプロセスの具体例は、棚卸資産や経営者による予測・判断を伴う業務などです。

効率的なチェックが難しい場合は、業務に使用する会計ソフトの見直しやアクセス権限・バックアップなどの管理体制の整備を検討しましょう。

3.その他の業務プロセスに係る内部統制の評価

重要性の高い決算・財務報告のチェックを済ませた後は、その他の業務プロセスに係る内部統制の評価を行います。チェックの範囲は、全体的な評価における不備の有無や程度に応じて拡大してください。によって評価の際には「J-SOXの3点セット」と呼ばれる次の書類の作成をおすすめします。

  • 業務記述書
  • フローチャート
  • リスクコントロールマトリクス

3点セットの作成に法的な義務はありません。とはいえ、評価する業務プロセスの把握およびリスクの識別を可視化するとスムーズな評価が可能になるため可能な限り作成してください。

J-SOXの3点セットの作成に関しては、こちらの記事でも詳しく解説していますのでぜひ参考にしてください。

4.不備への対応の検討

続いて、個々の業務プロセスにおいて明らかになった不備への対応を検討します。対応方法は、前のステップで作成した3点セットのリスクコントロールマトリクスの記載内容を基に検討しましょう。

リスクコントロールには、防止もしくは発見の2つのアプローチ方法があります。上記2つを組み合わせてリスクに対応することで、内部統制の有効性をさらに高められるでしょう。

5.内部統制の報告

内部統制の締めくくりとして、結果の報告書を作成してください。J-SOX(財務報告に係る内部統制報告制度)により、内部統制の報告書は提出および監査が義務付けられています。内部統制報告書に記載するのは以下の5項目です。

  • 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
  • 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
  • 評価結果に関する事項
  • 付記事項
  • 特記事項

(出典:第一号様式|内部統制報告制度相談・照会窓口のご案内|金融庁

期末までに是正が終わらなかった不備についても、報告書に記載して開示しなければなりません。作成した内部統制報告書は、J-SOX3点セットと有価証券報告書を添付のうえ、内閣総理大臣および監査法人宛に提出します。

内部統制を整備するメリット

内部統制を評価するプロセスをわかりやすく解説|目的やメリットも
内部統制の整備のメリットは、以下の5つです。

  • 不正・不備の防止と速やかな発見・是正が実現する
    社内の規則や業務の公正性を定期的にチェックすることで、不正や不備を牽制します。不備・不正の発見・是正も速やかに行えるため、クリーンな企業運営の実現が可能です。
  • ワークフローが見直せる
    業務内容の手順の可視化は、ワークフローの見直しに繋がります。無駄な業務を省けるため、不要なコストや担当者の負担を軽減できるでしょう。
  • 業務の効率化が図れる
    各プロセスの問題点や課題が明らかになるうえ、チェック体制も整備されるため業務の効率化が図れます。財務状況の確認が容易になり、スピーディーな経営判断ができるでしょう。
  • 職場の環境改善が見込める
    企業体制の透明性の確保や社内規定の統一が進み、職場の環境改善が可能です。コンプライアンス意識が高い職場は働きやすいため、社員のモチベーションを向上させる効果もあります。
  • 社会的信用の損失を防げる
    不備や不正を見逃すと、刑事事件や民事事件に発展しないとも限りません。定期的に経営や財務状況を外部へ公開すれば、自浄作用が期待できるだけでなく社会的信用の損失も防げるでしょう。

内部統制は煩雑な作業をともないますが、上場企業だけでなくあらゆる企業にとって得られるメリットが大きいと言えます。

まとめ

内部統制の評価は、実施基準に基づく業務プロセスを踏み報告書にまとめて期末までに提出しなければなりません。上場企業以外には内部統制報告書の提出は義務付けられていませんが、クリーンな体制作りや今後の発展を目指すのであれば作成が推奨されます。

各業務プロセスの評価をスムーズに行う手段のひとつとして、バックオフィスツールの見直しを図ってもよいでしょう。マネーフォワード クラウド会計Plusなら、情報の一元管理と業務フローの整備が可能です。上場準備や維持にも対応できますので、ぜひ導入をご検討ください。

よくある質問

内部統制とコンプライアンスの違いは?

内部統制とは、公正かつ効率的な企業運営のための枠組みを整えるプロセス全般を指します。一方コンプライアンスは、法令や社内規定および社会のルールの遵守を目的とする内部統制の手段のひとつです。

内部統制を評価するプロセスは?

内部統制の評価は以下のプロセスで実施します。

  1. 全社的な内部統制の評価
  2. 決算・財務報告に係る内部統制の評価
  3. その他の業務プロセスに係る内部統制の評価
  4. 不備への対応の検討
  5. 内部統制の報告
内部統制の評価にはトップダウンシステムが用いられるため、はじめに全体を評価したうえで各プロセスへと移行します。


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