• 更新日 : 2024年7月16日

計画的偶発性理論とは?5つの行動特性と企業導入のメリットを解説

計画的偶発性理論は、明確な目標をあえて設定しないキャリア理論です。この理論では「予測不能な出来事に柔軟に対応することが、結果的にキャリア形成につながる」と考えます。

本記事では、計画的偶発性理論の概要、キャリアアンカー理論との相違点、偶然の出来事を味方にできる行動特性、会社への導入方法等を紹介します。

計画的偶発性理論とは?

計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)とは「予期せぬ偶然の出来事への柔軟な対応が、結果的に自身のキャリアを築く」という考え方です。1990年代にアメリカで提唱されたこの理論は、ビジネス環境の変化が著しい現代にマッチするものとして注目されています。

クランボルツ教授の調査

計画的偶発性理論は、1999年にスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授により発表されたキャリア理論です。

クランボルツ教授の調査によると、キャリアのターニングポイントが「予期せぬ偶発的な出来事」だった人は多く、成功を収めたビジネスパーソンの8割にのぼることが判明しました。つまり、多くのビジネスパーソンは自身が思い描いていたキャリアではなく、予期せぬ出来事により軌道修正されたキャリアで成功したことになります。

この結果により、クランボルツ教授は偶発的な出来事の重要性に注目し「偶発的な出来事への柔軟な対応が、より良いキャリア形成につながる」という計画的偶発性理論を提唱しました。

計画的偶発性理論の3つの軸

計画的偶発性理論では、次の3つの考えが軸となっています。

  • 予期せぬ偶発的な出来事がキャリアに影響を与える
  • 偶発的な出来事への柔軟な対応が、新たなキャリアを開くことがある
  • 偶発的な出来事に出会うチャンスは、積極的に行動することで増加する

偶発的な出来事には、キャリアアップのチャンスが潜んでいることがあります。

予想外のことがことが起きても、それに向き合い、柔軟に対応することで、キャリアの選択肢が増えることもあるでしょう。そして偶発的な出来事は、ただ待っているだけでなく、積極的・計画的に行動することで、遭遇する機会が増えるのです。

キャリアアンカー理論との違い

計画的偶発性理論とよく対比されるものが「キャリアアンカー理論」です。

キャリアアンカー理論とは、能力や価値観等から明確な目標を設定し、それに向かって知識や経験を積み重ね、目標の実現を目指すものです。

これに対し、計画的偶発性理論では、明確で固定的な目標はあえて定めず、将来の可能性の幅を、より広く取ります。そして、周囲で起きる偶発的な出来事からチャンスを得て、行き先を軌道修正しながら、より良いキャリアを作っていくというものです。

計画的偶発性理論が注目されている背景

計画的偶発性理論が注目されている理由には、終身雇用制の減少や環境の変化、技術の進歩といった要因があります。以下で、それぞれの内容を解説します。

終身雇用制度が少なくなってきている

日本において従来は主流だった終身雇用制は、大きく減退しています。

終身雇用制のもとでは、入社から定年までのキャリアを、ある程度、見通すことができました。従業員は会社に守られて働き、大きな不祥事を起こさない限り、定年まで同じ会社で就業できたわけです。

しかし終身雇用制が減退した現在、定年まで雇用されるとは限りません。そのため「会社での明確なゴール」が設定しづらくなっています。

こうした理由から、固定的で明確なゴールをあえて定めず、周囲で起きる偶発的な出来事を味方につけて、自らキャリアの可能性を広げる必要が出てきました。

コロナ禍といった環境の変化

コロナ禍、急激な物価上昇、円安等、近年の社会情勢は大きく変動しています。今後も、自然災害や国際情勢など、何が起きるかわからない世の中です。予想もしなかったコロナ禍によりテレワークが普及し、働き方自体が大きく変わったように、これからもビジネスを取り巻く環境は変化を続けるでしょう。

こうした時代に対応するには、変化を不運と考えず、キャリアアップのチャンスと捉える考え方が必要です。そのため、予測不能な偶発的な出来事を重視する計画的偶発性理論が注目されています。

テクノロジーの変化

デジタル技術の急速な発達により、従来型のビジネスが変わりつつあります。現在は成功しているビジネスでも、10年後は大きく衰退したり、なくなっている可能性すらあるでしょう。

そのため、固定的な将来の目標に捕らわれず、現在、周囲で起きている変化を敏感に感じ取り、偶発的な出来事を利用しながら、時代の流れにうまく乗っていく必要があります。

計画的偶発を起こすために必要な行動特性

偶発的な出来事をキャリアアップの糧にできる人には、5つの特徴(好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心)があるといわれています。ここでは、計画的偶発を起こすために必要な行動特性について確認しておきましょう。

未知のものに興味を持ち続ける(好奇心)

計画的偶発性理論で重視される行動特性の一つは「好奇心を持ち続けること」です。

知らないものに興味を持ち、新しい知識や経験を求め続けることは、チャンスの拡大につながります。また、未知の場所に行ったり、知らない人に会ったりすれば、偶発的な出来事に遭遇するチャンスも増えるでしょう。

失敗にめげずに努力する(持続性)

持続性があることも、計画的偶発性理論では大切な特性です。たとえ失敗することがあっても、持続的な努力を続けることは、知識やスキルだけでなく、忍耐力も増強します。

また失敗の原因を解明し、解決策を模索する過程で新たなスキルを身につけ、新しい分野に出会うこともあるでしょう。

物事に肯定的に接する(楽観性)

偶発的な出来事の中には、一見、不運に見えるものもあるでしょう。しかし、そうしたことから目を逸らせば、その出来事に潜むチャンスを見い出せません。

どのような出来事も肯定的に捉え「これはチャンスだ」と楽観的に接することは、偶発的な出来事をキャリアにつなげるカギなのです。

指摘や改善を素直に受け入れる(柔軟性)

物事を進めていると、他人に問題点を指摘されたり、改善策を示唆されたりすることもあるでしょう。そのとき、自分のやり方に固執せず、問題点や改善策を聞き入れ、理解し、必要に応じて取り入れていく柔軟性は、計画的偶発性理論でも重視されます。

柔軟性があれば、予期せぬ偶発的な出来事も抵抗なく受け入れ、その中からチャンスをつかみ、その後のキャリアに繫げることもできるでしょう。

リスクや恐怖に打ち勝って挑戦する(冒険心)

未知の領域には、プラスになる出来事ばかりではなく、失敗するリスクや不利益が存在するかもしれません。

しかし、リスク回避を重視し、行動を起こさなければ、偶発的なチャンスを得ることもなく進歩がないまま停滞してしまうでしょう。偶発的な出来事をキャリアアップにつなげるためには、あえてリスクを取りながら、未知の物事に挑戦する冒険心が必要です。

計画的偶然性におけるポイント

計画的偶発性理論では、偶然の出来事が新たなキャリアにつながるとしています。偶然の出来事には、どのように向き合うべきなのでしょうか。

キャリアのターニングポイントの8割は偶然の出来事が影響

先に述べたとおり、クランボルツ教授の調査によると、成功者のキャリアにおけるターニングポイントの8割が「偶然の出来事」に起因するものでした。つまり、偶然の出来事により、その後のキャリアが開かれたわけです。

環境や社会情勢が変動している現代は、従来より偶然の出来事が起きやすくなっています。

偶然の出来事は自らの行動・努力によってキャリア展開につながる

偶然の出来事に対し、受け身で接するだけでは、その後のキャリアにはつながりません。
クランボルツ教授が調査したビジネスパーソンは、予期せぬ偶然の出来事に向き合い、適確に対応したからこそ、その出来事をターニングポイントにできたのでしょう。

偶然の出来事を将来のキャリアにつなげるためには、その出来事に能動的に対応し、困難があれば努力して解決していく姿勢が重要です。

挑戦を続けることでチャンスが増える

多くのことに挑戦した方が、ただ待っているよりも、偶然の出来事に遭遇しやすくなります。新しいことを学ぶ、知らない場所に行ってみる、多くの人に会うといった行動により、チャンスは増えていくでしょう。

未知のものにはリスクもありますが、リスクを恐れず挑戦を続けることが、より多くの偶然の出来事、ひいてはその中に潜むチャンスをつかむことにつながるはずです。

計画的偶発性を社内に浸透させるには?

計画的偶発性理論の考え方を会社に取り入れ、浸透させるには、どのような方法で実施すればよいのでしょうか。以下で、代表的な方法を紹介します。

職場環境・雰囲気を改善する

日々の業務の中、予期せぬ偶然の出来事が起きると、場合によっては「不運」と感じるかもしれません。しかし偶然の出来事は、新しいアイデアのきっかけでもあります。

偶然の出来事を避けず、むしろチャンスと捉え、積極的に対応する職場環境を作ることは、計画的偶発性理論を浸透させる要因の一つでしょう。

計画的偶発性理論について周知する

計画的偶発的理論の考え方を社内に浸透させるには、従業員に「偶然の出来事の重要性」を理解させることが近道です。

従業員に「どのようなきっかけで入社したか」「そのきっかけはどこで・どのようにして得たものか」などを考えてもらい、偶発的な出来事の影響力を再確認してもらいましょう。その上で計画的偶発性理論について説明すれば、理解がより深まると考えられます。

変化や失敗を積極的に許容する

挑戦を続けることや、失敗してもめげずに継続することは、計画的偶発性理論で重視される特性です。こうした特性を育てるには、失敗しても挽回できる職場環境の整備が有効でしょう。

具体的な方法としては、失敗したことを責めず挑戦したことを評価する風土作りや、同僚や上司によるフォロー体制の強化などが考えられます。

チャンスの提供を積極的に行う

偶然の出来事は、自分から積極的に動くことで、遭遇するチャンスが増加します。従業員の行動範囲を広げ、新しい挑戦がしやすいよう会社が支援すれば、従業員はより多くの偶発的な出来事を体験できるでしょう。

方法としては、外部のセミナーやワークショップなどへの参加を促進したり、ボランティア活動を奨励したりすることなどが考えられます。

ジョブローテーションを導入する

従業員に普段と異なる仕事をさせてみることも、偶然の出来事を起こす誘因になります。それにはジョブローテーション制度が有効です。新しい知識やスキルを得るだけでなく、これまで知らなかった分野への興味や更なる探求心が生じ、その後のキャリアが広がるかもしれません。

キャリアアップは偶然の出来事から

計画的偶発性理論は「偶然の出来事がキャリアに影響する」という考え方です。

「あらかじめ明確な目標を設定し、経験を積み重ねて実現する」という従来のキャリア理論に対し、計画的偶発性理論では明確な目標を定めず、偶然の出来事への柔軟な対応が経験や人脈を増やし、より良いキャリアにつながるとしています。

変化が多く、偶然の出来事が起きやすい現代、計画的偶発性理論は注目を集めています。


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