• 作成日 : 2022年10月26日

【第三回】 グロースするスタートアップ必見!経営数字を現場へ浸透させるための3つのポイント

本記事は2022年7月20日に開催したイベント「グロースするスタートアップ必見!経営数字を現場へ浸透させるための3つのポイント」の概要をまとめたものです。
本記事は第1回〜第3回の連載の第2回です。公認会計士であり、管理会計ラボ株式会社の代表の梅澤 真由美氏が、すぐに使える経営管理の実践方法について語ります。
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はじめに

今回は事業部門の方にフォーカスし、経営数字を現場へ浸透させるポイントをお話しします。

現在私は社外役員も務めております。その経験や知識を踏まえ、具体的なエピソードも交えながらお伝えしていこうと思います。

第一回は「創業からIPOまでの経営管理のポイントと対策」、第二回は「スタートアップが取締役会に提出する財務資料作成のポイント」についてお話ししました。今回は「現場」にフォーカスし、予測、インフラづくり、コミュニケーションの3つをお話しします。

1.予測

予測の位置づけ

今回は予算と予測の違いを中心に見ていきたいと思います。予測とは、予算と実績の間にある行動計画だと考えてください。

年度が始まる前に立てる、達成したい目標のことを予算と言います。予算は1度立てると基本的には変更しません。また実績とは月次決算後に確定する毎月の結果であり、コントロール不能です。この実績と予算の2つは固定的という性質がありますが、予測だけが刻一刻と変化します。

なぜ予測は変化するのでしょうか?

その理由は2つあります。1つ目は予算と「見込み」である予測とを比較した際に、発生する差を踏まえ、挽回策を考えるため。2つ目は実績が確定した月次決算後に、行動計画(予測)通りに結果が出ているかを踏まえて予測の見直しをするためです。予測のフル活用が予算達成のためのPDCAの鍵です。絵に描いた餅の予算と結果に過ぎない実績だけでは、業績を改善することができません。

予測の役割

予測の役割の一つに「業績をコントロールすること」があります。会社は予算との比較を通じて、予算の達成可能性を上げることがゴールなのです。また行動計画の修正や業績予想の修正(予算の修正)など、経営陣が「今回」の「予測」を何に使うかに留意することが必要です。さらに予測は「予算の達成を助けるツール」という役割を持っています。

予測作成の頻度は、特に上場会社ですと四半期ごとが一般的です。ただし、まだ規模が小さい場合は年度決算の3ヶ月前など、必要なタイミングでできることを目指しましょう。

将来が遠くなればなるほど、会社にとっては見積りが難しくなります。予測は見積もりの要素が多くあるため、急激に精度を上げることは非常に大変なんです。手数もかかりますから、まずは上記のような点から押さえていただければよいと思います。

予測の実務

予測を作る際の流れは、年初に作った予算に対して必要な修正をかけるという形で更新をしていきます。つまり、初回の予測は予算をベースに、以降は前回予測をベースに更新します。

今回の結果=前回までの結果+今回の変更点」です。予測を作成する際の進め方としては、フォーマットや仕組みは予算を活用し、かつメリハリをつけることが重要です。

しかし、多くの方は予測の作成に時間がかかりすぎてしまいます。予測の本当の価値は、予測数字作成後にあるということをぜひ意識してください。

この時のポイントは、予測の役割をもとに目指すスピードと精度を決め、その上で勘定科目(期間ごとに分ける場合もあり)ごとに、更新方法(担当部門、根拠情報)を決めるということです。当然、精度高く予測を作成しようとすると、スピードが落ちますよね。ですから、このスピードに合うようにするにはどのようなやり方をしていけばいいのか、精度の方を後から考えるようにしてください。

重要科目は掛け算・足し算

予測を作る際にはぜひ予算内訳の持ち方をフル活用してください。前回もお伝えした、足し算型と掛け算型の枠組みを予測作成時も使用することができます。

足し算型
・ほとんどの項目に当てはめ可能
・事業別、エリア別、種類別
・切り口はいろいろ、各部門の行動計画に沿ったもの
・例 売上=Aエリア+Bエリア
   広告宣伝費=TV、交通広告、インターネット

掛け算型
・KPIの最有力候補
・価格×数量が基本形
・例 売上=客単価×客数(小売業)
   売上=ARPU×ユーザー数(webビジネス)

この足し算型、掛け算型を使用することで修正すべき変動費やKPIの項目を絞り込むことができます。予算作成時に使用した枠組みをそのまま予測作成時に使用することで、各部門の方にも修正箇所をピンポイントでお願いすることが可能になります。

予測は、客観的な予想でなければなりません。なぜならば、予算との比較によって現在の施策の確認をするためです。この予測の数字が正しいかどうかを判断するためには、皆さんの業務知識が必要になります。

リスクヘッジ

予測は予想の塊ですから、完全に当たる訳ではありませんし、一つに集約することも非常に難しくなります。しかし、唯一業績をタイムリーにコントロールするために役立つのが予測です。ではどのようにその不確実性の対処をしているのでしょうか。
実務では大きく「複数シナリオ」と「機会リスク情報」という二つのリスクヘッジのやり方がとられています。

一つ目の「複数シナリオ」は複数のシナリオを作るというケースです。成果物は3種類のPL(楽観・中立・悲観の3種が一般的)で、留意点としては手数がかかることや対象リスク項目が少ないということが挙げられます。

二つ目の「機会リスク情報」は成果物はリスク機会項目とその影響額(利益)のリストです。この機会リスク情報の留意点はPL各科目への影響が見えないという点です。

予測は工夫次第で各事業部門の負荷を変えることができます。会社経営に与えるインパクトが大きいものになるため、ぜひ今回の話を参考に工夫してみてください。

2.インフラづくり

管理会計の仕組みのポイント

管理会計制度会計と異なり、管理しなければならない数字が多くなります。その際のポイントは大きく3つです。

1つ目は「運用し続けられる仕組みが、『実務』では重要」ということです。経営者やビジネス部門の期待には質とスピードで応えましょう。また手数が最小限であることも重要です。

2つ目は「鍵となる管理会計データを特定すること」です。「2:8の法則」をご存知でしょうか?
8割も厳しい場合は5割を目指すところから始めてみてください。とにかく完璧は目指さないということ、そして実績のデータを整理し深く理解しましょう。予算と予測は実績を理解した後です。

最後に「鍵は、『一元化』と『くり返し』」です。前回予算作成の際もお伝えしましたが、社内でよく使うものは一元化し、データとしてすぐに取り出すことができるようにしましょう。

管理会計用ファイル体系

よく使うデータは会計システムの外でデータベース化すべきです。データベースの情報を引用する形で報告用資料を作成しましょう。意識していただきたい点は、2つです。

まず1つ目は、よく使うデータについては、中身を取り出しやすい形で管理しましょう。下記の表の中央のデータベースに該当します。先ほどもお伝えした掛け算・足し算や売上の内訳などはデータベースという形でスプレッドシートやExcelで作成して用意しましょう。

2つ目は、中身と箱を整理して分けて考えるということです。
報告用資料の部分に該当します。同じKPIでも経営者と事業部門側に提出する際に、その情報の名称が違うということがあると思います。その場合は一つのデータベースを所持し、見せる場合のテンプレートのみを提出する相手ごとに用意します。そしてそこにデータを流し込むという形で、Excelやスプレッドシートを構成されるとよいでしょう。

会計システムデータベース報告用資料
媒体システムスプレッドシートスプレッドシート
機能保管保管表示
データ量非常に多い中(高頻度利用分のみ)ごく少(必要分のみ)

会計との連動

会計との連動で注目していただきたいポイントは2つあります。
1つ目は「制度会計と管理会計の最終利益は一致するのがベスト」ということです。特に「制管一致」を意識してください。視点が異なるため段階利益は異なっていて構いません。また原価計算を採用していると相違を避けることができない場合もあります。先ほどもお伝えした足し算型、掛け算型の考え方は勘定科目を分解した話になります。つまり、勘定科目に繋がるように管理会計を設計されると制度会計とバラバラになりにくくなります。

2つ目は「会計システムとの連動した仕組みづくり」です。会社は業績で評価されますが、業績は制度会計上の利益です。ですからメインと前提は制度会計におくようにしましょう。また業績(制度会計上の利益)を、数字で説明できることを目標にしてください。仕組みは一度作ってしまうと作り直す手数が大きくなってしまいますから、最初から意識して会計システムとの連動した仕組みづくりに取り組んでみてください。

各部門の帳票や方法

期限遵守、取り組み主体性や理解の観点から、各部門のフォーマット形式は、空欄PLでない方が望ましいです。
前回もお伝えしましたが、部門で既に使っている区分を採用し、空欄PLの代わりに、内容がわかるフォーマット(内訳明細)がおすすめです。全ての情報も行動も各部門起点ですから、まずは相手の概念を活用し、レベルを合わせましょう。勝手に経営管理側で概念を作成してはいけません。ぜひ、内容を精査するためにも経営管理の方は理解をしていただくことが必須になってきます。

ということで、やはり各部に負担をかけないためには、なるべく複雑にしないということが、帳票も考え方もポイントになってきます。複雑ではない方が経営管理の方にとってもメリットが大きいですし、経営者、社外の方にとってもわかりやすいです。仕組みづくりにおいては、極力シンプル、そして制度会計よりということを黄金律として押さえておいてください。

3.コミュニケーション

各部とのコミュニケーション

コミュニケーションをする際はタイミングごとに目的を意識してください。コミュニケーションすべき内容とタイミングは以下の表の通りです。

種類内容タイミング
情報収集全体像予算作成
数字への影響要素(内部要因、外部要因)や背景予測作成・月次決算分析
課題解決中長期の課題解決予算・予測・月次決算分析のあいだ=月の下旬と頭

上記のように情報収集と課題解決を繰り返していくことで「予算のスリム化(クッションの削減)」と「コスト削減(抵抗がある依頼への協力)」が効果として現れます。コミュニケーションは基本双方向のものですから、「フィードバック」を必ず実施するようにしてください。

各部との協力関係づくり

各部門から提出された予測や予算の数字をもって、経営者に報告に行かれると思いますが、どのようにすれば各部門の方々が協力したくなるのでしょうか。

経営者に対する「各部門の評価を上げる」という視点がポイントです。経営者との関係を活用して、経営者の意向や嗜好に合わせた実践支援や経営者に各部門成果のアピール代行をしていきましょう。また各部の流儀を活用したり、個別案件の事情の考慮(例 予算カット時)といった管理会計部門の裁量の活用を意識してください。さらに勘定科目名などの「会計語」で話さず、置き換えて話すことが大切です。

本日のまとめ

経営数字を現場へ浸透させるために、どのように経営管理に結び付けていくのかをお話しました。実務的なまとめとしては3点です。
1つ目は「予測は業績をコントロールする手段」であり、予算目標とは別であるということ。そして2つ目は「『ありもの』活用で、現場の負担を減らす」ということです。制度会計や会計システム、各部門の考え方や帳票も活用してください。最後に管理会計のゴールは最終的には制度会計の業績利益になりますから、「管理会計のゴールは、制度会計にあり」ということを理解してください。

3回に渡ってお話をさせていただきましたが、皆様の明日からの実務に一つでも多く役に立つヒントがありましたら幸いでございます。

『【第三回】 グロースするスタートアップ必見!経営数字を現場へ浸透させるための3つのポイント』詳しくはセミナーアーカイブ動画で!

以下よりアーカイブ動画をご覧いただけます。

主な内容

  • 予測
  • インフラづくり
  • コミュニケーション

「管理会計ラボ オンラインスクール https://school.accountinglabo.jp/


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