• 更新日 : 2023年10月4日

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説

企業が成長するためには、資金の調達が重要です。その中でも、企業と関わりのある第三者から資金を調達する第三者割当増資があります。第三者割当増資を利用すると資金調達できますが、手法を利用する目的や手続きの流れについてなどわからない点もあるでしょう。

本記事では、第三者割当増資の手続き方法や利用するメリット・デメリットについて解説します。今後、第三者を株主として資金を調達したいと考えている企業はぜひ参考にしてください。

第三者割当増資とは

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を有償で発行し、資金を調達する方法です。

通常、第三者には取引先や自社の役員など企業と関わりの深いものがあてはまります。関わりの深い企業との安定した関係を保つときや、経営再建の際などに利用される増資です。

公募増資との違い

公募増資とは、新株を発行するにあたり、さまざまな株主を募る資金調達方法です。

新株を発行して株主を募る点は第三者割当増資と同じですが、公募増資は株主となる対象が不特定多数となります。公募増資では、不特定多数の株主から資金を募れるため多額の資金を集められるという点がメリットです。

一方、株式が企業とは関わりのない株主に渡ることによって経営権が移るリスクがあります。

第三者割当増資の目的

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説

第三者割当増資を行う目的は、主に以下3つが挙げられます。

  • 資金調達
  • M&A
  • 他社との関係強化

第三者割当増資は、一般的には企業の事業拡大に必要となる資金調達のために利用されます。

しかし、新株を発行して株主が一定の割合の株式を取得できることから、M&Aや後継者問題を解決したい企業が利用する場合もあるのです。

また、企業と関わりのある第三者に株主になってもらうため業務の提携だけでなく、資本提携やさらなる事業の拡大など他社との関係をより強化するためにおこなわれる場合もあります。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
第三者割当増資のメリットは、主に以下の4つです。

  • スピーディーに資金を調達できる
  • 事業規模を拡大できる
  • 引受先との関係を強化できる
  • 返済義務がない

それぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。

スピーディーに資金を調達できる

第三者割当増資を利用すると、スピーディーに資金を調達できます。

通常手続きには取締役会議決で詳細な内容を決定しますが、会社と第三者が協力できる関係にあるため、手続きがスムーズにおこなえるからです。

スピーディーに資金を調達できると、企業が事業を早く進められるといった利点があります。事業を早く進められることで、得られる利益スピードも早められるでしょう。

事業規模を拡大できる

企業と関係のある株主を割り当てられることで信用力が向上し、さらなる投資の強化が可能です。

通常、事業を拡大する際はさまざまな株主を公募して資金を調達します。しかし、通常公募で募った株主とは信頼関係が成り立っていないため会社運営に悪影響を及ぼす可能性もあるのです。

一方で、第三者割当増資で募った株主は関係が良好な相手なため取引が円滑に進みます。良好な関係が保てれば、投資を強化でき、事業規模の拡大にもつながるでしょう。

引受先との関係を強化できる

引受先との関係を強化できる点も、メリットです。

第三者割当増資では、株主は取引先や会社の役員などに引き受けてもらいます。企業の議決権を所持してもらうことで、引受先との関係強化が期待できるのです。また、株式付与の相手を選べるため、安定的な経営が可能になります。

公募増資の場合は、引受先がどの企業になるか分からず、意図しない企業が株主になる可能性もあるため、経営権が移ってしまう心配もあるでしょう。

返済義務がない

第三者割当増資では、出資してもらった資金の返済義務はありません。

銀行からの融資や社債の発行などの資金調達では元本と利息の返済が求められますが、新株を発行して第三者に株式を取得して資金を集める場合、お金ではなく事業で得た利益を配当金という形で株主に還元します。

資金返済に悩む必要がないため業績を上げることだけに専念できます。

第三者割当増資のデメリット

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
第三者割当増資のデメリットは、主に以下の3つが挙げられます。

  • 100%の議決権を獲得できない
  • 既存株主の保有割合が下がる
  • 税負担が増加する

それぞれの特徴について、見ていきましょう。

100%の議決権を獲得できない

第三者割当増資では、既存株主の株式が残留するため100%の議決権を獲得できません。

一部の株式の議決権は取得できますが、グループ法人税制のように100%の議決権は確保できない仕組みとなっています。

100%の議決権を獲得できないと、ガバナンスが低下しすぐに経営判断ができないといったデメリットが生じます。

既存株主の保有割合が下がる

新株を発行すると株式は増加するため、既存株主の株式の価値が下がり、株式が希薄化することは第三者割当増資のデメリットでしょう。

例えば、5億円の利益があり、株式総数が5,000株だった場合、1株あたりの利益は10万円となります。しかし、新株5,000株を新たに発行した場合、1株あたりの利益は5万円となるため利益は下がってしまうのです。

保有割合が下がると必要な議決権を獲得できなくなったり、株主との関係が弱化したりする可能性が高まるでしょう。

税負担が増加する

第三者割当増資は、基本的には税金が発生しませんが、長期的にみると税負担が増加する可能性があります。

課される税負担は、地方税の中の法人住民税です。法人住民税は損益に関係なく、資本金に応じた均等割があります。

例えば東京都下の場合、資本金1,000万円以下の都道府県民税は2万円ですが、資本金が1,000万円超〜1億円以下になると5万円まで負担が増加するのです。

均等割以外にも、外形標準課税の対象になったり、中小企業だけが利用できる税制が使えなくなったりする可能性もあります。

参考:総務省|地方税制度|法人住民税

第三者割当増資の手続き

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
第三者割当増資の手続きは、以下の手順で行います。

  1. 募集事項を決定する
  2. 通知または公告を行う
  3. 総数引受契約を締結する
  4. 払い込みを行う
  5. 登記変更の手続きを行う

それぞれの手続き項目について、詳しく見ていきましょう。

①募集事項を決定する

第三者割当増資をおこなうためには、募集事項の項目を取締役会または株主総会の特別決議で決定します。

  • 募集事項の項目は、以下の通りです。
  • 募集する株式の数
  • 株式の払込金額と算出方法
  • 現物出資の内容もしくは金額
  • 払込期間や払込期日
  • 増加する資本金や準備金

募集事項を決定するためには、特別決議に株主の半数以上が出席し、2/3以上の株主から賛成を得なければ可決できません。

②通知または公告を行う

次に、第三者割当増資の対象となる企業もしくは個人に決定した募集事項を通知または公告します。企業は、割り当てる株式数や払込金額などを発行決議後2週間前までに通知または公告する必要があるのです。

また、募集または売出しの届け出をしている場合は通知または公告は不要になります。

③総数引受契約を締結する

株主に通知または公告後、企業は総数引受契約の締結を行います。総数引受契約とは、発行された株式を1人もしくは複数の方に全て付与するという内容の契約です。

④払い込みを行う

新株の株主は、金銭もしくは現物出資のどちらかで払い込みをおこないます。払込期日までに払い込みをしなかった株主は、株式の権利を失うため払込期日までに必ず払い込みを行いましょう。

⑤登記変更の手続きを行う

企業は、払込期日までに法務局にして登記の変更の手続きをおこなわなければなりません。具体的には、登記免許税の支払いと書類の提出の手続きが必要です。

登記変更の手続きは、効力が発生する日から2週間以内となります。

第三者割当増資の株価の決め方

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
第三者割当増資の株価の決め方は、主に3つあります。

  • マーケット・アプローチ
  • インカム・アプローチ
  • コスト・アプローチ

それぞれの株価の決め方の特徴について、順にみていきましょう。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、市場株価をもとに対象となる企業の株価を評価する手法です。株価の決定方法は、比較対象となる企業の決済書などの数値に係数を乗じて決定します。

マーケット・アプローチは、市場株価をもとに株価を決定するため公正に評価できる点がメリットです。

一方で、市場株価に波がある場合や対象となる企業が少ない場合は、適正な価格の表記ができないデメリットもあります。

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、対象となる企業の事業計画をもとに株価を評価する手法です。対象となる企業が将来的に得られる利益などを見越して、株価を決定します。

さまざまな要素をシミュレーションして総合的に判断できるため、柔軟に株価を決定できるのがメリットです。

しかし、企業側が将来性のビジョンを決定するため主観的に評価してしまい信用性に欠けるデメリットもあります。

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、企業の純資産の時間評価額をもとに株価の評価をおこなう手法です。評価対象となる企業が事業をおこなう際のコストに着目して、株価の価値を決定します。

純資産の評価額をもとに、株価の価値が決定するため評価がしやすいのがメリットです。一方で、過去の純資産をもとに評価をおこなうため将来の利益が評価されないデメリットもあります。

第三者割当増資の株価に与える影響

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
ここでは、第三者割当増資の株価に与える影響について解説します。

株価にプラスの影響を与える場合

第三者割当増資を利用すると株価にプラスの影響を与える場合があります。

株価にプラスの影響を与える場合は、以下の通りです。

  • 企業の成長が期待される場合
  • 上場廃止の懸念が払拭された場合

プラスになる要因として、市場が第三者割当増資を行った企業に将来性を感じられた場合に株価がプラスになる傾向があります。

株価にマイナスの影響を与える場合

一方で、第三者割当増資において、株価にマイナスの影響を与える場合もあります。

株価にマイナスの影響を与える場合は、以下の通りです。

  • 株式が希薄化した場合
  • 増資をおこなう理由がネガティブな場合

市場が第三者割当増資をおこなった企業に対してマイナスなイメージを持った際に、株価がマイナスになる傾向があります。

第三者割当増資が株価に影響を与えた事例

第三者割当増資とは?目的や手続きの流れ・事例をわかりやすく解説
第三者割当増資が株価に影響を与えた事例として、エムスリーによる第三者割当増資について紹介します。

エムスリーは、2019年2月にM&Aの資金調達のため第三者割当増資を利用しました。資金調達は約502億円となり、発行株式はNTTドコモとソニーです。

株価は、2019年3月1日現在、前日比37円高の1,883円で推移し、一時期は1,945円になるなどプラスの影響を与えております。

まとめ

第三者割当増資は、企業と関わりのある第三者に新株を発行して、資金を調達する方法です。また、企業は資金調達できるだけでなく、第三者と良好な関係を築けるのもメリットでしょう。

しかし、株主が出資金に適した利益が得られない場合は信頼を失う可能性もあります。第三者割当増資を利用する場合は、出資に関する詳細な内容を決定しておく、登記手続きの準備を事前にするなど計画を立ててから申請するようにしましょう。

よくある質問

第三者割当増資とは

第三者割当増資とは、企業が新株の発行を行い第三者に株式を割り当てる権利を与えて資金を調達する方法です。資金の調達だけでなく、第三者との関わりをより強固にする際に利用される場合もあります。

第三者割当増資を行うメリットは?

第三者割当増資では、企業と関わりのある取引先を第三者に選出できるため、新株を株主総会で発行できスムーズに資金を調達できます。 また、プロジェクトが成功した際は得た利益を配当金として株主に還元するため、お金を借りる際に発生する元本や利息などの返済は必要ないのです。

第三者割当増資のデメリットは?

第三者割当増資を行うデメリットは、新株を発行すると発行済株式総数が増え、既存株主の持株比率が低下する点です。持株比率が低下すると、意思決定の際に影響が及ぶ可能性もあります。


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