• 更新日 : 2024年7月17日

知的財産デューデリジェンス(知財DD)とは?目的や手順などの全体像を解説【テンプレート付き】

知的財産は企業の競争力の源泉であり、デジタル技術の進展によってその重要性はますます高まっています。言い換えれば、他社や自社の知的財産の評価や現状を見誤ると、思いもよらないリスクを招いたり、突然競争力を失ったりする事態になりかねません。

そこで、知的財産デューデリジェンス(以下、知財DD)により、知的財産を適切に評価することが重要です。本記事では、知財DDの目的や実施手順、注意点について解説します。

知的財産デューデリジェンス(知財DD)とは

まず、知財DDの目的や、知的財産が示す対象範囲について解説します。

知的財産について

知的財産は大きく「知的創造物についての権利」と「営業上の標識についての権利」に分けられます。知財DDが対象とするのは主に「知的創造物についての権利」全般と「営業上の標識についての権利」における商標権です。

それぞれの具体的な権利は下記のとおりです。

知的創造物についての権利

  • 特許権:発明を保護
  • 実用新案権:物品の形状等のアイデアを保護
  • 意匠権:物品、建築物、画像のデザインを保護
  • 著作権:文学、美術、音楽等の精神的作品を保護
  • 育成者権:植物の新品種を保護
  • 回路配置利用権:半導体集積回路の配置の利用を保護
  • 営業秘密:ノウハウや顧客リスト等を保護

営業上の標識についての権利

  • 商標権:商品・サービスに用いるマークを保護
  • 商号:商号を保護
  • 商品等表示:周知・著名な商標等を保護
  • 地理的表示:産地と結びつく産品の名称を保護

商号・商品等表示・地理的表示を除くすべての権利を対象に、知財DDが実施されます。

知財DDの目的

知財DDの目的は、通常のM&Aで行われる法務DDや財務DDなどと同様、リスクの抽出と価値の算定です。

具体的には、次の2点が知財DDの目的として挙げられます。

  1. 上記のような知的財産を分析し、違反などのリスクを抱えていないか洗い出すこと
  2. 知的財産の価値を算定すること(自社の知的財産とのシナジーも含む)

法務DDや財務DDなどについては、下記の記事をご参照ください。

知財DDの進め方

ここでは、知財DDを実際に行う手順と、リスクへの対応策、知財の価値算定におけるポイントについて解説します。

知財DDの手順

知財DDであっても、ほかのDDと同様のステップで実施します。具体的な手順は下記のとおりです。

  1. 対象範囲の選定と調査方針の策定
  2. 資料の開示請求および公開されている知財データベースとの突合
  3. 資料の精査およびQAシートでの内容確認
  4. マネジメントインタビューおよび現地調査
  5. リスク分析および価値算定
  6. 報告書作成

通常のDDと異なるのが、知財データベースとの突合が必要となる点です。知的財産は特許庁のデータベースなどに特許が公開されているため、知財DDの対象企業が主張する知的財産の一覧が本当に正しいかどうかを確認しなければなりません。

リスク分析と対応策

前述したとおり、知財DDの目的はリスクの洗い出しと価値の算定です。リスクについては、相対的に下記の8つに分類され、それぞれ取るべき対応策が異なります。

リスクの高い順に対応方針を並べると次のようになります。

<リスクレベル高:取引への影響>

1. 取引自体の中止(収益の大半を占める特許に違反がある場合など)
2. 取引価格の減額(収益源となる新薬の特許が間も無く切れる場合など)
3. 取引手法の変更(知財が膨大にあり事業譲渡における個別同意が困難な場合など)

<リスクレベル中:契約における対応>

4. 実行における前提条件や義務の設定(一部のライセンス等の知財に疑義がある場合など)
5. 懸念されるリスクがないことを表明保証にてカバー(理論的には潜在リスクだが不確実である場合など)
6. 実行後の義務の追加(承継までは不要だが、売買後も一定期間の知財の使用が必要な場合など)

<リスクレベル低:法的拘束力のある対応は不要>

7. 統合後(PMI)で対応すべき事項の検討(各種規程や管理体制に課題がある場合など)
8. 特になし

知財の価値算定における重要観点

知財の価値算定においては、下記の点を重視することが重要です。

  • 保有している知財は何がどの程度存在しているか
  • 保有知財の独占性はどの程度あるか(共同出願特許の割合や、グローバル展開企業における国ごとの出願状況などを精査)
  • 保有知財が競合に対して優位なものになっているか(製品における主要技術の数や権利効力の残存期間などを精査)

つまり、対象の範囲を正確に洗い出したうえで分析を行い、本当に価値があるものかを見極める必要があります。分析には客観性や明確な根拠が求められるため、共同出願特許の割合や製品ごとの主要技術数などの定量的な指標を用いて評価しましょう。

知財DDの注意点

知財DDを実施するにあたっては、下記の点に注意する必要があります。

  1. 高度な専門性を必要とするため専門家の協力は必須となるが、時間とリソース、予算のバランスを見て委託範囲を判断すること
  2. 知的財産における誤った理解や先入観による弊害を極力減らすこと

知財という専門的なテーマを扱うことから、弁護士などの専門家に協力を仰ぐ必要があります。しかし、専門性が高いほど費用も高くなってしまいます。したがって、自社のリソースやケイパビリティを総合的に考慮したうえで、専門家への委託範囲を慎重に判断しましょう。

また、知的財産に関して誤った認識がないよう、理解を深めておくことが重要です。特に注意すべきポイントは下記のとおりです。

  • 特許等の知財はグローバルで画一的に保護されているわけではない:基本的に国や地域ごとの出願が必要
  • 特許等があることで必ずしも独占性や競争優位性があるわけではない:申請における範囲による
  • 知財を有することが、自社がそれを使える権利になるとは限らない:特許等は基本的に他人に使わせない権利であるため

これらの点を見誤ると、リスクの洗い出しが不十分となり、価値が実態と大きく乖離した算定結果になるおそれがあります。偏った先入観があるかもしれないという前提のもと、専門家からのアドバイスも受けながら知財DDを慎重に進めることが重要です。

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企業の成長と競争力の維持において、知的財産の適切な管理は不可欠です。特許、商標、著作権など、さまざまな知的財産を保有している場合、それらの許認可・免許・登録状況を正確に把握し、管理することが重要です。しかし、多様な知的財産を整理するのは非常に労力がかかります。

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まとめ

本記事では、知的財産が指す範囲や知財DDの目的、実際に知財DDを行う際のポイントなどを解説しました。知的財産は企業の競争力の源泉であるため、知財DDによってリスクを洗い出し、適切に評価することが重要です。しかし、知的財産について完璧に理解することは難しく、誤った認識をしているケースも少なくありません。そのため、専門家のアドバイスも適宜受けながら、慎重に知財DDを実施しましょう。

本稿で紹介した内容を参考に、自社の知的財産を守り、価値を最大限発揮できるよう知財DDへの理解を深めてください。


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