• 作成日 : 2024年7月24日

資金調達に有効な特別目的会社(SPC)とは?その特徴など全体像を解説

M&Aや不動産投資は規模が大きいため、投資をする企業は多額の資金調達を必要とします。しかし、既存の負債や信用力などの観点から、容易に資金調達を実行できないケースも存在します。そのような場合に、特別目的会社(以下、SPC)を用いた手法がしばしば採用されます。

本記事では、SPCにおける特徴や目的、具体的なスキームなどの全体像を解説します。

特別目的会社(SPC)とは

はじめに、SPCの概要や類似する言葉との違いについて解説します。

SPCの特徴

特別目的会社とは、英語で「Special Purpose Company」とされ、略してSPCと呼ばれています。

企業などの事業体が資金調達を行う際にSPCを設立し、そのSPCに特定の資産を売却するといった方式がしばしば採用されます。この場合SPCが資産を有することになるため、その資産を担保とすることで、スムーズな資金調達をできるようになる点が特徴です。

SPVとSPAC、ペーパーカンパニーとの違い

SPCと類似する用語に、SPV(Special Purpose Vehicle)、SPAC(Special Purpose Acquisition Company)、ペーパーカンパニーの3つが挙げられます。

SPVは特別目的事業体と訳されます。SPCとほぼ同義であり、法人格を有する場合はSPC、それ以外の場合にSPVと呼ばれます。

SPACは、特別買収目的会社のことを意味しています。SPACは非公開企業を上場させるために設立される会社を指します。SPCと似た言葉ではあるものの、その性質は全く異なりますので注意しましょう。

またペーパーカンパニーとは、登記のみで事業を行わない会社のことを表します。
ペーパーカンパニーとSPCは混同されやすいですが、SPCは資金調達などの事業活動を行うため、ペーパーカンパニーとは明確に区別されることを理解しておきましょう。

特別目的会社(SPC)の役割

次に、具体的なSPCの目的や仕組みについて解説します。

SPCを設立する目的

前章のとおり、SPCは特定の資産を有する企業として運営されます。
その設立の目的としては次の4点が挙げられるでしょう。

1. 資産を担保に多くの投資家から資金調達を行うため
2. 特定の資産を守るため
3. 資産の売却により親会社の財務状況を改善するため
4. 親会社の倒産等の影響を受けずに特定事業を完遂するため

すなわち、資金調達やリスクの緩和および分散などが主な目的となります。

SPCが活用される具体的なシーン

上記の目的に照らし合わせると、SPCが活用されるシーンとして次のようなものが想定されます。

1. 不動産投資を行いたい
2. M&Aを実行したい
3. 海外投資家などから小口での投資を得たい
4. 親会社の財務状況が良くない
5. 公益受託事業など完遂性の高い事業を行いたい

1点目と2点目は、多額の資金調達を必要とするケースです。3点目や4点目は、財務状況の改善を図るもの、そして5点目はリスク分散の観点が含まれます。

当然、これらに当てはまらなくともSPCを活用するケースは存在しますが、基本的なシーンとしてこの5点をまずは押さえておきましょう。

SPC設立のデメリット

上記のような目的を達成するためにSPCが有効である一方で、次の2つのデメリットがある点にも留意が必要です。

1. 運営コストが増大してしまう
2. M&A後の企業にSPCの負債が残ってしまう

SPCは基本的に親会社が運営を担うため、運営対象となる企業が増えたことによって、コミュニケーションコストや初期費用などの運営コストが発生します。

またM&AにてSPCを採用する場合、基本的に売り手企業とSPCを最終的に合併させることになるため、合併企業にSPCで調達した負債が受け継がれてしまいます。合併企業とするといきなり多額の負債を抱えてしまうことになるため、特に留意しておきましょう。

特別目的会社(SPC)の設立方法

続いて、具体的にSPCを設立するための流れや方法を紹介します。

SPC法と会社法による設立

SPCは、SPC法と会社法のいずれかに則って設立することができます。それぞれの違いを理解した上で、どちらが適切か判断できるようにしましょう。

項目SPC法会社法
資本金10万円以上1円以上
定款印紙必要(4万円)必要(4万円)
電子定款または合同会社の場合不要
届出財務局(内閣総理大臣)登記のみ
登録免許税3万円株式会社15万円、合同会社6万円
最低役員構成取締役と監査役1名ずつ取締役1名
※合同会社なら社員1名でも設立可能
事業開始時期資金流動化計画を作成し、税務署に業務開始届出を提出後設立後すぐ

上記の表からもわかるとおり、SPC法をとると手続きは煩雑なものの、最低限のコストで済む点が特徴です。一方会社法は、手続きが簡素な代わりに税金が若干高くなります。

SPC設立の流れ

SPCを設立する際には、SPC法と会社法のいずれに則るかにかかわらず、次の5つのステップを経る必要があります。

1. SPC設立の目的を明確化する
2. 弁護士や税理士などの専門家を選定する
3. 必要書類を準備する
4. 定款を作成し公証人の承認を得る
5. 登記申請を行う

通常の起業よりも専門的な知見が必要になるため、専門家を活用することがおすすめです。

SPC設立に必要な書類

SPCの設立にあたって各種書類の提出が求められますが、基本的に用意すべき書類は次のとおりです。

  • 業務開始届出書
  • 定款印紙
  • 取締役または発起人の印鑑登録証明書
  • 資本金の払込金保管証明書

特別目的会社(SPC)の代表的なスキーム

最後に、SPCの代表的なスキームについて解説します。
SPCのスキームにはいくつかの選択肢があり、一般的には次の5つのいずれかの形態が採用されます。

スキーム特徴
GK-TK(合同会社-匿名組合)
  • 匿名組合や金融機関から資金調達をする
  • 海外投資家などからも調達可能
TMK(特定目的会社)
  •  SPC法上の会社であり、利益は創出できない
  • 税的メリットや取得資産に制限がないことが特徴
REIT(不動産投資信託)
  • 不動産投資でよく用いられ、証券化することで一般投資家から幅広く資金調達が可能
LBO(レバレッジドバイアウト)
  • M&Aにて採用される手法の1つ
  • 少ない手元資金でも、売り手企業の資産を担保に買収資金を調達することが可能
PFI(プライベートファイナンスイニシアティブ)
  • 公共事業を行うために選定された複数の民間事業者がSPCを運営
  • 民間事業者の本業に影響されることなく公益事業の完遂にコミット可能

まとめ

本記事では、特別目的会社(SPC)について、特徴や設立の目的、設立に向けた具体的な流れなどを解説しました。SPCはM&Aや不動産投資といった多額の資金調達が必要な場合や、本業の財務状況が不安定な場合のリスク分散など有効な形態となります。

しかしながら、SPCの設立によってかえって運営コストが高くなってしまったり、M&Aの場合には合併企業に負債が残ってしまうといった懸念点も忘れてはなりません。またSPC法にて設立したTMKスキームの場合には、SPC単体での利益創出ができないことも留意してください。

スキームの選定や実際の設立に向けた手続きには高度な専門性を必要とするため、専門家を選定して進めることもポイントになります。

本記事で解説した内容を押さえながら、戦略的にSPCを活用できるようにしましょう。


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