- 更新日 : 2024年7月12日
資本コストとは?求め方や相場・下げる方法をわかりやすく解説
「資本コスト」とは、企業が資本を調達するために支払うコストです。これには株式、債券、銀行ローンなど、企業が使用するさまざまな資金調達手段にかかるコストが含まれます。
資本コストを理解することは、企業の財務戦略立案と投資決定にとって不可欠です。
本記事では資本コストの概要や種類と併せて、求め方や相場・下げる方法を解説します。
目次
資本コストとは
資本コストとは、企業が資金調達した際にかかるコストのことです。
会社が銀行からの借入や株式発行などの方法によって資金調達する場合、銀行への利子や株主への配当などが必要になります。この際に、債権者や投資家などに支払うべき費用が資本コストです。
資本調達を一つの手段で行う企業はほとんどありません。ほとんどの企業は複数手段を併用しており、発生するコストの合計を総称して資本コストと呼びます。
資本コストが高くなると利益が相殺されてしまうリスクがあり、その結果、株価は下落する傾向にあります。一方で資本コストを抑えられると利益をより多く手元に残せるため、企業価値が上がり、株価も上昇する傾向です。
資本コスト経営の重要性
2018年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、資本コストの意識は経営において重要な項目と明記されました。これにより、資本コストの意識が企業価値の向上にもつながることがわかります。
逆にいうと、必要な資本コストを意識・理解せずに経営活動を行っても、それを上回る収益を生み出せません。結果として、株主が求めるリターン・配当を満たせなくなるのです。
上記のことから、多くの企業は資本コストを意識したうえで利益を生み出し、株主への期待に応えながら企業価値を高めています。
資本コストの種類
資本コストの種類は、大きく分けると2つの種類に分類されます。
それぞれのコストがどのようなものかについて、詳しく見ていきましょう。
- 負債コスト
- 株主資本コスト
負債コスト
負債コストは、銀行・金融機関から借り入れた際に発生するもので、「他人資本コスト」ともいいます。具体的には、金利や社債の発行の際にかかった費用のことです。
例えば10,000円を年利5%で借り入れた場合、1年後に利息を含め10,500円の返済が必要になります。この利息の500円の部分が負債コストです。
金利については利用する銀行・金融機関によって大きく異なります。
借入期間が影響するケースも珍しくないため、借入先と期間については慎重に判断するのが良いでしょう。
株主資本コスト
株主資本コストは、出資で調達した資本に対して発生します。投資家から見た際の配当と考えるのがわかりやすいでしょう。
基本的に株主は、配当金を求めて投資を行っています。例えば5%の配当を見込んで投資している場合、10,000円の株に対して500円の資本コストが必要になります。
企業は株主に対して、期待利回り以上の配当を出せるように経営することが必要です。
ただし、株価はそのときの企業価値や業績・情勢によって変化するため、的確な算出は難しいといわれています。
資本コストの求め方
資本コストを求める代表的な方法として、「WACC」と呼ばれるものがあります。WACC(Weighted Average Cost of Capitalの略称)は、現在の事業価値を計算する割引率として利用されています。
株主資本コスト、および負債コストを時価で重要度などを加味して「加重平均」したものと理解しておきましょう。
WACCを用いて計算する際は、以下の式が利用されます。
WACC = D / (D + E) × rD(1 – T) + E / (D + E) × rE
式中のアルファベットの意味については、以下のとおりです。
- D:有利子の負債額
- E:株主資本の時価総額
- rD:負債コスト(金利)
- rE:株主資本コスト
- T:実効税率
実際に、以下のケースを計算式に当てはめてみましょう。
【前提情報】
- 株主資本 (E):1,000万円
- 負債 (D):500万円
- %
- 株主資本コスト7.2%
- 負債コストrD :3.2%
【WACCの計算式】
WACC = 7.2% × (1,000万円 / (1,000万円 + 500万円)) + 3.2% × (500万円 / (1,000万円 + 500万円))= 5.44%
上記の結果、このケースにおけるWACCは5.44%となります。
なお、加重平均資本コストについては、以下の記事で詳しく解説しているのであわせてご参考ください。
資本コストが高くなる原因
資本コストは、基本的に低い方が良いとされています。しかし、実際には高くなってしまうケースもあるでしょう。
資本コストが高くなる主な原因として、以下の内容が挙げられます。
- 会社構造的に事業リスクが高い
- 借り入れの利率が高い
- 会社に適用する税率が低い
会社構造的に事業リスクが高いと、投資家はより多くのリターンを求めて配当金が多くなる可能性が高いです。そのため、コストを引き下げるために会社構造を見直すといったケースも珍しくありません。
また、銀行や金融機関からの借入利率が高かったり会社への適用税率が低かったりするのも、コストが高くなる原因としてあげられます。
ただし、利率を下げたり適用税率をあげたりするのは、あまり一般的な方法ではありません。資本コストを下げる際は、事業リスクを低減させる方法が主に用いられます。
資本コストを下げる方法
資本コストは本来少なければ少ないほど良いものです。コストが大きければ、その分株主や債権者に支払うべき金額が増えてしまいます。
ここでは資本コストを下げる主な方法として、以下の2つを見ていきましょう。
- リスク情報を開示する
- 低金利で借入れる
リスク情報を開示する
リスク情報を開示すれば、資本コストを下げられる可能性が高まるでしょう。
リスクの有無がわからない状態では、金融機関から「融資した金額を返済されないかもしれない」といった懸念点を持たれるかもしれません。返済されないといったリスクを抱えたままでは、金融機関は安心して貸付できないでしょう。
そのため、借入を申し込む際に不安要素を解消することが大切です。不安要素を解消できれば、金利が軽減される可能性も生まれるでしょう。
また、株主も過度な期待をすることがなくなるため、配当に対する期待値も下がります。結果として資本コストが下がる効果が見込めるため、リスク情報は開示するようにしましょう。
低金利で借入れる
高い金利で借入れると、その分の利息は当然資本コストとして上乗せされます。そのため、できるだけ低金利で借入れできる銀行・金融機関を探すのが良いでしょう。
また、借入時の金利制度についても注目してみてください。融資を受ける際は固定金利と変動金利の2つがあり、変動金利の方が低金利に設定されているケースが多いです。
ただし、長期間借入れる場合は固定金利の方が安くなる可能性もあります。
低金利で借入れたいと考えている場合は、金利・金利制度・借入期間の3つに注目して、借入先を選びましょう。
資本コストとROEの関係性
ROEとは自己資本利益率を指す言葉で「Return On Equity」の略称です。簡単に言うと、株主が出資した金額を元手にして、企業がどれだけの利益を得たかを数値化したものとなります。
ROEは資本コストよりも高くなければならないといわれることもありますが、これは企業価値に直接関係するためです。
ROEが高ければ効率的に資本を運用していると考えられ、優良企業の基準は10%以上といわれています。
ただし、自己資本の調整でROEの値が操作できてしまうことから、株主資本単独での認識が難しいという問題点があることも覚えておきましょう。
まとめ
資本コストとは、企業が資金調達した際にかかるコストの総称です。大きく分けると2つの種類に分かれるため、それぞれどのようなコストのことを指すかチェックしておきましょう。
なお、資本コストは低ければ低いほど企業価値の向上につながります。そのため、できるだけコストを軽減するのも重要なポイントです。本記事で紹介した内容をもとに、自社の資本コストを見直したり、適切かの判断をしたりしてみてください。
よくある質問
資本コストとは?
資本コストとは企業が資金調達した際にかかるコストのことをいいます。 以下2つの種類に分かれるため、違いを理解しておきましょう。
- 負債コスト:銀行・金融機関から借り入れした際に発生
- 株主資本コスト:出資で調達した資本に対して発生
資本コストとWACCの違いは?
大前提として、資本コストとWACCはそれぞれ別物であることを認識しておきましょう。資本コストは企業が資金調達した際にかかるコストを指します。 対して、WACCは加重平均資本コストのことであり、複数の資金調達方法を採用している企業が資金調達にどれだけのコストをかけているのかを表す指標です。 WACCを算出するためには株主資本コストと負債コストを算出しなければなりません。そのうえで資金調達方法の割合を加味し、加重平均処理を行う必要があります。
ROIC(投下資本利益率)との関係は?
ROIC(投下資本利益率)とは、事業に投下した資本(主に株主資本や有利子負債)でどれだけの利益を創出できたかを表す指標です。 ROICを算出する際は以下の計算式を用います。 【ROIC = 税引後営業利益 ÷ 投下資本】 ROICがWACCを上回っている場合、企業は調達した資金よりも多くの利益を上げていることになり、効率的に経営できている証です。 一方でROICとWACCが等しい場合は資本コストを充分にカバーできていない状態となり、さらにROICがWACCを下回っている場合は調達した資金に対して少ない利益を上げられておらず、非効率な経営になっているといえます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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