• 更新日 : 2022年10月11日

【第二回】 社外関係者への説明をスムーズに!スタートアップが取締役会に提出する財務資料作成のポイント

本記事は2022年6月22日に開催したイベント「社外関係者へ説明をスムーズに!スタートアップが取締役会に提出する財務資料作成のポイント」の概要をまとめたものです。

本記事は第1回〜第3回の連載の第2回です。公認会計士であり、管理会計ラボ株式会社代表の梅澤 真由美氏が、すぐに使える経営管理の実践方法について語ります。
第1回目の記事はこちら

はじめに

皆様こんにちは。公認会計士の梅澤真由美です。今回は社外関係者の方にフォーカスし、スタートアップが取締役会に提出する財務資料作成のポイントをお話しします。
現在私は社外役員も務めております。その経験や知識を踏まえ、具体的なエピソードをお伝えしていこうと思います。

前回は「創業からIPOまでの経営管理のポイントと対策」についてお話をさせていただきました。今回は、社外関係者の方への説明の仕方についてフォーカスし、月次決算、予実比較報告、予算作成についてお話しします。

1.月次決算

月次決算は年に12回あり、月次決算を締めると予実比較の報告があると思います。この予実比較という予算と実績の比較が今回は非常に肝になります。では具体的にどのようにすれば良いのでしょうか。

月次決算の早期化

月次決算は管理会計に当たります。四半期決算や年度決算といった制度会計はルール上必須の決算になりますが、月次で締める必要はありません。

ではなぜ月次決算をあえてした方がよいのでしょうか?それは月次決算の内容を社内で経営に活かし、PDCAを回すためです。このことを踏まえると、月次決算で最も大切なことは「早期化」ですよね。あまり長い時間をかけて取り組んでしまうと、その結果を踏まえて改善するための時間が取れなくなってしまいます。

また、月次決算と四半期決算や年度の決算が関係ないというわけではありません。もし四半期ごとに決算を締めるとすると、3ヶ月分をまとめて締める必要があり、とても大変だと思います。そのため、1ヶ月という期間で小分けにして取り組むことで、業務の効率化を図ることができます。

さらに、月次決算の内容をそのまま四半期決算や年度計算に使うためには、ある程度の正確さが必要になります。

ここでポイントになるのが「勘定科目」です。勘定科目は「経営の役に立つか」という視点で科目ごとに発生主義にするかどうかを判断してください。特に事業の要である「売上」の科目にはこだわりましょう。売上原価がある会社さんであれば、仕入れといった売上原価との対応関係もセットで見た方がよいでしょう。人件費や、外注費といった金額は、状況判断する上では重要な情報になっています。

経営のスピードを保つためには「正確さ」を追い求めすぎないことが重要です。迷った時は、簡単な方で始めておくということを意識していただくと良いと思います。

分析視点の落とし込み

分析する際は数字確定と分析を同時進行するようにしましょう。

具体的な月次決算の取り組み方は二つです。自社の中で大事にしている項目を「補助科目」に設定したり、現在使用している組織図に合わせ、「事業部門」を配置するという枠組みをあらかじめ会計システムに組み込んでください。そうすると、システムの中で数字を早く把握することができますから、数字の確定と分析のフェーズを分けなくて済みます。

もう一つは既存帳票をそのまま使っていただくことです。前回もお伝えしたポイントだと思いますが、独自帳票を作ると、作ることに時間がかかってしまいます。なるべく独自帳票を作らないようにしましょう。既存帳票の中でも圧倒的に便利なものとしてご紹介したいのが月次推移表です。

月次推移表は制度会計上のミスを発見することにも繋がります。なぜなら通常大きく変化しない項目が変化していた場合に、異常値を把握することができるからです。数字の確定と分析を同時進行させる考え方をされるとよいと思います。

2.予実比較報告

ここから今回のテーマでもある予実比較報告についてお話ししていきます。

報告資料の型化

まず、絶対に取り組んでいただきたいことが、報告用資料を必ず型化することです。理由は2つあります。1つ目は、少し配置が変わってしまうだけで資料内容の理解に苦しんでしまう社外役員の方がいらっしゃること。2つ目は毎回同じ型を使用することで作業が非常にシンプルになるためです。

「こういう情報を出してほしい」、「こういう表示にしてくれるとわかりやすい」と他の方から言われることもあると思いますが、そのリクエストは普遍的か一時的か、性質を必ず見極めてください。そしてそのリクエストが普遍的な場合には、枠組みに入れて定期的な報告の対象にしましょう。資料を必ず定型化していくことが重要になってきます。

「比較」の徹底

取締役会の資料では、やはり理解がしやすい「比較」を基本的に使うようにしてください。比較分析によって現状を把握することができます。特に前期比較、予実比較をされるのが良いでしょう。

逆に、社外役員を含めた経営陣にとってそんなに受けが良くないのは、実は経営指標なんです。経営指標分析を「割り算」、比較分析は「引き算」という言い方をします。ただし、経営指標分析はとても理解のハードルが高いものになります。なぜなら、割り算だとROEやROA、営業利益率といったそれぞれの分母分子の意義を理解しないと、形式上の意味がわからないからなんです。

もう一つネックになりがちなものとしては、平均の情報」がなければ経営指標の良し悪しを判断するのが難しいことです。しかし、引き算であればどうでしょうか。売上が減っていればよくない。固定費が減ってるとよい。というように理解しやすいと思います。

経営指標を求められた際はもちろん入れていただいて良いと思います。ただし、今お話ししているのは、月次決算に伴う報告の話ですから、経営指標を月次決算の頻度で出すとあまり動きがないため、コスパがよくないのです。

ではいつ経営指標を出したらよいのでしょうか?

経営指標は年に一度など、定点観測をすればよいですから、年度決算のときに出されるといいと思います。

2つのチェック

自分たちが報告するためには何をチェックしたらよいのでしょうか。2種類の大事なチェックがあります。まず一つは「ロジックチェック」です。馴染みがあると思いますが、金額が正しいかどうかを確認する、というものですね。

今回特に押さえていただきたいのは「ストーリーチェック」です。正しいのは大前提ではありますが、この数字が意味しているのは何かを確認すること。そして「この数字を見せた相手は何を聞きたいと思うか?」ということを確認するのがストーリーチェックです。ただし、ロジックチェックに時間を取られてしまい、ストーリーチェックが不十分な場合も多くあります。

さらに、数字の意味するものが何かを説明できないと経営の場である取締役会では、議論ができなくなり、意思決定が遅くなってしまうのです。経営のスピードにも影響してきますので、先ほどお伝えしたように、確定と分析を同時進行でやることが鍵になります。ぜひ少しでもストーリーチェックに時間を割くようにしましょう。

予算実績差異の説明ポイント

では予算実績差異の説明のポイントをお伝えしていきます。
まずは「期ズレかそれ以外か」ということです。「期ズレ」とは予算作成時点とタイミング(月)がズレることです。月ズレとも言いますが、「年度内か年度外か」というズレている時期、そしてその期ズレが起こった理由が「内部要因なのか外部要因なのか」、さらに「今後もその期ズレがずっと続くのかそれとも一時的なのか」という判別も経営においては非常に重要になります。経営陣に対しては会計的な範囲の説明ではなく、ビジネス目線の事業の説明を期待されることが多いです。

このビジネス目線の説明をする際のポイントは、売上が増加した際などに、KPIなどの数字(概算でOK)をその説明に折り込むことです。また、売上は特に期待ギャップが大きいのが実態です。経営者が最も聞きたいものであるのに対して、経理は最も苦手な部分になります。そこで型化されているKPIや、内訳をうまく使っていただくことが便利なやり方だと思います。

予実比較報告のゴール

予実比較報告は予算管理のひとつで、予算管理の目的は、会社が期待する将来(=「予算」)に向けて業績をコントロールすることです。予実比較報告は「単なる過去数字の説明」ではなく、会社が未来を変えていくためのヒントがぎっしり詰まったものだと思ってください。私も社外役員として様々な会社に関わっていますが、月次決算の報告資料を見ると、会社の経営管理レベルが一目瞭然にわかります。

この時のポイントは三つです。一つ目は予算実績差異の金額(規模)などで先を見通せているか。二つ目は状況把握が十分であるかということ。予算実績差異のコメントの内容が正確か、経営戦略との連動性があるかということが大切になります。三つ目は、今後成長することができるか、という今後の対策の提示が有るか無いかということです。妥当性や迅速さ、優先順位付けができているかを意識してみてください。

ちなみに先日社外役員の方が「問題がないなら問題がないと書いてください」と発言されていました。皆さんには、報告資料を見たら、何が問題なのか、それとも問題がないのか、ということも、明確に説明をしたり記載するということが求められてる、と捉えていただきたいです。以上が月次決算が確定した後に報告用資料に使われている予実比較のお話でした。

3.予算作成

最後にですね、予実比較の「予算」をどのように作ったらよいかを簡単にご紹介をしておきたいと思います。

目的と成果物

そもそも予算は「目標」だと考えてください。ではなぜ予算を作るのでしょうか?予算を作ることが当たり前になっているので、あまり聞いたことがないと思うのですが、もし予算を作らなければ、成り行きまかせの会社経営になってしまいますよね。しかし、それはリスクが大きく、倒産してしまう可能性もあります。多くの人から成る「会社組織」のため、全員のベクトルを合わせることが必要になります。残念ながら気持ちが一つになる状態は難しいですから、わかりやすい「数字」という形で目標を定めること、それが予算です。

予算を決めるのに2ヶ月かけて作成することが多いため、イベントと考えられていることも多いのですが、実は明確な成果物があります。それが「月次全社PL」です。なぜ月次かと言いますと、予算との比較による定点観測を月次決算のたびにするからです。

勘定科目に応じた方法を使う

予算を作成する際は、科目の性質に応じて、作成部門や作成根拠を変えることが重要になります。とくに、業績への影響が大きい重要科目は作り方を工夫しましょう。作成する際は勘定科目によってメリハリをつけることを強くおすすめします。例えば、売上や広告宣伝費を作成できるのはその担当部門だけですから、かなり力を入れて作ってください。一方で水道光熱費や地代家賃、保険料といったトレンドが読めるものは、経営管理側で作ってしまうというのでもよいと思います。そしてその二つの間にある人件費については、管理部門と担当部門が一緒に作るという形をとっていただくといいと思います。

全ての科目を各部門にお願いしてしまうとなかなか進まなくなってしまいますから、ぜひ勘定科目の性質に応じて、しかるべき方に作っていただくことが非常に重要です。

重要科目は掛け算・足し算

売上といった自社にとって重要な項目は、足し算型か掛け算型を作っておくと、予実比較のタイミングで便利です。前回もお伝えしましたが、足し算型と掛け算型は以下のようになります。

足し算型
・ほとんどの項目に当てはめ可能
・事業別、エリア別、種類別
・切り口はいろいろ、各部門の行動計画に沿ったもの
・例 売上=Aエリア+Bエリア
   広告宣伝費=TV、交通広告、インターネット

掛け算型
・KPIの最有力候補
・価格×数量が基本形
・例 売上=客単価×客数(小売業)、
   売上=ARPU×ユーザー数(webビジネス)

予実比較のときに予算と実績を比較しますよね。実績の方で、よく自社が使っているような切り口、掛け算のKPIや足し算の内訳でもいいので、それを踏まえて、同じ切り口で予算を作っておかれると、皆さんの再分析のコメントが楽になります。したがって、実績の方から逆算して予算を考えていただくと、非常に無駄がないと思います。

数字の月別按分方法

今までお話ししたのは、縦方向の勘定科目の話でした。月別の全社PLといった予算の成果物を作る際は、今までお伝えした勘定のメリハリや掛け算を使用しないようにする、といったポイントを意識してください。また縦方向だけでなく、横の月の按分もぜひ大事にしていただきたいと思います。勘定科目の性質に応じて使い分けていただくといいでしょう。

では3つの方法をお伝えします。
まず一つ目が、他の勘定科目の月次の金額をもとに按分する方法です。この方法に適しているのは他の勘定科目に連動する場合で、例えば売上に連動する販売手数料のような科目があります。

二つ目は前年のその勘定科目の月次の金額をもとに按分する方法です。水道光熱費や保険料などは季節や月によって変動がありますから、この場合は前年の月ごとのシェアを出して按分する形にするのがよいでしょう。

三つ目、年間の数字を決定して、それを12か月で均等按分する方法です。これは実は重要な方法になります。例えば、製造業の突発的な修繕費のように、予想するのが難しく、現時点で支出方針が決まっていない場合があると思います。(注意:中途半端な仮定をおくと、実績との差異説明が困難になる)こういう場合はわからないので潔く、均等按分をしましょう。

以上3つの方法を説明しましたが、月別按分は非常に重要になります。年間の金額が変わらなくとも、月の按分をどのようにしているかで、差異が大きく変わります。ですから、なるべく苦しい説明をしなくて済むように、その性質に最も適した作り方を作成しておいていただけるとよいと思います。

予算作成の考え方のポイント

皆さんは予算作成をするときに正確さを考えられることが多いと思います。しかし、実は一番大事なものは正確さではなく、整合性なんです。そもそも、何をやるのかという「前提」となる戦略や戦術があるのか。またそれが「数字化」されて予算が作られているのか。予算にヌケモレはないか、ということに気をつけていただきたいです。千円単位の計算でも構いませんし、必ずしも完全なる積み上げである必要はないのです。例えば金額と性質にはよりますが、文房具も全部積み上げずに、年間の文房具代で10万円。というような形で過去の推移があれば、それをもとに作っていただければ良いですし、会社の事業にとって重要かどうかという基準で判断していただくといいと思います。

フォーマット

最後に、フォーマットについてお伝えしていきます。各部門のフォーマットは、期限順守、取り組み主体性、理解の観点から、勘定科目のみ記載されて金額が空欄のPLフォーマットはおすすめしません。予算作成の際に各部門にPLフォーマットを渡して埋めてください、ということがあると思うのですが、各部門は自分達の費用がどの勘定科目に入るかがわからないので、実は結構難しいんです。

代わりに、部門で既に使用している区分を採用し、内容がわかるフォーマット(内訳明細)を使用するのがおすすめです。まずは相手が使用している切り口、概念を活用し、レベルを合わせてください。注意していただきたいのは、すべての情報も行動も各部門起点とすべきという点です。親切心ゆえに経営管理側で現場と異なる予算の切り口を作ってしまうことはなるべく避けたほうが良いでしょう。

4.まとめ

今回は月次決算そして予実比較を見ましたが、月次決算は必ず毎月発生しますし、予算作成後は予実比較も必ず毎月発生します。

多くの方が予算の方に注力しがちですが、実はその予算のあり方を考える上では、月次決算の方をまず整えていただくことが重要です。そしてそれをもとに予算に反映するという、逆算で考えていただくと、非常に無駄が少なくなるかと思います。

以上、社外関係者の方へ提出する財務資料作成のポイントを中心にお話させていただきました。

 

『【第二回】 社外関係者への説明をスムーズに!スタートアップが取締役会に提出する財務資料作成のポイント』詳しくはセミナーアーカイブ動画で!

以下よりアーカイブ動画をご覧いただけます。

主な内容

  • 月次決算
  • 予実比較報告
  • 予算作成

「管理会計ラボ オンラインスクール https://school.accountinglabo.jp/


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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