• 作成日 : 2024年7月29日

人的資本可視化指針とは?可視化のメリットや具体的な方法を解説

人的資本可視化指針とは、人的資本の開示に関する方向性などが定められた指針です。
これを導入することにより、投資家からの評価向上や従業員の満足度向上といったメリットが見込めます。ただし、コストや時間がかかるというデメリットもあります。

本記事では、人的資本可視化指針の重要性や可視化の方法、プロセスなどを解説します。

人的資本可視化指針とは

はじめに、人的資本可視化指針の定義や目的、開示の義務化に関して解説します。

人的資本可視化指針の定義と目的

人的資本可視化指針とは内閣官房の非財務情報可視化研究会が公表した資料であり、人的資本の可視化に関する指針です。

本指針は、人的資本の情報開示のあり方に関して、ガイドラインの活用方法や既存基準を考慮した対応の方向性を包括的に整理する目的で作成されました。具体的には、情報開示に関する基本的な考え方や準備方法、開示指標などが紹介されています。

有価証券報告書による開示の義務化

金融庁の発表資料によると、2023年1月の内閣府令改正に伴い、同年3月31日以後に終了する事業年度に関する有価証券報告書について、人的資本に関する情報の開示が義務となっています。これに伴い、人的資本可視化指針の重要性がより一層高まっています。

※参考:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について

人的資本を可視化する方法

本指針では、人的資本を可視化する方法(具体的に行うべき事柄)として、以下の4点が挙げられています。

可視化に関して企業および経営者に期待されていることを理解する

投資家は企業や経営者に対して、「経営層や中核人材、人材育成、人的資本に関する社内環境整備などに関する方針」の開示を期待しています。
開示に際しては以下の3点も投資家から期待されていることに留意しましょう。

1. 自社が直面する重要な機会やリスク、長期的な競争力・業績と関連付けること
2. 目標やモニタリングすべき指標を検討すること
3. 経営層や取締役レベルで密な議論を行い、明瞭かつロジカルに説明すること

人的資本への投資および競争力のつながりを明らかにする

投資家から求められている開示事項を把握し、そのための説明材料を準備する必要があります。

闇雲に開示しても、前述の「競争力や業績との関連付け」や「明瞭かつロジカルな説明」という要求事項を満たせず、投資家から評価されにくいためです。

具体的には、人的資本への投資と競争力がどのようにつながっているかを明らかにします。「IIRCフレームワーク」や「価値協創ガイダンス」などのフレームワークを活用し、関係性を統合的なストーリーとして構築することが効果的です。

投資家にとって馴染みがある4つの要素に沿って人的資本を開示する

人的資本可視化指針では、資本市場から幅広く受け入れられつつあり、投資家にとって馴染みがある要素に沿った人的資本の開示が勧められています。具体的には、以下4つの要素です。

  • 戦略:ビジネスや戦略、財務計画に対して、人的資本に関する機会やリスクが及ぼす影響
  • ガバナンス:人的資本に関する機会やリスクに対する組織のガバナンス
  • リスク管理:人的資本に関する機会やリスクを識別・評価・管理するプロセス
  • 指標および目標:人的資本に関する機会やリスクの管理および評価に用いる指標や目標

開示事項の類型に応じて、個別事項の具体的な内容を検討する

人的資本の開示事項は、具体的に以下の2種類に大別されます。

1. 独自性のある取り組みや指標、目標
2. 比較可能性の視点で開示が期待される事項

人的資本可視化指針には、各事項について何を検討すべきかが記載されています。記載にあたっては独自性と比較可能性のバランスを確保し、片方の項目に偏らないようにすることが重要です。

人的資本可視化のプロセス

人的資本可視化のプロセスと、各ステップで行う業務を解説します。

Step1:基盤・体制の確立

はじめに、人的資本可視化に向けて基盤や体制を確立します。具体的な取り組み事項は下記です。

  • トップのコミットメント(経営トップによる積極的な発信や対話)
  • 取締役会や経営層レベルでの議論
  • 従業員との対話
  • 部門間の連携
  • 人的資本指標のモニターと情報基盤の構築
  • バリューチェーンにおける取引先などとの連携

Step2:可視化戦略の構築

次に、人的資本の可視化戦略を構築します。具体的な取り組み事項は下記です。

  • 価値協創ガイダンスに基づいた、人的資本への投資および人材戦略の統合的ストーリーの検討
  • 人材版伊藤レポート(2.0含む)との相互的な参照と戦略立案
  • FRCの報告書における「自らに企業が問うべきこと」の利用による、4要素の検討
  • 逆ツリー分析(企業価値の向上とのつながりに関する分析)

Step3:有価証券報告書に関する対応

前述の人的資本を可視化する方法をベースに「人材育成方針」や「社内環境の整備方針」、測定可能な指標、目標、進捗状況などを開示します。

Step4:任意開示の戦略的な活用

人的資本は、有価証券報告書のみならず中期経営計画や統合報告書などによって任意開示することも可能です。戦略的に任意開示を図ることで、投資家や顧客からのイメージアップにもつながります。媒体ごとに情報の網羅性や対象者が異なるため、目的に応じた選定が求められます。

参考:非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針(案)(P31-42)

人的資本可視化指針の7分野19項目

人的資本可視化指針では、情報開示項目として、下記7分野19項目が挙げられています。

分野項目
1.育成1.リーダーシップ
2.育成
3.スキル・経験
2.エンゲージメント4.従業員のエンゲージメント
3.流動性5.採用
6.維持
7.サクセッション
4.ダイバーシティ8.ダイバーシティ
9.非差別
10.育児休業
5.健康・安全11.精神的健康
12.身体的健康
13.安全
6.労働慣行14.労働慣行
15.児童労働・強制労働
16.賃金の公正性
17.福利厚生
18.組合との関係
7.コンプライアンス・倫理19.法令遵守などに関する状況

上記の開示項目には、投資家からの評価獲得を目的とした「価値向上に関する開示」と、投資家からのネガティブな評価を回避するための「リスクに関する開示」の2種類が含まれます。企業側では、自社に関してどのような事項を投資家が知りたがっているのかを理解した上で開示項目を選択することが重要です。

なお開示項目の詳細は以下をご参照ください。

参考:非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針(案)(P19-28)

人的資本を可視化するメリットとデメリット

人的資本可視化指針を導入するかどうかは、メリットとデメリットの双方を踏まえた上で判断することが重要です。この章では、人的資本を可視化するメリットとデメリットを解説します。

メリット

人的資本を可視化するメリットは以下の4点です。

1. 人的資本への投資を適切にアピールすることで、投資家から高い評価を得られる
2. 従業員の経験やスキルを的確に把握し、人材戦略に役立てることが可能になる
3. 従業員のパフォーマンスや満足度、生産性などの向上につながる
4. 上記の効果により、中長期的な企業価値の向上を見込める

デメリット

一方で、人的資本の可視化にあたっては、以下の3点がデメリットとなり得る点に注意です。

1. 人的資本のデータ収集にコストや時間がかかる
2. 情報漏えいリスクが高いため、データを保護するための対策が不可欠である
3. 効果を測定する指標の解釈が難しい

こうしたデメリットへの対策として、ERPなどのITシステムを活用したり、当該分野の専門家に協力を依頼したりすることが効果的です。

まとめ

有価証券報告書による開示の義務化に伴い、人的資本の可視化を重視する企業が増加しています。義務であることを差し置いても、従業員のエンゲージメント向上や投資家からの評価アップを見込める点で、人的資本の可視化はビジネスを行う上で重要性が高いと言えます。

今後もこの傾向はより一層高まると予想されるため、人的資本可視化指針に対するニーズも高まっていくと考えられるでしょう。


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