- 更新日 : 2024年7月12日
改正会社法における内部統制とは?2021年3月に施行された変更点を説明
内部統制を実施することで、企業内の業務適正化が期待できるとして多くの会社で実施されています。しかし、内部統制は法律で規定されていることもあり、節目に改正されていることもあります。2021年3月に改正されたものの、以前の内容と何が変わったのかわからないという人も少なくないでしょう。
本記事では2021年3月に改正された改正会社法の目的や変更点を、2014年時点の会社法と比較して解説します。内部統制システムの見直しなどに、ぜひ役立ててください。
目次
2014年の会社法改正によって内部統制の認知度は高まった
2014年の会社法改正で、内部統制システムに関する条文が変更されました。内容は以下のとおりです。
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
改正された背景には、当時の企業にガバナンス不全(目的を追求するうえでの意思決定の健全化とその実施)による不祥事が相次いでいたことが挙げられます。
2014年の会社法改正で内部統制システムについて明記されたことで、それまで一定の条件を持った大企業で導入されるにとどまっていた内部統制が、多くの企業や組織で注目されることになりました。上記の条文を言い換えれば、取締役単独の権限だけで内部統制ができなくなったためです。
これにより内部統制が日本国内の企業でも浸透。多くの企業が内部統制システム導入に向けて動き出すこととなりました。
会社法における内部統制システムの定義
会社法における内部統制システムは、先の条文のとおり「取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」です。
会社法362条5項では、内部統制システムを設置する企業を資本金5億円以上または負債額200億円以上の企業(大会社)で取締役会がある株式会社を義務として明記しています。ただし、あくまで義務であり、条件に適合しない企業でも導入している場合も少なくありません。
目的は社内コンプライアンスの強化や拡充であり、そのための内部統制システムの設置が求められます。
金融商品取引法における内部統制システムとの違い
同じ内部統制システムを冠する規則には、会社法で定められたものと金融商品取引法で定められたものの2種類が存在しています。
金融商品取引法で定められた内部統制システムとの違いは、社内コンプライアンス強化のための責任の所在が異なります。会社法では株主から経営を任された取締役会が中心です。取締役個人に内部統制の権限がないのは、適正な会社管理を経営に携わる人間全員で決定する必要があるという考え方に基づいています。
一方の金融商品取引法における内部統制システムは、その中心を会社としており、目的も投資家への信頼確保のための関連書類の社会的信頼確保です。会社として監査室を設ける場合もありますが、公認会計士や監査法人などの第三者が関係することがあるなど、会社法の内部統制システムとは性格も担い手も異なるという特徴があるのです。
2021年3月に施行された改正会社法の目的
たびたび会社法は改正が実施されており、社会情勢の反映や適正化を強化する目的で内容が変更されています。2021年には、会社法の一部を改正するための法律として「改正会社法」が施行されました。現時点では、会社法のすべての規定において適用されるわけではないものの、多くの企業に影響を与えることは確かです。
この年の改正について、法務省では以下の説明がパンフレット中でなされています。
会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図ることを目的とするものです。
非常に端的に書かれていますが、内容は企業の競争力向上や投資家からの信頼確保のためのコーポレート・ガバナンスの強化が焦点です。別名「企業統治」と呼ばれるものですが、次章で解説する変更点から、企業の運営や成長のために細かなルールを設けなさいと言うのが、2021年3月施行の改正会社法の中身となります。
2021年3月に施行された改正会社法の変更点
2021年3月に施行された改正会社法の変更点は次のとおりです。
- 株主総会資料の電子提供制度の創設
- 株主提案権の濫用的な行使を制限する規定
- 取締役の報酬に関する規律の整備
- 会社補償とD&O保険に関する規律の整備
- 社外取締役の設置を義務化
- 社債管理補助に関する制度の見直し
- 株式交付制度の創設
小難しい用語が並んでいますが、内容はそれほど難しいものではありません。順番に解説します。
株主総会資料の電子提供制度の創設
従来、紙で提供していた株主総会資料を、電子提供するための制度を作りなさいと企業側に求める法律です。改正会社法の第325の2で定められおり、以下の書類が該当します。
- 株主総会参考書類
- 議決権行使書面
- 計算書類および事業報告
- 連結計算書類
目的としては株主の議案検討を確保すると同時に、従来の紙資料で発生していた資料の印刷・郵送のコストや時間ロスを削減するものです。同時に政府が推進する電子化の加速を促す形となっています。
電子提供に関しては任意です。しかし、決められた期間内は電子提供措置を取らなければならず、かつ法律で規定された以下の情報も公開し続けなければなりません(第325の3第1項)。
- 株主総会の日時および場所
- 株主総会の目的事項
- 株主総会参考書類および議決権行使書面の記載事項(書面投票できる場合)
- 株主総会参考資料の記載事項(電子投票制度がある場合)
- 議案の要領(株主提案があった場合)
- 計算書類および事業報告の記載事項(取締役会設置会社で取締役が定時株主総会を招集する場合)
- 連結計算書類の記載事項(取締役会設置会社かつ会計監査人設置会社であり、取締役が定時株主総会を招集する場合)
- 修正の旨および修正前の事項(情報を修正した場合)
上記の情報は、電子化に伴って最新の情報が追いかけることができるようになったことから、株主に正しい情報を提供するよう定められた内容と言えます。株主総会に関する資料は投資家の信頼性を高める重要な書類です。電子提供措置を取る場合は、上記の情報に細心の注意を払いましょう。
株主提案権の濫用的な行使を制限する規定
改正会社法第305条では、株主提案権をむやみやたらに使うことができないようにする制限が設けられました。これまでは株主が多くの議題を株主総会に持ち込むことができていました。しかし、2021年施行分の改正会社法により、1人で最大10件までの提案と制限が設けられたのです。
万が一、同一株主からそれ以上の議案が提出された場合、同社取締役がその中から10件の議題を決められるようになっています。優先順位は株主が定めたものに従わなければなりませんが、一人当たりの議題提案数に制限が設けられたことで、単一株主による独壇場に歯止めがかけられたのです。
ただし、以下の4つの議案に関してはそれぞれ「みなし議案数」として1件とカウントされることも忘れてはいけません。
- 役員等(取締役・会計参与・監査役・会計監査人)の選任に関する議案
- 役員等の解任に関する議案
- 会計監査人を再任しないことに関する議案
- 定款変更に関する2以上の議案について、それらで異なる議決がなされた場合議決内容が相互に矛盾する可能性がある場合
取締役の報酬に関する規律の整備
取締役の報酬についても第361条で見直しがなされました。取締役報酬は給与とは別で支給されるインセンティブ付与方法のひとつで、一部の企業ではブラックボックスと化していると言われています。
今回の法改正で、取締役報酬に関して明確にするため、以下のように規定されました。
対象の範囲 内容 対象となる場合 定款や株主総会の議決で取締役報酬の内容が決まっていない場合 対象会社 対象取締役 監査等委員である取締役以外の取締役 決定方針
要するに取締役報酬を明確にしましょうという動きです。改正会社法第202条2項には払込金額や期日を定める必要がないとしつつも、同法第361条1項で取締役の株式数に上限も設けられました。
会社補償とD&O保険に関する規律の整備
D&O保険とは、役員等賠償責任保険と言い、会社が何かしらのトラブルを起こした場合の補償や役員を守る目的で締結される保険のことです。改正前まで明文化されていなかった事項が、今回の成功で規定された形です。
改正会社法第430条の2では、以下の条件が追加されました。
内容 締結できる保険の補償内容 株式会社が役員等に対して以下の費用補填を約束する契約 補償内容を決定できる機関 株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議 補償対象費用 補償を禁止する費用
これと同時に、役員等賠償責任保険についても「手続きを明確にする」などの規定が明記されました。会社や取締役を守る保険ですが、悪用をできないように規定を設けたと考えるとよいでしょう。
社外取締役の設置を義務化
条件は厳しいものの、以下の条件をすべて満たす会社に限り、社外取締役の設置が義務化されました。
- 公開会社
- 大会社
- 監査役会設置会社
- 発行株式について有価証券報告書の提出義務を負っている会社
改正前から上記のような上場会社には社外取締役設置が規定されていたものの、株主総会で株主に対して理由を説明すれば設置不要となっていました。今回の改正で社外取締役を設置しなければならなくなりましたが、改正前から東証一部上場企業のほぼすべてが設置しています。
同時に規定されたのが、社外取締役に業務を委託できる項目です。改正会社法第348条2項に次のように規定されています。
- 株式会社と取締役の利益が相反する状況にある
- その他取締役が業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがある
- 取締役会の決議(非設置会社は取締役の決定)
活用方法としては、経営陣が株式や事業を該当者から買収して迅速な経営を行うMBO(マネジメント・バイ・アウト)や親会社・子会社での取引での活躍が挙げられます。
社債管理補助に関する制度の見直し
社債とは会社が発行する債券のことで、主に投資家から資金提供を受ける目的で使用されます。改正前の会社法でも、社債権者を保護する目的で社債管理者を設置することが規定されていました。しかし、発行している社債の総額が1億円未満であれば設置義務がなかったのです。
2021年施行の改正会社法でも設置義務は明記されなかったものの、代わりに第714条2項にて金融機関や弁護士と言った社外人材を社債管理互助資格者として委託できるようになりました。社債権者を社債の総額に関わらず保護する目的があり、設置することで投資家からの社会的信用を確保することができます。
株式交付制度の創設
ほかの企業を子会社化することをM&Aと言います。合併や買収の総称ですが、M&Aの方法のひとつに株式交換があります。買収される側の会社が発行していたすべての株式を親会社となる企業がすべて取得する方法で、会社法改正前は完全子会社(親会社が100%株式を取得している状態)に限定されていました。
2021年施行の改正会社法では、株式交換を完全子会社化する以外でも利用できるよう、新たな制度が創設されました。改正会社法第2条32項および第774条2項で、親会社となる株式を子会社化する会社の株主に交付できるようになっています。
まとめ
改正会社法での変更点は、会社の社会活動を透明化して競争力を高める目的で定められたものです。改正によって不利益を被ることはないでしょうし、企業の経営活動を加速させる可能性もある変更である点にも注目です。金融商品取引法と内容が異なるものの、内部統制による会社の活動に重要なものであることに変わりありません。条文だけ見て敬遠せず、きちんと対応することが会社の信頼性向上につながるのです。
よくある質問
会社法における内部統制システムの定義は?
会社法における内部統制システムは「取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」と定義されています。権限は取締役会にあり、取締役個人に委任されることは禁止されています。
2021年3月の改正会社法では何が変わったの?
2021年3月の改正で変わったのは、以下の7点です。
- 株主総会資料の電子提供制度の創設
- 株主提案権の濫用的な行使を制限する規定
- 取締役の報酬に関する規律の整備
- 会社補償とD&O保険に関する規律の整備
- 社外取締役の設置を義務化
- 社債管理補助に関する制度の見直し
- 株式交付制度の創設
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