• 作成日 : 2024年9月30日

M&Aで必要な表明保証とは?内容や目的、違反時の影響などを解説

ビジネス上の取引は、一定の信用関係の上に成り立っている部分が大きいといえます。一方で、M&Aのように会社の今後を大きく左右し得る規模の大きい取引では、正確で虚偽のない情報を授受することが不可欠となります。したがって、これらの情報は信用や信頼ではなく明確な契約などの形で示す必要があります。

このような場合、表明保証というものが条項に含まれることが多くあります。本記事では、主にM&Aにおいて重要な役割を担う表明保証について、意味や目的、機能、条項の内容などを解説します。

表明保証とは

まずはじめに、表明保証の意味や目的を解説します。

表明保証の意味

表明保証とは、契約において当事者の提示した書類や発言が真実であることを相手方に保証し、それを表明することを指しています。

ビジネスシーンでは主にM&Aで用いられ、「契約締結日や譲渡日などの時点では、その内容に間違いがない」といった旨の内容を含めることが一般的です。特にM&Aの完了後にリスクを負うことになる買い手側が、売り手側に対して表明保証を要求するケースが多いといえるでしょう。

表明保証の目的

主に買い手側が売り手に対して表明保証の条項を要求する目的として、次の2つが挙げられます。

  1. 売り手側の開示情報の正確さの担保
  2. 違反時の損害賠償請求または契約解除の権利の保有

1つ目は、売り手側に情報の正確性を保証してもらうという目的があります。。例えば、買収価格の根拠となる財務情報の不正の有無は、買い手が調査しきれず、売り手側に不正がないことを担保してもらう必要があるでしょう。

また、違反があった際に、損害賠償を請求したり契約解除を申し出たりする権利を買い手側が保持することも目的の1つです。表明保証がない場合、上記の財務情報の不正がクロージング後に発覚しても、買い手側が売り手側に損害賠償を請求できないケースも起こり得ます。

つまり表明保証がなければ、売り手側は契約の履行、すなわち株式や事業の譲渡が完了した時点で義務を果たしたことになるため、後に何らかの問題が生じた場合に売り手へ責任を追及することは困難になります。

表明保証条項の内容

続いて、具体的に表明保証条項として保護すべき内容の例を紹介します。基本的には買い手が売り手に対して保証を要求することが一般的ですが、売り手が買い手に求めることも可能です。以下で、売り手と買い手のそれぞれに規定する表明保証の例を取り上げます。

売り手に規定する表明保証の例

買い手側が売り手側に規定する内容としては、後に発覚した際に重大なリスクとなり得るような事項かつ、デューデリジェンスではその真偽が十分に確認できない範囲が一般的です。具体的には下記のようなものが表明保証による規定対象として挙げられるでしょう。

<売り手に規定する表明保証>

区分規定対象
企業全体反社会勢力との無関係性
法令違反や紛争などがないこと
労働条件の適正性
環境問題への悪影響がないこと
契約・権利関係契約の締結や履行に必要な権限を保有していること
許認可などの取得が適切であること
株式数や株主の正確性・正当性
資産や知的財産の適正性
財務関係簿外債務や偶発債務がないこと
財務情報の正確性

買い手に規定する表明保証の例

一方で、売り手側から買い手側に表明保証を求めることも可能です。上記の売り手へ要求する事項のうち、契約や企業全体に関する点では、買い手にも共通して表明保証を規定することができるといえるでしょう。

<買い手に規定する表明保証>

区分規定対象
企業全体反社会勢力との無関係性
法令違反や紛争などがないこと
契約・権利関係契約の締結や履行に必要な権限を保有していること
許認可などの取得が適切であること

表明保証を規定する際の注意点

次に、実際に上記のような内容を条項として含める場合の注意点を解説します。表明保証条項に関する注意点としては、主に次の4点が挙げられるでしょう。

  1. 表明保証の全てが保証できない場合は、バリュエーションの減額などで調整すること
  2. 表明保証がなされるのは、締結日や譲渡完了日までの段階であること
  3. 表明保証が保護する期間を明記すること
  4. 表明保証保険に加入すること

それぞれ詳しく解説していきます。

1. 表明保証の全てが保証できない場合は、バリュエーションの減額などで調整すること

売り手側が、上記で紹介したようなリスクの全てを表明保証によって担保できるとは限りません。例えば過去に工場での不正トラブルがあった企業で、後に同様のケースが新たに発覚しないことを売り手側が担保することは難しいでしょう。

その場合には、担保可能な範囲を定めて表明保証を行った上で、範囲外となったリスクなどについてはバリュエーションの減額などで調整することが一般的です。

または、そのリスクが買い手側に経済的損失を与えたタイミングで損害賠償請求できる、サンドバッキング条項を課すことも有効な手段となります。

2. 表明保証がなされるのは、締結日や譲渡完了日までの段階であること

表明保証は、あくまで契約の締結日やクロージングとなる譲渡完了日時点での情報を対象としています。したがって、後に状況が変化してリスクが生じたケースなどは保証の範囲には含まれません。

例えば、表明保証で労働関係の誠実性を担保したものの、クロージング直後にパワハラや横領などが発覚した場合、その事件がクロージング後に行われたものであれば買い手側の責任となり、売り手に損害賠償を請求することはできません。

3. 表明保証が保護する期間を明記すること

昨今、ニュースなどで報道されるように、数年前の重大な事故や違反が時間を経て後に発覚するケースも多いです。

このような事態を回避するために、買い手側は表明保証で一定期間カバーできるよう、期間を明記しておくと良いでしょう。期間が明記されていれば、その期間内に発覚した違反について売り手側に損害賠償などを請求することができます。一方でそれらが明記されていない場合、法的にどのような解釈がなされるかはケースバイケースとなり、損害賠償などが得られない恐れがあります。

4. 表明保証保険に加入すること

表明保証した内容に違反があった場合、相手方から損害賠償を請求されることになりますが、その経済的損失を補填するために表明保証保険が存在します。

違反を起こしてしまった側としては、支払うべき金額の負担を軽減することができます。また違反された側としても、被った経済的損害を速やかに補填できるため、どちらの立場になったとしても表明保証保険加入によるメリットを享受することが可能となります。

まとめ

本記事では、主にM&Aで重要な役割を果たす表明保証について解説しました。表明保証によって、デューデリジェンスなどではその正確性を担保できないことも、その真偽の責任を問うことができます。

一方で、表明保証条項を加えたとしても、全ての事項を完璧に担保することはできません。その際はバリュエーションの減額などで調整することが一般的です。また、表明保証が対象とする期間も非常に重要となります。加えて、万が一違反が発覚した時のために表明保証保険を上手く活用することもポイントだといえるでしょう。


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