- 更新日 : 2024年7月23日
最短で上場するにはどのくらいの準備期間が必要?事前に理解しておくべき条件とは
一般的に新規上場(IPO)というと、それなりの年数がかかるイメージを持っている人もいるかもしれません。しかし、特定の条件を満たすことで、わずか数年での上場に成功した会社もあります。最短で上場するには、どのようなことをしておけばいいのでしょうか。
本記事では、最短での上場期間とその準備期間、流れや条件を解説します。少しでも早く上場を果たしたい企業の担当者や経営者は、ぜひ参考にしてください。
目次
最短で上場するにはどのくらいの準備期間が必要?
上場までに必要とされる準備期間は、最短でも3年が必要です。上場審査基準と呼ばれる基準で定められており、会計監査期間や上場審査基準の関係で3年前後の期間が求められます。
上図は、ベンチャー企業が上場を果たすまでに必要な期間と準備の内容を記載した図です。早ければ3年以内に上場達成できる可能性もあり、実際に2年半で上場を果たした企業もあります。
上場審査基準では、過去の監査を実施する遡及監査が認められていないほか、監査法人が嘱託を断るケースも増えている関係で3年前後の期間が必要だとされているのです。また、取引所審査や主幹事要件会社による審査では、最低1年間の上場直前の管理体制が構築されているかどうかが判断材料となるため、少なくとも3年の期間を見ておく必要があるでしょう。
最短で上場するために理解しておくべき流れ
最短で上場を果たすためには、各タイミングで必要となる要素や理解しておくべき流れがあります。時期ごとに必要なことややるべきことを見ていきましょう。
直前前々期
直前前々期は、株式上場から逆算して3期前の時点を指します。今後の上場を目指す場合はこの時点から会計監査の対象期間に含まれることとなり、監査法人を決めなければなりません。
そのほかにも、次のような項目に着手する必要があります。
- 資本政策の策定
- 監査法人の選任
- ショートレビューの実施・報告書の検討
- プロジェクト・チームの設置と上場スケジュールの立案
- 主幹事証券会社の選定
作業負担が大きいため、担当部署だけに任せきりにするのではなく、全社一丸となって取り組むようにしてください。また、メインバンクやベンチャーキャピタルなど、複数の会社・関係先との連携が求められる箇所があるため、こちらも事前に準備しつつ綿密な計画で取り組む必要があります。
直前前期
直前前期には、主に社内体制の整備を実施する必要があります。証券会社の審査では、社内の体制が整備されているかがチェックされるため、上場直前前期には整理しておかなければなりません。
整備すべき項目は、以下の通りです。
- 利益管理制度
- 業務管理体制
- 組織運営体制
- 関係会社
- 特別利害関係者等取引解消
- 会計制度
- J-SOX法
また、直前前期になると監査法人による監査がスタートするほか、主幹事証券会社との定期ミーティングも始まります。こちらも担当部署だけではなく、全社一丸となったアクションが求められます。
直前期
直前期になると、申請に向けた最終チェックを行う時期に入ります。監査法人と主幹事証券会社の指導のもと、改善すべき点は改善をしていく必要があるでしょう。
主な準備項目としては、以下の通りとなります。
- 経営管理体制の運用開始
- 上場申請書類作成
- 主幹事証券会社による審査(中間審査がある場合)
上場申請書類は、投資家向け説明資料と同じく、ドラフト段階で監査法人や主幹事証券会社のチェックと意見を受けなければなりません。適正意見を獲得するためですが、それらを吸い上げて正式版に反映できる体制も重要となってきます。
申請期
上場を申請する年度を申請期といいます。申請から2~3ヶ月程度で上場承認が下りれば、晴れて上場となる流れです。
必要となる動きは次の通りです。
- 主幹事証券会社の引受審査部の審査
- 取引所審査
- 上場審査書類の修正・再提出
一般的には申請書類には修正や、それに伴う再提出が必要となります。時間や費用、関係者との調整など、やることが多岐にわたります。最短で上場を果たすには、これらのやりとりを円滑に実施する必要があるのです。
最短で上場するために理解しておくべき条件
最短で上場するためには、以下2つの基準をクリアしておく必要があります。
- 形式要件
- 実質要件
どの証券取引所に申請するのかで内容は変わりますが、本記事では東京証券取引所の基準を例に解説します。
形式要件
形式要件は、東京証券取引所のどの市場に申請するかで内容が異なります。主な具体的な要件を、以下の表にまとめました。
項目 プライム市場 スタンダード市 グロース市場 株主数 800人以上 400人以上 150人以上 流通株式数 2万単位以上 2千単位以上 1千単位以上 流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上 売買代金 時価総額250億円以上 - - 流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上 財政状態 連結純資産50億円以上、かつ単体で純資産が負でない 連結純資産額が正(プラス)であること -
高いガバナンスを備え、投資対象となるような流動性の時価総額を有している企業が上場する市場が「プライム市場」と呼ばれています。プライム市場ほどではなくとも、流動的な時価総額と高い水準のガバナンスを有している場合は、「スタンダード市場」への上場です。
「グロース市場」は、成長性実現に向けた事業計画やそれらの情報が一定の市場評価を受けている企業が上場する市場です。企業から最短で上場を果たすのであれば、グロース市場への上場を目指すと良いでしょう。
実質要件
数字的なものを求める形式要件とは別に、数字では表せない要件の審査も実施されます。これらを実質要件と呼んでおり、次の5つが項目として用意されています。
- 企業の継続性および収益性
商品やサービスが一時的なものではなく長期的に販売されているか、利益を生み出しているかが見られます。また、今後継続的に利益を発生させ続けることができるかもチェックされる内容です。 - 企業経営の健全性
法令順守の下で事業活動が行われているかを審査するものです。役員が同族でまとめられていないか、他社役員を兼業しても業務に支障はないかなども審査の対象となります。 - 企業のコーポレートガバナンスおよび内部管理体制の有効性
株主が経営を監視する仕組みであるコーポレートガバナンスや、不祥事の防止と業務の透明化を行う内部統制が有効に機能しているかをチェックします。 - 企業内容などの開示の適正性
企業が定められた時期に、過不足なく情報を公開できる体制が作られているかをチェックする項目です。投資家に対して、投資判断のために必要かつ正しい情報開示が求められます。 - その他公益または投資者保護の観点から東証が必要と認める事項
反社会的勢力との関係など、投資家を保護する観点で必要とされる項目が審査されます。
上場するうえでの注意点
上場を行う上で、注意すべきポイントがあります。
具体的には以下の2つです。
- 上場後には維持コストが発生する
- 他社からの買収を防ぐ対策が求められる
それぞれ、詳しく解説します。
上場後には維持コストが発生する
上場準備で必要となる業務の関係上、完全に自社だけで完結させることは不可能です。上場後にもその状態は続くため、上場前と比較すると維持コストが発生する点を覚えておかなければなりません。
企業規模や依頼する内容にもよりますが、少なくとも1億円程度、多い会社になると2億円以上のコストが発生する可能性があります。完全自社運営ができれば理想的ですが、少なくとも証券会社や監査法人に支払う費用や手数料は発生します。数千万~数億規模のコストが年間で発生することを覚えておきましょう。
他社からの買収を防ぐ対策が求められる
上場後は知名度が向上するため、他社から買収される可能性が高まります。上場すると、財務状況などの会社の状況を示す情報が一般公開されます。それらを判断材料として、他社が買収に乗り出す可能性もあるのです。また、友好的買収ではなく、強引に買収を進める敵対的買収に遭う可能性も否定できません。
買収を防ぐためには、黄金株やチェンジオブコントロール条項などを定めておく必要があります。また、同じ買収でも他社からの一方的な買収を防ぐ目的でホワイトナイトや第三者割当増資を実施するのもひとつの方法です。
まとめ
上場を最短で成し遂げようと思うと、最短でも3年前後の時間が必要です。その間に複数の手続きや運用体制の整備などの準備をしなければならず、時間も費用もかかります。最短での上場を達成しようと思うのであれば、経営者や担当者だけが動くのではなく、全社一丸となって取り組むようにしましょう。
よくある質問
上場までにかかる最短期間はどのくらい?
上場までに必要とされる準備期間は最短でも3年が必要です。上場審査基準と呼ばれる基準で定められており、会計監査期間や上場審査基準の関係で3年前後の期間が求められます。監査法人の選任などがうまくいかない場合、5年程度の時間がかかる可能性もあります。
上場の条件は?
上場を果たすには、形式要件と実質要件の2つをクリアする必要があります。東京証券取引所の場合は以下のようになっています。 【形式要件】
項目 | プライム市場 | スタンダード市 | グロース市場 |
---|---|---|---|
株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
流通株式数 | 2万単位以上 | 2千単位以上 | 1千単位以上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
売買代金 | 時価総額250億円以上 | - | - |
流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
財政状態 | 連結純資産50億円以上、かつ単体で純資産が負でない | 連結純資産額が正(プラス)であること | - |
- 企業の継続性および収益性
- 企業経営の健全性
- 企業のコーポレートガバナンスおよび内部管理体制の有効性
- 企業内容などの開示の適正性
- その他公益または投資者保護の観点から東証が必要と認める事項
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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