- 作成日 : 2024年7月24日
株主割当増資とは?第三者割当増資との違いやメリット、手続きを解説
スタートアップ企業にとって資金調達は成長の原動力です。製品開発や人員拡充など新たな成長戦略を実行に移し、競争優位を築くためには欠かせません。
資金調達手法の一つである「株主割当増資」は、既存の株主に新株を優先的に割り当てる方法です。
株主割当増資を行うことにより、資金調達を達成すると同時に既存株主の持分を保護することができます。
本記事では、株主割当増資の仕組み、メリットとデメリット、そして実施にあたっての注意点について解説します。
目次
株主割当増資とは
はじめに、株主割当増資の特徴や第三者割当増資との違いについて解説します。
株主割当増資とは
株主割当増資とは、既存株主に対して、その持株比率に応じて新株を発行する資金調達手法です。既存株主に新株の購入権利が与えられ、株主はその権利を行使することで新株を購入できます。
例えば、1000株を持つ株主Aと2000株を持つ株主Bがいる会社がある場合、AとBの持株比率は以下のとおりです。
株主A : 株主B = 1000株 : 2000株 = 1 : 2
この時に会社が300株を発行した場合、株主Aに100株、株主Bに200株の新株割り当てがされます。
ただし、株主に出資に応じる義務はなく、権利を行使しないことでAとBの持株比率が変化することはありえます。
株主割当増資と第三者割当増資との違い
第三者割当増資とは、会社が既存株主以外の特定の第三者に対して新株を発行する資金調達手法です。引受人は取引先や役員、ベンチャーキャピタル(VC)などです。
株主割当増資と第三者割当増資の違いは以下のとおりです。
株主割当増資 | 第三者割当増資 | |
新株の引受人 | 既存株主に持株比率に応じた新株を発行する | 特定の投資家、取引先、ベンチャーキャピタル(VC)、金融機関など |
既存株主への影響 | 権利を行使すれば持株比率に変化なし | 既存株主の持株比率が下がる |
株主構成 | 株主構成は変わらない | 新株主が生まれ、株主構成が変化する場合がある |
新株発行の流れ
ここでは、株主割当増資における新株発行の流れを、以下のステップごとに解説します。
1. 募集事項の決定
2. 募集株式の申込
3. 株主への割当
4. 出資の履行
5. 登記の申請
Step1.募集事項の決定
以下の募集事項を決定します。
- 新株の発行数
- 1株の払込価格
- 増加する資本及び資本準備金の金額
- 引受募集期間
- 現物出資(金銭以外)の場合はその内容
これらの事項について、非公開会社では株主総会の特別決議で決定し、公開会社では取締役会で決定します。
Step2.募集株式の申込
募集事項の決定後に既存株主に通知します。通知は引受申込の2週間前までに行います。通知書には「発行価格」「申込方法」「申込期間」などの詳細を記載します。
既存株主は指定された申込期間内に「氏名」「住所」「引受株式数」など所定の事項を記載した申込書を提出します。
Step3.株主への割当
申込を受けた会社は割当基準日に株主名簿を確定し、新株を割り当てる株主を決定します。
非公開会社は株主総会の特別決議、公開会社は取締役会で決定します。決定後、株主に株式割当通知や出資金の振込用紙による割当通知を行い、申込が確定します。
Step4.出資の履行
割当通知を受けた株主は指定された払込期日までに出資金を支払います。金銭出資の場合には払込期日までに発行会社の銀行口座に出資金が到着している必要があります。
株主から出資金を受領した会社は新株を発行し、株主に正式に割当を行います。株券を発行する場合、会社は株主に株券を交付します。
Step5.登記の申請
株主割当増資によって、資本金の金額や発行済株式数が増加します。会社法第915条に従い、効力発生(払込期日または末日)から2週間以内に法務局で登記申請を行います。登記によって増資が法的な効力を持ちます。
株主割当増資のメリット
ここでは、株主割当増資のメリットについて解説します。
メリット1.持株比率が変わらない
株主割当増資では既存株主が持株比率を維持できるため、既存株主に配慮した手法だといえます。
通常の増資では新たな株主が参加するため、既存株主の持株比率が低下するリスクがあります。しかし株主割当増資では、既存株主に優先的に新株を購入する権利が与えられるため、このリスクが軽減されます。
例えば10%の増資を行う場合、各株主が持ち株数の10%分の新株を購入できます。これにより、持株比率を維持し、経営権や意思決定への影響力を維持できます。
既存株主は自らの持株比率を維持でき、会社の経営権や意思決定への影響力を維持できるので、会社は株主の理解を得やすいでしょう。
メリット2.時価よりも低価格で新株発行できる
通常の増資では、時価よりも低価格で新株を発行すると新株主を優遇することになり既存株主にとって不公平となってしまいますが、株主割当増資ではその恐れがないため、時価よりも低価格での発行が可能です。
またこれにより、以下のメリットも生まれます。
1. 資本増強:
既存株主は低コストで追加投資でき、割安感を享受できます。会社は資本増強が期待でき、増資計画の成功率も高まります。
2. 資金調達の円滑化:
会社は確実に資金を調達でき、事業計画や成長戦略の推進がスムーズに進行します。これにより、企業の安定性と成長性が向上し、株主価値が増大します。
3. 安定的な株主基盤の構築:
魅力的な条件で新株を提供することで株主の投資意欲が高まり、会社とのパートナーシップが強化されます。これにより、会社は持続可能な株主基盤を構築し、長期的な成長と安定性を確保できます。
株主割当増資のデメリット
株主割当増資のデメリットは、大規模な資金調達が困難である点です。出資者が既存株主に限定され株主の母数が増えないため、大規模な資金調達には適していません。
新株の優先取得権が既存の株主にのみ与えられ、新規の出資者が株主に加わることがないため、資金力のある外部の有力な投資家に出資の機会が与えられません。
これにより、会社が資金調達を行う際に新たな投資家や市場からの資金を獲得する機会が制限されることにつながるでしょう。
既存株主に投資機会を与えられる点は魅力ですが、スタートアップ企業が自社の成長期に大規模な資金調達を実施したい場合に株主割当増資が適しているかは、検討の余地があるでしょう。
株主割当増資を実施する際の注意点
会社法第27条により、会社は会社設立時に、発行可能な株式の総数を事前に定款で定めています。したがって、定款に記載された株式総数を超える新株の発行を行うためには、株主総会の特別決議による承認を経て定款の変更が必要となります。
株主割当増資は既存株主の持株比率維持という配慮をしつつ資金調達を行えるため、多くの新株を発行するインセンティブが働きやすいです。しかし、事前に定めた発行数を超える場合は定款変更の手続きが必要である点に注意しましょう。
参考:「会社法(第二十七条)」
まとめ
株主割当増資は、既存株主に対し持株比率に応じた新株を発行する資金調達手法です。
既存株主は新株購入の権利を行使することができます。
既存株主以外の特定の第三者に新株を発行する第三者割当増資と異なり、増資後に株主構成が変わる可能性はありません。
既存株主が持株比率を維持できる点と、時価よりも低価格での新株発行が可能である点が魅力ですが、外部の有力な投資家から資金を得る機会が制限されるので、大規模な資金調達には向いていません。また、株主割当増資を実施する際には自社の発行可能株式総数に注意しましょう。
資金調達戦略を構築する際は、ぜひ株主割当増資を検討してみてください。
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