IPOを成功させるためのポイントとして、IPOプロジェクト全体としてやるべきことと、スケジュールを抑えることは極めて重要です。IPO自体、管理部門に大きな負荷がかかるプロジェクトになるため、やるべきことをポイントごとに抑え、リソース配分を意識しながら進めていく必要があります。ここでは、IPOに向けた準備においてやるべきことを、スケジュールに沿って解説していきます。IPOをオンスケジュールで進めるためにも、本記事を参考にしてもらえればと思います。
目次
IPOスケジュールを公開!全体感をまずは知ろう
IPOは、準備を始めてからすぐに上場できるものではなく、2~3年の長期プロジェクトとなります。最終的には、証券取引所からの審査をクリアして無事上場できることとなりますが、準備不足のために審査に落ちることもあります。ねらったタイミングで上場するには、プロジェクト全体のスケジュールや、各タイミングでクリアしていくべきことを、正しく把握しておくことが重要となります。ここでは、IPOに向けた準備でやるべきことをテーマに、各タイミングで何が必要になるのか、確認していきましょう。
IPOするまでのやるべきことを解説
IPOするまでの期間は、「IPO準備期間」と「申請期(N期)」に分かれます。さらにIPO準備期間は、「直前期(N-1期)」と「直前々期(N-2期)」に分けて、やるべきことをみていきます。
直前々期(N-2期)以前
IPOに向けた事業計画・資本政策の策定
IPO準備を始めるにあたって、外部関係者(監査法人や主幹事証券など)の選定を行っていくことになりますが、外部関係者から協力を得るためには、まずIPOまでの事業計画・資本政策を策定する必要があります。IPO時に目標とすべき事業状態を達成するための方法や、それに必要な資金の計画となる資本政策を外部関係者が精査して、契約が結ばれます。
まずIPO準備をスタートするうえでは、この事業計画・資本政策の策定から始めましょう。
注意点として、資本政策は後戻りができないため、自分だけでなく財務に詳しい担当者および社外の詳しい方にも相談してよく考えてつくりましょう。
監査法人の選定
IPOを行ううえでは、直前期および直前々期の決算内容の適正性について、監査法人から証明書をもらう必要があります。また、上場に向けた内部統制の構築支援も行ってもらえるため、効率的な内部統制を構築するには、この監査法人の選定は極めて重要となります。
特に最近では、IPOを目指す企業が多く、大手の監査法人との契約は難しくなっています。また監査法人は、準備期間で会社がIPOに対して抱えている課題を調査するショートレビュー
を行うため、選定はN-2期に入る半年前の契約を目安にして、大手監査法人だけでなく、中小監査法人も視野に入れて支援してくれる監査法人を探しましょう。
主幹事証券会社の選定
上場の支援を行う証券会社を「幹事証券会社」と言い、そのなかでも取り扱い株数が多く、全体的な作業の運営やスケジュール管理など、中心的役割を果たす会社のことを「主幹事証券会社」と言います。主幹事証券会社は、会社の立場に立ったアドバイスを行うだけでなく、取引所の行う「上場審査」の前に、証券会社自身が審査を行うという重要な役割を果たしてくれます。上場審査のタイミングで指摘されそうな足りないポイントを細かく指摘してくれるなど、非常に重要なパートナーとなってくれるのです。なお、証券会社の選定は、N-2期に入ってからでも問題はありません。
IPO準備プロジェクトチームの結成
会社が上場するための準備作業は、膨大な量となります。そのため、社長自ら準備するのではなく、別途プロジェクトチームを組成して進めていくのが一般的です。
IPO準備は、準備にあたってのもっとも大きい課題に関する機能を持つチームのリーダーが、プロジェクト全体のリーダーを担うとスムーズにいくことが多いです。そのため、ファイナンス部門や経理部門のトップが、プロジェクトリーダーとなることが一般的です。
IPOコンサルタントの選定
必ずしも必要というわけではありませんが、社内に知見が足りなければIPOについて豊富なノウハウを持ったコンサルタントを依頼することをおすすめします。試行錯誤しながらIPOの準備をすると不備が生じたり、失敗してしまう可能性もあるからです。そもそも本当にIPOをするべきなのか、もしIPOをする場合、必要な外部関係者はどのように選定していけばよいのかなど、プロジェクトをよりスムーズに進め、成功に導くためには、やはりIPOに精通しているキーパーソンが必要です。
直前々期(N-2期)
ショートレビューの実施
ショートレビューとは、監査法人が行うもので、その会社がIPOに対して抱えている課題を検討し、報告する調査を言います。
ショートレビューでは、一般的に
①上場の時期や上場市場の選択
②経営組織体制・内部管理体制の整備状況
③会計管理制度の整備状況
④関係会社・関連当事者
との取引状況を調査します。
証券取引所は、上場しようとする会社に対して審査基準を設けています。審査基準には、上場までに一定の数値または一定の事実の有無によって充足しなければならない最低条件である「形式基準」と、上場申請会社が上場会社としてふさわしい、充実した管理体制を備えた会社であるかどうか審査するための「実質基準」があり、会社はこれをクリアしなければ上場することができません。
そのため、IPO準備企業は、早期の段階からショートレビューを受け、会社がIPOに対してどのような課題を抱えているのかを事前に把握し、改善案や作業の優先順位などを明確にしておくことが必要になります。
内部管理体制の整備
ショートレビューや証券会社からのチェックによって、経営管理体制として今できていること、できていないことをレポ―トでもらうことができます。直前々期では、今できていないことについて外部関係者と相談しながら構築を進めていきます。具体的には、以下があります。
- 内部統制の構築
- 内部監査部門の立ち上げ
- 社内規程の整備
- 役員の選退任・組織図の見直し(監査役の選任等)
- 未払残業代の有無の確認・清算
上記の通り、やるべきことは多くあるのですが、特に内部統制の構築については、過剰に統制してしまうと事業拡大の足かせにもなりかねません。監査法人等に言われるがままに対応するのではなく、担当者として何が一番の会社のリスクで、それがどのような仕組みによって予防・発見できるのかをよく理解し考えて構築することで、効率的かつ効果的な体制をつくっていくことができるようになります。
直前期
内部管理体制の運用
直前期は、上場に向けたテスト運用期間であり、直前々期に構築した経営管理体制を1年通して運用する期間となります。監査法人も1年にわたって適切に運用されているかについて監査を実施します。
信託会社(株式事務代行機関)の決定
株式事務代行機関とは、株主名簿の管理を代行してくれる信託銀行や証券代行の業者のことを言います。上場時の形式要件として、株主名簿管理人を選定することが求められるため、上場に先だって選定しておく必要があります。
証券印刷会社の決定
上場時および上場後も各ステークホルダーにさまざまな資料を開示していくことになりますが、証券印刷会社では、これらの資料作成をサポートしてくれます。上場にまつわる外部向けの資料作成を始めるまでには、証券印刷会社との契約を結んでおきましょう。
上場申請書類の作成
Ⅰの部、Ⅱの部と言われるような上場申請にあたって必要な書類を作成します。内容としては事業の説明、財務状況・経営成績の説明など、何百ページにもわたります。作業ボリュームが非常に多いため、専門のコンサルタントに委託することもあります。
申請期
証券会社の引受審査
「引受審査」では、上場に先だって証券会社として上場申請企業の株式を引き受けて売り出すことができるのか、内部管理体制・予実管理体制などさまざまな角度から審査が行われます。この審査は、普段やり取りしている営業部門とは別部署の審査部門によって行われます。証券会社によっても審査の強度がありますが、証券取引所による上場審査を受ける前に、まずはこの引受審査をクリアする必要があるため、証券会社の営業担当者と事前に対策をしっかりと練っておきましょう。
証券取引所による上場審査
「上場審査」は、会社が取引所へ上場申請することによりスタートします。上場審査の審査期間は、東京証券取引所であれば、本則市場である第一部、第二部の場合は3カ月程度、マザーズ市場が2カ月程度、JASDAQであるスタンダード、グロース市場が2カ月程度です。
ファイナンス業務
公募(売り出し)によって資金調達を行う会社は、公募(売り出し)価格の検討や、有価証券届出書・目論見書の作成・提出、およびIRロードショーなどのファイナンス業務があります。
IPOまでのポイントは?
大前提として、IPOの審査は「落とすためではなく、上場してよい会社かどうかを理解するために実施される」ものとなっています。ただし、業績が足元で大幅に悪化してきている場合には、そもそもサステナブルに収益を拡大していけるか見極めが難しいため、審査は慎重にならざるを得ません。
一方、業績が安定して伸びている状況で、監査法人や証券会社の協力のもと、必要な体制を正しく整えていけば、基本的に審査で落ちることはありません。IPOにおいてもっとも重要なポイントは「経営者も含め、会社全体としてIPOをする意向が明確で、管理体制強化に協力的か」になります。
そのうえで、いくつか落とし穴になるような事例を紹介します。審査ポイントのトレンドもあるため、担当の監査法人や証券会社の方、もしくは直接証券取引所の方にも聞いてみるとよいでしょう。
- 販売の依存度が1社に対して高すぎる場合
- 直前々期期首に遡って財務データを修正する必要が生じた場合
- 回答した内容と実務に相違が多数見られた場合
- IPO責任者が不在となった場合
- 経営者や営業部門が非協力的で準備が進まない場合
- 法令違反を起こした場合
- 退職者や外部から、粉飾、法令違反等の情報が提供され事実であった場合
マネーフォワード クラウド会計plusでIPOを見据えた管理体制強化を
上記の通り、経営者や営業部門まで含めて、IPOに対して協力的になってもらうことがひとつの重要なポイントとなっています。そのためにも、現場の負担を可能な限り軽減し、効果的に内部統制を構築していくことが管理部門には求められます。
そのなかでも「マネーフォワード会計plus」は、上場に対応できる管理体制強化を支援するクラウド会計システムになります。
例えば、仕訳承認フローの導入で決算書の信頼性を確保できるうえ、担当者ごとに業務分担にあわせた権限設定も可能で、仕訳の更新履歴も閲覧できることから監査対応をスムーズにすることができます。つまり、バックオフィスをさらに効率化しながら内部統制を構築できるため、IPOを目指したい企業にとっては体制構築をしっかりと後押ししてくれるツールとなるでしょう。IPOを目指す企業は、ぜひ導入を検討してみてください。
よくある質問
IPO準備にあたってまずは何を始めたらよいでしょうか?
社内にIPOに精通している人材がいなければ、外部のIPOコンサルタントを選定し、上場までのロードマップを描いてもらいましょう。
上場準備プロジェクトチームはいつ組成すればよいですか?
最近は人材不足が顕著なため、早めにエージェント等に相談し、人材を確保しましょう。どうしても採用できない場合には、コスト増となりますがハンズオンの専門家に常駐してもらうことも選択肢のひとつになります。
監査法人や証券会社はどのような基準で選べばよいですか?
コストだけでなく、会社のことをよく理解してくれているかの観点も忘れないようにしましょう。外部関係者は、上場後も長い付き合いとなるため、総合的に判断する必要があります。