• 作成日 : 2024年9月30日

アジャイルガバナンスとは?意味や実践方法、メリットを解説

アジャイルガバナンスとは、多様なステークホルダーとの協働や迅速性などを重視する新しいガバナンスの仕組みです。イノベーションの促進や意思決定の迅速化などのメリットが期待されます。本記事では、アジャイルガバナンスの意味やメリット、実践方法を解説します。

アジャイルガバナンスとは

はじめに、アジャイルガバナンスの定義や位置付けを解説します。

アジャイルガバナンスの定義

経済産業省では、アジャイルガバナンスを「政府や企業、個人・コミュニティなどのさまざまなステークホルダーが、自らが置かれた社会的状況を継続的に分析し、目標を決定し、その実現に資するシステムや市場、法規制、インフラといった多様なガバナンスシステムを設計し、対話に基づいてその結果を継続的に評価・改善していくモデル」と定義しています(一部意訳)。

また、経済産業省では、アジャイルガバナンスは以下3つの要素から成るとしています。

要素概要詳細
主体マルチステークホルダー企業、個人・コミュニティ、政府それぞれが自主的なガバナンスを行いつつ、透明性および対話を通じて他ステークホルダーとの信頼を醸成する
手順アジャイル失敗を許容した上で、社会全体で継続的に学習し、ガバナンスのシステムをスピーディーに改善し続ける
構造マルチレイヤー機能のつなぎ目ごとに信頼の基盤を設置することで、各主体のガバナンスを都度調査しなくても信頼できるような分散型の仕組みを構築する

上記を踏まえると、アジャイルガバナンスとは官民一体となって、継続的により良い社会システムを作り上げていくためのモデルだといえます。

Society5.0におけるアジャイルガバナンスの位置づけ

現代社会には、都市部への人口集中や気候変動、少子高齢化などのさまざまな課題があります。
政府は、こうした課題を克服するためには、サイバー空間(AIやビッグデータなどから構築される空間)とフィジカル空間を融合させるシステム(CPS)により、イノベーションがあらゆる場面で創出される”Society5.0”という社会の実現が必要だとしています。

しかし、伝統的なガバナンスモデルは、「ルールを事前に決定し、それに各主体が従う」という仕組みであるため、「技術・ビジネスモデルの迅速な変化に対応できない」などの課題がありました。そこで、Society5.0の実現を果たすための新たなガバナンスモデルとして、不確実性に対して迅速かつ協働的に対処するアジャイルガバナンスが提唱されているのです。

※参考:経済産業省「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2」「GOVERNANCE INNOVATION Ver.3

アジャイルガバナンスの実践方法

経済産業省の資料(前述)をもとに、アジャイルガバナンスを実践する方法を流れに沿って解説します。

手順1:環境・リスク分析

アジャイルガバナンスの第一歩は、環境およびリスクの分析です。

Society5.0のシステムは、物理的な環境のみならず、市場やルールの変化といった周辺環境からも影響を受けます。そのため、ガバナンスの各主体は外部環境の変化や、それによってもたらされるリスクの大きさなどを継続的に分析する必要があります。

そうすることで、適切な対応策を講じ、リスクを最小限に抑えることが可能です。

手順2:ゴール設定

次に、環境分析に基づいてアジャイルガバナンスのゴールを設定します。具体的には、ガバナンスの対象となる技術やビジネスモデルのイノベーションに関して、以下3つの項目を検討・決定し、ゴールを設定します。

1つ目はステークホルダーの決定です。たとえば特定のビジネスモデルを考えた場合、事業会社(ハードウェアメーカーなど)や顧客に加えて、データの提供者や処理者、規制当局などが挙げられます。

2つ目は、イノベーションがステークホルダーにもたらすインパクトの抽出です。プラスのインパクトとしては、社会課題の解決や利便性の向上など、マイナスのインパクトとしてはプライバシーリスクや安全性リスクなどが考えられます。

そして3つ目は、各インパクトの相互関係の整理および最適なバランスの決定です。

外部環境の変化に伴い、ゴールの見直しを都度行うことが重要です。

手順3:全体像の設計

ゴールが設定されたら、その達成に向けて最適なガバナンスシステムの全体像を設計します。

ここでは、リスク管理の方法や法規制のポイント、インフラの構築など、ガバナンス全体の構造を整理します。この段階では、ガバナンスの主体(企業や政府、個人・コミュニティ)がどのような目標を達成できるかを分析し、全体最適を目指すことが求められます。

手順4:各要素の設計

ガバナンスシステムの全体像が整ったら、各要素の具体的な設計に移ります。具体的には以下の3つの観点で設計します。

1つ目は技術によるガバナンスです。リスクを最小化するための技術的手法として、暗号化やブロックチェーン、AIによる異常検出などを導入します。特に公的な信頼が求められる領域では、社会全体の信頼基盤となるシステムを、多様なステークホルダーで整備することが重要です。

2つ目はルールによるガバナンスです。ステークホルダー間でのルール設定が求められます。「企業内の自主ルール」や「企業とユーザー間の契約」、「標準(ISOなど)」、「法規制」など、さまざまな階層のルールを設計します。

3つ目は組織のデザインです。技術やルールを適切に機能させるための組織設計が求められます。企業における法務部門と事業部門の連携強化や、官民連携組織の設計などが重要になります。

手順5:ガバナンスシステムの運用

設計されたガバナンスシステムを運用する段階です。この際、リアルタイムデータを活用しながら継続的なモニタリングを行い、システムの状況を監視します。また、ステークホルダーに対して、システムのゴールや運用状況、リスクなどの情報を適切に開示し、双方向のコミュニケーションを続けることが重要です。

さらに、被害を受けたステークホルダーに対する迅速かつ公正な救済手段の確保も不可欠です。

手順6:評価および分析・ゴールの再設定

最後に、ガバナンスシステムの運用結果を評価し、必要に応じてゴールを再設定します。

具体的には、評価手法や基準をマルチステークホルダーで協創します。また、ガバナンス上の問題点が見つかった場合には迅速にアップデートを行い、継続的な改善を図ることが求められます。

アジャイルガバナンスのメリットと課題

最後に、アジャイルガバナンスのメリットと課題を簡潔に紹介します。

メリット

期待されるメリットは以下のとおりです。

  • 持続可能な経営を実現できる
  • イノベーションが促進されやすくなる
  • 組織内の多様性につながる
  • 意思決定が迅速化する
  • AIによる高度な分析が実現する
  • 多様なサービスが生み出されやすくなる

課題

一方で以下の課題もあります。

  • 結果予測が困難
  • 適切な技術やツールの活用が不可欠(使いこなす必要がある)
  • 継続的な組織学習が求められる

課題解決のためにビジネスを行う企業にとっては、IT技術の積極的な活用やガバナンス運用に関する人材育成・確保、全社一丸となった取り組みが重要だといえます。

まとめ

ビジネスを取り巻く変化が早い昨今において、従来の中央集権型であるガバナンスモデルは通用しなくなっています。変化に対応し、ビジネスを成長させ続けるには、多様なステークホルダーと協働し、アジャイルガバナンスに取り組むことが有効となるでしょう。


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