- 更新日 : 2024年7月17日
IPOにおける管理部門の役割とは?強化の重要性や課題・対策を解説
IPOの際、管理部門は、IPOを実現するための体制作りや、利害関係者への対応などの役割を担います。通常時よりも業務の負担が増えるため、外部コンサルタントの起用などの対策が必要です。
本記事では、IPOにおける管理部門強化の重要性や直面する課題、その対策について解説します。
目次
IPOにおける管理部門とは
はじめに、管理部門の概要と、IPOにおいて果たす役割・業務内容を解説します。
管理部門の概要
管理部門とは、企業の経営資源(ヒトやモノ、資金、情報)を管理する部門の総称です。
経理や財務、人事、法務、総務などの部門が該当し、バックオフィスとも呼ばれます。各部門の基本的な業務は以下のとおりです。
- 経理:帳簿や財務諸表の作成
- 財務:資金の管理・調達・運用
- 人事:人材の管理・活用・育成
- 法務:法的リスクの洗い出し・問題への対処
- 総務:上記以外の業務(施設や備品の管理、会議の企画など)
IPOにおける管理部門の役割・業務内容
IPOを目指す会社の管理部門は、上記の業務に加え、主に以下3つの役割も担う必要があります。
IPOに向けた体制作り・運用
IPOを果たすには、証券会社や証券取引所による審査、監査法人による監査を通過しなくてはなりません。
厳しい基準をクリアするには、そのための業務管理体制やコーポレートガバナンス体制を作り上げ、問題なく運用していく必要があります。具体的には、主に以下の手順で体制作り・運用を実施します。
- 予算管理や会計処理、賃金規定、就業規則、法令遵守状況などをチェックし、リスクや問題点を洗い出す
- 問題を解決するために、規則の見直しや改定、新しい制度の整備などを行う
- 規則を遵守できているかを定期的にチェックする制度(内部監査機能)を整備する
- 新しい制度や内部監査機能を運用していく
IPOおよびその後の予算・事業計画策定
IPOを成功させるには、審査や監査の基準クリアはもちろん、一般投資家や従業員からの支持が必要です。そのためには、合理的な予算計画や事業計画の策定がポイントになります。
自社の強みや過去の実績などを根拠に、IPO後の成長を実現し得る計画を策定しましょう。
社内外の利害関係者に対する対応
管理部門では、社内外の利害関係者への対応も不可欠です。主なものとして、下記が挙げられます。
- 証券取引所や証券会社、監査法人に対する対応(書類提出や指摘への対応など)
- 投資家や株主に対する、事業計画や予算・ビジョンの説明
- IPOにあたって必要となる人材の採用や育成
- IPOに関する広報の実施
- IPOを行う目的やその後のビジョンの社内周知
上記は一例であり、他の業務が必要となるケースもあります(IPOコンサルタントとの協働など)。
IPOに向けて管理部門を強化する重要性
IPOに向けて管理部門を強化する必要がある理由は、財務報告の信頼性確保や、法令遵守などが求められるためです。
IPOを行う過程では、財務状況や事業計画を開示し、投資家から支持を得る必要があります。
また、経理や人事、法務などの管理部門については、法令を遵守していることはもちろん、透明性も不可欠です。
管理部門を強化しないとこれらへの対応が疎かとなり、監査や審査の基準を満たせなくなったり、投資家から支持を得られなくなるリスクが高まります。
IPOの失敗リスクを軽減するためにも、管理部門の強化は不可欠だといえます。
IPOに向けた管理部門の人員体制
管理部門の強化が重要であることは分かっても、「具体的に、どの分野の人材を、どの程度確保すれば良いのか」という部分には疑問が残ります。
この章では、IPOの準備を行う管理部門として適切な体制について解説します。
担当分野
IPOに向けては、「経理(会計)」、「財務」、「人事・労務」、「法務」、「総務」を担当する人材の確保が求められます。
また、IPO準備の責任者やCFO(総務部長)も別途準備することがベストです。
必要に応じて、経営企画や内部監査の人数を増やす場合もあるでしょう。
人数
適正人数はケースバイケースですが、基本的には責任者込みで最低でも6〜7名程度は必要となります。
IPO準備責任者やCFO、経理担当は兼任しても問題ないため、場合によっては4〜5名で足りる可能性もあります。
IPOコンサル会社やBPOサービスに一部の業務を委託する場合、上記の人数をさらに減らすことも可能です。実際のところ、豊富な実績や知見を有するコンサルタントを起用した方が、より業務をスムーズに進められる可能性が高まります。
※参考サイト:マネーフォワード「BPOサービス」
社外人材の要否
社内にIPOの準備に関する知見を有する人材が豊富にいれば、社外から新たに人材を起用する必要はありません。
ですが、そうでないケースが大半であるため、多くの場合は新たにIPOの知見を有する人材を採用します。もしくは、前述のIPOコンサルタントに業務を委託します。
IPOの際に管理部門が直面する課題と対策
IPOの準備にあたって管理部門が直面する3つの課題とその対策を解説します。
準備期における負担増加
1つ目の課題は、IPO準備による業務負担増加です。
求められる役割や業務量が通常よりも増えることに伴い、管理部門1人ひとりの負担も大きくなります。
実際、IPO達成または準備中の企業を対象としたアンケートでも、全体の83%の企業が業務負担が増加したと回答しています。
負担が増加した結果、優秀な人材が離職したり、モチベーションが低下したりして、管理部門の業務に支障をきたすリスクがあります。
こうした事態を防ぐには、IPO人材の採用を強化したり、外部のコンサルタントに業務を委託することが効果的です。
業務が属人化する
2つ目の課題は業務の属人化です。
一部の経験豊富な人材が業務の大半を担っている場合、業務が属人化してしまい、他の人材ではその業務について把握できない状況となり得ます。
業務が属人化してしまうと、その業務を担っていた人材の休職や離職によって、IPOの準備が停滞してしまうリスクがあります。
また、属人化していた業務の質が悪く、IPOに失敗することも考えられます。
これらのリスクを軽減するには、文書などで業務内容を可視化しておく、もしくはERPなどのシステムによって業務内容をリアルタイムで共有するのが効果的です。
業績の悪化・目標の未達成
最後の課題は、業績の悪化や目標の未達成です。
IPOを実現するには、売上や利益、純資産などの財務指標を順調に伸ばす必要があります。
また、そのための人材採用や資金繰りを円滑に行うことも求められます。
しかし想定に反して業績が悪化したり、人材採用や資金繰りの目標が達成できなかったりすると、IPOの実現が難しくなってしまいます。
売上や利益の低下によってIPO準備に要する費用を確保できなければ、IPOの準備自体が続行困難になり得ます。
こうした事態を回避するためにも、合理的な経営ビジョンや予算・経営計画の策定が不可欠です。
また、IPOの準備を円滑に進めるために、資金調達や資本計画にも注力する必要があります。
まとめ
IPOの準備を円滑に進める上で、管理部門の強化は不可欠です。
管理部門の強化に向けては、外部のコンサルタントの起用や、BPOサービスを活用することも効果的な選択肢となります。
本記事で紹介した情報を参考にしつつ、IPOのための管理部門強化に注力してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
上場企業における関連会社とは?上場審査の項目や整理する時期・方法を説明
自社の上場を予定している場合、関連会社の取り扱いに困ることがあるかもしれません。状況によっては、関連会社が上場審査に悪い影響を与える可能性があるためです。 この記事では、関連会社の定義や子会社との違い、関連会社がある場合の上場審査項目、関連…
詳しくみるJ-SOX法(内部統制報告制度)とは?目的や対応の進め方・改正のポイントをわかりやすく解説【テンプレート付き】
上場企業は、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度への対応が必要となります。この内部統制報告制度が、いわゆるJ-SOXです。2002年7月にエネルギー大手企業のエンロンや通信大手企業のワールドコムの粉飾決算を受けてサーベンス・オクスリー法(…
詳しくみるISMSの管理策とは?要求事項との違いやISO 27001:2022附属書A 93項目を解説
情報セキュリティ対策の重要性が叫ばれる中、ISMS認証取得を目指す企業が増えています。その核となるのが、リスクに対応するための具体的な方策「管理策」です。 とはいえ、「要求事項と何が違うの?」「たくさんあるけど、どう選べばいい?」と戸惑う方…
詳しくみる上場会社等監査人登録制度とは?導入された背景や名簿の確認方法も説明
上場会社等監査人登録制度とは、上場会社の財務書類の監査を行う監査法人や公認会計士が登録を受け、その品質と信頼性を確保するための制度です。登録を受けるためには、組織体制や品質管理体制などの整備が求められます。 そこで本記事では、上場会社等監査…
詳しくみる棚卸立会の目的は?監査法人がチェックすべきポイントや必要な準備を解説
棚卸業務は企業の在庫管理に必要なことですが、実施には精度の確保と透明性が求められます。 特に第三者によるチェックを行うことで、棚卸資産が適切に管理され、企業の価値向上にも繋がるでしょう。 そこで本記事では、棚卸立会監査の目的やチェック方法な…
詳しくみる指名委員会等設置会社とは?各委員会の権限やメリット・デメリットを解説
指名委員会等設置会社とは、指名委員会や監査委員会、および報酬委員会を設置する組織形態です。業務執行と経営監督が分離している点が特徴であり、委員の過半数を社外の取締役とする必要があります。 コーポレートガバナンスの強化につながるというメリット…
詳しくみる