- 更新日 : 2024年7月12日
上場会社等監査人登録制度とは?導入された背景や名簿の確認方法も説明
上場会社等監査人登録制度とは、上場会社の財務書類の監査を行う監査法人や公認会計士が登録を受け、その品質と信頼性を確保するための制度です。登録を受けるためには、組織体制や品質管理体制などの整備が求められます。
そこで本記事では、上場会社等監査人登録制度について多角的に解説します。上場会社等監査人登録制度について詳しく知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
2023年4月から開始の「上場会社等監査人登録制度」とは
上場会社等監査人登録制度は、2023年4月から開始された新たな制度で、上場会社の財務書類について監査証明業務を行う監査法人や公認会計士に対する登録制度を導入しています。会計監査の環境変化、特に上場会社監査の担い手の拡大を踏まえたものです。
この制度により、上場会社が監査を受ける際には、登録のある監査法人や公認会計士に依頼する必要があります。つまり、財務諸表や決算書などの監査証明業務を行う場合、監査法人または公認会計士は、上場会社等監査人名簿への登録を受けることが必須です。
上場会社等監査人名簿への登録の審査や、上場会社等監査人名簿に登録された監査法人や公認会計士の登録の取消しなどは、上場会社等監査人登録審査会が実施しています。この審査会は、審査の透明性と客観性を確保するために、審査会長を含めた委員7人のうち過半数が会員でない有識者により構成されなくてはなりません。
また、上場会社等監査人名簿に登録されている監査法人または公認会計士の情報は、公式ウェブサイトから確認できます。
上場会社は、財務計算に関する書類及び内部統制報告書について、上場会社等監査人名簿に登録を受けた公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければなりません。そのため、監査法人または公認会計士と財務書類に係る監査証明業務の契約を締結する際は、監査法人もしくは公認会計士が上場会社等監査人名簿への登録有無をあらかじめ確認しておかなければならないのです。
上場会社等監査人登録制度が導入された背景
2023年4月までは「上場会社監査事務所登録制度」が自主規制として導入されていました。日本公認会計士協会の自主規制の一環として、上場会社の監査を行う監査事務所に対する規律が設けられていたものです。しかし、法的な根拠があるわけではなく、財務諸表監査の信頼性が図られていたというのが実情でした。
近年では大手監査法人の上場会社数は減少傾向にあり、監査手続きの複雑化や改訂品質管理基準の適用など、監査の品質確保のための整備が求められていました。このような状況の中で、上場会社の監査を担う監査法人の登録制度を法定化することで監査リスクに対応できる体制を整える必要があったのです。
そして、2022年5月に交付された「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」によって、上場会社等監査人登録制度へ切り替わることとなりました。
この法改正により、上場会社の監査を行う監査法人や公認会計士は法律上登録が義務付けられ、登録を受けるためには人的体制や品質管理体制の整備などが求められるようになったのです。
上場会社等監査人登録情報の確認方法
上場会社等監査人登録制度の導入に伴い、上場会社等監査人名簿に登録されている監査法人や公認会計士の情報は、以下のリンクから確認できます。
このウェブサイトでは、登録されている監査法人や公認会計士の情報を簡単に調べられます。
手順は以下の通りです。
- 上記のリンクをクリックしてウェブサイトにアクセスする。
- ウェブサイトの中央部にある検索ボックスに、調べたい監査法人や公認会計士の名前を入力する。
- 検索ボタンをクリックすると、該当する監査法人や公認会計士の情報が表示される。
このウェブサイトを利用することで、上場会社等監査人名簿に登録されている監査法人や公認会計士の情報を確認し、適切な監査法人や公認会計士を選ぶ参考にできます。
監査が義務付けられている会社
日本においては、金融商品取引法に基づき、上場企業は財務諸表の監査を受けることが義務付けられています。投資家が企業の財務状況を適切に理解し、投資判断を行うための基盤となる情報を提供するためです。監査は公認会計士や監査法人によって行われ、その結果は監査報告書として公表されます。
また、会社法に基づき、資本金が5億円以上または負債200億円以上の非上場企業に対しても、会計監査人による会計監査が義務付けられています。企業が適切に決算書を作成しているかどうかを確認するために必要です。
一方で、これらの企業でも、法律による義務以上の監査を任意で受けることが可能です。たとえば、内部統制の有効性を評価する内部監査や、環境や社会貢献活動に関するCSR監査など、特定のテーマに焦点を当てた監査を受けることがあります。
上記の任意の監査は、企業の信頼性を高め、ステークホルダーとの良好な関係を維持するための重要な手段となっています。
上場会社が監査法人を選ぶポイント
上場会社が監査法人を選ぶ際には、以下の2つのポイントを押さえましょう。
- 監査法人の規模で選ぶ
- 実績で選ぶ
それぞれ詳しく解説していきます。
監査法人の規模で選ぶ
監査法人を選ぶ際のポイントとして、その規模が重要で重要です。監査法人は大きく分けて、大手監査法人、準大手監査法人、中小監査法人の3つに分類できます。それぞれの規模の監査法人には、選択する際にメリットとデメリットがあります。
大手監査法人は、規模と経験から、大規模な上場会社の監査に対応する能力が特徴です。また、国際的なネットワークを持つため、海外事業を持つ企業の監査にも強みを持っています。しかし一方で、規模が大きいために柔軟性に欠けることや、料金が高めに設定されていることがデメリットです。
準大手監査法人は、大手監査法人と中小監査法人の中間に位置します。大手監査法人と同様に一定の規模と経験を持ちつつ、中小監査法人よりも柔軟な対応が可能で、料金も比較的抑えられる傾向にあります。しかし、大手監査法人ほどの国際ネットワークは持っていないため、海外事業の監査には苦労することもあるでしょう。
中小監査法人は、その規模から一対一の密なコミュニケーションを取ることが可能で、特定の業界に深い知識を持つことが多いです。また、料金も比較的抑えられる傾向にあります。しかし、大規模な上場会社の監査や、海外事業の監査に対応する能力は限定的であることがデメリットとして挙げられます。
実績で選ぶ
監査法人を選ぶ際の重要なポイントが、監査法人の実績です。実績を確認することで、その監査法人が自社のニーズに適しているかどうか判断できます。
監査法人の実績を確認する際には、以下のポイントをチェックすると良いでしょう。
- 業界経験:監査法人が自社と同じ業界の企業の監査をどれだけ経験しているかを確認します。同業界の監査経験が豊富であれば、業界特有の問題点やリスクを理解している可能性が高いです。
- 監査の規模: 監査法人がどの程度の規模の監査を経験しているかも重要です。自社と同じ規模の企業の監査経験があれば、自社の規模に適した監査プロセスを提供できる可能性があります。
- 監査の品質:監査法人の監査品質を評価するためには、過去の監査報告書や、監査法人が関与した企業の財務状況などを確認します。
自社と同じ業界や規模の企業を受け持っている監査法人を選ぶことは、その監査法人が自社のビジネスモデルや業界特有のリスクを理解している可能性が高いため、おすすめです。また、同じ業界の他社との比較や、業界の最適解を共有してくれる可能性もあります。
まとめ
本記事では、上場会社等監査人登録制度の詳細や背景について解説しました。上場会社等監査人登録制度は、監査法人や公認会計士の品質と信頼性を担保するために導入された制度です。上場会社の財務書類の処理を行うためには、上場会社等監査人名簿に登録しなくてはなりません。
また、上場会社が監査法人を選ぶ際には、実績や規模を基準に選ぶと失敗が少なくて済む傾向があります。財務書類は、企業の運営において非常に重要な役割を果たすので、信頼できる監査法人や公認会計士に依頼するようにしましょう。
よくある質問
上場会社等監査人登録制度とは?
上場会社等監査人登録制度は、上場会社の財務諸表監査を行う監査法人や公認会計士が、一定の資格要件を満たす、かつ品質管理体制を整備することを条件に、上場会社等監査人名簿に登録される制度です。 この制度により、上場会社は監査を受ける際、名簿に登録されている監査法人または公認会計士に依頼する必要があります。名簿への登録の審査や登録の取消しは、上場会社等監査人登録審査会が実施しています。
上場会社が監査法人を選ぶ際のポイントは?
上場会社が監査法人を選ぶ際のポイントは、以下の通りです。
- 実績:監査法人が自社と同じ業界の企業の監査をどれだけ経験しているか、同じ規模の企業の監査を経験しているかを確認します。
- 規模:大手、準大手、中小といった監査法人の規模も選択の一因となります。大手は国際的なネットワークを持つ一方で、料金が高い傾向があります。中小は柔軟な対応が可能で、料金も抑えられる傾向にあります。
- 品質:監査法人の監査品質を評価するためには、過去の監査報告書や、監査法人が関与した企業の財務状況などを確認します。
- コミュニケーション:監査法人とのコミュニケーションの取りやすさも重要なポイントです。監査法人との良好なコミュニケーションは、監査の品質向上に繋がります。
- 専門性:自社の業界や事業に特化した知識や経験を持つ監査法人を選ぶことも有効です。これにより、業界特有の問題点やリスクを理解した上での適切な監査が期待できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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