• 更新日 : 2024年7月23日

スタートアップ企業がIPOするメリット・デメリット|早めに取り組むべきポイントも紹介

IPOを目指すスタートアップにとって、上場基準に耐えうるバックオフィスの構築は乗り越えなければならない大きな壁と言えます。この大きな壁を乗り越えるために、IPOを意識したバックオフィス構築のポイントや、そのメリットについて解説していきます。

IPOとは?

IPOとは、Initial Public Offeringの略語で、企業が株式を新たに証券取引所に上場(公開)し、市場を通じて取引ができるようにすることを言います。国内に300万社以上あると言われる法人のなかでも、証券取引所に上場している会社はわずか4,000社ほど。IPOを実現するということは、それだけハードルが高いことがわかります。

IPOは、資金調達の手段のひとつではありますが、副次的なメリットも大きく、企業の信用力が上がることで、次のような変化が考えられます。

  • 新規取引先とも取引が行いやすくなる
  • より優秀な人材の確保が容易になる
  • 役員や従業員の士気向上につながる
  • 社内の内部管理体制が強化される

一方で、IPOはしたいと思ってもすぐにできるものではなく、IPOするにあたって企業としての適格性を備える必要があり、その準備に2~3年を要するものとなります。

スタートアップ企業とは

スタートアップ企業とは、「新しく設立した企業」を指す言葉として使われています。言葉に対して明確な定義はなく、一般的には創業2~3年の企業をスタートアップとしています。

経済産業省中国経済産業局の資料内には、スタートアップの特徴として以下のように記載されています。

  • 成長スピードが速い
  • ビジネスに斬新性があり、イノベーション、社会貢献を意識している
  • 出口戦略(イグジット)を検討している

スタートアップ企業を指す場合、上述した3つの特徴をベースにして考えるとよいでしょう。

ベンチャー企業との違い

スタートアップ企業とベンチャー企業ついて、明確に違いが定められているわけではありません。そのため、両者は同義とされるケースもあれば、区別して取り上げられるケースもあります。企業規模としては、スタートアップ企業の方が広義の意味になり、ベンチャー企業よりも多様かつ、法人化されていない事業所も含まれていることが多いです。

ベンチャー企業とは一言でいうと、革新的な独自の技術やサービスを提供しイノベーションを生み出す企業で、設立が数年程度の若い新興企業を指します。しかしスタートアップ企業と同様に決まった定義がないため、資本金や創業年数に明確な基準はありません。

一般的にベンチャー企業よりもスタートアップ企業の方が、新しく斬新な事業を拡大しながら、短いスパンで成長を目指している企業として扱われています。

参考:日本政策金融公庫・経営Q&A「現代のベンチャー企業を知る」

スタートアップがIPOするメリット

非常にハードルの高いIPOですが、スタートアップ企業がIPOをするメリットについて、より具体的にみていきましょう。

グロースに向けた資金の獲得

IPOの主目的は、グロースに向けた資金の獲得になります。IPOのタイミングでは、メイン事業はビジネスモデルとしても一定の成長安定性を備えているものとなっているため、さらにスケールの大きいグロースを目指して既存事業のスケールアップ・新規事業開発・海外展開・M&A等を検討していくことになり、そのための巨額の資金をIPOで確保することが可能となります。

知名度・信用力の向上

IPOによって知名度や信用力が向上するため、マーケティング活動が以前よりも効率的に進めることができるようになったり、金融機関からの格付けも向上し、借入条件が改善されたり、取引先との取引条件も、より有利なものになるなどの影響があります。

採用力の向上および既存社員のモチベーションアップ

IPOすることで知名度が向上し、企業としての安定性も上場によって一定の担保がなされていることから、採用力が大幅に向上します。注目度が高まることから既存社員のモチベーションの向上も期待ができます。

内部管理体制の強化

上場審査を通過するためには、審査基準に準拠した内部管理体制の構築が必要になります。内部管理体制が強化されることで、会社全体としてもコンプライアンス意識が向上し、不正や不祥事を未然に防ぐことができ、より安定かつ継続的な企業成長を行うための体制が強化されます。

株主およびストック・オプション保有者の利益確保

IPOによって株式を取引所で販売することが可能となるため、創業者や投資家といった株式の保有者、従業員といったストック・オプションの保有者についても利益を確保することが可能となります。

スタートアップ企業がIPOするデメリット

スタートアップ企業がIPOするメリット・デメリット|早めに取り組むべきポイントも紹介
スタートアップ企業がIPOすると、メリットがある反面、デメリットもあります。

スタートアップ企業がIPOするデメリットは、大きく分けて以下の3つです。

  • 高額な費用がかかる
  • 他社に買収される可能性がある
  • 株主の対応が必要となる

以下では、3つのデメリットをひとつずつ説明します。

高額な費用が必要となる

スタートアップ企業がIPOした際のデメリットのひとつに、高額な費用がかかることが挙げられます。

わかりやすく、上場前と上場時、上場後に分けて、発生する費用例を紹介します。

【上場前】

費用の概要金額の目安
監査法人500万円~2,000万円
証券会社にかかる費用200万円~500万円
株式事務代行機関の費用400万円
証券印刷会社の費用500万円
コンサルティング費用500万円~1,500万円(※)
管理体制拡充のための人件費状況により異なる

※コンサルティング費用はスタートアップ企業によっては不要な場合もある

【上場時】

費用の概要金額の目安
上場審査料200万円
登録免許料資本組入額×7/1,000(最低3万円)
証券会社への成功報酬500万円程度(※)

※証券会社によっては無報酬で行っている場合もあり、0円~500万円の幅がある

【上場後】

費用の概要金額の目安
年間上場料(※)48万円~408万円(上場時価総額による)
監査法人の費用1,000万円~2,000万円
株式事務代行機関の費用400万円
証券印刷会社の費用500万円
株主総会運営費用

※年間上場料は、上場を継続するために必要な費用
表内の「48万円~408万円(上場時価総額による)」の金額に、TDnet利用料12万円を加算した費用がかかる

他社に買収される可能性がある

スタートアップ企業がIPOすると、他社に買収される可能性があります。証券取引所を通して不特定多数の投資家を集めやすいメリットがある反面、同時に買収のリスクも生じてしまうのです。他社に買収されるリスクを回避するには、買収防衛策が必要になります。

買収防衛策とは、敵対買収など「経営陣の同意を得ないで強引に進められる買収など、不利益な買収に対する防衛策」のことを指します。多くの場合は、株主や経営陣にとって、行われて欲しくない買収に対して実行されます。

防衛策には、あらかじめ買収のターゲットにならないようにするための「予防策」と、万が一ターゲットになってしまったときの「対抗策」があります。それぞれ、以下のような内容です。

  • 予防策
    ◻︎従業員持ち株会に自社株式を保有してもらう
    ◻︎友好な株主への黄金株(拒否権付き種類株式)を付与する
  • 対抗策
    ◻︎有効な第三者に有利となる条件で買収してもらう
    ◻︎敵対的買収者以外の株主に、大量の新規株の発行を行い買収者の持株比率を低下させる
    ◻︎あえて多額の負債をつくり、企業価値を下げで買収意欲を失わせるスコーチド・アースなどの手法をとる

買収防衛策を実施し、買収されるリスクを回避しておきましょう。

株主の対応が必要となる

スタートアップ企業がIPOすると、株主の対応が必要となり、そのためのコストが発生するのもデメリットのひとつです。
たとえば、IPOすると証券会社を通して株式が発行されます。不特定多数の株主を集められる反面、経営方針や事業内容への意見を株主に反映させる必要がある、といった対応も求められるのです。

さらに、有価証券報告書四半期報告書など、株主に向けた情報開示も求められるため、総会の開催や書類作りといった業務に人件費が必要になることも念頭においておきましょう。

IPOを目指しているスタートアップ企業が、早め(シード期ごろ)に取り組んでおくべき3つのこと

スタートアップがIPOを目指す場合に、優先して早めの段階から取り組んでおいたほうがスムーズにいく事項がいくつかあります。特に重要な点についてみていきましょう。

人材採用

IPO準備で必要なタスクをこなすには、大きく分けて下記3つのタスクを取りまとめる人材が必要です。特にIPOを取りまとめることができる人材はマーケットにおいて希少なため、早めに採用に動く必要があります。

  1. 経理
  2. ファイナンス
  3. 総務・法務・労務

上場準備時点で企業規模が相当な規模でない限りは、通常、上記の役割のうち、上場準備責任者が管理部長としてどれかを兼務することが一般的です。企業の一番重要な課題が責任者のロールと一致していると準備がスムーズにいきます。IPO自体が資金調達の手段であることから、CFOが責任者としてファイナンスの機能を兼務することが多いです。

では、責任者の採用にあたって、気をつけるべきことをみていきましょう。

コミュニケーション能力を重視する

IPO準備は、全社一丸となって取り組まなければいけない一大プロジェクトです。特に内部統制など今までの事業運営に規制をかけていくような話もあるため、各事業部に納得をしてもらえるようなコミュニケーション能力およびヒューマンスキルが重要となってきます。

IPO準備においては複雑な専門知識を要求される場面もありますが、それをわかりやすく噛み砕いて説明できるコミュニケーション能力や、「この人のためならがんばろう」と思ってもらえるようなヒューマンスキルは実際にIPO準備を進めていく上で欠かせないものです。面接の際に専門性だけでなく、こういった能力もしっかりと確認しておくと良いでしょう。

社内のIPOに対する認識をすり合わせておく

IPO準備における責任者を採用したものの、経営側との間でIPOに対する認識がずれていると、スムーズにプロジェクトを遂行できない恐れがあります。例えば、プロジェクトが進む中で会社としてデメリットに感じる部分が出てきた場合に、経営側と責任者の認識にずれがあると、IPO準備が中断されてしまったり、途中でIPOを諦めてしまったりするケースも考えられるのです。

それによってせっかく採用した責任者も退職することとなってしまいますので、責任者を採用する前に、そもそも会社全体としてIPOの意義について認識を合わせておきましょう。

予実管理

上場企業は、業績予想を公表する必要があり、前提条件やその根拠の適切な開示や、業績予想情報の正確性などについても以前より高いものが求められます。

そのため、上場準備に入った際には、単なる目標としての予算ではなく、市場環境、見通しや法的規制、想定可能なリスク要因、ビジネスモデルなども加味したうえで、達成が可能で合理的な説明ができる計画として予算を策定する必要があります。

作成した予算に対しては、月次や四半期で予算実績の対比を行い、予算との乖離が大きい場合には差異が発生した要因を分析し、その差異を合理的に説明できる体制を構築していく必要があります。予算実績の差異を把握するためにも、タイムリーかつ正確な会計記帳がベースとなるため、経理体制の構築も予実分析には重要な要素となっていきます。

バックオフィス構築

人材採用・予実管理については重要なトピックのため、独立して記載しましたが、そのほかにも構築すべきバックオフィスの体制はさまざまあります。バックオフィスは、労務・法務・総務など、法令順守をしながら企業活動を進めていくうえで必須の機能です。

特に企業内容の開示における会計に関する情報は、「ただ会計を正確に記録する」だけではなく、内部統制を含めた体制整備が必要となり、準備に時間がかかることからN-2期から取り組んでいく必要があります。

マネーフォワード クラウド会計PlusならIPOに向けた効率的なバックオフィス構築が低コストで実現可能

内部統制も含めた経理体制を構築していく上で、どのような会計システムを選択するのかは、非常に重要な選択となってきます。会計システムの機能次第では、現場のオペレーションや監査法人の対応工数などが増えて、監査報酬にも影響が出てしまう恐れもあります。
その点、訳承認機能や権限・ログ管理機能など内部統制の機能も備えたマネーフォワード クラウド会計Plusであれば、より効率的にIPO準備を進めることが可能です。IPOを決断し、準備期に入る際にはぜひ導入を検討してみてください。

よくある質問

どのフェーズからバックオフィスの強化に取り組んだらよいか?

上場の準備には、2~3年ほどかかるため、その前には本格的にバックオフィスの強化に取り組んでいくとよいでしょう。

IPOに向けたバックオフィス構築で注意すべき点は?

内部統制を兼ね備えたオペレーションを組んでいく必要があるため、システムの選定も含め、「業務がただ回ればよい」ではなく、内部統制の観点も含めて構築をしていく必要があります。

バックオフィスには何人採用したらよいか?

企業の状況にもよるため、まずはCFOや管理部長といったプロジェクトリーダーを採用することから始め、責任者と計画を立てながら採用目標人数を決めていくとよいでしょう。


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