• 更新日 : 2023年7月7日

会社法における内部統制とは?対象企業や罰則規定・裁判例を紹介

会社法における内部統制とは?対象企業や罰則規定・裁判例を紹介

内部統制とは、企業の不正などを未然に防ぎ、業務の適正を確保する社内体制をいいます。同じ内部体制という言葉でも、会社法と金融商品取引法での意味が違うため注意しなければなりません

本記事では内部統制をおこなう目的や内部統制を構成する要素、内部統制を導入しておこなうメリットやデメリット、および過去の裁判例について解説します。内部統制について理解を深めたい人にはぜひ参考にしてください。

会社法における内部統制とは

会社法における内部統制とは?対象企業や罰則規定・裁判例を紹介

会社法とは、会社設立から会社解散および経営・運営・資金の調達など、会社が事業を運営する上で守らなければならないルールです

内部統制について、会社法では以下のように記されています。

取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(会社法第362条4項6号)

つまり会社の取締役が内部統制の整備をする際、子会社や関連会社にいたるまで倫理規範や定款、および法令などに照らして業務遂行できるような体制の確保を図るよう務めることを示しています。

金融商品取引法における内部統制との違い

内部統制を会社に求めている法律として、会社法以外に金融商品取引法があります。同じく内部統制という文言が記されていますが意味合いが若干異なっています

【内部統制】

会社法・主体は取締役会
・法令や定款に職務が適合している
・業務の適正の確保
金融商品取引法・主体は会社
・財務計算に関する書類、内部統制報告書を有価証券報告書と合わせて報告する義務がある

同じ言葉で記されていても、主体や目的が大きく違います。両方の法律で規定されている内容を混同しないようにしましょう。万が一、内部統制に関係した虚偽記載などが見つかった場合、罰則が与えられる可能性もあります

会社法で内部統制が義務化されている企業

会社法における内部統制とは?対象企業や罰則規定・裁判例を紹介

会社法で内部統制について示されているものの、すべての会社が対象の会社になるわけではありません。内部統制が義務化されている会社は、会社法2条6項で明記されている「大会社」でかつ取締役会を設置している株式会社等一定の要件を満たしている会社が該当します。大会社とは、次のいずれかに該当する株式会社をいいます。

  • 最終事業年度に係る貸借対照表資本金として計上した額が五億円以上であること
  • 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること

言い換えると、上記の条件を満たしているにもかかわらず内部統制を行っていない場合は会社法違反とみなされてしまいます。

内部統制をおこなう目的4つ

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内部統制をおこなう目的は、大きく4つあります。この4つはいずれも独立したものではなく、それぞれが関係しあっているものです。つまり、いずれかひとつをクリアすればいいわけではなく、すべてを関連付けて考える必要があります。

  • 業務の有効性および効率性
    会社が事業目的をクリアするには、業務を効果的に、かつ効率的に運用することが重要です。内部統制を行うことにより、事業活動によって目的の達成までの道筋や資産の分配がより明確となります。それに伴い、業務やオペレーションが最適化されるため、業務の有効性や効率性をより高めることができます。
  • 財務報告における信頼性
    財務情報は、企業の経営状況を判断する上で重要な情報です。虚偽の報告や粉飾決算などがあると、投資家および金融機関に対し多大な迷惑をかけてしまいます。財務報告はそれだけリスクのある財務情報であるため、不正や虚偽の報告などがないような体制にしなければ簡単に信用を落としてしまいます
  • 事業活動に関わる法令順守
    企業の目的は事業活動により利潤を追求することですが、追求する方法がモラルや公序良俗に反しての活動は慎む必要があります。守るべき法律や一般規範に違反すると罰せられ、場合によっては事業の存続が難しくなる場合もあります。企業全体で事業活動において法令を順守する文化を持つことが大切です
  • 資産の保全
    保有している資産を最適なタイミングで最適な量だけ利用できているかも、内部統制においては重要なポイントです。資産を無駄遣いしていないかのチェックはもちろん、不正利用が行われていないかどうかを確認するようにしなければなりません。

財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準

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内部統制を構成する要素は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」で、次の6つが明記されています。

  • 統制環境
    統制環境とは、企業内で内部統制の目的を達成しようする雰囲気や土壌・社風のことをいいます統制環境の構築は以下5つの要素に深く関係する最重要ポイントです。そのためにも企業全体に内部統制の目的を達成しようとする風土が必要です。統制環境は経営者の意向や姿勢により形成されていきます。
  • リスクの評価と対応
    リスクの評価と対応とは、組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別と分析・評価し、リスクに対して適切な対応を選択するプロセスをいいます。リスクの対応にあたって、評価されたリスクに対しては回避や低減・移転または受容などの適切な対応を選択する必要があります。
  • 統制活動
    経営者の命令および指示が企業内において適切に実行されることを確保するために定める方針や手続きを指します。統制活動には、権限や職責の付与・職務の分掌などの方針や手続きが含まれています。これらは業務のプロセスに組み込まれるものであり、組織内の全員の手によって遂行されることにより機能するものです
  • 情報と伝達
    必要な情報が識別・把握・処理されて、組織の内外や関係者との間で正しく伝えられる状態を確保することです。組織に関わるすべての人が、それぞれ職務の遂行に必要とする情報を適時かつ適切に、識別・把握・処理・伝達されなければなりません。同時に、必要な情報が伝達だけでなく受け手に正しく理解され、その情報を必要とする人すべてに共有されることが重要です
  • モニタリング
    内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセスを「モニタリング」と呼びます。内部統制は常に監視・評価・是正されるものであり、環境を整えて終わりではありません。モニタリングには、日々の業務に組み込む日常的モニタリングと、それとは別で実施する独立的評価の2種類があります。
  • ITへの対応
    業務の実施において組織内外のITに対して適切に対応することをいいます。これ自体はほかの基本的要素と必ずしも独立した存在ではなく、ほかの基本的要素と関係しあっているものです。ITが組織の業務内容に深く関係している、もしくは組織の情報システムがITに依存している場合、内部統制の目的を達成するために必要不可欠な要因のひとつとして内部統制の有効性に係る判断の規準と考えられます。

内部統制をおこなうメリット・デメリット

会社法における内部統制とは?対象企業や罰則規定・裁判例を紹介
内部統制を実施することで企業の信頼性が増す一方、デメリットが発生する可能性があるのも事実です。内部統制を行ううえで発生するメリット・デメリットについて説明します。

内部統制をおこなうメリット

内部統制をおこなうメリットとして次の2点が考えられます。

  • 業務を分業化して相互チェック体制を強化
    業務の分業化をルール化することで業務全体が可視化でき、相互のチェックが可能となる。その結果、今まで見落としていたミスや不正が発見でき、合理的で効率的なシステム構築が可能となる。
  • 財務報告の透明性や可視化
    不適切な経理処理が行われていないか、あるいは粉飾決算でないかといったことを内部のチェックを行う。組織の内外を問わず監査を受けることで対外的に透明性がアピールでき、社会的信用にもつながる

企業全体の信用度を増す意味で、非常に大きなメリットがあります。会社法で義務化されていない企業も内部統制を実施することができるため、業務全体の可視化や財務報告の透明性確保のために実施している場合もあるのです

内部統制をおこなうデメリット

内部統制をおこなうデメリットは主に以下の2点です。導入に際しての前提条件に関連するものもありますが、一定の労力や費用がかかる点は理解しておかなければならないでしょう

    • 構築時の負荷増加
      内部統制についての構築がなされていない企業にとっては、ゼロからの立ち上げとなる。このため、仕組みづくりから始めなければならず、通常の業務活動に加えて企業全体に負荷がかかる可能性がある
    • 運用コストの増加
      内部統制を構築しても運用にかかわるコストや時間を費やしてしまうことになる可能性もある。また、内部統制を実施するにあたって意思決定のスピードに遅れが生じることも加味しておかなければならない。

内部統制にかかわらず、何かを企業の中に入れ込むことになるとどこかで負荷がかかってしまうのは仕方がありません。内部統制を実施するにあたっては、事前のシミュレーションや実施する意義を社内全体で共有しておく必要があるでしょう。

内部統制が未整備だと会社法による罰則はある?

会社法における内部統制とは?対象企業や罰則規定・裁判例を紹介

会社法では内部統制が未整備の場合であっても、罰則の規定はありません。ただし、会社法第362条5項に該当する「大会社かつ取締役設置会社」に該当する会社等一定の要件を満たす会社であれば、内部統制システムを整備する必要があります

一方、金融商品取引法には「J-SOX法」という内部統制報告制度を導入しています。J-SOX法は、正しくは「内部統制報告制度」といい、2006年6月に金融商品取引法が成立したときに同時に制定されました

J-SOX法はアメリカのSOX法(企業改革法)をもとに日本に導入された法律で、日本(Japan)のSOX法という位置づけです。SOX法は、2000年代初めにエンロン事件やワールドコム事件など大規模な不正会計事件があったことをきっかけに不正会計を防止するために制定された法律で、日本で制定されたのも不正会計事件を防止するためです

J-SOX法の対象は、金融証券取引所に上場しているすべての企業および子会社・関連企業等グループ企業となっています。上場企業は金融商品取引法において、財務計算に関する書類や内部統制報告書および有価証券報告書を事業年度ごとに提出する旨が記されています。

また、J-SOX法には罰則規定が設けられているのも特徴です。J-SOX法に違反し内部統制報告書に虚偽の記載があれば、個人には5年以下の懲役または500万円以下の罰金もしくは両方、法人には5億円以下の罰金を支払わなければなりません。

内部統制に関する裁判例

会社法における内部統制とは?対象企業や罰則規定・裁判例を紹介
過去に内部統制に関する裁判がいくつかありますが、ここでは代表的な裁判例を3つ紹介します。

ダスキン事件

2000年、ミスタードーナツの運営元のダスキンが肉まんに国内で無認可の添加物を使用して販売するも、このことを公表せずにいました。この点を取引業者から指摘されていたにもかかわらず、担当取締役が独断で当該業者に6,300万円を支払って隠ぺいしていたのが、ダスキン事件の概要です。この結果、ダスキンは立ち入り検査を受けたことで社会的非難を浴び、約105億円もの損害を被ったのです。

株主は関与した取締役と監査役の責任を追及するために株主代表訴訟を起こし、約53億4,000万円の支払いを命じる判決が下されました。同時に、隠ぺいに関係していない取締役と監査役に対しても、連帯責任が認められるとして最大で約5億5,800万円の損害賠償を認める判決を下しています。

大和銀行事件

1984年から1995年にかけて大和銀行ニューヨーク支店の行員が銀行に無断で簿外取引を行い、11億ドルの損失を出しました。解雇を恐れた該当の行員は、1995年7月の時点で経営陣に報告をしていたにもかかわらず、失態が明るみに出るのを恐れた経営陣が帳簿に虚偽の記載を行い隠ぺいしていた事件です

判決ではニューヨーク支店長に対して善管注意義務違反としての内部統制システム整備義務違反とし、5億3,000万ドルの損害賠償義務を命じました。同時に11名の関与した取締役に対しても7,000万ドル~2億4,000万ドルの損害賠償義務を命じています。

西武鉄道事件

2004年、東証一部上場企業の西武鉄道が、筆頭株主であるコクド(非上場)の西武鉄道持ち株比率について有価証券報告書で名義を偽装。虚偽記載を行っていたことが発覚したことを受け、東京証券取引所の定める上場廃止基準に抵触するとされ上場廃止になった事件です

西武鉄道の上場廃止とその理由から、株主は企業と取締役に対して裁判を起こしました。結果、有価証券報告書の虚偽記載が認められ、2015年に取締役らに総額約46億円の賠償命令が下されています。

まとめ

内部統制は企業の不祥事などを未然に防ぐために企業が取り入れる社内体制です。内部統制には法律上、大会社に属する企業や上場企業に義務付けられていますが、内部統制そのものは決して法律で義務付けられている企業だけのものではありません。

内部統制を導入することで今まで発生していたミスや不祥事などが防げるかもしれません。企業が存続するには企業の規模を問わず内部統制の導入を検討されてはいかがでしょうか。

よくある質問

会社法における内部統制とは?

会社法における内部統制とは取締役会での適正な企業経営を目的として、法令や定款に職務が適合しているかどうかを確認し、業務の適正を確保するものです。

内部統制をおこなわなかった場合の罰則規定はある?

会社法においては、取締役が内部統制の整備において、倫理規範や定款、法令などに照らして業務遂行ができるよう確保を図るよう務めることを示してはいるものの、罰則に関しての規定はありません。


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