- 更新日 : 2024年7月12日
加重平均資本コストとは?計算式や手順・平均についてわかりやすく解説
加重平均資本コスト(WACC)は、企業の投資判断や事業評価に重要な指標であり、その理解と適切な活用は企業の財務戦略を立てる上で不可欠です。ビジネスをしていく上では、負債コストと株主資本コストの両方をカバーできるようになり、債権者と株主を満足させることができるでしょう。
本記事は、加重平均資本コストの概要や計算方法、活用方法などを解説します。加重平均資本コスト(WACC)の理解を深めることで、より効率的な経営ができるきっかけとなるため、経営者や財務担当者、投資家など、企業の財務に関わる方はぜひ参考にしてください。
目次
加重平均資本コスト(WACC)とは
加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)とは、複数の資金調達方法を採用している企業が借入にかかるコストと株式調達にかかるコストを加重平均したものです。
*加重平均…各データの重要度や影響度を考慮して平均値を算出する方法
事業を始めるには、資金調達が必要です。例えば、ある会社が1億円の資金調達をした際に、翌年に返すお金の総額が1億1千万円だったとします。このとき、借りたお金にかかる費用は1千万円です。
そのほか、株主からの投資によっても資金調達はできます。例えば、投資家に株を10万円で発行し、翌年に1万円の配当が求められる場合、株式発行にかかるコストは1年あたり1万円と考えられます。
WACCが高いほど、企業は借入金や株式発行などの資金調達に、より多くのコストを支払うことになります。その結果、利益や投資余力が減少してしまったり、財務体質が悪化したりと、将来のキャッシュフローの現在価値が低くなるでしょう。一方で、WACCが低いとこういった懸念を回避できるため、一般的には企業価値が高いと評価されます。
加重平均資本コストの計算式
加重平均資本コストの計算式は、以下の通りです。
WACC=rE×E/(E+D)+rD(1-T)×D/(E+D)
加重平均資本コスト(WACC)の計算は、企業の資本構造内の各種類の資本(株式、優先株、負債など)のコストを、それぞれの市場価値に基づく比率で加重平均して算出します。
- rE
株主資本コストで株主に支払うコストのことです。株主は株価の上昇や配当に期待して投資をします。その期待利益が企業にとってのコストになります。 - rD
負債コストで、借入にかかるコストです。借入するには利息の費用が発生します。その費用が企業にとってのコストになります。 - E
株主資本です。株式を発行して調達した資金になります。一方、Dとは負債です。借入や社債などで調達した資金になります。 - T
実効税率で、企業が支払う税金の割合のことです。利息の支払いは税金の控除対象になるため、負債コストには実効税率を掛けて実際の負担となるように調整します。
加重平均資本コストの計算手順
加重平均資本コストを求めるためには、計算手順を頭に入れておく必要があります。
本項では、計算手順について解説します。
- 株式資本コストを算出する
- 負債コストを算出する
- 株主資本コストと負債コストを加重平均する
①株主資本コストを算出する
株主資本コストとは株主に支払うコストのことです。
株主資本コストを求める場合、キャピタル・アセット・プランニング・モデル(CAPM)という以下のような計算式を用います。
rE(株式資本コスト)=rf+β(Er-rf)
- rF
無リスク金利と呼ばれ、リスクのない投資の利益のことを指します。例えば国債の利回りなどが無リスク金利になります。 - β
株式のベータ係数で株式のリスクの度合いを示す指標です。ベータ係数は株式の収益率と市場全体の収益率の相関係数から求められます。ベータ係数が1よりも大きい場合は、市場全体よりもリスクが高いことを意味します。ベータ係数が1よりも小さい場合は、市場全体よりもリスクが低いということです。 - Er
市場利益率と呼ばれ、市場全体の投資の利益のことです。例えば、株価指数の上昇率などが市場収益率になります。
(Er-rf)は、市場リスクプレミアムと呼ばれ、市場全体のリスクに対する報酬のことを指します。
②負債コストを算出する
負債コストを算出する計算式は、負債コスト=負債の利回り×(1-実効税率)です。
例えば、企業が100億円の借入を行い、その利回りが3.0%だと想定します。また、実効税率が20%であるとします。この場合の負債コストは、負債コスト=0.03×(1-0.2)=0.024となり、つまり2.4%です。
負債コストを算出するには、負債の利回りと税金の影響を考慮します。
負債の利回りは負債の額に対する利息の割合であり、負債の種類や期間、市場の状況によって異なります。また税金の影響とは、利息が経費として認められることで法人税の負担が軽減されることです。
この効果を反映するために、実効税率を掛けて調整します。実効税率とは法人税の税率に各種の税制優遇措置を適用した後の税率のことです。
③株主資本コストと負債コストを加重平均する
株式資本コストと負債コストを加重平均するには、それぞれの資金調達方法の割合を考慮します。計算式は、加重平均コスト=株主資本コスト×株主資本の割合+負債コスト×負債の割合です。
例えば、企業の株主資本が200億円、負債が100億円であるとします。この場合、株主資本の割合は200/(200+100)=0.67、負債の割合は100/(200+100)=0.33となります。
株主資本コストが7%、負債コストが2.4%だと想定すると、加重平均資本コストは以下の通りです。
加重平均資本コスト=0.07×0.67+0.024×0.33=0.053
つまり、加重平均資本コストは5.3%になります。
加重平均資本コストの平均
加重平均資本コストの平均は、企業規模によって異なります。
本項では、加重平均資本コストの平均をご紹介します。
全業界平均
加重平均資本コスト(WACC)の全業界の平均は、2〜3%と言われています。
特に電機やガスなどの需要が安定している業界は、負債が増えても倒産に至るリスクが低く、加重平均資本コストが平均よりも低い傾向があります。
反対に、鉄鋼や機械などは、トレンドの移り変わりも早いため、事業リスクが高い傾向があります。
そのため、倒産リスクを避けようとしても負債比率を低く維持するケースがよく見られ、WACCは平均よりも高くなりやすいでしょう。
上場企業の平均
日本の上場企業の平均は5~6%です。これは業界平均通りの数値になっています。
加重平均資本コストは資金調達にかかるコストだけでなく、企業の収益性や成長性を評価する指標でもあります。
そのため、株主からの強い期待に応える必要がある上場企業は加重平均資本コストが低い数値になりやすいです。
加重平均資本コストの活用方法
企業の投資決定や財務戦略、価値評価など、 加重平均資本コストを活用する方法はさまざまあります。
加重平均資本コストを理解し、適切に活用することは、企業の財務健全性を維持し、長期的な価値創造に向けた戦略的な意思決定をサポートする上で不可欠です。
特に、複雑な財務構造を持つ大企業や多様な投資実績を持つ企業において、WACCの正確な計算と適用は、企業の成功に直接的に寄与します。
まとめ
本記事では、加重平均資本コスト(WACC)とその計算方法、活用方法について詳しく解説しました。加重平均資本コスト(WACC)の理解と適切な活用は、企業の財務戦略を立てる上で非常に重要です。
企業が事業を行うためには資金調達が不可欠であり、その資金調達にかかるコストを把握することで、より効率的な経営が可能となります。
よくある質問
加重平均資本コストとは?
加重平均資本コストとは、借入にかかるコストと株式調達にかかるコストを合わせて平均したものです。 要するに、企業が資金調達するのにかかるコストのことであり、企業価値を評価するのに必要な指標となります。
加重平均資本コストの活用方法とは?
加重平均資本コストの活用方法として挙げられるのは、主に以下の通りです。
- 企業の投資決定
- 財務戦略
- 価値評価
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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