• 作成日 : 2023年9月6日

IPOにおける資本政策とは?目的や流れ・失敗事例について解説

「IPOを検討しているが、具体的にどのようなことに気をつければよいかわからない」という経営者の方もいるのではないでしょうか。IPOで気をつけることのひとつに資本政策があります。資本政策は企業の将来に大きく影響するため、自社の財務状況や成長計戦略に合わせて設計しなければなりません。

本記事では、IPOの資本政策の目的や流れ、注意すべき点を解説します。失敗事例も紹介するので、IPOを検討中の方はぜひ参考にしてください。

IPOにおける資本政策とは

IPOにおける資本政策とは?目的や流れ・失敗事例について解説
IPOは、企業の事業拡大資金などを調達するため、株式市場に上場し投資家から資金を調達するのが大きな目的です。

しかし、株主比率のバランスを考えておかなければ、経営に影響を及ぼす可能性があり、上場された株式を「誰が」「どの程度」持つのかを考えておかなければなりません。この計画を「資本政策」と言います。

具体的には、資金調達額・出資可能金額・役員や従業員へのインセンティブなどを総合的に判断した上での決定が必要です。

また、上場後は企業情報が公開されるため、投資家やからの目が厳しくなり株式市場での評価や評判が経営に大きく影響することがあります。

このように、一度実行すると仕切り直しが難しいため、最適な資本政策を策定することが不可欠です。

IPOにおける資本政策の目的

IPOにおける資本政策とは?目的や流れ・失敗事例について解説
IPOにおける資本政策には、資金調達以外で主に以下7つの目的があります。

  • 資金の調達
  • インセンティブの付与
  • 安定株主の確保
  • パートナーとの関係を強化
  • 関係会社の整備や組織再編
  • 株式数の調整
  • 事業継承の対策

ひとつずつ解説します。

資金の調達

資本政策の一番の目的は資金調達です。IPO後の新規事業立ち上げや海外展開などのチャンスを逃さないためには、すぐに使える資金を確保しておく必要があります。

また、融資とは異なり返済義務がなく負債を抱えなくてよいため、財務的に非常に大きなメリットです。たとえば、銀行融資などには返済義務があり、資金繰りの考慮を常に行う必要がある、などといった欠点があります。その分、資本政策による資金調達は有効な手段です。

一方で、出資者側は資金を回収する手段として「株式を売却する」「配当金を得る」の2つしかありません。企業は高配当・高株価を求められるため、事業拡大や継続していく必要があります。

インセンティブの付与

IPOの資本政策は、従業員のインセンティブプランにも有効です。

インセンティブとして従業員に付与することで、将来株価が上がれば資産形成ができるため、会社に貢献しようというモチベーションにもつながります。

このように、従業員に対するインセンティブの付与を福利厚生の一環として取り入れている企業は少なくありません。

インセンティブを付与する方法には、大きく分けてストックオプションと従業員持株会の2つがあります。

  • ストックオプション
    役員や従業員に対して会社の株式を将来的に一定の価格で購入する権利を与える制度です。従業員にとっては、将来的な株価上昇による利益を得るチャンスとなります。
  • 社員持株会
    従業員に対して、自社の株式を購入する機会や所有権を提供する制度です。従業員は給与から天引きで株式を積立購入し、配当金や株価上昇による利益を得られます。

それぞれのメリット・デメリットは下記のとおりです。

メリットデメリット
ストックオプション
  • 将来の利益を期待して従業員のモチベーションアップになる
  • インセンティブを付与する時点で資金は発生しない
  • 退職した時点で制度は適用されないためIPOが実行されるまで在籍が必要になる
  • インセンティブ効果は低い
従業員持株会
  • 給与天引きで無理なく積立ができる
  • 会社への忠誠心が向上する
  • 企業にとって安定株主となる
  • 権利行使ができなければ従業員のモチベーションが下がる可能性がある
  • IPO後に売却され、安定株主ではなくなる可能性がある

安定株主の確保

株式市場で資金を調達するにあたって重要なのは、長期的に株式を保有する株主の存在です。このような株主は、市場の変動や突発的な出来事に左右されにくいため、株価が比較的安定しやすくなります。

また、オーナーを支援したいという気持ちが強いため、助言をもらいながら意思決定が可能です。しかし、株式公開することでさまざま投資家が参入してくることになり、これまでどおりオーナーによる経営上の意思決定がしにくくなる可能性があります。

オーナーの意思決定を維持した経営をするためには、企業のビジョンや成長戦略に共感し、株価や業績に左右されず長期にわたって株式を保有してくれる安定株主の比率が重要です。たとえば、資金調達により事業投資することで企業に対する共感や関心が高まり、株を持続的に保有したいと考えます。

このように、安定株主の存在は株価の急激な変動を抑制する効果があり、企業の安定性と長期的な成長を支えることも目的です。

パートナーとの関係を強化

パートナーとの関係強化が目的で、第三者割当により資本提携することもあります。資本提携することで、提携先は安定株主となることが期待できるため、資金調達と安定株主対策の両立が可能です。

一方で、パートナー企業との提携解消などが発生した場合には、株式の移動が必要となり株主構成の変更により株価に影響を与える可能性があります。また、パートナー企業が赤字経営だった場合も同様です。

これらのリスクを踏まえて、パートナー企業と資本提携する際には慎重な計画と十分な準備を行う必要があります。

関係会社の整備や組織再編

IPOにおける資本政策は、関係会社の整備や組織再編に有効なケースがあります。たとえば、関係会社のビジネスモデルやどの程度関与するかによって、企業の評価に影響を与えることも少なくありません。

関係会社の整理や事業の統合、持分調整などを通じて、企業の価値向上や市場の信頼を高める目的でIPOが実施されることもあります。また、組織を再編することで株主の信頼を高めることも期待できます。

ただし、関係会社の整備や組織再編は慎重に検討しなければ株主の不信感につながる恐れもあるため、慎重な判断が必要です。

株式数の調整

IPOを行えば発行株式数が増加します。これにより、株価を適正な水準に近づけることが可能です。

株価が高い場合、投資家需要が少なくなることが考えられます。そのような場合、株式数を調整することで多くの投資家が投資しやすくなり、流動性の向上が期待されるでしょう。

このように、株式数の調整が目的でIPOを実施するケースも少なくありません。

東京証券取引所では望ましい投資単価を5万円以上50万円未満と明記しており、上場企業に対してその水準にすることを求めています。なお、株式売買の最低単位は1単元となっており、1単元は上場審査基準上100株です。

上記を踏まえて、上場時の想定株価及び投資単位をシミュレートする必要があります。

事業承継の対策

資本政策は事業承継の対策としても有効です。事業承継時に資本政策を考慮することで、円滑な経営継承はもちろん、企業価値の維持に役立ちます。

企業価値の維持に役立つ理由は、以下のとおりです。

  • 株主が増えることで、特定の人に依存しない経営基盤が構築され経営を持続させやすい
  • 資金調達の柔軟性を高めることで、承継時に必要な資金を確保できる
  • 経営の透明性と責任の明確化によるガバナンスの強化で、適切な経営コントロールが可能になる
  • 資本政策を適切に実施することで、相続税などの税務面での課題を軽減できる

さらに、オーナー経営の場合、次の代に資産や事業を引き継ぐ際には評価額に応じて税金が課されます。

最適な税務プランを策定すれば、承継の負担を軽減することが可能です。たとえば、不動産や金融資産を配分すると、相続税の節税効果を高められます。

なお、実施時の注意点としては将来の事業展開や長期的な戦略を考慮し、長期的な健全性を確保するためにバランスを取る必要があります。

IPO準備で資本政策を立案する流れ

IPOにおける資本政策とは?目的や流れ・失敗事例について解説
IPOを検討する企業にとって、資本政策の立案は株式の発行や資金調達などを戦略的に計画する手段であり、IPOの成功に向けた基盤を築く重要なステップです。

本項では、IPO準備における資本政策の立案の流れについてご紹介します。

  1. 前提条件を立案する
  2. 内部の資本政策を立案する
  3. 外部の資本政策を立案する

それでは、順番に解説します。

1.前提条件を立案する

まず、事業計画を作成し、上場までのイメージを描くことが重要です。

具体的にはIPOの時期やどの市場で上場するのか、必要な事業資金、上場時の時価総額や公開価格など、ざっくりでよいので計画を立てます。

あわせて、今後の目標や戦略など、IPOを通じて達成したい成果も検討しましょう。

2.内部の資本政策を立案する

内部の資本対策の立案段階では、企業内部の方針を検討します。

株主総会での決議権は株主が所有する株式数に応じて与えられるため、オーナーの持株比率をどの程度維持するのか検討が必要です。同時に株主構造や役員体制を見直し、ガバナンス体制を強化します。

IPOによって経営を次世代に譲渡することを考えているのであれば、相続対策もこのタイミングで検討が必要です。

3.外部の資本政策を立案する

内部の方針が固まったら、次に役員・社員など、オーナー以外の関係者に関わる外部の資本政策を立案します。

具体的には、上場に向けて必要となる発行済株式数を設定し、「いくらで売り出すのか」「どの市場で上場するのか」を決定する段階です。インセンティブプランや安定株主の確保についても、この時点で検討しなければなりません。

資本政策の主な手段としては、以下が挙げられます。

  • ストックオプション
  • 従業員持株会
  • 第三者割当増資

ぜひ参考にしてみてください。

IPOの資本政策でよくある失敗事例

IPOにおける資本政策とは?目的や流れ・失敗事例について解説
資本政策は入念に計画して実行しなければ、失敗する可能性が非常に高くなります。失敗すると持株比率や株価に影響するため、慎重に検討しイメージどおりになるよう資本政策を設定することが重要です。

IPOの資本政策でありがちな失敗例には、以下のようなものがあります。

  • 事業計画の精度が低い
  • 創業時のメンバーが大量の株式を売却する

順番に解説します。

事業計画の精度が低い

投資家や市場は、事業計画をもとに企業の将来性や収益性を期待して投資するのが一般的です。

事業計画の実現性に疑念があるとIPO後に株価が低下する可能性があります。たとえば、事業拡大や増益を約束しておきながら実際の業績が予測を下回ることは投資家が失望し、企業に対する評価を下げる原因です。

このように、予想より株価が下がると資金繰りを圧迫し、予定どおりの展開ができない可能性があります。

失敗しないためのポイントはしっかりと現状を分析し、過大な期待をせず過去の実績と計画を照らし合わせて現実的な事業計画を立てることです。

過去の実績との整合性がない事業計画は、疑念を招く可能性があります。

創業時のメンバーが大量の株式を売却する

創業時のメンバーがIPO後に大量の株式を売却すると、自社の株価に影響を及ぼすことも少なくありません。

大量売却による影響には以下のようなことが挙げられます。

  • 需要と供給のバランスが崩れ、売りが増えると株価が下がる
  • 投資家から経営陣の信頼性が低下していると受け取られ、マイナスイメージとなる
  • 従業員が将来性に不安があると感じ、モチベーションが下がる可能性がある

このようなことがあれば、自社株が下落することがあります。

失敗しないためには、IPO後に一定期間株式を売却できない期間を設定することや、一定の割合までの売却を制限するなどが有効です。

経営権を奪われる可能性がある

IPOにおいて外部資本を入れすぎると、持株比率が変動して経営権を奪われることがあるため、注意が必要です。

一般的な安定株主の比率は、議決権の50%から70%とされています。安定株主の比率の最低ラインは全株式の3分の1超で、定款の変更や一部のM&Aの実施といった特別決議を拒否するために必要な最低ラインです。

つまり、全株式の3分の1超はオーナーを含めた安定株主で占めていない場合、思い通りに会社経営ができづらくなります。

そのため、安定した経営のためには、必要な比率の見極めが重要なポイントです。

まとめ

IPOは事業資金調達するための有効な手段のひとつです。株式市場から資金を調達できるため、返済も不要で長期的な事業投資が可能になるメリットがあります。上場すれば企業の信頼性も増し、さらなる発展が期待できる上インセンティブの付与により、従業員のモチベーション向上も可能です。

ただし、安易にIPOを実施すると株主の信頼を失い、事業成長の機会が失われる可能性があるので慎重な判断が必要となります。さらに、資本政策はやり直すことが難しいため慎重に計画しなければなりません。経営陣の持株比率のバランスによっては経営権が奪われることもあるため、資本政策は重要なポイントとなります。

よくある質問

資本政策とは?

IPOの資本政策とは、企業が初めて株式市場に上場する際に株式の発行数や価格、株主構成などに関する戦略や方針を立案することです。 外部資本を増やしすぎると安定経営ができなくなる恐れがあるため、株式保有率のバランスが重要になります。

IPOにおける資本政策の目的は?

IPOにおける資本政策の主な目的は、「資金調達」「安定株主の確保」「従業員のモチベーションアップ」などが挙げられます。 資金調達することで事業投資を行い、企業価値を向上させて継続的に経営を行うことを目指します。


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