• 作成日 : 2025年1月14日

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?計算方法・評価手法を解説

企業価値評価とは、企業の財務的な価値や将来性を数値化する手法で、M&Aや資金調達、経営戦略の策定において欠かせないプロセスです。企業が持つ潜在力を正確に把握し、投資家や利害関係者に説得力を持たせる必要があります。

本記事では、企業価値評価の定義や必要性、手法などを詳しく解説します。

企業価値評価とは

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?計算方法・評価手法を解説

企業価値評価とは、企業の現在および将来の価値を定量的に分析し、評価するプロセスです。

この評価は、企業が持つ資産や収益力、将来の成長可能性をもとに計算され、財務的な観点だけでなく市場環境や経営戦略などの非財務的要素も考慮されることが特徴です。

その目的は、投資や取引に関する意思決定をサポートすることにあります。

たとえば、M&Aの際には適切な買収価格を決定するために、資金調達では投資家に提示する企業の価値を明確にするために活用されます。

なぜM&Aで企業価値評価が必要なのか

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?計算方法・評価手法を解説

M&Aにおいて企業価値評価が必要とされるのは、取引の正当性と適正価格の算定を確保するためです。

M&Aは多額の資金が動き、企業の将来に重大な影響を与えるため、その対象となる企業の価値を正確に把握することが求められます。

本項で、下記2つについて深掘りしていきます。

  • 交渉をスムーズに進めるための価格決定基準
  • 投資判断の基礎となる企業の実態把握

交渉をスムーズに進めるための価格決定基準

M&Aは買収側と売却側の双方が異なる視点や利害を持つ複雑なプロセスであり、価格設定を巡る意見の相違が原因で交渉が停滞することも少なくありません。

企業価値評価を通じて公正で合理的な価格基準を示すことで、双方が納得できる取引条件を構築しやすくなります。

企業価値評価では、対象企業の財務データや事業モデル、市場での競争力を分析し、その価値を客観的に算出します。

このプロセスにより、買収側は過剰な支払いを避ける一方、売却側も自社の価値を適切に主張することが可能です。

投資判断の基礎となる企業の実態把握

買収側にとって、対象企業の現状を十分に理解せずに取引を進めることは、過剰なリスクを伴うだけでなく、期待される成果を得られない可能性を高めます。

企業価値評価を通じて、財務状況や収益構造だけでなく、事業の競争力、成長の見込み、潜在的なリスク要因など、企業の本質的な価値を多角的に分析することが可能です。

例えば、対象企業が有する資産の適正評価や、収益性を裏付けるデータを基に、買収価格が妥当であるかどうかを判断できます。

同時に、企業価値評価のプロセスを通じて、隠れた負債や経営上の課題が明らかになる場合もあるでしょう。

買収後のリスクを予測し、それに対する戦略的な対応を事前に準備することが可能です。

M&Aにおける企業価値評価の3つの手法

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?計算方法・評価手法を解説

M&Aにおける企業価値評価の手法は、以下3つあります。

手法特徴メリットデメリット
コストアプローチ企業が保有する資産や負債の価値をもとに、企業全体の価値を評価する方法客観的な評価ができる収益性や市場の状況を踏まえられない
マーケットアプローチ対象企業と類似する企業や資産の市場価格を基準にして価値を評価する方法実際の取引相場に近い評価額を試算できる類似の事例がないと評価が難しい
インカムアプローチ企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローや収益を基に、その現在価値を算出する方法将来性まで評価できる客観性が低い

各評価手法の計算方法と適用事例

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?計算方法・評価手法を解説

各アプローチ手法にはそれぞれいくつかの算定方法があります。ここからは、下記3つの手法の計算方法を詳しく解説します。

  • コストアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • インカムアプローチ

コストアプローチ

コストアプローチの種類は、以下の通りです。

種類特徴適用場面
時価純資産法市場での資産価値の変化を把握できるM&Aの場面
簿価純資産法算出が簡単で客観性が高いM&A
清算価値法売り手の会社の消滅・解散が前提で使われる企業や事業が廃業する場面

時価純資産法

コストアプローチの計算方法の1つに、時価純資産法があります。この手法は、企業が所有する全ての資産の時価を算出し、そこから負債の時価を差し引くことで、企業の純資産価値を評価します。

特に、解散価値や清算価値を重視する場面で有効であり、不動産や機械設備といった有形資産が大きな割合を占める企業の評価に向いているでしょう。

簿価純資産法

簿価純資産法とは、企業の貸借対照表に記載されている資産と負債を基に純資産を算出し、それを企業価値として評価する方法です。

具体的な計算方法としては、まず貸借対照表から全ての資産を合計します。その後、同じく貸借対照表から負債の総額を求め、資産の総額から負債の総額を差し引くことで純資産を算出します。

この純資産額が簿価純資産法による企業価値です。

清算価値法

清算価値法は、企業が仮に解散した場合を想定し、保有する全ての資産を売却して得られる現金から負債を差し引いた金額をもとに企業価値を算出する方法です。

計算方法は、まず企業の全ての資産を現在の売却価格で評価し、売却に伴う費用や市場の状況を考慮して実際に得られる金額を見積もります。

次に、企業が負う全ての負債を時価で評価し、資産の売却額から負債額を差し引きます。清算後に残る純資産額が計算され、この金額が清算価値法による企業価値として算出されるのです。

主に事業継続が難しい状況や、倒産リスクを伴うケース、または清算を前提としたM&Aの場面で活用します。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチの種類は、以下の通りです。

種類特徴適用場面
類似企業比較法上場している企業の財務指標を活用して評価できる中小企業のM&A
類似取引比準法過去のM&A事例から評価できるあまり使用されていない

類似企業比較法

類似企業比較法は、評価対象の企業と事業内容や規模、財務指標などが類似している上場企業を選び、それらの市場での取引データをもとに企業価値を算出する方法です。

市場参加者の視点を反映した評価が可能であるため、実際の取引価格に近い企業価値を算出できる点が大きな特徴です。

まず評価対象企業と類似する上場企業を複数選定することから始まり、その後、選定した類似企業の市場取引データから評価指標を算出します。

代表的な指標には、株価収益率(PER)、企業価値倍率(EV/EBITDA)、株価純資産倍率(PBR)などがあり、これらの数値が評価の基準です。次に、評価対象企業の財務データを基に類似企業の指標を適用し、企業価値を算出します。

類似取引比準法

類似取引比準法は、評価対象企業と事業内容や規模が類似する企業が、過去にM&Aや株式売買の対象となった際の取引価格を参照し、評価対象企業の価値を算出します。

実績に基づくため、信頼性の高い企業価値の算出が可能です。

具体的な計算方法は、まず評価対象企業と類似する企業が関与した取引データを収集し、収集した取引データから評価の基準となる指標を算出します。

過去の取引データから得られた平均的なマルチプルを基に計算を行い、企業価値や株式価値を算出する流れです。

インカムアプローチ

インカムアプローチの種類は、以下の通りです。

種類特徴適用場面
DCF法将来的に予測されるキャッシュフローを基にして、リスクや時間価値を反映させる企業価値の評価や投資判断する際
配当還元法企業の株主に対する配当金支払いに焦点を当て、その企業の価値を評価する方法成熟企業や安定した利益を上げている企業の評価に適用する

DCF法

DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローをもとにその現在価値を算出する手法です。

計算方法は、評価対象企業が将来にわたり生み出すと予想されるフリーキャッシュフローを算出し、この将来キャッシュフローを現在価値に割り引きます。

企業が本来持つ収益力を評価し、将来的な利益創出能力を基準にした企業価値を導き出すため、特に投資家や企業買収を検討する場面で広く活用されています。

配当還元法

配当還元法は、企業が株主に還元する配当を基に企業価値を評価する手法です。

計算方法は、まず評価対象となる企業が将来支払う予定の年間配当額を見積もり、この配当額を株主が求める期待収益率で割り引いて現在価値を算出します。

特に配当を安定的に支払う成熟企業や、収益の多くを株主に還元することが期待されている企業に適しています。

M&Aにおける企業価値評価のポイント

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?計算方法・評価手法を解説

M&Aにおける企業価値評価のポイントは、売り手側と買い手側で異なります。

ここからは、2つの視点で詳しく解説します。

売り手側のポイント

売り手側のポイントは、主に以下2つです。

  • 正常利益の算定方法
  • 企業価値を高めるための施策

正常利益の算定方法

正常利益とは、企業が継続的に事業を営む中で得られる適正な利益を指し、企業価値を算定する際に非常に重要な指標です。

正常利益を算定するためには、まず過去の財務諸表に基づいて一時的な影響を排除した利益を計算する必要があります。

企業には、一時的な要因や非継続的な取引、例えば不定期の売却利益や一時的な減損損失、特別な取引がある場合がありますが、これらは継続的な業務から得られる利益とは異なるため、正常利益には含めません。そのため、これらの要因を調整することが必要です。

企業価値を高めるための施策

売り手側は、M&Aの交渉において最大の評価額を引き出すために、価値を高めるための具体的な施策を講じることが求められます。

企業価値を向上させるためには、財務的な改善のみならず、事業戦略や運営効率、将来の成長性に対する投資など、多方面にわたる施策が必要です。

特に売上の安定性を向上させることが第一に必要で、収益の多様化や顧客基盤の拡大に取り組むことで、企業の収益基盤を安定させることが可能です。例えば、新規市場への進出や新製品の開発、既存顧客のリテンションを強化する戦略などが考えられます。

また、無駄なコストを削減し、資源の最適配分を進めることで、利益率を改善し、投資家や買い手に対して高い利益を示すことも重要です。

買い手側のポイント

買い手側のポイントは、主に以下2つです。

  • 投資回収期間の考え方
  • M&A後のシナジー効果の評価方法

投資回収期間の考え方

買い手側が注目すべき重要な要素は「投資回収期間」の考え方です。

これは、買い手が投資した資金をどの程度の期間で回収できるのか、つまり投資が利益として返ってくる期間を見極めるための指標です。

投資回収期間の考慮は、買い手にとって非常に重要であり、M&Aが成功するかどうかを左右する要素となります。投資回収期間を評価する際、まず買い手はターゲット企業の将来のキャッシュフローを予測する必要があります。

M&Aにおける買収価格は、ターゲット企業が生み出す将来の利益やキャッシュフローを基に決定されるため、これらのキャッシュフローが確実で持続的であることが前提です。

投資回収期間の算定は、この予測されたキャッシュフローを元に、投資金額が回収されるまでの期間を測ることになります。

M&A後のシナジー効果の評価方法

シナジー効果とは、2つの企業が統合されることによって、単独での運営よりも大きな利益を得られる効果を指します。

この効果がM&Aの成功において非常に重要な役割を果たすため、買い手はシナジーをしっかりと評価し、将来的な利益を見込んで企業価値を算定することが重要です。

シナジー効果を評価する際には、まずM&A後に実現可能なコスト削減額や売上増加額を予測することが求められます。例えば、買い手はターゲット企業の既存のオペレーションや管理コストを詳細に分析し、どの部門やプロセスで統合による効率化が可能かを検討します。

また、収益面では、ターゲット企業の製品ラインや市場が買い手企業の事業とどのように相乗効果を生むのかを評価し、実現するために必要な投資額や、実現までの時間も考慮しましょう。

企業価値評価と株価の関係

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?計算方法・評価手法を解説

企業価値評価は、企業の本質的な価値や将来の収益力を分析するための手法であり、株価は市場での取引価格を反映したものです。

ここからは、下記2つについて深掘りしていきます。

  • 株式価値と企業価値の違い
  • M&Aにおける株価算定

株式価値と企業価値の違い

企業価値は、企業全体が持つ資産や収益力を基に算出される総額のことです。

企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローや利益の価値を反映しており、株主に限らず、すべての利害関係者(債権者、株主、従業員など)に関連する企業の実質的な価値を示します。

一方で、株式価値は、企業の株主が所有する株式1株の市場価値を指します。これは、株式市場での取引価格や株主の期待を反映したもので、短期的な市場の需要と供給に大きく影響を受けるものです。

企業の業績だけでなく、投資家の心理や市場全体の経済状況、企業の成長性に対する予測、リスク要因など多くの要素によって変動します。

M&Aにおける株価算定

M&Aにおける株価算定は、買収や合併を行う際に、対象企業の公正な評価額を算出するのに必要なことです。

一般的に、「市場アプローチ」「インカムアプローチ」「コストアプローチ」といった方法で行われます。

市場アプローチでは、類似企業や過去の取引を元に評価を行い、インカムアプローチは、企業の将来のキャッシュフローを基に企業価値を算定します。

コストアプローチは、企業が保有する資産や負債の評価を基に企業価値を算定することが重要です。

まとめ

企業価値評価は、企業の資産や収益力、成長可能性を分析し、将来の価値を算出するプロセスとなり、特にM&Aにおいては重要な項目です。

取引の適正価格を算定し、交渉を円滑に進めるために必要な要素となるため、各評価の算出方法を把握し、適切なやり方で企業の評価を行いましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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