- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制におけるロールフォワードとは?必要性や実施手順を説明
上場を目指す場合、内部統制報告書の提出は重要なプロセスです。しかし、「内部統制の評価・改善がうまくいかない」「期末日までに準備できるか不安」などの悩みを持つ方もいるのではないでしょうか。そういったときはロールフォワード評価を利用すれば、期末日までに十分な時間的余裕をもって準備できます。
本記事では、内部統制におけるロールフォワードとはどのような手続きなのか、必要性や実施手順を説明します。これから上場を考えているならば、難しい内部統制報告書の作成をクリアするためにも、ぜひ参考にしてみてください。
目次
内部統制におけるロールフォワードとは
ロールフォワードとは、以下のように定義されます。
有効なモニタリング手続が未整備の場合は、監査人は経営者に整備及び運用状況の評価手続を実施した日以降期末日までの期間の有効性を確かめるための手続(以下「ロールフォワード手続」という。)の実施を求め、当該ロールフォワード手続の内容と実施結果を検討する。
引用:日本公認会計士協会「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」
つまり、評価対象期間に暫定的な評価手続きを行い、まずはそこで発見された問題点を改善します。次に、期末の手続きで対象項目の改善状況を重点的に再評価してもらうための手続きを進めることで、全体の評価業務の負荷を分散・平準化するのです。
たとえば、期末に評価を集中させてしまうと、業務が終わらずパンクしたり、不備を見つけても改善する時間がなかったりします。これは、内部統制報告書では、「重要な不備」となってしまいます。しかし、期中に仮評価して業務を平準化したうえでロールフォワードを行えば、不備を改善する時間が十分に得られるので、内部統制報告書は「有効」なものにできるのです。
そもそも内部統制とは
そもそも内部統制とは、会社法では以下のように定義されています。
内部統制について簡単に説明すると、目的を達成するために必要なルールや仕組みを作り、運用することです。ルールや仕組みは親会社だけでなく、子会社や関連会社を含めて整備される必要があります。コーポレートガバナンスと似た定義ですが、内部統制はコーポレートガバナンスの一部といえます。企業経営を管理するコーポレートガバナンスを機能させるためには、内部統制は欠かせないパーツです。
基本的な内部統制評価の流れ
内部統制評価は、基本的に以下の流れで進みます。
- 評価範囲を選定する
- 整備状況を評価する
- 運用状況を評価する
それぞれの段階を詳しくみていきましょう。
①評価範囲を選定する
内部統制評価では、まず評価範囲を選定します。具体的に、評価範囲は期末における実績値と次年度の予測値をもとに、各拠点と各勘定科目の重要性を分析して決めます。ステップとして、以下のように評価範囲を選定していきましょう。
- 重要性のない拠点を除外する
- 重要な拠点を選定する
- 重要な勘定科目により選定する
- 個別評価科目を追加選定する
上記のように量的・質的重要性の分析をすることで、内部統制評価の範囲を決められます。個別評価科目とは、リスクが高かったり、非定型取引だったりにかかる業務プロセスがある場合に追加します。
②整備状況を評価する
評価範囲を選定できたら、次に整備状況を評価します。整備状況評価とは、評価範囲に含まれる業務の財務報告リスクを低減するため、規定などのルールがあるか、きちんと運用されているかを確認する手続きです。
整備状況の評価は、ウォークスルーと呼ばれる手続きを用いて実施されます。ウォークスルーとは、評価対象の業務プロセスでの取引をサンプルとして抽出し、そのサンプルの取引開始から終了までの一連の流れを確認し、整備状況の有効性を確かめる方法です。
評価のポイントは、主に以下のとおりです。
- 明文化されているか
- 体制面が整っているか
- 適切性があるか
ここでいう適切性とは、環境に合わせたリスク管理ができているかを指します。このように設備状況評価では、財務報告でのリスクを許容範囲内に低減するため、内部統制の仕組みが整備されているかを評価します。
③運用状況を評価する
整備状況を評価したら、運用状況の評価へと移ります。運用状況の評価とは、設備状況の評価で有効性を確認できた部分について、評価対象期間中に継続的に有効性を認められるかを確認するフェーズです。
運用状況の評価では、一般的に運用テスト(有効性テスト)が評価方法として用いられます。設備状況の評価で用いたウォークスルーは定点的な有効性しか確認できないため、運用テストでは評価期間中の継続的な有効性を確認します。
運用テストで使われるのは、ウォークスルーで使われたサンプル以外の複数のサンプルです。また、規定などのルールに沿って統制活動が行われているか、伝票などの文書の存在、証跡といった押印も確認されます。
有効性とは
ここで言う「有効性」とはどのようなものを指すのか、さらに掘り下げて見ていきましょう。日本公認会計士協会「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の引用にもあったとおり、ロールフォワードは有効性を確認するためのものです。
内部統制でいう「有効性」とは、開示すべき重要な不備がないことを指します。不備とは、主に以下のものです。
- 経営者が財務報告の信頼性に関するリスク評価との対応を実施していない
- 取締役会または監査役などが、財務報告の信頼性を確保するために内部統制の整備および運用を監視していない
- 財務報告にかかる内部統制の有効性を評価する責任部署が不明確である
- 内部統制の整備状況に関する記録が欠けていて検証できない
- 報告された内部統制の不備が期間中に改善されない
内部監査の不備がないことを証明するため、ロールフォワードで有効性を確認していく必要があります。
内部統制評価におけるロールフォワードの必要性
内部統制評価によって見つかった不備は、現場で改善して報告されます。発見された不備が改善されたかを期末日までに確認しなくてはなりません。そこで有効なのが、ロールフォワードです。
ロールフォワードは、期中評価の結果における改善について、期末日までにその有効性を評価します。期中評価結果を再確認することで、以下の確認ができます。
- 期中の有効性の再確認
- 期中の不備の改善確認
- 期中に保留とした項目の評価
ロールフォワード手続の実施手順
ロールフォワードの実施において注意したいのは、基準や公認会計士協会で明確な記載がされていないことです。そのため、各社の方針や立場を明確にし、監査法人へ十分な説明ができるようにしておく必要があります。
内部統制評価におけるロールフォワード手続の実施手順のうち、期中に不備と判断されたコントロールは一般的に以下のとおりに進めていきます。
- 十分なサンプル数の抽出
- 運用テストの実施
- 有効性の再評価
なおサンプル抽出は、不備が改善されたとされる日から期末日までの期間とします。完全に不備が改善される前に実施してしまうと、再び有効性がないと判断されてしまいます。
ロールフォワードにおける確認項目
ロールフォワードの確認項目は以下のとおりです。
- 全社的な内部統制
- 全社レベルの決算・財務報告プロセス
- 重要プロセス
- その他質的重要性から追加されたプロセス
基本的に、ロールフォワードの対象範囲は期中評価の全プロセスと考えてよいでしょう。とくに重要なのは、全社的な内部統制と決算・財政報告プロセスです。期中評価から期末日までに内部統制の整備や運用状況に変更があった場合も、対応が必要となります。
まとめ
ロールフォワードとは、期中評価から期末日までに内部統制の有効性を再評価する手続きです。期末日ぎりぎりに評価しなくてはならない状況を避けるために有効な方法で、不備解消後のサンプルを抽出し、運用テストを実施することで有効性を再評価します。
ロールフォワードに基準などはないため、監査法人を納得させられるだけの十分な説明が必要となります。しかし、通常の内部統制の手順と比較すると、期日評価から期末日までに十分な対策を取れることがメリットです。
よくある質問
ロールフォワードとはどういったもの?
ロールフォワードとは、期中評価の結果から不備や未評価のプロセスを洗い出し、期末日までに改善の有効性を再評価する手続きを指します。通常、内部統制は期末日を評価点としますが、ロールフォワードにより期末日よりも余裕を持って評価することで、改善・再評価の時間を得るためのものです。
基本的な内部統制評価のプロセスは?
基本的な内部統制評価のプロセスは、以下の手順で進みます。
- 評価範囲を選定する
- 整備状況を評価する
- 運用状況を評価する
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