- 更新日 : 2024年7月12日
上場廃止になる理由一覧|その後はどうなるか会社・社員別に解説
「上場廃止」とは、企業が上場している株式市場から自主的または強制的に退場することを指します。上場廃止を選択する背景には業績不振や法令違反など、企業にとって深刻な事情がある場合が多く、株主や社員などに影響が及ぶこともあります。一方で、上場廃止をすることで企業が経営を改善できるというポジティブなケースもあるのです。本記事では、上場廃止とは何か知りたい人に向けて基礎知識や上場廃止になる原因、メリットやデメリットについて解説していきます。
目次
上場廃止とは
上場廃止とは、証券取引所が取り決める基準に該当したり、上場している会社が自主的に申請したりすることで、取引所で株式等の売買が終了することです。上場廃止が決まった会社の株式は「整理銘柄」に指定されて、投資家に「上場廃止すること」を周知する期間が設けられます。そして一定期間、売買がおこなわれた後、上場廃止が実施されるのです。
上場廃止となる理由一覧
上場廃止となる理由は主に2つです。
- 上場廃止の要件を満たした
- 経営戦略として上場廃止という手段を選ぶ
経営破綻が上場廃止の理由になるのでは?と思う方もいると思います。経営破綻が原因で上場廃止になる事例は、実際は多くはありません。2020年には東京証券取引所では57社の会社が上場廃止となりましたが、経営破綻による上場廃止は1社のみです。
主な理由としては、上場廃止の要件を満たす、あるいは経営戦略として上場廃止という手段を選ぶことの方が多いのです。
上場廃止の要件を満たした
1つ目の理由として、上場廃止の要件を満たしたことが挙げられます。代表的な要件には、以下の6つです。
- 上場維持基準への不適合
- 有価証券報告書の提出遅延
- 虚偽記載又は不適正意見等
- 特設注意市場銘柄等
- 上場契約違反等
- その他
その他の例としては、他の会社の完全子会社になる、破産、銀行取引の停止や反社会勢力の関与などがあります。
このように、投資家が安心して投資できるか否かに関わる事項は、上場廃止の基準に該当するのです。これより、さらに詳しく説明していきます。
上場維持基準を満たしていない
上場を維持するためには、上場維持基準を満たしている必要があります。上場維持基準を満たさない期間が1年以上(上場維持基準が売買高の場合は6ヶ月)続くと、上場廃止となってしまうのです。
なお、上場維持基準は市場ごとに以下のようになっています。
- プライム市場
株主数800人以上/流通株式 株式数2万単位以上・時価総額100億円以上・株式比率35%以上/売買代金1日平均売買代金が0.2億円以上/純資産の額が正
- スタンダード市場
株主数400人以上/流通株式 株式数2,000単位以上・時価総額10億円以上・株式比率25%以上/売買代金月平均売買高が10単位以上/純資産の額が正
- グロース市場
株主数150人以上/流通株式 株式数1,000単位以上・時価総額5億円以上・株式比率25%以上/売買代金月平均売買高が10単位以上/・時価総額40億円以上/純資産の額が正
上記の上場維持基準を満たさなくなった場合、上場を維持するためには原則1年以内に、上場維持基準を満たすための取り組みや実施時期を記載した計画を公開しなければなりません。
上記計画は、上場維持基準を満たさなくなってから3ヶ月以内に公開する必要があります。
有価証券報告書の提出が遅延した
上場企業は、有価証券報告書等の資料を期限までに提出しなければならないことになっています。この資料を期限から1ヶ月以内に提出しなかった場合は上場廃止となってしまうのです。
なお、期限に間に合わないことが見込まれる場合、有価証券報告書等の提出期限延長を申し出ることが可能で、承認を得た場合は承認を得た期限から8日以内までに提出しなければなりません。
報告書に虚偽記載又は不適正意見等があった
上場企業は、有価証券報告書等が一定の条件を満たした、または上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難と取引所が認めた場合に、上場廃止となります。
一定の条件とは、以下のようなものです。
有価証券報告書等に虚偽記載がある場合
有価証券報告書等に監査法人等による「不適正意見」や「意見の表明をしない」旨の記載がある場合
なお、有価証券報告書等に虚偽の記載があった際、法人などの場合は7億円以下の罰金が課されることなっています。
特設注意市場銘柄等に該当して内部管理体制が改善しなかった
上場企業が特設注意市場銘柄に該当したのにもかかわらず、内部管理体制が改善しなかった場合、上場廃止となります。特設注意市場銘柄とは、有価証券報告書等の虚偽記載や不適正意見などにより上場廃止基準に抵触するおそれがあったものの、上場は廃止に至らなかった企業について、取引所が指定する銘柄のことです。
特設注意市場銘柄に指定されたのにもかかわらず、1年以内に改善が見られない場合で、今後も改善が見られない場合や、1年6ヶ月以内に改善が見られなかった場合には上場廃止となります。
上場契約に違反した
上場企業は上場する際に取引所と上場契約を結びますが、この契約の規約に違反した場合は上場廃止となります。また、上場申請時に提出する「上場の申請に係る申請書」の事項に違反がある場合、1年以内に新規上場審査に準じた上場適格性の審査に適合しないときも同様です。
経営戦略として上場廃止という手段を選んだ
2つ目の理由は、経営戦略として上場廃止を選んだことです。上場廃止すると、株式を自由に売買できなくなるので、会社の外部から経営に関与されるリスクを減らせます。つまり、敵対的買収を回避する手段として、上場廃止が有効なのです。さらに、株主の評価を気にせずに済むので、経営者は中長期的な視点で経営に打ち込むことができるのです。
上場廃止になると会社はどうなる?
上場廃止になると、会社への影響として主に以下の2つが考えられます。
- 資金調達の方法が制限される
- ブランドイメージが下がる可能性がある
資金調達の方法が制限される
上場廃止した企業は、証券取引所を通じて不特定多数の投資家から資金を調達できなくなります。多額の資金を短期に調達できる手段を失うので、事業を継続するための資金調達の目途をつけておくことが重要です。
ブランドイメージが下がる可能性がある
上場廃止になると、一般消費者や取引先が抱くブランドイメージが下がり、売上に影響する恐れがあります。さらに、企業の信用力が下がれば、金融機関からの借入が難しくなる可能性すらあります。ブランドイメージの低下を避けるためには、取引先などに対して上場廃止の理由を明らかにするといった配慮があるとよいでしょう。
上場廃止になると社員はどうなる?
上場廃止になった場合、当該上場企業に勤めている社員はどうなるのでしょうか。
上場廃止後、必ずしも企業は廃業するわけではありません。例えば、2022年の上場企業の倒産は1件なのに対して、2022年の上場廃止企業数は78社となっています。上場廃止した企業のほとんどは倒産しているわけではないということがわかるでしょう。なお、IPO総合研究所株式会社の調査によると、多くの人が上場廃止になっても「会社を辞めない」と回答しているというデータがあります。
より具体的な影響としては、周囲から「上場企業の従業員」と評価されることがなくなったり、住宅ローンなどの審査で高く評価されにくくなったりといったことが挙げられるでしょう。また、従業員持株制度があり、これまで投資していたという方は、株式を売却して回収するといったことが難しくなってしまうという点には注意しなければなりません。
上場廃止すると株はどうなる?
上場廃止すると、株の扱いは以下の3つのケースに分類されます。
株式を売却して現金化する
上場廃止決定後、上場廃止までは投資家が市場で株式を売買できる期間です。少しでも値段が付いているうちに売却することがおすすめです。
例えば、上場廃止前に大株主などが他の株主から株式を公開買い付けする場合があります。
もしくは株式併合として、複数の株式を1つの株式にまとめることで、株価を引き上げる方法もあります。
非公開化して株主へ金銭を支払う
M&Aとして別の企業に買収された場合、買収企業が株主に対して金銭を支払わなければなりません。
また、経営陣が会社を非公開化する際にも株主に対して金銭を支払い、これをマネジメント・バイアウトといいます。
株式の価値がゼロになる
倒産で上場廃止になった場合など株式の価値がゼロになる場合があります。倒産でない場合であっても上場廃止後は売却の機会がかなり限られてしまい、売却できないまま株式の価値がゼロになることも十分ありえます。
上場廃止のメリット
一方、上場廃止には、2つのメリットがあります。
- 経営権を獲得できる
- 上場の維持にかかる費用を削減できる
経営権を獲得できる
上場していると、経営者は株価を上げる目的や、株主の評価を得るために、短期的な利益を気にしなくてはなりません。しかし、上場廃止にすれば外部から経営に関与されなくなるので、経営者が経営権を獲得できるのです。したがって、事業方針などの意思決定をスムーズにおこなえ、迅速な経営判断が可能になります。
上場の維持にかかる費用を削減できる
上場廃止をすれば、上場を維持するための費用を削減できます。上場維持にかかる費用は、以下の通りです。
項目 費用相場 年間上場料 48万円~456万円(時価総額および上場する市場により異なる) TDnet使用料 12万円 株券の発行などにかかる料金 株価と発行する株式数などから算出 新株の上場にかかる料金 株価と発行する株式数などから算出
TDnetとは、Timely Disclosure networkの略称で、適時開示情報伝達システムを意味します。上場企業は上場規定により、TDnetの使用が義務付けられています。上場廃止により、継続的に発生する数百万円という規模の費用を削減できるのです。
上場廃止の事例
上場廃止となった企業の例は以下の通りです。
企業名 上場廃止の理由 株式会社ジーンズメイト 共同株式移転によるREXT株式会社の完全子会社化 株式会社よみうりランド 株式の併合 日本通運株式会社 NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社の完全子会社化 株式会社大塚家具 株式会社ヤマダホールディングスの完全子会社化 株式会社島忠 株式の併合
上記を見ると、上場廃止の理由は主に完全子会社化や株式の併合であることがわかります。経営破綻が理由で上場廃止となる企業は、少ないのです。
上場廃止後も再上場できる
上場廃止をしても、改めて審査を通過すれば再上場できます。ただし、再上場の場合は、新規に上場する(IPO)よりも厳しい審査基準が設けられています。
新規に上場する条件は、上場する株式市場によって以下のように定められています。
上場維持基準 プライム スタンダード グロース 株主数 800人以上 400人以上 150人以上 流通株式数 20,000単位以上 2,000単位以上 1,000以上 流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上 流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上 財政状態 連結純資産50億円以上
かつ単体純資産の額が負でないこと連結純資産が正 ― 利益の額(連結) 最近2年間の利益の額の総額が 25 億円以上であること
または
最近1年間における売上高が 100 億円以上である場合で、かつ、 時価総額が 1,000 億円以上となる見込みのあること最近1年間における利益の額が1億円以上であること ―
例えば、MBO後に再上場する場合を考えます。MBO(Management Buyout)とは、経営陣が自社の株式を買い取って、会社を非公開化する手法です。再上場を申請する場合は、MBOと再上場の関連性が問われることがあります。具体的には、経営者や株主に変化はあったのか、あるいはMBOから再上場するまでの期間などが審査されます。
上場廃止後に再上場した企業の例は、以下の通りです。
- 製紙メーカーである大王製紙株式会社は、1963年に上場廃止、1982年に再上場
- 通信事業者であるソフトバンク株式会社は、2005年に上場廃止、2018年に東証1部に再上場
- 外食産業者である株式会社すかいらーくホールディングスは、2006年に上場廃止、2014年に東証1部に再上場
上場廃止のメリットを理解しよう
取引所で株式等の売買が終了する上場廃止には、経営権の取得と上場を維持する費用を削減する2つのメリットがあります。一方で、資金調達やブランドイメージに影響があるデメリットも知っておくと良いでしょう。さらに、経営戦略として上場廃止という手段を選ぶことがある点を把握しておくと、理解が深まるでしょう。
よくある質問
上場廃止とは?
上場廃止とは、投資家を保護する目的で作られた仕組みであり、取引所で株式等の売買が終了することです。
上場廃止するメリットとは?
上場廃止するメリットは、経営権の取得と上場維持費用の削減の2つです。
上場廃止するデメリットは?
上場廃止するデメリットは、資金調達の方法が制限される点と、ブランドイメージが下がる可能性がある点です。
上場廃止のその後は?
上場企業が上場廃止した場合、原則として1ヶ月間「整理銘柄」に指定されます。整理銘柄に指定することで、その事実を投資家に周知させて、投資家が整理銘柄を売買できるようにしているのです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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