• 更新日 : 2024年7月12日

上場企業のM&Aの現状|戦略や成功・失敗事例をわかりやすく解説

M&Aを視野に入れている企業の中には、上場企業におけるM&Aの現状について、活発に行われているものなのか、または減少傾向にあるのか、よくわからないという人もいるでしょう。現状、上場企業におけるM&Aは、増加傾向にあります。

本記事では、上場企業におけるM&Aの現状や上場企業の戦略、成功事例・失敗事例などを解説しています。M&Aの現状を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。

上場企業におけるM&Aの現状

上場企業のM&Aの現状|戦略や成功・失敗事例をわかりやすく解説
2022年は、上場企業の合併・買収(M&A)活動が活発でした。2021年には877件のM&Aが公表されましたが、2022年にはそれを上回る949件が行われ、リーマンショック以降で最多となりました。2年連続の記録更新です。2020年は前年より件数が減少しましたが、2021年には増加に転じ、2022年もさらに増加しました。

2021年以降、特に子会社や事業の分離によるM&Aが増えています。国際的なM&Aは減少傾向にあるものの、国内の企業間でのM&Aが活発になっており、全体の件数を押し上げる要因となっています。

M&Aの件数が増えた理由の1つに、株式交付制度の新設が挙げられます。株式交付制度は、2019年12月に制定され、2021年3月から実施されました。買収を行う企業が大量の現金を用意する必要がなくなり、段階的な買収でも柔軟に対応できるため、M&Aを行いやすくなるメリットがあります。

上場企業におけるM&Aの戦略

上場企業のM&Aの現状|戦略や成功・失敗事例をわかりやすく解説
上場企業におけるM&Aの戦略は、主に以下の5つです。

  • 競合企業の買収
  • 垂直統合
  • 商品・サービスの拡充
  • 同業他社の買収
  • 新規事業の開拓

M&Aを行うことで、企業の成長を促し、新しいイノベーションを生み出せる可能性があります。

しかし、高額な初期費用が必要にある場合や社内の反発を生む場合があるため、慎重に行う必要があります。

競合企業の買収

上場企業におけるM&A戦略の1つとして、競合企業の買収は重要で、企業が直接、競合他社を買収し、市場での優位性を確立します。

メリットとして、競争の減少や顧客基盤の拡大などが挙げられ、市場支配力の強化と効率的な事業展開が可能です。

一方、デメリットとしては、買収の承認が必要なことや統合後の企業文化の融合や管理の複雑さなどがあり、反対運動に直面するリスクがあります。

競合企業の買収は、大きなメリットをもたらす一方で、慎重な検討と計画が求められる戦略です。

垂直統合

垂直統合では、企業は原材料の調達から製品の販売までのプロセスを内部化し、コスト削減と効率の向上を図ります。

製造業者が原材料を供給する企業を買収することで、原材料コストを抑え、供給の安定性を高められる点がメリットです。

しかし、統合には高額な初期投資が必要であり、異なる業種間の経営や文化の違いを克服する必要があります。

また、市場の変化に対する柔軟性が低下する可能性もあるため、戦略的な検討が求められます。

商品・サービスの拡充

商品・サービスの拡充戦略の目的は、市場での存在感をアピールし、新たな顧客層を獲得することです。

ある企業が補完的な製品ラインを持つ企業を買収することで、より多様な顧客ニーズに応えられるようになります。商品・サービスを拡充することで、市場シェアの拡大や収益源が多様化し、企業はより競争力のある地位を確立し、成長の加速が可能です。

一方で、統合に伴うコストが高く、異なる製品やサービスの管理が複雑になる点がデメリットです。また、統合後の文化的な調和やブランドイメージの維持に関する課題が生じる可能性があります。

そのため、商品・サービスの拡充は、成長と市場支配を目指しつつも、複雑さとリスクを慎重に管理する必要がある戦略です。

同業他社の買収

上場企業が同業他社の買収を行う戦略は、直接的な競争相手を取り込むことによって市場シェアを拡大し、業界内での支配力を強化することを目的としています。

戦略を通じて、企業は競争を減らし、効率的な運営やコスト削減を図ることが可能です。

メリットとしては、市場の統合による競争の減少や市場での影響力の拡大があります。同業他社を買収することで、より強固な市場地位を築くことが可能です。

しかし、承認を得られることが難しく、大規模な統合による経営資源の大きな投資が必要になることがあります。

同業他社の買収は市場支配を図る効果的な手段である一方で、実施には慎重な検討と計画が必要です。

新規事業の開拓

新規事業の開拓は、他業種の企業を買収または合併することによって、新しい市場や事業領域に進出する戦略です。

例えばIT企業がヘルスケア関連の企業を買収することで、テクノロジーとヘルスケアの融合による新しいビジネスを展開できます。

戦略のメリットは新しい市場にアクセスし、収益源の多様化を図ることができる点です。また、異業種間の知識や技術の統合により、新しいイノベーションを生み出せる可能性が高まります。

デメリットとしては、投資の回収に時間がかかることや競争の激化などがあります。新規事業の開拓は大きな成長の機会にある一方、それに伴うリスクに注意が必要です。

上場企業のM&A成功事例

上場企業のM&Aの現状|戦略や成功・失敗事例をわかりやすく解説
本章では、上場企業のM&A成功事例を2つ紹介します。

  • GMOインターネットグループ株式会社による株式会社OMAKASEの買収
  • 凸版印刷株式会社による株式会社アイオイ・システムの子会社化

それぞれ、M&Aを行った理由や方法を解説します。

事業拡大のM&Aで成功した事例

GMOインターネットグループ株式会社は、2021年6月に株式会社OMAKASEを買収しました。M&Aの目的は、インターネットインフラ事業の拡大です。

GMOインターネットグループ株式会社のM&Aは、2021年に施行された株式交付を用いて成立しました。株式会社OMAKASEの事業を自社の既存事業と組み合わせることで、相乗効果を生み出し、事業を拡大できると判断し、M&Aを決定しています。

子会社化のM&Aで成功した事例

凸版印刷株式会社は、2021年5月に株式会社アイオイ・システムを子会社化することを発表しました。物流業界におけるDX事業への参入が、子会社化の目的です。

物流市場は、コロナウイルスの流行や社会のデジタル化の進展に伴い、成長を続けています。しかし、労働力不足やサービスの競争が激化するという課題も存在し、問題に対処するため、デジタル技術を活用した取り組みが進められています。

凸版印刷株式会社と株式会社アイオイ・システムのM&Aでは、株式譲渡のスキームを用いて決定されました。

上場企業のM&A失敗事例

上場企業のM&Aの現状|戦略や成功・失敗事例をわかりやすく解説
本章では、上場企業のM&Aの失敗事例を2つ紹介します。

  • 海外の会社のM&A
  • IT会社のM&A

買収に失敗した原因には、市場調査が不十分なことや根拠のない記事を公開したことなどが挙げられます。それぞれ詳しく解説します。

市場調査が不十分だったことによりM&Aで失敗した事例

アルコール飲料を扱うA社は、過去に海外の大手ビール会社を3000億で買収しました。当時、その会社のある国の市場は年間で10%の成長が期待されていましたが、景気の後退と、他国のビール会社との価格競争に敗れた結果、苦境に立たされました。

その後の決算で買収した会社は1100億円の減損を計上し、上場以降初めて400億を超える赤字を記録しています。結果、買収した会社は数年後に他国の会社へ770億円で売却されました。

買収の失敗は、市場調査が不十分だったことが一因とされています。

ITリテラシーの低さによってM&Aで失敗した事例

ゲームアプリの運営で知られるB社は、過去にキュレーションサイトを運営する会社を買収し、複数サイトの運営を始めました。

しかし、その中の1つである専門分野を扱うサイトで、根拠が不明確な記事や外部コンテンツの無断使用、コピー、リライトの疑いが指摘され、問題となりました。さらに、低価格で外部ライターにリライト作業を依頼していた事実も明らかになり、社会的な批判を受けています。

これにより、社長が謝罪会見を開き、最終的に運営していた複数のサイトは閉鎖を余儀なくされる結果となりました。

M&Aでは仲介会社を利用する方がよい?

上場企業のM&Aの現状|戦略や成功・失敗事例をわかりやすく解説
M&Aの交渉方法は主に以下の2つです。

  • 仲介会社の活用
  • 直接交渉

それぞれメリット・デメリットがあるため、総合的に考慮して決めることが重要です。

譲渡企業のメリット・デメリットと譲受企業のメリット・デメリットを詳しく解説します。

譲渡企業から見たメリット・デメリット

譲渡企業から見たメリットとデメリットは、以下の通りです。

仲介会社の利用直接交渉
メリット

  • 専門的な知識を持ち、手続きがスムーズに進む

  • 広範囲なネットワークをもち、条件の良い取引先とマッチングできる


  • 手数料やコストを削減できる

  • 情報漏洩の可能性を抑えられる

デメリット

  • 手数料が発生し、コストがかかる

  • 企業の機密情報が漏れる可能性がある


  • 専門知識が不足している、交渉が不利になる場合がある

  • 適切な取引先を見つけにくい


仲介会社を利用するメリットは、M&Aの専門知識と広範なネットワークの利用が可能な点です。交渉や手続きがスムーズに進み、適切な取引先のマッチングが容易になります。

デメリットとしては、追加コストや機密情報の漏洩リスクが挙げられます。

直接交渉のメリットは、手数料やコストの削減と情報の厳密なコントロールであり、仲介会社を利用するよりも安価にできます。

デメリットには、専門知識の不足による不利な交渉と、限られたネットワークによる適切な取引先の見つけにくさがあります。

譲受企業から見たメリット・デメリット

譲受企業から見たメリット・デメリットは、以下の表の通りです。

仲介会社の利用直接交渉
メリット

  • 複雑な取引のプロセスをサポートしてくれる

  • より有利な状態で取引できる


  • 低コストで取引ができる

  • 直接交渉をにより、迅速な意思決定ができる

デメリット

  • 利用料や手数料がかかる

  • 円滑なコミュニケーションを取れない場合がある


  • 専門的な知識を持っていない場合がある

  • ネットワークが狭く、多くの選択肢から選ぶことができない


仲介会社を利用するメリットは、仲介会社が専門知識と市場情報を提供することで、複雑な取引をスムーズに進められる点です。

しかし、仲介会社の利用料金がかかることや間接的なコミュニケーションが発生することで、取引にかかる時間とお金が必要になります。

直接交渉のメリットには、仲介会社の手数料がかからずコストを節約できることや迅速なコミュニケーションが可能な点が挙げられます。

一方、専門的な知識が不足し、仲介会社を通じて得られる選択肢が限定されることがあるでしょう。

譲受企業は、自社の状況に合った適切な方法を選ぶ必要があります。

まとめ

2022年は上場企業のM&Aが非常に活発で、リーマンショック以降で最多となる949件が行われました。前年の2021年の877件を上回り、2年連続で記録を更新しています。

上場企業のM&Aの戦略には、競業企業の買収や商品・サービスの拡充などがあります。M&Aを実行することで、市場におけるシェア拡大ができ、企業として成長できる可能性が高いです。

しかし、初期投資にお金がかかることや社員からの反発を招く恐れがあります。M&Aを行う際は、メリット・デメリットを理解したうえで慎重に行いましょう。

よくある質問

M&Aが増加している理由は?

M&Aの件数が増加した要因の1つとして、新しく設けられた株式交付制度があります。 制度は2019年12月に制定され、2021年3月から実施されています。 株式交付制度のもとでは、買収を行う企業が多額の現金を準備する必要がなくなるため、M&Aを実施しやすくなることがメリットです。

上場企業のM&Aの戦略にはどのようなものがある?

上場企業におけるM&Aの戦略は、主に以下の5つです。

  • 競合企業の買収
  • 垂直統合
  • 商品・サービスの拡充
  • 同業他社の買収
  • 新規事業の開拓
企業が成長するきっかけになる一方で、高額な初期費用が必要にある場合や社内の反発を生む場合があります。


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