- 更新日 : 2024年11月13日
不正トライアングルとは?事例をもとに原因と対策を解説
不正防止は、投資家からの資金調達を目指す、もしくは将来的にIPOを検討しているスタートアップ企業にとって、投資家からの信頼を獲得して規制当局の要件を遵守する上で重要です。そして、不正防止を考える際に重要な理論が不正トライアングルです。
不正トライアングルは社内における不正が発生するメカニズムを説明した理論です。
本記事では、不正トライアングルの理論、不正の実例、不正トライアングルの要素、不正防止策について解説します。
目次
不正トライアングルとは
はじめに、不正トライアングルの理論や提唱された時代的背景について解説します。
不正トライアングルとは
不正トライアングルは、アメリカの犯罪学者であるドナルド・R・クレッシー(Donald R. Cressey)が提唱した理論です。不正行為が発生する要因を「動機」、「機会」、「正当化」の3つの要素で説明しています。
- 動機
個人が不正を行う動機やプレッシャーがあること - 機会
不正を行うための機会や手段が存在すること - 正当化
不正行為を正当化するための個人的な理由や言い訳があること
ドナルド・R・クレッシーが不正トライアングルを提唱した背景には1950年代のアメリカ社会の変化がありました。
企業が急激な成長を遂げる一方で、急成長に企業内の管理体制が追いつかず、不正行為が発生しやすい環境が見られるようになりました。
また、経済成長により物質的成功が強調される文化が形成され、一部の人々に経済的成功を追求する圧力を感じさせたのもこの時期です。
そして、ドナルド・R・クレッシーをはじめとした、不正行為の心理的・社会的要因に焦点を当てる研究者が登場しました。
不正トライアングルの3つの要素
ここでは、不正トライアングルの3つの要素を解説します。
1.不正を行う動機・プレッシャー
個人が不正を行う背景には不正を行う動機やプレッシャーがあります。
例えば以下のような動機が考えられます。
- ギャンブル依存症であり借金を抱えている
- 家族が病気で治療費が高額である
- 薬物依存症によりクスリ代がかかる
- 業務上の失敗を隠蔽したい
- 過剰なノルマによって不正な手段で業績を上げることを強要されている
このように、経済的な理由だけではなく、お金に関連しない理由もあります。
2.不正を行える機会
不正が行えてしまう機会や手段が存在することも不正の原因です。
- 会計システムに適切なアクセス制御がなく、誰でもデータを編集できる
- 一人の社員が購買、支払い、記帳のすべてを担当しており、不正を発見されにくい
- 外部監査が形式的に行われ、実質的なチェックがない
- 監視カメラが設置されていない
- パスワードが不要、もしくは適切に管理されていない
このような環境が不正を可能にしてしまいます。
3.不正の正当化
不正行為を正当化するための合理化です。
- 自分は会社に貢献しているのに給料が不十分であり、不正を「正当な報酬」と考える
- 不正行為について「みんなやっていることだから問題ない」と考える
- 資金を一時的に流用するが、後で返済するつもりだと考える
このように個人が自分の行動を正当化し、自分を納得させます。
不正トライアングルの事例
ここでは、不正トライアングルの観点から不正事例を解説します。
事例1.元社員による架空請求事例
情報システム会社であるN社でシステム案件を担当していた社員Xは発注先であるT社の社員Yと共謀し、N社からT社へ架空の業務を発注し、さらにN社とT社がZ社に架空の業務を発注し、T社とZ社が得た外注費をXやYで分配しました。
被害金額は1億1530万円といわれ、事件後、T社は内部統制の強化、取引先との癒着の防止策を講じました。これは不正を行う「機会」を減少させることを目的にしたものです。
事例2.元役員による架空工事・水増し工事事例
不動産会社J社の社員Xは住宅設備施工のT社に出向していました。Xは業務の発注者という立場を悪用し、工事請負会社Hの社員Yと共謀し、J社からT社に対し、J社の子会社の社宅の修繕工事を発注します。この際に修繕費の水増しを行い、工事代金をT社からJ社に請求し、水増し分をXとYで詐取しました。
XとYは同様の手法を繰り返し、被害額は4億5000万円に上りました。国税庁のJ社への調査で事件が発覚し、J社はグループ会社全体のガバナンス強化を行う方針を示しました。これは不正を行う「機会」を減少させることを目的にしています。
事例3.廃棄業者元社員による地方自治体の備品転売
某県はリース契約を結んでいるF社にHDDの廃棄を依頼し、F社は処理業者B社にHDD廃棄を外部委託しました。B社の担当者XはHDDをネットオークションで不正に転売し、HDDから行政情報が流出してしまいました。
流出した情報には氏名や住所などを含む納税記録が含まれており、「世界最悪級の流出」と報道されました。
某県はHDDなどのリース備品の廃棄時には県職員立ち合いのもとで物理破壊させるという再発防止策を発表しています。これも「機会」を減少させることを目的にした防止策です。
不正トライアングルに基づく防止策
ここでは、不正のトライアングルの「動機」「機会」「正当化」に対して取れる防止策を解説します。
「動機」を軽減させる快適な職場作り
動機は社員の私生活に要因がある場合があり対策が難しい要素ですが、主に3つの対策があります。
- 報酬制度で市場相場に見合った報酬を与えることや成果に応じた評価をすること
- 厳しいノルマや目標を課さないことやワークライフバランスを重視した業務時間によってストレスを軽減すること
- 社員への支援として、カウンセリングやコンプライアンス教育を提供すること
「機会」を減少させるセキュリティ対策
不正トライアングルの中でも、「機会」は企業がアプローチし主体的に取り組みやすい要素であり、主に4つの対策があります。
- 業務プロセスにおける職務分掌で、権限や業務の分担、複数人での相互チェック体制、他部署の承認が必要な仕組み作りなど
- アクセス制限を徹底することで、アクセス権限者の制限、権限の見直しなど
- 監視体制の強化で、取引や決定のプロセスを文書化し、監視可能にすることや、オフィスに監視カメラを設置することなど
- 社内でモニタリングを実施し、内部統制の弱点を早期に発見すること
「正当化」を防止するコンプライアンス教育
正当化も社員個人の倫理観に関わり、対策が難しいですが、主に3つの対策があります。
- 企業の倫理規範を社員に周知徹底することや不正発覚時に厳格に処置することで不正を許さない企業文化を醸成すること
- 内部通報制度により不正を許さない企業文化を形成すること
- 社員へのコンプライアンス教育や研修の実施
まとめ
不正トライアングルとは、社内における不正が発生するメカニズムを説明した理論で、不正行為が発生する要因を「動機」、「機会」、「正当化」の3つの要素で説明しました。
動機とは、個人が不正を行う動機やプレッシャーを指し、機会とは不正を行うための機会や手段を指します。そして、正当化とは、不正行為を正当化するための個人的な理由や言い訳があることを指します。
過去に不正が発生した事例では、多額の被害があっただけではなく、会社や自治体の信用を揺るがす大事件に発展しています。
このような不正を防止するために、「動機」「機会」「正当化」のそれぞれに対応した防止策を取ることが大切です。
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