- 更新日 : 2024年7月12日
イグジットの意味は?種類ごとのメリットや選び方・動向について解説
「イグジット(exit)」とは、企業の創業者や経営者、出資者が保有する株式を売却し、投資した資金を回収することです。イグジットには、M&AやIPOをはじめ、金融機関から融資を受けた人に株式を買い取ってもらい、経営権を受け渡すなど、その手法は多岐に渡ります。
この記事では、最近のイグジットの傾向や種類、効果的なイグジットの戦略について考えていきます。
目次
イグジットの意味とは
「イグジット」とは、ベンチャービジネスや企業再生において、創業者などが自分の保有する株を売却し、投資した資金を回収するというものです。「イグジット」という言葉は英語で「出る」という意味を持つように、投資家や企業が投資した会社から撤退する(=出る)ことを意味しています。
エグジットファイナンスとの違い
イグジットと似た用語に「エグジットファイナンス」という言葉があります。エグジットファイナンスとは、再建を目指す企業が早めに再生をするために行われる融資のことで、会社や事業を売って経営者が利益を手に入れるイグジットとは異なります。
ちなみにこの場合の「エグジット」は、「再生手続きの終わり」という意味で使われています。
イグジットを行う理由
イグジットを行う理由はさまざまありますが、例えば利益の確保やリスク回避、資金調達などが挙げられます。
企業の上場
企業の規模を拡大する過程で、株式市場に株を「上場」することがあります。上場時は、今まで経営者や出資者が保有していた株式を株式市場に流通させ、上場した株式は誰もが購入することができます。結果として、経営者・出資者側には、その売却金が入ることになります。
企業が上場することのメリットには、以下のような点が挙げられます。
- 資金調達がしやすくなる
上場すると直接取引だけでなく証券取引所での取引が開始されるため、資金調達しやすくなります。
- 知名度が上がる
知名度が向上すると採用時に人が集まりやすくなる、自社のサービスや商品の認知度もともに向上し、業績を伸ばしやすくなることも期待できます。
- 社会的信用を得やすくなる
上場すると情報開示が義務化されたり、外部監査が強化されたりすることで社会的信用を得やすくなります。
企業(事業)の売却
経営者・出資者が資金を得るために株式を上場させるのは非常に有効な手段ですが、上場の際には厳しい審査があります。「上場準備をするのが難しい」という場合は、企業を売却するという方法もあります。
売却の際の価値を決めるのは買い手企業となるため、予想以上の価格で売却できる可能性もあります。一方で買い手がつかない場合や、売却できても思っていたよりも低い価格だったという場合もあるため注意が必要です。
イグジットの種類
イグジットの手法には、主に以下の2種類があります。
- IPO(上場・新規公開株)
- M&A(企業の合併・買収)
これら以外にも、MBOやEBOというものもあります。それぞれの特徴やメリットとデメリットを確認していきましょう。
IPO
IPOは「Initial Public Offering」(イニシャル パブリック オファリング)を略したもので、今まで上場していなかった会社が株式を証券取引所に上場させることをいいます。
株式を上場する際は、経営者・出資者が保有する株式を株式市場で売却し、一般の投資家に購入してもらうことになります。IPOのメリットとデメリットをみていきましょう。
IPOのメリット
- 上場時に経営者側に資金が入る
- 経営者は経営をそのまま続けることができる
- 企業の知名度が上がる
- 信用度が向上する
- 資金調達がしやすくなる
IPOで株式を上場する際は、幅広い人たちに株式を売却することになります。経営者自身の株式を売却すれば、かなり多くの売却代金を得られる可能性も少なくはありません。
また、IPOは経営権を持ったまま、株式を売却することができる手段です。このまま経営を続けたい人に向いた方法といえるでしょう。
そのほかにもIPOには、企業の知名度や信用度向上、信用度の向上によって資金調達がしやすくなる、といった効果も期待できます。
IPOのデメリット
- 上場に見合うまでの企業規模が必要となる
- 上場審査が厳しい
- 上場後も、株主・社会に対しての責任がある
IPOは、どの企業でもできるというわけではありません。例えば、2022年4月より東京証券取引所にできる新しい市場区分「グロース市場」の場合、新規上場には以下の基準があります。
株主数 | 150人以上 |
流通株式数 | 1,000単位以上 |
流通株式時価総額 | 5億円以上 |
まずは、この基準をクリアする必要があります。また、上場はしたいと思ったらすぐにできるというものでもありません。上場の数年前から財務状況や社内体制を整え、審査に通過する必要があります。上場後も売買高等の上場維持基準を満たし続けなければなりません。
上場するということは、株主に対する責任も伴います。利益を出し、配当などで還元することも重要です。
M&A
イグジットには、M&A(Mergers and Acquisitions・マージャーズ アンド アクイジションズ)という経営者や出資者が会社あるいは事業を売却して資金を得る方法もあります。売却先はほかの会社や投資会社です。M&Aでは、株式の譲渡や事業譲渡が行われます。M&Aのメリットやデメリットを確認していきましょう。
M&Aのメリット
- IPOよりも短期間でイグジットできる可能性が高い
- 赤字であっても売却できる場合がある
IPOの場合、上場審査の準備に数年の時間をかける必要があります。さらに上場しても上場維持基準を満たさないといけません。しかしM&Aでは、そのような準備は必要ありません。条件の合う買い手が見つかればすぐに売却でき、売却代金を手に入れることができます。
もし、売却したい会社・事業が赤字であっても将来性が感じられる、あるいは黒字に転じることができそうだとみなされれば、買い手がつく可能性も十分にあるというメリットもあります。
M&Aのデメリット
- 買い手が見つからないこともある
- 理想通りの代金で売却できない可能性がある
M&Aは買い手が見つからないと成立しません。将来性が感じられない会社・事業の場合は、売却ができず代金も手に入らない場合もあります。
また、買い手が見つかったとしても、思っていたよりも低い金額で売却することになる可能性もあるため注意が必要です。
MBO
IPOやM&A以外のイグジットの手法にMBO(Management Buyout・マネジメント バイアウト)というものがあります。こちらは、現経営陣が創業者や出資者が保有する株式を買い取るというものです。創業者や出資者からみればイグジットとなります。メリットとデメリットをみてみましょう。
MBOのメリット
MBOのメリットは、会社の所有者と経営陣が同一になることです。経営陣の意見と所有者の意見が異なり、新しい事業などを興せないという弊害がなくなります。
MBOのデメリット
MBOのデメリットは、資金調達をどうするか、という点です。経営陣が個人として資金を出すという方法もありますが、それで足りないという場合は金融機関からの融資を受けなければなりません。
EBO
EBO(Employee Buyout・エンプロイー バイアウト)とは、従業員が創業者などが持つ株式を取得するというものです。こちらもMBO同様に創業者や出資者からみれば、イグジットとなります。メリットとデメリットは以下の通りです。
EBOのメリット
EBOのメリットは、後継者のいない企業の存続が可能になる点です。そのため、中小企業でよく使われる手法となります。業務に精通する従業員が後を継ぐことになるため、事業を継続したいと考える会社には有効な方法です。
EBOのデメリット
EBOのデメリットは、資金調達の難しさです。従業員が買い取り資金を準備することになるため、資金不足になることも考えられます。その際は、金融機関の融資に頼らないといけなくなる点は留意しておくべき点です。
LBO
LBO(Leveraged Buyout・レバレッジド バイアウト)とは、借入金で会社や事業を買い取る手法です。LBOのメリットとデメリットは次の通りです。
LBOのメリット
LBOは融資された資金を元に買い取りを行うため、自己資金をそれほど準備しなくてもよいというメリットがあります。
LBOのデメリット
買い取りのために融資を受けることになるため、借入金が発生するというデメリットがあります。事業で利益が出れば問題ありませんが、損失を出した場合は返済が難しくなるという懸念もあります。
2段階イグジット
企業のイグジットにはいくつかの種類があることをお伝えしましたが、2段階イグジットという方法もあります。2段階イグジットとは、上場していない企業が自社を大企業にM&Aした後に、IPOを目指すという手法です。
2段階イグジットのメリットを売り手側、買い手側それぞれで見てみると以下のようになるでしょう。
- 売り手側:上場を見据えた企業価値評価でM&Aできるので通常より高い価格での売却を目指せる
- 買い手側:売り手側がIPO前に辞めてしまうといったリスクを低く抑えることができる
なぜイグジット戦略を立てることが必要なのか?
イグジットを行う際は、どのような手段で行うのかあらかじめ戦略を立てる必要があります。戦略とは具体的に、イグジットを行う手法や時期、創業者やファンドが受け取れる利益などになります。出資者はこれをもとに投資資金の回収や利益獲得の可能性を判断するのです。
例えば、企業の業績が悪化すると評価が下がり、イグジットが困難になる場合があります。また、イグジットを進めるにあたって法的な許可や承認が必要になる場合、契約上の制限があると思うようにイグジットできないかもしれません。そういったリスクを回避するためにも、イグジットの戦略を立てることは必須です。
また、事業や企業が所有する資産の価値を最大化するにあたっても、戦略は必要不可欠と言えます。資金を十分に調達できれば、事業のさらなる成長や企業再生が期待できるからです。
イグジット戦略の選び方
イグジットを進めるにあたって注意したいのが、戦略の選び方です。例えば、創業者がイグジットの対価としてできるだけ大きな金額を受け取りたいという場合は、企業の価値が高いタイミングでのイグジットを進めることが大切になるでしょう。また、イグジット後も引き続き会社の指揮を執りたいといった場合は、M&AではなくIPOが適している可能性が高いといえます。
とはいえ、実際にはイグジットを進める中でさまざまな問題が起こることも珍しいことではありません。状況に応じて、IPOからM&Aに変更するなど、目的に合った戦略への変更も検討していくことも考えるべきだといえるでしょう。
イグジットの動向
イグジットの種類を大きく分けるとIPOとM&Aに分けられます。これらはそれぞれメリット・デメリットがあり、イグジットの目的に応じて使い分けるべきものです。とはいえ、実際にどちらの方がより多く選択されているか気になる方もいらっしゃるでしょう。こうしたイグジットの動向について、2019年の株式会社三菱総合研究所のデータによると、米国はおおむねIPO1割:M&A9割という比率であるのに対し、日本の場合はIPO6~7割:M&A3~4割と比率が逆転しています。
日本におけるイグジットの種類としてM&AよりIPOが多い理由としては、いろいろなことが考えられますが、その1つとして、日本は創業者がイグジット後も事業を継続する傾向がある、といったことが挙げられるでしょう。一方、アメリカでは大企業がスタートアップを買収して自社の事業を強化する一方、スタートアップ側は企業を売却して得た利益で新しい事業を始めるといった流れが出来上がっていることがM&Aが活発に行われている理由として考えられます。
まとめ
イグジットは、創業者・経営者・出資者が保有する株式を売却し、資金を得ることです。株式を上場させ、一般の投資家に買ってもらう「IPO」や、会社・事業の買い手を見つけ株式を買ってもらう「M&A」などが、イグジットの代表的な手法としてよく知られています。
ただし、株式を手放しても経営権は保持しておきたいのならば「IPO」、経営からは手を引いてもいいと考えるならば「M&A」を選ぶといった具合に、目的に合ったイグジットを選ぶことが成功するカギといえます。イグジットを行う意味をじっくりと考えて戦略を立てていきましょう。
よくある質問
イグジットとは何ですか?
イグジットは創業者・経営者・出資者が保有する株式を売却し、資金を得ることです。
イグジットにはどのような手法がありますか?
代表的なものに「IPO」「M&A」があります。それぞれ目的が違いますので、自社の目的に合ったものを選ぶことが大事です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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