• 更新日 : 2024年7月17日

マネーフォワードクラウドPresents「& money」 Unipos株式会社 代表取締役社長CEO田中弦さんに聞く!(後編)

さまざまな企業のリーダー、ファイナンス部門の方にフォーカスを当て、その仕事や企業の成長戦略の裏側、その仕事術に迫ります。今回お話を伺ったのは、Unipos株式会社 代表取締役社長CEO田中弦さん。ピアボーナス®で感謝を送り合い、組織の心理的安全性を高め、風通しの良い組織を作るサービス「Unipos」を提供していらっしゃいます。後編では田中さんが書かれた「心理的安全性を高める リーダーの声かけベスト100」について、そしてこれからのUniposについてお話を伺います。
※「ピアボーナス」はUnipos株式会社の登録商標です。

前編こちら

プロフィール

田中弦
Unipos株式会社 代表取締役社長CEO
1999年にソフトバンク株式会社のインターネット部門採用第一期生としてインターネット産業に関わる。その後ネットイヤーグループ創業に参画し、2005年ネットエイジグループ(現UNITED)執行役員。2005年Fringe81株式会社を創業、代表取締役に就任。2013年3月マネジメントバイアウトにより独立。2017年8月に東証マザーズへ上場。2017年に発⾒⼤賞という社内⼈事制度から着想を得たUniposのサービスを開始。2021年10月に社名変更をし、Unipos株式会社 代表取締役社長として感情報酬の社会実装に取り組む。「心理的安全性を高める リーダーの声かけベスト100(ダイヤモンド社)」を2022年10月に刊行。趣味は写真とロードバイク。最近はしまなみ海道を走行しに行くなど、かなりのハマり具合。

聞き手: 瀧口友里奈
経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード
東京大学卒。セント・フォース所属。「100分de名著」(NHK)、「モーニングサテライト」(テレビ東京)、「CNNサタデーナイト」(BS朝日) 、日経CNBCの番組メインキャスターを複数担当。ForbesJAPANで取材•記事執筆も行い、多くの経営者を取材。東京大学大学院在学中。

心が動いたリアルな声から生まれた本

瀧口 先日田中社長は書籍『心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100』をダイヤモンド社からご出版されました。

田中 前回、ピアボーナス、称賛を送るサービス「Unipos」の話をしましたが、今まで約1000万件ぐらいの称賛、声かけのデータが溜まっています。で、そこからユーザーさんにアンケートを取りまして、「自分の心が動いた、もらって嬉しかった、言葉って何?」と聞いたんです。それを集めたものを僕が編集、解釈して100件、解説しました。困りがちなシーンに合わせて新たに作成したものももちろんありますが、大部分はそのお客さまから実際送られて「ちょっと心動いたな」というものを収録しています。

瀧口 とても実践的な内容ですよね。実際にこう声をかければいいというところが非常に細かく書いてらっしゃったのが印象的でした。

田中 ありがとうございます。

瀧口 本の冒頭のところに書かれてらっしゃった心理的安全性の高いチームとぬるいチームは全く違うということ。世の中に伝わり切れていないですよね。ぬるいじゃなくて、何でも言えるというのは、シビアにもなれるという。伝え方一つで変わってくるよっていうことですよね。

田中 そうなんです。いや多分、僕も昔はある程度“詰め詰め社長”だったんで(笑)。

瀧口 いつ頃まで詰め詰めだったんですか(笑)。

田中 3年、4年ぐらい前までは“詰め社長”くらいでした。今はそんな詰めないですけど(笑)。目的に一生懸命だと、人間は他の人にも求めてしまうのは仕方がないと思うんです。ただそれをやっていると、結局、得は何で損は何でという、前回お話しした会議室で「誰も言ってくれない。シーンとしてしまう。」という、そうすると全部自分で決めなきゃいけないという話になりますので、人の力が借りられなくなってしまうと思うんです。だから、心理的安全性を高めていくと人の力が借りられる。ということは、たとえば企業経営、もしくはマネージャーの方の意志決定においても、それは一人で決めるよりもみんなの意見を聞いて判断・意思決定を最後するという方が得だと思うんです。だから僕は心理的安全性は「ぬるいからいいよね」という話じゃなくて、マネージャーやビジネスマンにとって得だからやった方がいい、というのが言いたいところです。

「Unipos」は段ボールの投票箱から生まれた!?

瀧口 Uniposのサービスができたきっかけは、田中社長が段ボールをくりぬいて投票箱を作ったということですが。

田中 ある日ですね、エンジニアが徹夜して突っ伏していたんです。だから、何をしているんだろうなと思って聞いたら、「いや……」という感じであまり言ってくれないんです。その時、横の人が「こいつ、データセンターでディスクが壊れて、徹夜でタクシーで向かって、徹夜で直してたんですよ」と。えー、そんな、何で教えてくれないの?みたいな。「いや、僕、ちょっとプロなんで」みたいな。すごくかっこいいんですよ。でもそういう人っていますよねという話です。ちょっとハッとして、こういう行動が知らないうちに湧き起こっている。これを会社のエネルギーにするのか、それとも、彼が口下手だから言えないというだけで無にしちゃうのかって。これ明らかにエネルギーにした方がいいよねと気付いたんです。ある日段ボールをくりぬいて投票箱を作りました。でも会社から「投票してください」と言うと労働になってしまうと思ったので、対価がないといけないと思ったんです。とても下世話なんですが。それで僕が“お寿司をおごる”という対価を付けたんです。そしたらみんなお寿司につられて(笑)とてもいいエピソードをたくさん投票してくるようになったんです。なので、あ、これは対価がないといけないんだ、ということで、ピアボーナスという、単に感謝や称賛を送るだけではなく、なんらかのインセンティブをつける形になったわけです。結果的にはお寿司があったおかげでものすごい量が集まったという、この成功体験に立脚しています。

瀧口 それは、そのエピソードを投稿した人にお寿司で、エピソードの中で称賛されている人にもお寿司だったんですか。

田中 両方ともお寿司ですね。投票が一番多い両方の人にお寿司、他の人のことを見つけてもお寿司だし、あと貰ってもお寿司っていう(笑)、そうしていました。

瀧口 素晴らしいですね!だって、人の良さにちゃんと気付く、その方自身も素晴らしいですよね。

田中 そこがポイントです。活躍した人を褒めるって当たり前じゃないですか。でも活躍した人を見つけた人も褒めるって、皆さんやったことないんです。でも実は見つける人がいないと、先ほどのエンジニアの現象が起きてしまうんです。見つけた人も褒めないとエネルギーに変わらない。一部の目立つ人たちだけ、自己アピールできる人たちだけがその会社のエネルギーになって、他の人たちは単にそれを支えている人です、となってしまうと、よくわからない上下関係みたいになってしまうのではないかと思うんです。

瀧口 正しい審美眼というか目利きを持っている方も称賛するっていうのがすごく素敵です。

田中 そこがポイントです。

瀧口 お寿司の効果があったからということで、初めは(笑)。

田中 お寿司なしにすると突然に、投票量が減るんですよね(笑)。なので、インセンティブがあるというのは、重要なポイントだと思っています。

アイデア出しのヒントは“既存の組み合わせ”

瀧口 そういった形で、このピアボーナスというのが生まれたんですね。ちなみにこの書籍の中で、さまざまな声掛けご紹介いただいていますが、田中社長がお気に入りのものがあったら教えてください。

田中 「アイデアを募集するとき」の声掛けですね。ダメな声掛けは、「何かおもしろいアイデアはない?」って聞いちゃう。「何かおもしろい新規事業ない?」とか。「何か考えてよ」みたいな(笑)。これよく言いますが、とてもハードボール投げていると思いませんか? “おもしろい”とか、“儲かりそうな”と言われてもとても大変じゃないですか。

瀧口 それすぐ思いついたら苦労しないのにな~と思っちゃいますよね。

田中 なので、そうすると多分、部下の方は頭を抱えるんです。“おもしろいってなんだろう”
“儲かるってなんだろう”と。1億円儲かることなのか、10億円儲かることなのか、どっちなんだろう。1年で儲ければいいのか、10年で儲ければいいのかみたいに。全然わからなくなって、多分しんどくなっていくです。なので、いい声掛けは、「既存のものを組み合わせたものでアイデアを出してみよう」というものです。その声掛けである種、ガイドをしているんです。本にも書いていますが、要は「既存のものを組み合わせて新しいものを作る」という発想法があるということなんです。たとえば、「新しい学校の教科を考えよう」となると、普通プログラミング教育とか言うんですけど、まあ、あんまりおもしろくないじゃないですか。時代には即していますけど。でも一方で、たとえば、縦軸と横軸に物理・体育・数学・歴史・科学とそれぞれの学科を並べていきます。それを全部総当たり戦で組み合わせますと。そうすると音楽と物理とか、なんかおもしろそうだな、なんかできそうですよね、とか。

瀧口 非常にクリエイティブな学科になりそうですね。

田中 体育と物理だと多分、幅跳びをやっているときに、どれくらいの放物線でどれくらいの運動エネルギーが、みたいな話ができるじゃないですか。そうすると、おもしろいですよね。

瀧口 おもしろいですね。

田中 でも発想としては単に組み合わせているだけなんです。だから、組み合わせている方が、頭の脳みそはほとんど使わないんですがおもしろいアイデアがパッと出せるので、こうすると「おもしろい」ことができますよ、ということなんです。多分既存のものを組み合わせてアイデアを出してみようと声掛けをすると、部下の方は辛くならないですよね。基本的には。

瀧口 具体的に「どんなアクションをすればいいか」と言ってもられるのは大変ありがたいですよね。

田中 昔インターネット黎明期だと、既存のビジネスとインターネットをとにかく組み合わせてみて、それで産業が勃興していって生き残った人がたくさんいるんです。結局あれも、超新しいアイデアを考えたというよりも、組み合わせてやり切った人が生き残ったという話だと思うんです。「おもしろいアイデアを考えてください」というのは部下に考えさせるいい質問だと思うかもしれませんが、実はけっこう追い込むことになってしまうんです。

瀧口 田中社長も普段この声掛けはよく使ってらっしゃるんですか。

田中 そうですね。「新規事業を考えましょう」というときも「ゼロから有を生み出してください」というのはとてもとても難しいので、特に若い人にとっては知識・経験がまだない状態でそれをやらなきゃいけないので、こういう声掛けを使います。

瀧口 「既存のものを組み合わせたものでアイデアを出してみよう」。今すぐ使えそうな一言ですね。

田中 ありがとうございます。

「シーン現象」を打ち破れ!

瀧口 社会が激変している中で未来を見通していく。その際に「心理的安全性」というのはとても大切なキーワードだと思いますが、これからの組織のあるべき姿、新しい時代の働き方というのはどうご覧になっていますか。

田中 今までは会社に属している方、全ての、言ってみればアイデアとか考え方とかノウハウを活かしきれていなかったと思うんですね。なぜかというと、前回お話しした会議室での「シーン現象」が永久に起こり続けているから。

瀧口 会議室でシーンとしてしまう。「シーン現象」って言うんですね(笑)。

田中 でも、全員がアイデアを考える、能力を発揮できるようになったら、会社ってけっこう変わると思うんです。そこがその一人の脳なのか全員の脳なのか。この違いを作るのはやはり心理的安全性の高い・低いというのが、とても影響していると思います。難しい話ではなく、心理的安全性が低いと起こるのが「シーン現象」なんです。これが永久に湧き起ってしまうので、もったいないですよね。

瀧口 最近「ダイバーシティ&インクルージョン」というキーワードもよく言われますが、それもまさにこの心理的安全性があってこそダイバースな人たちをしっかりと活かすことができるという、心理的安全性が全てベースになっていると言えますよね。

田中 そうですね。心理的安全性は人間関係の土台だと思うんですよ。そこに乗っかっている人が男性なのか女性なのか、年齢が高い低い、そういうのは関係ない。土台をしっかりと作っておけば、フェアにコミュニケーションできると思っています。

瀧口 フェアネスというところですね。

田中 そう思います。

全員の脳を使える社会に

マネーフォワードクラウドPresents「& money」 Unipos株式会社 代表取締役社長CEO田中弦さんに聞く!(後編)

瀧口 Uniposの今後についてはどのように考えてらっしゃいますか?

田中 目の前のお客様一社一社が「ほんとに変わったね」と思ってくださるのを積み上げていくだけだと思っています。どこかで均衡点、特異点があると思っていて、まだピアボーナスを聞いたこともない、心理的安全性もまだ全然一般的じゃないというところから、多分どこかでティッピングポイントというか、そこを越えて一般化していくんだと思っています。そこを当たり前にするのを加速させるのが、僕が今やっていることです。「いろいろな方に、たくさんの方に使ってもらう」というのが一番の野望ですが、結局変わらないと意味がないと思っています。先ほどの「全員の脳が使えるようになる」という状態にしないと。少子化、高齢化社会で、働く人が減っていってしまうので、そこをなんとか耐えきるために、全員の脳みそを使える社会にするというのは実現したいです。

瀧口 旧来型の上意下達のモデルは今後イノベーションをたくさん起こして成長産業をたくさん産んでいかないといけない中では、なかなか難しいというところでもUniposはとても貢献されるサービスですよね。

田中 もちろん才能のある方はいらっしゃいます。新しいものをまさにゼロから生み出す方はいらっしゃいますが、それを実行するときにはやはり「いろいろな脳があった方がいい」という、また先ほどの話になると思うんです。リーダーがいらないとか、天才経営者がいらないとか、そういう話じゃ全然ないんです。ただその方たちが実行するときに心理的安全性というものがとても重要だよね、と思っています。

瀧口 最後に田中さんご自身のこれからの挑戦、野望は

田中 僕多分、一生、新しいものを生み出して世に広める仕事をやっているんだろうなって思っていて。ただ、80歳まで生きるとするじゃないですか。今僕は46歳なので、だからあと2つとかが限界だと思うんです。だからあと2つ、世の中に対して新しいものを実装できたらいいなと思っています。でもそれが何かはまだ全然わかってないです。

瀧口 人生100年時代になると言われているので、3ついけるかもしれない(笑)。

田中 3ついけるかもしれない(笑)。

瀧口 今日はお忙しい中ありがとうございました。

田中 ありがとうございました。

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