- 更新日 : 2023年12月27日
監査役とは?役割や権限、選任方法を解説
上場企業では、企業の透明性・ガバナンスの向上と、株主や投資家、市場全体の信頼を獲得・維持することを目的に監査役を設置しています。未上場企業でも、IPOを目指す場合には監査役の設置が必要となります。
本記事では、監査役の基本的な定義から具体的な役割までを分かりやすく解説します。監査役の設置はIPOに必要な手続きですので、IPOを目指す経営者の方は参考にしてみてください。
目次
監査役とは
監査役は株主総会や取締役会などと並び、会社の統治構造の一環として設けられる組織です。監査役について、会社法381条1項は「取締役の職務の執行を監査する」と定義しています。
職務の性質上、監査役には経営陣からの独立性が認められ、独立した立場で会社の監査を実施します。昨今ではコンプライアンス意識の高まりから、不正の発見や是正を行う監査役の重要性が増しています。
以下では、監査役に関する基本的な事項を解説していきます。
監査役の役割
監査役の役割について、監査役監査基準2条1項では「株主の負託を受けた独立の機関として取締役の職務の執行を監査することにより、企業の健全で持続的な成長を確保し、社会的信頼に応える良質な企業統治体制を確立する」と規定しています。
監査役には会社運営の適法性を監査する業務監査と会計書類を監査する会計監査に関する権限が認められています。これらの権限を行使し、経営陣から独立した立場で会社の経営判断の健全性や適正性を監査し、株主や投資家、市場からの信頼を高めることが期待されています。監査を通じて会社の信頼性を担保することで、会社は持続的な発展を遂げることができるのです。
監査役の設置が必要な条件
監査役は、すべての会社に設置義務があるわけではありません。
会社法327条3項によれば、監査役の設置が必要となる条件は以下の2つです。
- 取締役会設置会社である
- 会計監査人設置会社である
①取締役会設置会社である
上場企業には取締役会の設置義務があります。つまり、上場企業には自動的に監査役の設置義務が生じます。取締役会があれば株主総会を招集せずに重要事項を決定できるので、非上場企業でも利便性を考慮して、取締役会を設置することがあります。この場合も監査役を置かなければなりません。
②会計監査人設置会社である
会計監査人設置会社にも監査役の設置義務があります。ただし会計監査人設置会社であっても、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は監査役を置いてはならないと規定されています。
監査役の独立性や権限
取締役を監督し、独自の調査権限を有する監査役には、権限行使を確実なものにするためにその独立性が保障されています。
例えば、会社法で監査役の任期は4年と規定されていますが、定款や株主総会の決議による任期の短縮はできません。取締役の任期は短縮可能ですので、会社法により監査役の独立性が保障されていることが分かります。
監査役に認められる権限の例としては、以下が挙げられます。
- 取締役から報告を受ける(会社法357条)
- 取締役の違法行為の差止
- 取締役会・株主総会への報告
- 業務や財産状況の調査
このように取締役の職務執行を監査、差止、報告する様々な権限が認められ、不正の発見や是正の役割を担っています。
監査役の任期
会社法には監査役の任期に関する規定があります。
会社法336条1項は「監査役の任期は、選任後四年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする」と規定しています。監査役の任期は4年で、2年の任期を務める取締役の2倍です。長期の任期を認めることで独立性を強化しています。
また、取締役と異なり、定款や株主総会で任期を短縮することはできず、これによって監査役の独立性を保障しています。短縮はできない一方で会社法336条2項は非公開会社について、10年までの任期延長を認めています。
監査役の選任方法
会社法329条1項は「役員及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する」と規定し、会社法341条で普通決議であることを明記しています。普通決議のため、選任には議決権の過半数を保有する株主が出席した上で、その議決権の過半数の賛成が必要です。
また、会社法343条2項は監査役が監査役の選任議案を株主総会に提出することを請求できると規定しています。監査役に事実上の後任の推薦権を付与することで、独立性を強化していることが分かります。
一方で解任には株主総会の特別決議が必要です。この場合、議決権の過半数を保有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成が必要です。解任には選任よりも高いハードルがあることに注意が必要です。
内部監査と外部監査の違い
監査には本記事で解説した内部監査のほかに、外部監査があります。
内部監査と混同されがちな外部監査について、それぞれの違いを解説します。
監査担当者
内部監査と外部監査では、監査を実施する担当者が異なります。
内部監査は会社内部の専門的な監査スタッフや部門が実施します。内部監査チームは会社内にあり、経営陣から独立性を保ちつつも、会社の一部門として機能する点が特徴です。
一方で外部監査は会社外部の独立した監査法人、公認会計士が実施します。外部監査人は会社から独立しており、公正かつ客観的な監査を提供することが期待されます。
報告先
監査結果の報告先にも違いがあります。
内部監査は会社内の経営陣や取締役会、株主総会に報告されますが、外部機関や一般への報告義務はありません。一方で外部監査は株主総会に結果が報告され、有価証券報告書に報告内容が記載されます。したがって、外部監査の結果は一般の人も閲覧が可能です。
監査対象
監査人が監査する対象も異なります。
内部監査では、企業活動や会計書類の適法性、合理性を監査しますが、外部監査は決算書や財務諸表などの会計書類の監査に限定されます。
監査が義務付けられる会社
監査が義務付けられる会社にも違いがあります。
前述のとおり、「取締役会設置会社」「会計監査人設置会社」には内部監査人の設置が義務づけられています。しかし、外部監査の対象となるのは上場企業です。
したがって、上場企業には内部監査・外部監査をいずれも行う義務が生じます。
内部監査については、下記の記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
監査役の業務
監査役は経営陣から独立した立場でその職務執行を監査します。
適切な監査を実現するために、監査役は「業務監査」と「会計監査」という主に2つの業務を行っています。
業務監査
業務監査は、会社運営の適法性や合理性を監査する業務です。本社に限らず関連会社、子会社を含めたグループ全体の事業プロセスが適切に実施されているかを監査します。
業務監査の主な内容は以下のとおりです。
- 合法性:事業遂行のプロセスが法令や規制に則っているか
- 効率性:生産、販売、物流などの事業プロセスが効率的に機能しているか、改善の余地はないか
- 内部統制:財務報告の信頼性や企業統治の健全性に問題はないか
- 業績評価:計画通りに業績が推移しているか
上記の監査の結果は監査報告に反映されます。
会計監査
会計監査では、取締役等が作成した会計書類(財務諸表や借入金残高の記録表)に不備や不正がないかを監査します。会計基準に基づいて会計書類が作成されたことを証明し、株主からの信頼を確保することが目的です。
会計監査で確認する内容は以下のとおりです。
- 財務諸表の公正性:資産、負債、収益、費用などの各項目が公正かつ正確に計上されているか
- 内部体制:信頼性のある会計書類を作成するプロセスや手順が確立されているか
- 法令や会計基準への適合性:関連法令や会計基準に準拠した会計書類が作成されているか
会計監査の後、監査結果や発見した問題点などに関する報告書を作成し、経営陣や株主、規制当局に提示します。報告書には監査の範囲や検証結果、提言などが記載されます。
会計監査の効率化には、「マネーフォワード クラウド会計Plus」の導入がおすすめです。
監査役と会計システムを共有でき、電子承認が可能になります。紙資料のやり取りや、対面での対応などにかかる時間を削減できます。
まとめ
今回は監査役の定義から役割、独立性、具体的な権限、選任方法などの基本的な事項を解説しました。
監査役は経営陣から独立した立場で取締役の職務執行を監査し、会社活動や会計書類の適法性や合理性を担保します。これによって、会社は株主や市場から信頼を獲得し、中長期的な成長を遂げることができます。
上場企業には監査役の設置が義務化されており、IPOに際しても監査役の設置が必要です。
IPOを目指す場合、直近2期分の財務諸表が監査を受けている必要があり、少なくとも上場3年前から監査役を設置することが望ましいとされます。IPOを目指す経営者の方は監査役について理解を深め、IPOに向けて早い時期から準備を進めましょう。
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