• 作成日 : 2023年12月27日

RSU(譲渡制限付株式ユニット)とは?特徴やメリット、導入事例などを解説

RSU(譲渡制限付株式ユニット)とは?特徴やメリット、導入事例などを解説

IPOを契機として事業拡大を進めるためには、優秀な人材を惹きつける給与制度が不可欠です。また、市場で調達した資金を有効活用できる優秀な人材が参加・定着すれば、競争力向上や生産性向上、新しい技術の開発など、企業は多くの利点を享受できるでしょう。
RSUは株式を活用した報酬制度であり、社員の定着と企業価値向上を両立する制度として注目が集まっています。

本記事では、RSUの概要から注意点まで基本的な事項を分かりやすく解説します。また、実際の導入事例なども紹介しますので、参考にしてみてください。

RSU(譲渡制限付株式ユニット)とは

RSUとは、特定の条件や期間が満了するまで株式の所有権が制限されている単位(ユニット)を、社員に与える制度を指します。
混同されがちですが、事前に社員に株式を直接与える譲渡制限付株式とは異なります。RSUを受け取った社員は、ユニットと呼ばれるポイント数に応じて報酬を株式や現金という形で受け取ります。株式を報酬として提供することで、社員を引き留め、企業の長期的な成功に導くことを目的とし、社員の士気向上と中長期的な企業価値を両立する制度だといえるでしょう。
RSUの仕組みや普及してきた背景について、以下で解説していきます。

RSUの仕組み

社員は勤続年数など一定の条件を満たすことで単位(ユニット)を取得できます。このユニットは、将来的に条件付きで株式(現金)を得る権利だとみなすことができます。
RSUの具体的な仕組みは以下のとおりです。

  1. 企業が社員に対してユニット(ポイント)を付与する
  2. 社員はユニット数に応じて株式や現金を得る

RSUでは、契約や報酬制度に基づき社員にユニット(ポイント)が付与されます。社員は制限期間(ベストロックアップ期間)が経過するまでは権利を行使して株式を取得することができません。
制限は数年に分けて段階的に解除されます。制限解除後にユニット数に応じて株式や現金が社員に付与され、付与された株式は社員が好きなタイミングで売却できます。

RSUが普及し始めている背景

株主目線の企業価値向上と社員の士気向上の両立を目指し、RSUを含む株式報酬制度を導入する企業は増加傾向にあります。
RSUが普及している具体的な背景としては以下が考えられます。

  • コーポレートガバナンス・コードでの推奨
  • 人材の争奪戦の過熱

コーポレートガバナンス・コード(原則4-2や補充原則4-2)では経営陣へのインセンティブ付けが強く推奨されており、この流れで経営陣だけではなく、社員へもインセンティブなどの報酬制度の導入が進んでいます。

また、グローバル企業を中心に人材の争奪戦が加熱し、企業はより魅力的な給与制度を準備する必要に迫られています。
近年、大企業を中心に海外投資家の株主が増加していますが、海外投資家などの物言う株主から日本企業の収益性の低さが指摘されています。収益性改善の一環として、企業価値向上や優秀な人材獲得を図る給与制度の導入が求められているのも背景のひとつです。

RSUとその他の株式オプションとの違い

RSUと似た株式報酬制度であるRSとPSUについて解説します。RSUと混同されがちなため、注意しましょう。

RS(譲渡制限付株式報酬)との違い

RSは、RSUと同様に社員に対して株式を提供しますが、譲渡制限があり、一定の条件を満たすまでは譲渡(売却)が制限されます。

RSとRSUの違いは以下のとおりです。

RSU(譲渡制限付株式ユニット)RS(譲渡制限付株式報酬)
株式を付与するタイミング一定期間経過後、株式を付与。付与された株式は即売却可能。一定期間経過後に売却できる株式をあらかじめ付与。譲渡制限解除後に売却可能。
設計の柔軟さ株式と現金の比率を調整できる。原則すべて株式で交付。
配当金事後交付のため配当金を受領できない。議決権の行使も不可。事前交付のため配当金を受領できる。議決権の行使も可能。

このように株式が付与されるタイミング、設計の自由度、配当金の有無などが異なります。

PSU(業績連動型株式ユニット)との違い

PSUは、RSUと同様に、事後交付型の株式報酬であり、ユニットに応じて株式や現金が付与されます。

PSUとRSUの違いは以下のとおりです。

RSU(譲渡制限付株式ユニット)PSU(業績連動型株式ユニット)
ユニット付与の条件勤続年数業績目標の達成
条件達成時に付与される株式数事前に決定された株式数全て業績目標の達成度合いに応じた株式数

このようにユニット付与の条件や付与される株式数が異なります。
株式報酬については、下記の記事で詳しく解説していますのでぜひご覧ください。

RSU導入のメリット

この章では、RSU導入のメリットについて詳しく解説します。

メリット1:人材流出の阻止

RSUを導入することで、人材獲得及び人材定着を促す効果が期待されます。将来の株式や現金交付の条件が勤続年数ですので、社員は将来的な利益獲得のために会社に留まろうとします。少なくとも権利行使が制限されるベストロックアップ期間中は社員は会社に留まることが期待されます。
貴重な技術や能力を持つ優秀な社員が長期に渡り会社で活躍すれば、会社に知識や経験が蓄積され、企業価値向上に寄与するでしょう。

メリット2:柔軟な設計が可能

社員がユニット数に応じた報酬を得る際に柔軟な設計が可能です。
例えば、全報酬を株式で付与するのではなく、以下のようなハイブリッド設計も可能です。

  • 全報酬の80%を株式で付与
  • 全報酬の20%を現金で付与

株式で付与される分は将来の株価上昇に応じて社員が受け取る報酬が増加する可能性がある一方で、社員が即座に現金を必要とする場合や株価変動リスクを回避したい場合には現金で受け取る分を増やすことも検討できるでしょう。
社員の多様なニーズや選択を尊重し、同時に優秀な人材を引き留める効果が期待できる点がRSUの魅力だといえます。

メリット3:社員のモチベーション向上

RSUを受け取ることで、社員は会社の将来の企業価値向上に直接関与することになります。株価が上昇すれば社員の保有する株式の価値が上昇し報酬が増えるので、社員のモチベーション向上につながるでしょう。
社員がRSUを所有することで、会社の成功に直接的に関与していると感じ、会社への貢献意識や忠誠心が強化されます。

RSU導入のデメリット

RSUにはメリットだけではなく、デメリットもあります。この章では、RSU導入のデメリットについて詳しく解説します。

デメリット1:相場次第で社員の意欲が減退する

株価で報酬を受け取るため、報酬額は相場に左右されます。
株価が上昇傾向にある会社では、将来の株式分受取額は増加します。しかし、株価が下落した場合、反対に社員の株式分受取額は減少してしまいます。
社員の期待に反して株価が下落すると、社員のモチベーション低下につながる恐れがあります。最悪の場合、優秀な社員が退職してしまう可能性もあります。

株価は市場に左右されるので、自社で制御することは困難です。
RSU導入時に社員にリスクを十分に説明したり株価受取分の割合に制限を設け、株価下落の影響を最小限にしたりするなどの措置を検討しましょう。

デメリット2:途中で退職する場合に社員は報酬を得られない可能性がある

ユニットが付与された社員は株式や現金を取得できるまでの制限期間があります。制限を解除し報酬を受け取るには、一定期間の勤続が条件となります。したがって、制限解除前に退職した社員のRSUは一部または全てが失効してしまい、報酬を得られない可能性があります。社員には、この点を事前に周知する必要があるでしょう。

デメリット3:社員自身の手間がかかる

通常、会社員は確定申告が不要ですが、給与以外の所得額が20万円を超えると確定申告が必要となります。RSUによる利益は給与以外の所得とみなされるため、RSUの利益が20万円を超えると確定申告が必要になります。業績が拡大し、株価が上昇する企業でRSUの利益が大きくなることは珍しくなく、確定申告が必要となるケースが多いです。

社員は権利確定年度(株式を取得した年度)と株式を売却した年度に確定申告を実施する必要がありますが、それぞれ課税項目が異なります。

  • 株式取得時の利益:時価相当額が給与所得として課税対象
  • 株式売却時の利益:売却益が譲渡所得として課税対象

2回に渡る確定申告の手間と税金の支払い負担が生じ、RSUは必ずしも社員に歓迎されない可能性があることに注意が必要です。

RSU導入事例

実際にRSUを導入した企業の事例として株式会社メルカリとソニーグループ株式会社を紹介します。

株式会社メルカリ

メルカリは、2013年創業の日本発祥のオンラインフリマアプリとして知られています。個人間で中古品の売買を手軽に行うことができるプラットフォームを運営しています。
メルカリは、2018年12月にRSUの導入を発表しました。上場後すぐに海外拠点を含む大半の社員にRSUを付与することを決定しました。社員はRSUによる報酬の内、50%を株式、残りの50%を現金で受け取る設計になっています。

RSU導入の背景には、「会社の成長(企業価値の向上)と結果に社員全員でコミットしたい」という経営陣の想いがあります。RSUによって社員に「当事者意識」を芽生えさせ、自覚や責任を持たせることが期待されます。

ソニーグループ株式会社

ソニーは日本を代表する総合電機メーカーであり、エレクトロニクスからエンターテインメント、金融まで幅広い分野で事業を展開しています。

ソニーは「人材獲得やリテンション(人材定着)競争において必要であると判断」し、2022年6月にRSU導入を決めました。
導入の契機は、米国の現地法人社員から米国で競合企業がRSUを採用しており、人材獲得(定着)競争で不利になっていると指摘されたことです。

当初は国内での税務上・会計上の取り扱いについて、担当者に経験や知識がなく導入が困難でした。導入の際は、各国の税制や会計基準を参照し、監査法人や経理担当者と解釈を相談するプロセスが必要だったそうです。

まとめ

今回は、RSUの概要や導入のメリット、実際の事例について解説しました。
RSUは優秀な社員の獲得・定着効果が期待できる一方、相場次第でモチベーション低下につながる可能性があるため、導入に際しては十分な検証と社員への説明が必要です。
RSやPSUなど他の株式報酬制度と併せて検討し、自社の状況に応じた最適な選択をしましょう。


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