- 更新日 : 2024年7月17日
マネーフォワードクラウドPresents「& money」 株式会社エアークローゼット執行役員アセット戦略室長 森本奈央人さんに聞く!(前編)
さまざまな企業のリーダー、ファイナンス部門の方にフォーカスを当て、その仕事や企業の成長戦略の裏側、その仕事術に迫ります。今回お話を伺ったのは、株式会社エアークローゼット執行役員アセット戦略室長、森本奈央人さん。プロのスタイリストが“あなたのため”に選んだお洋服を自宅へ届けてくれるファッションのサブスクリクションを展開するエアークローゼット。前編ではエアークローゼットの事業について、そして今年7月のIPOについてお話を伺います。
プロフィール
森本奈央人
慶應義塾大学卒業、公認会計士試験合格後に有限責任監査法人トーマツにて監査業務に従事。2016年に株式会社エアークローゼットへ入社。管理業務に従事した後、カスタマーコミュニケーショングループ、パーソナルスタイリンググループ、経営管理グループの統括を経て、現在はアセット戦略室を統括。趣味は、漫画とお酒。
聞き手: 瀧口友里奈
経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード
東京大学卒。セント・フォース所属。「100分de名著」(NHK)、「モーニングサテライト」(テレビ東京)、「CNNサタデーナイト」(BS朝日) 、日経CNBCの番組メインキャスターを複数担当。ForbesJAPANで取材•記事執筆も行い、多くの経営者を取材。東京大学大学院在学中。
女性向けファッションサブスクリプションサービスを展開
瀧口 エアークローゼットさんのオフィスでインタビューさせていただいています。入った瞬間から素敵なお洋服が飾ってあってとても明るいオフィスですね。
森本 ありがとうございます。「airWork」をコンセプトにオフィスをデザインしています。加えてファッションの会社ですので、季節に応じて弊社のスタイリストがコーディネートしたお洋服を並べております。
瀧口 まずエアークローゼットがどんな会社なのか教えていただけますか。
森本 弊社は女性向けにファッションレンタルサービスを展開している会社になります。サービスの概要は、まずプロのスタイリストがお客様のために選んだお洋服をお届けし、着ていただき、その後、そのお洋服をお返ししていただくとまた次の服が届くという、ファッションのサブスクリプションサービスです。一方でエアークローゼットはもともとこのサービスを提供しようと始まった会社ではありません。会社のビジョンは「“ワクワク”が空気のようにあたりまえになる世界へ」。 “ワクワク”というところは少し稚拙な言葉に聞こえるかもしれませんが、目指しているのは、お客様のライフスタイル、その中でも時間の価値を上げていく、そういったところを目指しているサービスになっています。特に、忙しい方々に対して、少しでも日々の中で “時間価値が高まった状態”というのを“ワクワクしている状態”と言葉として置き換えて。なので、会社としてのビジョンはそこを目指し、それに適したサービスを考えた結果として、いまの形態になっている、そんなサービスになっています。
時間の価値を上げる工夫とは?
瀧口 時間の価値を上げるというのは、具体的にどういうことなんですか。
森本 ライフスタイルの中で、その価値が上がっている状態を目指したということです。具体的には、お洋服を買いに行く時間があまりなかったり、またご自身で選ぶのが億劫になっている、そんな方に対してわれわれのサービスはそこを代替してお洋服を選ぶ。且つそこに対してご自身ではあまり選ばないプロのスタイリストが選んだものと出会うこともできる。そういった形でワクワクする時間を作っている。それをもって“時間価値が上がっている状態”と捉えています。
瀧口 いまの利用状況、利用者の方の層は?
森本 基本的に女性向けのサービスで、中でも30~40代の方がメインになっています。加えて特徴的なのが9割以上が働いている方になっています。また、お子さんがいらっしゃる方が半数以上です。
瀧口 私も、この取材にあたって利用させていただきました。はじめにどのような服が趣味かと、とても丁寧にヒアリングしてもらうような感じで。UIがとても丁寧にできていると感じました。先ほど、「airWork」とおっしゃいましたが、「airWork」というのはどんな意味なのでしょう。
森本 “少し軽やかに”という意味です。弊社がコミュニケーションを重視している会社で、コミュニケーションが取りやすい雰囲気というところを重視しております。社内はガラス張りになっていまして、誰がどこで何をしているかがしっかり見える上で、すぐコミュニケーションもとれる、そんな軽やかさというところを表現したものになっています。
瀧口 どうしてコミュニケーションを重視してらっしゃるのでしょう。
森本 一つはわれわれがこれまで日本になかったサービスを提供しているということ。なので正解というか、いま何をするといいかがなかなかわからないサービスを運営しているからだと考えております。その中で少しでもいいものをお客様にお届けするにあたっては、全社員でコミュニケーション、ディスカッションを重ねながら、その中で一番いいもの出来るだけ早く実装していく。また、実装した上でそれが実際にお客様にとってどうだったかを振り返り、またすぐ次のところに活かしていくという動きをスピーディーにするためのコミュニケーションを重視しています。
瀧口 お洋服のサブスクリプションサービスは、エアークローゼット以前はなかった?
森本 お洋服のレンタルも含めて、日常のお洋服をサブスクリプションの形で着ていただくサービスはなかったと思います。これまでウエディングドレスや着物などのワンショットでのレンタルはありましたが日常でのサブスクリプションはなかったと思っています。
瀧口 サービスのこだわり、工夫しているところは?
森本 そもそもの設計では、とても忙しい方々に使っていただくという中で、ご自身が選べなければスタイリストに選んでもらうところもそうですし、また、お客様に一回返していただいて、そうするとまた次の服が届くというところなんですが、そのときに返却期限があるとそれを日々の生活の中で意識しなければいけない。他にやりたいことがあるのに、それを意識して生活することがないように、とか。返却前にクリーニングに行って、そこから次の日に返してとか、そういったところも日々の中でなるべく考えていただく必要がないようにクリーニングも弊社のサービスとして請け負っているサービスの構想そのものが、まず先ほどのビジョンにしっかり合うように強くこだわっています。
瀧口 利用者の方の“時間の価値”をしっかり上げられるようにというところがベースとしてあるっていうこと。
森本 おっしゃる通りです。
瀧口 確かに、UIも手軽に、質問に答えていけば、好みを出してもらえるような形でおもしろいなと思います。
森本 そこは非常に難しいところで、われわれも出来るだけたくさんの情報をいたければ最初からお客様に合ったものをお届けしやすくなる一方で、忙しい方の時間をなるべく取らないようにしている中で、どこまで、どうしたら簡単にわれわれの必要な情報を登録していただけるかに非常にこだわっています。
ミッションは会社の価値の最大化
瀧口 自分の写真を登録するというステップもあり、私は時間がなくてそこは登録できなかったんですが、より精度を上げたい人はそこもしっかり登録して、スタイリストさんに顔を見てもらって、ということができるというのもおもしろいと思いました。そんな中でこの森本さんが束ねてらっしゃる、アセット戦略室のミッションは?
森本 アセット戦略室は今年9月に新設した部署です。ミッションは会社の全ての資産価値を最大化させ、最終的にはエアークローゼットという会社の価値を最大化させるという、かなり幅広いところになります。
瀧口 このアセット戦略室の雰囲気はどういう感じなんですか。
森本 一緒に動いているメンバーも、その前に経営管理部門、いわゆるバックオフィス全般から独立させた形になるので。全体でいま僕を入れて3名の部署なんですが、他の2名も創業期からのメンバーなので歴史を知りながら、その中でやはり先ほどコミュニケーションが多いとお伝えしましたが、そういった文化も好きだし、体現しているというところです。かなりコミュニケーション多い明るい部署かなと思います。
瀧口 アセット戦略室として独立することになったのは今年7月29日に東証グロース市場に上場=IPOしたことも関係しているのですか。
森本 これまでももちろんIRの機能はあったのですが、上場企業としての動き方を考えたときに、いわゆる守りを管理部門とするかどうか、いろいろな考え方があると思うのですが、その部分と少し切り分けて、独立してよりスピーディーに機動的に動きやすくしようということで独立をさせました。
コロナ禍でのIPOの実現
瀧口 森本さんがエアークローゼットにジョインされたのは2016年。これは、もう上場=IPOを見据えてのジョインだったんですね?
森本 そうですね。とても広い意味でIPOを会社は目指していた。やはりB to Cのサービスを提供する中で信用力の獲得も含めて、IPOをどこかのステップとして実現したいということはありました。一方で、当時まだ社員数は30人に満たなかったので、具体的にIPOが見えているというよりはもう少し中長期のところで会社としてIPOを目指していく、そんなフェーズだったかなと記憶しています。
瀧口 ジョインからIPOまでの6年間を振り返られていかがでしょうか。
森本 これまで管理部門というところで最初に入社していたんですが、そこから実際に事業サイドも経験して。そこから最終的にもう一度管理部門に戻ってというところで、さまざまな経験をさせてもらってきたので、6年という期間ではありますが、とてもあっという間だったかなと思います。
瀧口 特にこのIPOに向けて大変だった場面は?
森本 月並みになってしまいますが、やはり一つコロナに関しては非常に大変だったと思います。日常で着ていただくお洋服をお届けするサービスなので、皆さん外に出なくなる、リモートワークが広がるとその需要の部分が大きく変わりましたし。そもそもファッション業界全体が、とても大きなダメージを受けましたのでそこに関しては非常に大変でした。
瀧口 そのときはどう対応されたのですか。
森本 ベースにはサービスを楽しんで使っていただいている方の多くがサービスをそのまま使ってくださったということがありました。これはサブスクリプションというビジネスモデルの強さが出た瞬間だったと思っています。それ以外に具体的には、普段われわれお洋服をお届けするときに、たとえば3着であればトップス2点とボトムス1点でコーディネートを組んでお届けするんですが、コロナ禍ではリモートワークでカメラに映るトップスだけが欲しいという方もいらっしゃったので、普段はやらないトップス3点のみをお送りするという対応であったり、あとはコロナは感染症ですので、お洋服のクリーニングにこだわって、そこに問題がないのかというところもしっかりと検証したりしました。
瀧口 その荒波にも耐えて、見事IPOされたというところで。IPOの前後では何か変化はありましたか。
森本 会社という意味ですと大きく変わったかというと変わっていないのかなと思います。IPOしてからまだ3カ月程度でありますので何か会社の動きが劇的に変わったというところないと思っています。一方で会社の社会的な責任は、日々の業務の中でも、多分コミュニケーションの中でも少し意識するようになりましたし。あと、やはりどうしても株価が目の前に出てくるっていうところは、意識はしています。IRにおいてもIPO前から投資家様とのコミュニケーションが重要であったというところはありつつ、IPO後というところに関しては、よりそれをさらに多くの方に見ていただいているという中でより意識するようになったと思います。
IPOにおける情報の非対称性
瀧口 これからIPOを考えている企業の財務担当者の方、CFOの方に伝えたいことは。
森本 偉そうにお伝えするような立場にはありませんが、個人的にIPOをしてとても嬉しかった体験が一つありました。7月29日にIPOの日を迎えて、朝から東証さんへ行ってそこでセレモニーをしてそのあと外部で記者会見もさせていただきながら、夕方オフィスに戻ってきました。そのときに、このオフィス中に胡蝶蘭やさまざまなお花が一面に溢れていて、その瞬間はほんとうにこれだけの方に応援もしていただいているんだなと、とても嬉しかったです。もう少し具体的なところですと、やはりこのIPOのプロセス、僕自身も正直それほど知見があったかというと、もともとない中でのジョインでしたので日々実践しながら学んできたんですが、情報の非対象性というか、たとえば日本でもそもそも年間100社ぐらいがIPOを実現しているという中で、逆にいうと100社しかできていないので、この実態というか、そういったところを知っている方がそれほど多くないなという。ですので、情報の非対象性も含めて、積極的に情報収集をしていくのはとても大事だと感じることがこの1年、2年特に多かったです。
瀧口 具体的に森本さんはどのような動きをされたんですか。
森本 実際にIPOを経験された先輩のCFOの方々に積極的にお話を聞きに行ったりしました。あとはさまざまなプレイヤーがいらっしゃる証券会社さん、監査法人さん、僕は監査法人出身なので、そちらの方は少し知見があるというか、なんとなくわかる一方で、それ以外の方々については、それこそたとえば何を目標に動いているのかとか、そういったところも含めてあまり理解していなかったので、そういった関係者の方々がどんな役割を持っていて、というところをしっかり理解するように努めました。
瀧口 特にここは情報の非対象性が高かったな、という何か具体例は?
森本 例えば証券会社の方々の動きでしょうか。証券会社の中にもいろいろな役割を持っている方がいらっしゃる。IPOの準備の過程ですと、公開引受部の方々と話す機会が多いのですが、それ以外の方はなかなか話す機会がIPO直前までないんです。ですので、そういった方々のお考えや、何をされる方なのかということをもう少し早めに理解認識しておいてもよかったかなと個人的には思います。
瀧口 財務の仕事の大変さや醍醐味というのは、改めてどういったところになりますか。
森本 大変さでは緊張感は常に大きいのかなという会社の生き死に直結をしている仕事だなというところも含めて、緊張感はかなりあります。一方で、そこと表裏一体かもしれませんが、会社や少し自分たちが属している市場も含めて、全体、大局観を見ながら動いていけるのはとても楽しいところかなと思います。
お話は後編に続きます。
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