- 更新日 : 2024年7月16日
成果主義とは?意味や能力主義との違い、向いている人、企業の導入方法
成果主義とは、仕事の成果に基づき評価を行う制度のことです。バブル崩壊後の業績悪化に伴い人件費負担を減らしたい企業のニーズから導入が広がりました。また、昨今の働き方改革の中でも再び注目されています。この記事では成果主義の定義、メリット、デメリット、導入方法等を解説します。成果主義の導入を検討する際の参考にしてください。
目次
成果主義とは?
成果主義とは、昇進や昇給などの基準を仕事の成果に置く人事評価制度のことです。仕事において達成した成果を重視する形で報酬を支払い、年齢や勤続年数によらない処遇を行うことで意欲の高い従業員に報います。
以下では成果主義と似た評価制度とされる能力主義や、一般的に成果主義の対義語と考えられる年功序列との違いについて触れながら、成果主義の意味について確認します。
能力主義との違い
能力主義と成果主義は、いずれも仕事ができる人が評価されるという意味では似ていると言えます。能力主義は仕事の成果に加え、業務知識、スキル、仕事への取り組み姿勢などの能力全般を評価する、「人」に重きを置く評価制度です。一方、成果主義は達成した成果、すなわち「仕事」に重きを置く評価制度である点が能力主義と異なります。
能力主義のほうがより多角的に評価しているため良い制度のように思えますが、仕事への取り組み姿勢など、客観的な評価基準を設定するのが難しいという課題もあります。
年功序列との違い
年功序列とは、年齢や勤続年数に基づき賃金が上昇する制度で、成果主義と対比される人事制度とされています。終身雇用とともに日本型雇用システムとして長きにわたり大きな役割を果たしてきました。
年功序列は、従業員の定着率が高く、採用や教育コストが低いといったメリットがあります。その反面、従業員の高齢化に伴う総人件費上昇や、従業員の意欲低下等による成長性の低下などのデメリットもあり、最近では見直しが進んでいます。
成果主義では、仕事の成果に人事評価の重点を置きます。一方、年功序列では年齢や勤続年数を重視するため、同じ成果を挙げても勤続年数の短い若手の従業員の評価が低くなりがちです。
日本で成果主義の導入が広まった背景
バブル崩壊後の1990年代後半頃より、年功序列からの脱却が謳われるようになりました。バブル崩壊による業績の悪化に伴い、人件費を中心としたコスト削減が急務となったのが理由の1つです。従来の日本型雇用システムである年功序列型の賃金制度では、従業員の勤続年数が長くなるにつれて人件費上昇が避けられませんでした。また、業績と賃金が連動しないため、業績悪化時に人件費比率が高まることから、仕事の成果に重点を置く成果主義が注目されるようになりました。
また、働き方の多様化や人材の流動化が進み、勤続年数や年齢に重きを置く年功序列では人材の正しい評価ができなくなったことも、成果主義の導入が広まった背景と考えられています。
最近では働き方改革が進む中、時間外労働の上限規制などにより、限られた時間で生産性の高い仕事をすることが重要になり、成果主義の必要性を高めています。
成果主義のメリット
成果主義のメリットを以下で4点紹介します。
モチベーションと生産性の向上
成果主義では、仕事の成果が評価に直結します。仕事において達成すべき目標が明確になり、その達成度合いを評価されると、昇進などを通じてより責任の重い仕事を任されます。
それに伴い賃金も上がるため、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。
目標達成に向けたチャレンジが仕事への取り組み意欲を高めることにより、生産性の向上も期待できます。
仕事への責任感、積極性が高まる
成果主義に基づき、従業員個人の業績への貢献度が評価されるため、自分の仕事に対する責任感を高め、業績につながるように考えて行動できるようになります。目標達成に向けて必要な内容であれば、自ずと積極的に取り組むようになるでしょう。
人材育成・人材確保につながる
成果主義において高い評価を得るためには、成果を挙げ続ける努力やスキルアップが欠かせません。従業員が自らの成果達成に向けて主体的に業務知識を高めたり、スキルアップに取り組んだりすることを通じて、人材育成につながります。
また成果主義では、年功序列とは異なり若手の従業員でも仕事で成果を挙げることで、昇進や賃金アップにつながるため、優秀な若手の人材流出を防ぎやすいでしょう。また、昨今のように転職市場が活発化する中、成果に基づき処遇することを前提にした好条件のオファーが可能になるため、優秀な人材の確保にもつながります。
年功序列からの脱却と人件費の削減が可能に
成果主義の導入で、仕事の成果が人事評価につながるため、若手や転職による入社後間もない従業員であっても、成果を挙げることで等しく評価されます。結果として年齢や勤続年数で評価する年功序列から脱却することにつながるでしょう。
また、高齢の従業員や勤続年数の長い従業員が多い場合でも、成果に応じて賃金が支払われます。年功序列のような人件費の高止まりは解消され、業績と人件費をうまく連動させることが可能です。結果として過剰な人件費の支出を抑えることにつながるでしょう。
成果主義のデメリット
続いて成果主義のデメリットを以下で4点紹介します。
中長期的な成果につながらない
仕事の成果が評価に直結するため、短期的な業績目標達成にこだわるようになり、すぐに結果が出ない仕事や、リスクの高い仕事への取り組みが消極的になりがちです。
また、仕事を進める上で事業全体や組織を見渡したり、中長期的な視点が疎かになったりします。会社の事業の将来的な成長やマネジメント人材の育成など、中長期的な成果につながらないことは成果主義のデメリットと言えるでしょう。
スタンドプレーが増え、チームワークへの悪影響も
従業員が自らの業績を挙げることにこだわるため、相対評価が行われる場合には集団の中での競争が激しくなります。良い意味での競争であれば組織の活性化につながりますが、自分さえよければそれで良い、といったスタンドプレーに陥る場合もあるでしょう。
その結果、各従業員が業務上の情報やノウハウを独占したり、後輩を指導育成する意識が欠けたりするなど、チームワークに悪影響を及ぼす可能性もあります。
評価基準設定の難しさ(部署ごとに相違)
仕事の成果が数値などで表れやすい営業などの業務は、成果主義に馴染みやすいと言われています。一方、総務人事などのバックオフィス業務や、成果が出るまでに時間を要する研究開発業務、プロジェクトに関わる業務などは、成果主義による評価基準を設けることが難しいと言えます。
客観的な評価基準を設けることが難しい業務において、結果として主観的な評価が行われると不平等感をもたらすことにつながるため、デメリットと言えるでしょう。
離職率が高まる可能性あり
評価基準が仕事の成果に偏ってしまうと、従業員はそれをプレッシャーに感じ、自らの業績の如何によらずストレスにさらされ続けることになります。成果を挙げられない場合には賃金が上がらないばかりか、降格などの可能性もあるため、心理的安全性が損なわれてしまいがちです。
その結果、離職率が高まる可能性もあります。離職率が高まり人手不足に陥ると、長時間労働などにもつながり、生産性を低下させかねません。
成果主義の成功事例、失敗事例
前章で述べた通り、成果主義にはメリット、デメリットの両面があるため、導入に成功するケース、失敗するケースの双方が見られます。以下では代表的な成功事例と失敗事例について紹介します。
成果主義の成功事例
職種ごとの評価基準設定
職種ごとに業務の特性に合わせた業績評価基準を設けることにより、成果主義のデメリットを克服した事例があります。
具体的には、メーカーの生産部門では習熟度、研究開発部門では長期的なスパンの研究成果といった評価項目を設け、業務特性に合わせて適切に評価できるようにしました。納得感の高い適正な評価により、モチベーション向上につながっています。
成果を挙げる過程の評価
成果主義の導入で短期的な成果を追求しがちになることや、外的要因等で成果を挙げられない場合に評価に反映できないといった問題があります。この問題をクリアするために成果だけでなく、成果を挙げる過程を併せて評価する制度としている事例もあります。
従業員の努力や人的スキルなども評価されることで、心理的安全性を感じられるようになりました。
成果主義の失敗事例
従業員任せの目標設定
業務目標の設定を従業員任せにし、達成状況のみを上司が評価する制度とした結果、従業員が無難な目標設定に走ってしまい、チャレンジの機運が失われた事例があります。結果として企業の中長期的な成長も見込めにくくなり、制度の廃止に追い込まれました。
ベテラン従業員が目標達成に執着することの悪影響
成果主義にシフトするために定年制や年功序列を廃止した結果、ベテラン従業員が自身の業績目標達成に執着するあまり、人材育成がままならない状況に陥った事例があります。後輩の育成が業績評価につながらないと考えたためでしょう。
中長期的な企業の人材戦略に悪影響を及ぼしてしまったため、成果主義はわずか6年で見直しに追い込まれ、定年制が復活しました。
成果主義に向いている人や企業
成果主義は従業員によって合う、合わないが分かれる制度です。同様に企業や職種によっても合う、合わないが分かれます。当然ながら、成果主義の人事に適している従業員や企業において制度を導入すれば、その効果を高めると言えるでしょう。
以下では成果主義に向いている人や企業、職種について紹介します。
成果主義に向いている人
成果主義は、仕事の成果やそのプロセスで評価されることを良しとする人に適していると言えます。具体的には成果を挙げるために精力的に仕事に取り組んだり、スキルアップを行うことができたりなど、向上心の高い人や仕事における自らの実力を試したい人です。
また、現状に安住していては他の従業員との競争には勝てないため、負けず嫌いな人、変化に柔軟に対応できる人やチャレンジ精神旺盛な人なども成果主義に向いています。
成果主義に向いている企業
先述の通り、成果主義にはいくつかのデメリットがあります。成果主義に向いている企業は、これらのデメリットをうまくカバーするマネジメント上での工夫が上手な企業とも言えます。
従業員のマネジメントやサポートが充実している企業、仕事に集中でき、成果が出しやすい環境にある企業、従業員が納得いく形で評価基準の不断のブラッシュアップを継続し、モチベーションを維持している企業などが成果主義に向いていると言えるでしょう。
職種では個人の仕事の成果が表れやすく、成果を数値化しやすい営業職が最も成果主義に馴染みやすいと言えます。
成果主義を導入するには?
成果主義をただ導入すればよいわけではなく、先述のメリット、デメリットや成功、失敗事例なども参考にしつつ、自社にとって最適な形で導入することが重要です。以下では、成果主義の導入方法やポイントについて解説します。
①成果の定義を作る
成果主義を導入する際には、自社で評価すべき成果の定義づけをしなければなりません。後述の評価基準にも関係しますが、職種によっても評価すべき成果が異なります。単なる目標達成だけを成果とせず、達成プロセスを評価するのか、などを定義する必要があるでしょう。
数値など客観的指標は分かりやすいですが、数値で評価できない職務もあり、その場合に何を評価するかの定義も必要です。成果主義の成否を左右するため、時間をかけてしっかり考える必要があります。
②給与体系の見直し
仕事の成果を基に評価することを前提に、給与体系の見直しを行う必要があります。特に、基本給の構成を成果主義に合わせて見直すことが重要です。
年功序列型賃金で主体の年齢給や勤続給の割合を減じて、職務の難易度を反映する職務給の割合を増やすといった形で見直すと、成果主義との整合が図れます。また、成果を評価した結果を賞与に重点的に反映するという考え方もあります。
給与体系は、従業員のモチベーションを大きく左右するため、制度設計を慎重に行わなければなりません。
③従業員に説明する
給与体系や制度全体が固まったら、導入目的や制度の内容等を従業員に説明する必要があります。従業員の十分な理解を促し、納得感のある形で制度を導入することが重要です。
年功序列型の給与体系から成果主義に移行する場合、成果を挙げることで給与が増える可能性がある一方、成果が不十分と評価され給与が減る可能性もあります。就業規則の不利益変更に該当することも考えて、慎重に対応する必要があります。
労働契約法の定めにより、就業規則の不利益変更の際には原則各従業員の個別の同意が必要です。なお、不利益変更に合理性がある場合には、個別の同意が不要なケースもあります。ただ、この「合理性」が認められるかどうかは専門的な判断が必要であるため、弁護士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
④評価基準を明確にする
評価基準が明確でなければ従業員のモチベーションは高まらず、評価者もどのように評価すればよいかが分からないため、制度を円滑に運用できません。
評価基準を作るにあたっては、成果主義のデメリットに留意する必要があります。部署や業務の内容により、定量的な評価が難しかったり、短期的な成果が出しにくかったりする場合があります。営業部門や総務人事等バックオフィス部門、研究開発部門など、特色に合わせて評価基準を作ることが重要です。
また、スタンドプレーに陥りがちになる問題もあるため、従業員個人の成果だけでなく、組織としての成果についても評価できるよう基準を設ける必要があるでしょう。
評価者ごとの評価のバラツキも制度への不信感につながるため、評価基準については客観的な事実を基に評価でき、評価者による評価のバラツキを防げる内容にしましょう。評価基準が完成したら、評価者の教育を行うことも重要です。評価の重要性や評価方法とともに、中立的な立場で評価することを徹底します。
成果主義のデメリットに配慮した制度作りを
成果主義にはメリット、デメリットの両面があります。デメリットがメリットを上回ってしまうことで導入の意義が失われて、従来の制度に戻す事例もあります。成果主義のメリットだけを追求して、やみくもに導入を進めても失敗することになるでしょう。
導入にあたっては、本記事で紹介した内容を基に、成果主義のデメリットに配慮しながら制度を作ることでメリットを最大限に活かし、自社の業績アップにつなげてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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