- 更新日 : 2024年7月17日
IRとは?PRとの違いや企業が行う目的・開示情報・活動内容をわかりやすく解説
IR(インベスター・リレーションズ)とは、簡潔にいえば投資家や株主向けの広報活動に位置付けられます。
基本的に、企業は投資判断を行うために必要な情報を開示することが求められています。
特に上場企業は多岐にわたる投資家に対して包括的・網羅的な情報の提供が必要となるため、上場前から準備が必要です。
本記事では、上場を控えたスタートアップの経営者やIR担当の方に向けて、IRにおける目的や具体的な内容について解説します。
目次
IRとは
IR(Investor Relations:インベスター・リレーションズ)とは、企業が投資家や株主に対して、自社の経営状況や財務状況、業績の見通しなどの情報を提供する活動全般を指します。日本語では「投資家向け広報」とも呼ばれています。
IR活動の目的は、投資家や株主に対して透明性の高い情報開示を行うことで、企業価値の向上につなげることです。
IRとPRの違い
IRとPRは、どちらも企業が情報を発信する活動ですが、対象者と目的が大きく異なります。
IR | PR | |
対象 | 投資家、株主など | 消費者、メディア、地域住民、従業員など |
目的 | 企業価値の向上、資金調達の円滑化など | 企業イメージの向上、顧客との信頼関係の構築など |
活動内容 | 決算説明会、個別面談、ホームページでの情報開示など | プレスリリース、記者会見、イベント開催など |
情報開示義務 | 上場企業に義務 | – |
上記のような違いがありますが、IRとPRは互いに補完し合う関係にあり、両者を統合的に運用することで効果的な企業コミュニケーションが実現できます。
IRの目的・役割
上記のIRの定義に基づくと、企業がIRを行う目的は主に次の5点です。
- 株主や投資家との良好な関係を築く
- 自社の魅力をアピールし投資を促す
- 自社の社会的価値を高める
- 法律や証券取引所の開示義務に対応する
- インサイダー取引を防止する
以下でそれぞれについて解説します。
株主や投資家との良好な関係を築く
1つ目の目的としては、株主や投資家らとの関係性構築が挙げられます。株主や投資家は自身の資金を投資することになるため、より慎重な判断を要することは想像に難くないでしょう。
企業の経営層がいかに投資家らから信頼を得て関係性を築けるかは、重要なポイントの1つです。財務状況や経営方針に関する情報を提示することで、企業活動の透明性が高まり、株主や投資家からの信頼を得やすくなります。
自社の魅力をアピールし投資を促す
既存の株主や投資家に加えて、新たな投資家を惹きつけることも企業にとっては欠かせません。したがって、自社の魅力を外部に積極的に発信し、投資を促すこともIRの目的の1つだといえるでしょう。
企業の価値や成長戦略を効果的に伝えることで、新たな資金調達の機会を得られるだけでなく、IRによって企業に対する理解が深まり、株式の取引が活発化することも期待されます。
自社の社会的価値を高める
IRが持つ役割は、株主や投資家に向けたものだけではありません。顧客や取引先といった他のステークホルダーに対しても、IRは重要な意味を持ちます。
IRは基本的に自社のHP等を通じて発信されます。多様なステークホルダーに対して企業の価値を伝え、自社の社会的価値を高めることも目的の1つです。
法律や証券取引所の開示義務に対応する
上場企業に対しては、法律や証券取引所によって特定事項の開示が義務付けられており、その要求事項が満たされなければ上場廃止などのペナルティにつながる恐れがあります。
これらを避けるためにもIRは必要です。
インサイダー取引を防止する
IRの目的としては、上記の開示義務のほかにインサイダー取引の防止が挙げられます。
インサイダー取引とは企業の未公開の重要情報を用いて、従業員などが利益を得る行為を指します。IRを通じて外部に公平に情報を開示することによって、インサイダー取引を未然に防ぐことにつながります。
投資判断に必要な情報を適時開示することは透明な市場運営に必要であり、IRが持つ重要な役割の1つとして位置付けられるでしょう。
IRで開示する企業情報
基本的な開示事項としては、まず会社法などで開示が義務付けられている必須情報と、義務付けられてはいないものの、投資家らに対する透明性や説明責任を果たす目的で多くの企業が開示している情報とに分けられます。
(必須情報)
(必須ではないが多くの企業が開示する情報)
- 中期経営計画
- 新商品情報や業務提携情報
- 役員情報
- ガバナンス情報
- ESG/サステナビリティポリシーおよび報告書
特に後者の必須ではない情報については、世の中のトレンドによって変わる可能性もあることに注意しましょう。
例えば、ガバナンス情報についてはコーポレートガバナンスコードが国内で開始された2015年を境に、より多くの企業で開示されるようになりました。さらに近年では、ESGやサステナビリティに関する情報開示が注目されています。
IR活動の具体的な方法
IRを実施する手段についても、多くの選択肢が存在します。
イメージしやすいのは企業の公式ホームページ上での各種情報の開示ですが、その他にも下記のような方法が挙げられます。
- ホームページ上での各種報告書やプレスリリース等の開示
- 報道機関やTDnet(適時開示情報閲覧サービス)等を通じた適時開示情報の公開
- 決算の公表および決算説明会の開催
- 投資家とのミーティング
ホームページ上での各種報告書やプレスリリース等の開示
IR活動において、ホームページは投資家や株主へ情報を発信する重要なツールの一つです。決算報告書やプレスリリースなどの各種資料を分かりやすく掲載することで、企業の情報開示を充実させ、投資家との良好な関係を築くことができます。
ホームページ上で各種報告書やプレスリリース等を開示する際の主なポイントは、以下の通りです。
- 専用セクションの設置
- 「IR情報」や「投資家情報」などの専用セクションを設け、容易にアクセスできるようにする
- 分かりやすいレイアウト
- 投資家が目的とする資料を容易に見つけられるように、カテゴリー分けや検索機能などを設ける
- 資料ごとにファイル形式を統一し、ダウンロードしやすいようにする
- タイムリーな情報更新
- 決算報告書やプレスリリースなどの重要資料は、速やかに公開する
- 常に最新の情報が閲覧できるように、定期的にHPを更新する
- 多言語対応
- 海外投資家への情報発信にも配慮し、資料の一部を多言語で提供する
- アクセシビリティ
- 視覚障害者など、すべての人が情報にアクセスできるように、アクセシビリティ対策を施す
- アーカイブの整備
- 過去の報告書やリリースも閲覧できるようアーカイブを用意する
- 検索機能
- 投資家が必要な情報を容易に見つけられるよう、効果的な検索機能を実装する
これらの要素を考慮し、投資家にとって使いやすく、必要な情報に迅速にアクセスできるIRサイトを構築することが重要です。
報道機関やTDnet等を通じた適時開示情報の公開
適時開示情報は、投資判断に重要な影響を与える可能性があるため、タイムリーかつ公平に開示することが重要です。
報道機関やTDnet(適時開示情報閲覧サービス)等を活用して適時開示情報を公開することは、投資家への情報伝達を効率化し、透明性の高いIR活動を実現する効果的な手段といえます。具体的には、プレスリリースの発行や記者会見の開催、個別取材の対応などが挙げられます。
決算の公表および決算説明会の開催
決算の公表や決算説明会の開催は、IR活動の中でも特に重要な要素です。
四半期決算は、決算日から45日以内、年次決算は決算日から90日以内に公表することが義務付けられています。上場規則で定められた期日内に公表することはもちろん、投資家にとって最も重要な情報は速やかに公表することが重要です。特に、業績予想に対して大幅な増減があった場合は、速やかに結果を公表し、投資家の不安を解消する必要があります。
公表後に投資家から質問があれば、丁寧かつ迅速に回答しなければなりません。決算公表前に社内体制を整備し、迅速かつ正確な公表ができるように準備しておきましょう。
投資家とのミーティング
IR活動の方法として、一方的に情報を提供するのではなく、投資家と直接会うことによって投資家の意見や疑問を聞くこともあります。
企業がIR活動を積極的に行う必要性・メリット
積極的なIRを実施することは、競合企業と差別化を図ることにつながるといえるでしょう。株主や投資家らの資金は有限であり、数多くある企業の中から特定の企業に投資先を絞り込む必要があります。その際の判断材料となるのがIRです。
したがって、IRを通じて積極的に自社の魅力を訴求することは、競合他社との差別化につながります。
実際に日本IR協議会では「IR優良企業賞」を毎年公表しており、このような表彰を受ける優れたIR活動は企業にとってポジティブな影響をもたらすことが分かります。
IR活動において企業が押さえるべきポイント
上記の「IR優良企業賞」での評価コメントなどを中心に、優れたIR活動におけるポイントをまとめると、以下の点が挙げられます。
- 投資家が必要とする情報を詳しく丁寧に開示していること
- 経営者や役員ら経営トップが積極的にIR活動に関わっていること
- 説明会など投資家らとのコミュニケーションの場を頻繁に設けていること
- IR活動によって得られた投資家らからのフィードバックなどを経営に反映させていること
- グローバルや国内の企業をリードする先進的な情報開示ができていること
まとめ
本記事ではIRの目的や開示すべき内容、より積極的なIR活動を実施するためのポイントについて解説しました。
IRは主に外部の投資家や株主に、投資判断に資する適切な情報を開示することと定義されますが、戦略的に行うことで、より大きな効果が期待できます。
可能な限り透明性を高く保ち、広く情報を開示しながら、投資家らと頻繁にコミュニケーションを行っていくことが必要です。
一方でIRにはある程度のリソースや準備期間も必要となるため、上場を見据えているのであれば、未上場のスタートアップであっても、事前にIRの準備を始めておくことが差別化につながるといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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