- 更新日 : 2024年7月12日
主幹事証券会社とは?IPOにおける役割や探し方・選び方を解説
自社企業が上場するためには、IPOのスケジュール管理や資金調達などを行う主幹事証券会社の選定が欠かせません。主幹事証券会社では、経営者とともに株式上場に向けたさまざまなサポートを行います。そのため自社企業の上場を検討している経営者は、主幹事証券会社がどのようなことを行うのか、どのような証券会社が自社に合っているのか、あらかじめ把握しておくとよいでしょう。
本記事では、主幹事証券会社の役割や選定方法について解説しています。主幹事証券会社の探し方についても紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
主幹事証券会社とは
主幹事証券会社とは、企業が新規株式公開(IPO)を行う際に、中心となって証券業務をサポートする証券会社のことです。複数の幹事証券会社が共同で業務を行う場合がありますが、その中でも特に引受数量が多く、全体的な作業の運営やスケジュール管理などを行う会社を主幹事証券会社と呼びます。
主幹事証券会社は、IPOを目指す企業に対して、以下のような様々なサポートを行います。
- 上場申請準備段階のサポート
- 資本政策や社内体制整備に関するアドバイス
- 上場に向けた各種手続きのサポート
- 公募・売出し等を引き受けるための会社内容の審査(引受審査)
- 上場時のサポート
- 公募・売出しの引受・販売
- 株式公開価格の設定
- 投資家向けの説明会や勧誘活動のサポート
- 上場後のサポート
- IR活動の支援
- 資金調達の助言
- 企業経営に関するコンサルティング
主幹事証券会社は、企業が上場するまでに必要な手続きをサポートする重要な役割を担っています。日本取引所グループによると2024年の1月9日現在、登録されている主幹事証券会社は79社です。
また、各証券会社の主幹事証券の紹介数は以下の通りとなります。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
SMBC日興(20) | 野村(22) | 野村(27) | SMBC日興(24) | みずほ(18) |
大和(19) | みずほ(21) | みずほ(27) | みずほ(18) | 野村(18) |
野村(17) | SMBC日興(14) | SMBC日興(22) | 大和(16) | SBI(18) |
みずほ(12) | SBI(14) | SBI(18) | SBI(12) | 大和(18) |
SBI(6) | 大和(12) | 大和(12) | 野村(10) | SMBC日興(17) |
出典:【2023年IPO総まとめ】国内IPO企業数は96社!監査法人、主幹事、シ団シェアは?【Next IPO Club/IPOレポート Vol.010】
幹事証券会社との違い
主幹事証券会社と幹事証券会社は、どちらも企業が上場するにあたりサポートを行う立場ではありますが、主幹事証券会社の方がより責任が大きく重要な役割を担っています。
そもそも幹事証券会社とは、企業が第三者に株式を販売するために発行した株式を取得する引受を行う証券会社のことです。多くの株式会社では、株式発行時のリスクを分散するために複数の証券会社でシンジケート団を組織し、共同で引受を行います。
幹事証券会社の中でも引受の量が多く、株式公開のスケジュール管理や証券取引所への申請など中心的な役割を担う会社を「主幹事証券会社」というのです。
【フェーズ別】主幹事証券会社の役割
主幹事証券会社の役割は、以下のフェーズによって異なります。
- 上場準備から上場申請前まで
- 上場申請日から上場日まで
- 上場後
スムーズに手続きを進めるためにも、上場準備から上場後までの流れを把握しておきましょう。
ここでは、フェーズ別の主幹事証券会社の役割について解説していきます。
上場準備から上場申請前まで
上場準備から上場申請前までに、公認会計士による専門的なアドバイスや分析を受けなければなりません。
書類作成やスケジュール管理などはどの証券会社を選択しても対応してくれますが、成長戦略の分析は主幹事証券会社が事業内容を把握している必要があります。
今後企業が上場するにあたり重要になる項目なため、伝えたい内容だけでなく、より魅力的な事業になるように追加でアドバイスを行います。
具体的に実施する内容は、以下の通りです。
- 株式上場を踏まえたスケジュールの管理
- 株式上場を見据えた成長戦略の分析
- 内部管理体制の整備に関する課題や課題への対応に関しての助言
- 取引所に申請する書類作成のサポート
- 取引所への申請に関する事前確認
- 取引所による審査に向けた助言
- 取引所への推薦
上場申請日から上場日まで
上場申請日から上場日程までは、取引所での審査にかかる対応を行います。また、公募や売出しなど資金調達に関する内容、調達した資金の利用について事業が成功するための作戦計画も同時に練りましょう。
具体的に実施する内容は、以下の通りとなります。
- 上場前後の開示対応の助言
- 主幹事証券会社の上場審査
- 証券取引所の審査への対応サポート
- 株式の引受
上場後
上場後、主幹事証券会社は助言を行う立場になります。主に、企業を存続させるために重要となる株主確保や資金調達のアドバイス、情報の提供や株式に関する専門的なアドバイスなどです。
主幹事証券会社の役割は、以下の通りです。
- 株式市場の対策の助言
- 資金調達するための助言
- 情報開示のアドバイス
- 国内外の経済や金融に関する情報の提供や決算発表の提示
- 情報公開に関する助言
主幹事証券会社の探し方
主幹事証券会社を選ぶ際は、実績やコスト、支援体制が充実しているなどさまざまな項目から自社に合う証券会社を選択しましょう。
ここでは、主幹事証券会社の探し方について紹介していきます。
日本取引所グループのウェブサイト
日本取引所グループとは、日本の持株会社のことです。
東京証券会社と大阪証券取引所が経営統合を行い、株式等有価証券の売買、市場施設の提供など市場利用者が安心して取引できるように努めています。
主幹事証券会社は、日本取引所グループのウェブサイトのメニューから株式・ETF・REITなどを選択し、商品一覧から上場制度をクリックするとリストが確認できます。
各証券会社のウェブサイト
各証券会社のウェブサイトから、主幹事証券会社を探すのも1つの手段です。
各基準の会社概要から幹事取引参加者の項目を閲覧すると、主幹証券会社が確認できます。
中でも野村証券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、SBI証券の5社は主幹事証券の候補と言われています。また、三菱UFJモルガン・スタンレー証券や東海東京証券なども検討すると良いでしょう。
主幹証券会社を選択する時は、自社企業が対象とする事業はどれか、事業戦略の方針などの事項に注目して相性のよい証券会社を選択すると上場の成功率も高くなります。
IPO銘柄の目論見書
主幹事証券会社については、公開されているIPO銘柄の目論見書でも確認できます。
目論見書とは、有価証券の募集や売出しをするにあたり、取得の申し込みを勧誘する目的で投資家に交付する文書のことです。
目論見書は、ファンドを販売する証券会社や銀行、保険会社などから入手可能です。また、店舗だけでなく、各会社のホームページからもダウンロードできます。
主幹事証券会社の選び方・決め方
主幹事証券会社は、上場申請の約1年半前~1年前までに決めるのが一般的です。具体的には、N-3期(上場申請の2期前)から選定をはじめ、N-2期(上場申請の1期前)の期初までには決めているとスムーズに上場準備を進められるでしょう。
主幹事証券会社を選んで決める際は、以下の項目に注目しましょう。
- 証券会社の規模
- 実績の豊富さ
- 販売力の高さ
- 費用対効果の高さ
- 支援体制の充実度
- 担当者との相性
それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
証券会社の規模
証券会社には、大手証券会社やメガバンク系証券会社、中堅証券会社などさまざまな証券会社があり、規模によって特徴が異なります。
それぞれの証券会社の特徴について、以下の表にまとめました。
証券会社の規模 | 特徴 |
大手証券会社 | 野村証券や大和証券など100年以上の歴史があり、口座数も300万以上あり多くの投資家がいる。IPOや証券についての知識や実績が豊富にある。 |
メガバンク系証券会社 | みずほ証券やSMBC日興証券などメガバンクと関係が深いのが特徴。資金調達に関して相談できる利点がある。 |
中堅証券会社 | 東海東京証券や岡三証券など地域密着型の証券であるのが特徴。地方銀行との繋がりが強いことから地域密着型の営業をおこなう。 |
ネット証券会社 | SBI証券や楽天証券などインターネット上での取引を主に行うのがネット証券。 |
実績の豊富さ
主幹事証券会社に上場実績がある証券会社を選択することも重要です。実績が豊富にある証券会社は、知名度も高く信頼して利用できる魅力があります。
また、同じ業界に属する実績があると事業内容に関する知識が事前にあるため説明する手間が省けるメリットもあるのです。
販売力の高さ
証券会社に必要とされる販売力とは、発行された株式を投資家に提案してもらうための能力のことです。
販売力の高さは手数料や取引金額の大きさ、顧客から預かっている資産の金額など、さまざまな指標をもとに判断されます。しかし、時節によって左右される事柄もあるため、一概に販売力を比較するのは困難といえるでしょう。
そこで販売力を測る指標として有効なのが、証券会社が所有する投資家の口座数です。口座数が多い証券会社は、一般的に販売力が高いとされています。
費用対効果の高さ
費用対効果も、主幹事証券会社を選ぶ際に重要となるポイントです。
主幹事証券会社に支払われる一般的な費用の相場は、年間500〜2,000万円程度とされています。さらに、成功報酬として数百万円〜数千万円が主幹事証券会社に支払われます。
依頼する内容によっても費用は異なるため、複数の主幹事証券会社で見積もりしてもらい、費用対効果の高い証券会社を選択しましょう。
支援体制が充実
支援体制の充実度も、主幹事証券会社を選ぶ際に重要となるポイントです。
支援体制の充実度はやはり大手証券会社が充実していますが、どのような業務に対応しているか複数の主幹事証券会社で比較しましょう。
比較する際は、企業の価値を高めるための戦略や必要な資料の収集量などに注目してみると証券会社の対応の違いが明確になります。
担当者との相性
担当者との相性も、主幹事証券会社を選ぶ際に重要となるポイントです。主幹事証券会社の担当者は、IPOの成功に大きく貢献する重要な役割を担っています。
そのため、以下のような担当者が在籍している主幹事証券会社を選ぶ必要があります。
- 経験や知識が豊富にある
- 責任感が強く誠実である
- コミュニケーション能力が高い
IPOの準備から上場後まで企業をサポートするには、豊富な知識はもちろん責任感が強くなくては務まりません。また、疑問や不安に感じることが出てきた際に相談しやすい関係性を築けること、親身にアドバイスができるような経験値があることも担当者には求めたいポイントでしょう。
従業員数の多い大手の証券会社であれば、相性の良い人に担当してもらえる確率は高いと言えます。主幹事証券会社を選ぶ際は、レスポンスの早さや話しやすい雰囲気など、自社を担当する従業員との相性も見るようにしましょう。
まとめ
上場までの準備期間から上場後まで企業をサポートし、パートナーとして力を貸してくれる主幹事証券会社は、株式の上場を検討している企業にとって必要不可欠な存在です。
主幹事証券会社を選定する際は、信頼できる知名度や実績、費用感はもちろん、担当者との相性も重要になります。そのため、1社だけでなくさまざまな主幹事証券会社を比較し、自社に合う証券会社を選定しましょう。
よくある質問
主幹事証券会社とは?
主幹事証券会社とは、引受を行う証券会社の中でも主要な役割を担う証券会社のことです。株式が公開されるまでの手続きや審査を担い、上場に適している企業かを判断します。 また、書類の作成を指導したり社内組織体制を整えたりと、上場までのサポートや助言も行うため、上場を目指している企業には欠かせない存在です。
主幹事証券会社の選び方は?
主幹事証券会社を選ぶ際は、証券会社の規模や実績、費用はもちろん担当者との相性など多角的に比較します。自社と似た条件の企業を担当したことがある証券会社ならば、理解が早く手続きをスムーズに行えるでしょう。
主幹事証券会社の変更はできる?
変更はできます。ただし、新しい主幹事証券会社との契約締結や引き継ぎなど、手続きが必要となります。いずれの場合も、変更には一定の費用がかかります。 自社の事業戦略に合致した証券会社に任せたい場合や、より良い条件で株式を公開したい場合は変更を検討すると良いでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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